ですが一見ずつしっかりと見ています…!
13話「霹靂-壱-」
「そ、その姿…」
「にしてもお前は幾度となくあのような下奴に足元を掬われるな」
「恐らくだが」
僕は今、彼の精神内にいる…心操君の洗脳にかかってしまい、ヘドロ事件以降足を踏み入れる事がなかったその場所に僕は再び降り立ってしまった。そしてそこにいるのは僕の心の中に居座る“宿儺”の姿がそこにあった。
「“アレ”の能力は魂に関与できるのだろう、もはや同化に近い状態だった俺たちを一時的に引き剥がされた」
「故に、その影響によって魂の形が変化したのだろう」
彼はそう言いながらも、自身の身体が本来の姿に変化しているのをその目で確認する。
「つまりそれが…」
「君の本当の姿…」
「まるでフォースカインドみたいだ…」
その姿を目にした僕は義理と人情を重んじる頭脳派任侠ヒーロー“フォースカインド”の姿を重なる。しかし、そんな彼とは違いその異形は個性による作用ではない。
「でも、君は生まれる時代は全然違うんだよね…?」
「なんでそんな身体に…」
「知らん」
「忌み子と呼ばれてくらいしか記憶にない」
“忌み子”
数年前から彼の存在を知ってから過去のことを明かさない彼の口からそんな言葉が出た。察するにその異形は彼の出生に理由があるようだ。
兎も角、生前の姿である事が分かり僕との話に一切の関心を向かない宿儺は
「そんな事はもはや…どうでもいい」
「貴様の身体を少し借りるぞ」
「…ごめん」
「君に貸すつもりはないよ」
「ずっと言おうと思ってたんだ…黙ってたけど…」
「正直、僕は君の事が好きじゃない…」
何度も身体を奪われ、その度に好き勝手にやられ多数の被害を及ぼした宿儺をこれ以上自由にさせるつもりはない。以前からオールマイトからの忠告を受けていた僕はここで主導権を握られまいと己の本心をそこで打ち明けた
「君に助けられた事もあったのは事実だけど、だからといってそのやり方が良い訳でもなかったから」
とはいっても
「黙れ」
彼には聞く耳すらもなかった______
「…貴様は何か勘違いをしているようだが」
「お前が俺の受肉体だからといってそれが主従関係であるという訳ではない」
おどろおどろしい左目が僕を刺し殺すように睨み、そう話を続ける
「貴様は、俺の土台なのだ」
「そう…単なる踏み台に過ぎないのだ」
やがて宿儺は恐ろしい怪物のように姿を変えに僕の周りを覆い低い声で僕の近くで語りかける
「俺がいなければその僅かな理想すらも叶えられなかっただろう」
彼は自分以外の人間には到底興味を見出せず、その価値は自分が欲を満たすだけの程にしか留まらず、そんな存在が己と対等でいようとする僕を強く拒み嫌っている。自己的な宿儺と利他的な自分では、天と地もかけ離れている
「せいぜいその甘美を啜っている事だな」
実際、僕には今彼に抵抗できる方法がない。心操君の“洗脳”によって僕は自律する力を失っている。つくづく自分は無力で非力なのだと意識を失う最中でそう感じた。
宿儺の放ったその一言は正しいのかもしれない
“単なる踏み台に過ぎないのだ”
僕はコミックのようにヒーローになれる逸材でもなく、世を知らしめる程の悪の皇帝でもない。
何にでもないただ“器”であるのに過ぎないのだと
『!オイ!緑谷の奴、急に止まりやがったぞ!?』
『まさか…洗脳が解けちまったのかァ!?』
「デク君!」
「あ、アイツまじか!?」
マイクの実況に麗日さんと上鳴君が僕の方へと視線を向ける。思うがままに動かされていた人形となった僕が、場外へと歩む足を止めた。それは、“洗脳”が解除されたという事
「…ありえない」
「俺の洗脳が解けるだと!?そ、そんな事今までなかったのに…」
心操君は、洗脳に対しての打開策がないと自分でも充分に理解している為解除されてしまった事で酷く動揺していた。いくら思考を回してもその原因が分かる事はなかった。
「テメェ!一体どうやって______」
その理由は単純である。
