受肉体、緑谷出久   作:助5103

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今回はちょっと長めです


第十五話「強者故の、孤独」

15話「強者故の、孤独」

 

 

 

         「⬛︎」

 

         

 

 

         「開」

 

 

 

「火力勝負だ」

 

「…」

 

「望む所だ」

 

手のひらに集約する宿儺の“炎”は弓矢の形に変形し、構えの姿勢を取りながら轟に勝負を仕掛ける。轟焦凍は彼が何故炎を使えるのか、斬撃の個性ではなかったか…そんな考えが廻るがそんな事はどうでもよい事だった。

 

 

今はただ、この力を彼にぶつかるだけ______

 

 

今は考え事なんて、いらない

 

 

 

「な…な…な…!」

 

「一体どういう事だ!!オールマイトォ!!」

 

「奴の個性は“斬撃”や“切断”ではなかったのかぁ!?」

 

観客でその姿を見たエンデヴァーは言葉に詰まる程驚愕し、我を忘れたようにオールマイトの胸ぐらを掴み詰問する。そう、通常人間が持つ個性は一つ限り…

 

しかし、皆が見ている光景はどうて見ても緑谷が炎を用いた攻撃を仕掛けようとしている

 

「は、離してくれ!それより…あのままではまずい!」

 

「校長先生!」

 

彼が危惧していたのは、急速に温度が上昇する事で発生する爆発…それが互いの炎がぶつかり合う時、瞬く間に会場に甚大な被害を及ぼす可能性が高い。それに、今止まるタイミングであるだろうと根津の方へと振り向きGOサインを求めた。

 

 

「な、なんだよあれ…!」

 

「もう訳がわかんねぇよぉ!緑谷の奴!」

 

同じく驚愕する切島と、あまりの展開に気が動転している峰田。そんな生徒と同じように、審判のミッドナイトは校長のいる席と二人の姿を交互に見ながら中止の判断を下そうとした

 

「も、もう中止でいいのよね…!根津校長!」

 

 

ミッドナイトが腕のコスチュームをやぶき、“昏睡”の個性を発動しようとしたが

 

「(いや…!)」

 

「(俺はやり合う前から“抹消”で洗脳を解除させりゃいいと思ってたんだよ…!)」

 

「(このままじゃ、間に合わ…)」

 

相澤はこの段階では彼らを止まることが出来ないと遠距離での抹消を試みた。だが、彼らの戦いは誰にも邪魔する事が出来ず両者の炎が遂に発射される

 

刹那______

 

 

 

周囲を含む数十メートルに及ぶ大爆発が会場を襲う______‼︎‼︎

 

宿儺の術式“開” 轟の左の“炎”が交わり、轟音と大熱波が全範囲に広がり地響きが鳴り止んだ頃には会場を包むように煙が立ちこんでいた。

 

『…みんなぁ〜、大丈夫かぁ…!』

 

 

「セメントス!」

 

オールマイトが彼の名を叫ぶ

 

『か、観客席に熱が通らないよう目一杯善処しましたが…』

 

『会場がもう滅茶苦茶です…』

 

炎が着火する瞬間、コンクリートヒーロー“セメントス”が熱が客に及ばないように、巨大なセメントによって防御していた。その為被害は最小限に抑えられたが、軽傷による怪我の治療の為、即座に治療班が観客席の方へと出動した。

それと同時に、相澤、オールマイトと全ヒーローが会場へと駆け寄った

 

 

『い、一体どっちが勝ったんだぁ〜…!?』

 

『轟か!?緑谷か!?』

 

『終わりだよこの試合は…とにかく強制終了だ』

 

『wats⁉︎』

 

「イレイザー!」

 

スナイプが相澤の元へと駆けつけた

 

「緑谷が…何処かへと消えていったぞ!」

 

「このどさくさで逃亡かよ…」

 

「あの凶暴性が外に放たれれば…何をしですか分からんな」

 

「ああ、奴を、見つけ次第拘束する…やれる限りでな」

 

会場には気絶した轟と、肝心緑谷の姿はどこにもいなかった。決して油断していた訳ではなかったものの、宿儺が“炎”も使える事に関しては過去の事例を見ても未知の情報でありそれが彼を逃す原因となってしまった。

 

「(クソ…一体何処に行きやがった…!?)」

 

普段冷静なだけあって、己の力だけが有効である相澤は苦虫を噛み潰す表情を見せぬように捕縛布で顔を隠した

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ケホッ…みんなー!大丈夫かぁーッ!」

 

 

観覧していたA組達…飯田は委員長の役割を真っ当するように皆の安否を確認する。「これ…一体どうなってんの…!?」