僕の身体には精神が二つ存在する。一つは僕で、もう一つが宿儺…その内の僕の精神が心操君の個性でシャットダウンし、それにより自動的に宿儺の意識が浮き上がった。
______どけ。
それは、王が再び世に再現したという事なのだ
『な…』
「一体…」
「何が起きたんだよ…」
単調な一言が発せられたからやく0.2秒、主審であり非常事態時に征圧する役目を持つミッドナイトですらも、宿儺の動きを視認する事はできなかった。それ程一瞬の出来事であり実況席にいるマイクや観客達も、絶句の表情で会場を見つめていた。
「し…」
「心操君、場外…」
「緑谷君の勝利…!」
“何をしていたのかも分からなかった”
単純な攻撃でも、それは音速を超える速さであり心操君は一瞬の内にフィールドの壁にめり込んで意識を失っていた。ミッドナイトの困惑を含んだ判決は会場に響き渡り最初の第一試合は終始驚愕の状況のまま幕を下ろした
そんな中雄英職員が観戦する席では緑谷の異常事態にいち早く察知し、最悪のケースがこの場所で発生してしまう事を予測し急激な焦りを見せる
「ま、まずい…!」
「(恐らくだが、心操少年の個性が偶然にもトリガーになってしまったのか…!?)」
「今の彼…いや、奴を」
「止めなければ!」
それから体育祭は滞りなく進行され各対戦結果が決まる中、観客席から繋がる長い通路を歩く宿儺の後ろに一人の男が立っていた
「貴様か」
以前会った時とは見違える程脆弱な姿で現れたオールマイトは、一向に戻らない彼の姿を見て最悪の予想が当たってしまった。今回は今まで事例とは違い、今緑谷は未だに洗脳によって精神の機能が停止している。今の彼は檻から放たれたような物であり、力づくで制圧しなければ出久が元の肉体へと戻る方法はない
「今度は何を企んでいる?彼の身体を利用して…」
だが、今の彼には“それ”を実行できないでいた
「クハッ」
「はっはっはっ!!」
冷徹で見境もなく人間を屠る彼のイメージから一転し、今現在は異常なまでにハイテンションである宿儺は高らかな笑いでオールマイトの感情を更に逆撫でする
「…随分と上機嫌だな」
「彼に勝利したのが余程嬉しかったのか…?」
「ククッ、すまんすまん…」
「貴様らはつくづく“間抜け”だと思っていてな…」
心底滑稽であると奴はオールマイトを無下にする。
「お前達は人間共を救う“ヒーロー”という奴なのだろう?」
「だが…」
「今、ここにいるたった一人の童すら救えんままにいる…」
宿儺は彼がその姿で現れたのには理由があると推測し、今ここで身柄を拘束する事が不可能なのだと断定していた。
「そして何度も何度も、俺のいいように遊ばれている」
「とてもいい気持ちではないだろう?No.1ヒーローよ…」
「そうだな…」
「君の言う通り、今は悔しさで唇を食いちぎりたいくらいだ…もうその渾名で呼ばれたくない程にね」
オールマイトは彼の狡猾な手口にまんまと嵌ってしまっているこの状況にて、今は手も足も出さないでいる。正義とは悪に屈してはいけないが故に正義は常に劣勢な状況であり、悪によって手玉を取られる一方だった。
「(そう、私と彼において決定的に不利な要素がある)」
「(私が彼に負けようが勝とうが、緑谷少年から引き剥がす方法を私は知らない)」
「(私の単純な“超パワー”では)」
「(だがこれは偶然か)」
「(ただ一つだけ、持っている…彼にも知り得ない“魂に干渉できる方法”が…)」
彼には一筋の希望ともいえる秘策が頭の中にあった。しかしここで実行するにはあまりにも危険な賭けで、チャンスの少ない現在は宿儺の動向を見張る以外はない
「(今、ここで実行すべきか?成功したとしても…)」
思案するオールマイトを横目に、宿儺は自分に危険が及ばないと判断した上で余裕の表情で後ろを見せ、会場へと赴こうとする。
「せいぜい貴様はあの高い席で見物しているといい」
「何、貴様らの餓鬼共を殺しなどしない…実際“アレ”を軽く捻った時には、小僧の抵抗によって力が大分下がっているみたいでな」
「少し遊んでやるだけだ」
心操に繰り出したその一撃は充分に殺せる程の威力だったが、意識を失いかけた緑谷の抵抗とまだ数本分程度の状態だった為か彼は軽傷で済んだ(とはいえリカバリーガールでの治療を余儀なくされたが)
だが、まだ赤子同然の雄英生徒たちを捻るのには充分過ぎる程の力を有している。
「それに…」
「今は特別気分が良い」
そう良い立ち去る宿儺を見つめるオールマイトは、彼を追おうとするも
『駄目だよ、八木君…今の彼に刺激を与えない方がいい』
特殊インカムを通して根津がそう言いなだめた。
しかし、とそれでも向かおうとするオールマイトに対し冷静な口調で説明を続ける
『君と彼がここでやり合おうとしたらここが瞬く間に戦場と化してしまうのは君が一番よく分かってるだろ?』
『ましてや、USJの“アレ”をやられてしまえば避難途中で観客を死に至らしめるだろう…そうなれば被害規模は言葉では現せない程になる』
「!ならば一体どうすれば!」
『…ここは彼の自由にさせてあげよう』
その一言を聞き、オールマイトは目を見開く
「な…」
『入試、USJ…そして今回とこれまでの情報を元に彼の性格とその動向をこちらで推測を重ねた結果さ』
『普通のヴィランとは異なり、彼は快楽的欲求で人を殺めてしまう…極めて凶悪な精神性を持っている』
「それなら尚更…!」
『八木君…これは私の個性で導き出した結論だよ…?まぁ、心操くんに関しては“イレギュラー”だったがこれが今取れる最善策だね』
雄英の校長である根津の個性は“ハイスペック”…常人の数十倍あるIQを兼ね備えており、高度な情報操作を可能。この異常事態から数分の間およそ数十通り程の作戦を練り、宿儺から及ぼされる被害を抑える為にたった一つの作戦に身を投じようとしていた
『それに…やすやすと暴れっ放しでいさせる訳でもないしね…』
冷静になったオールマイトは立ち止まって思考を巡らせた後に一人の人物の姿が思い浮かべる。
「相澤君…!」
『ああ、彼なら…精神内で意識を取られている緑谷君を起こせる筈さ』
◇◇◇◇◇◇
『第二回戦!!第一試合!!両者共にトップクラスの成績誇る今大会最高のマッチアップ!!』
『緑谷出久ゥ!!!』
『バーサスッ!轟焦凍ォ!!』
会場は熱気に包まれ、トップクラスの知名を持つ両者の戦いの幕開けを皆が多く待ち望んでいた
未知の力を持つ緑谷と、No.2のエンデヴァーの息子である轟の戦いは熱戦になるだろうと誰しもが決め込んでいた…しかし、目の前に立つその男を目にした轟は異様な違和感を肌で感じていた
「緑谷…」
「お前、一体なんなんだ…」
「入試といい、USJの時といい…お前は人が変わっちまう瞬間が幾つもあった」
「本当に緑谷出久なのか?」
「…何者なんだ…?」
轟は入試で大暴れしていた緑谷を目撃し、奴が最も実力があるのだろうと競争相手に目を燃やし彼の動向に目をつけていた。だが…実際に会って見ればその消極的な態度と姿に少々を面を食らっていた…
気のせいか…?
そう思い、すぐに払拭されたのはUSJの襲撃の時であった
「今は興が乗っている」
一挙手一投足から放たれる圧倒的威圧と嫌悪感は、この世の人間とは思えぬ程轟は緑谷のオーラに気押されていた。そうして彼は疑問から少しずつ変化し、彼はようやく確信に変わった
今の彼は“緑谷出久”ではないと
「それに…」
「前々から見ていたが、貴様には少し興味がある」
「轟焦凍、だったか?」
ズズズ…と、散乱したオーラが一気に集約されるように緑谷の元へと漂い始める
「ッ…!?」
「(なんだ…この威圧感は…!?)」
「(同い年のガキとは思えねぇ…この重圧なオーラは…!)」
「そちらから仕掛けてみろ」
「数分の間、遊んでやる」
心操君が気絶しているのにも関わらず洗脳が継続中なのはご都合展開です(きっぱり)
それと受胎戴天編は予定では後二話程で完結となります。次編が【神野事変編】となり、そこからオリジナルストーリーへと派生していく予定です
呪術の方のキャラも登場予定ですが名前や姿は若干変更となりますのでご容赦を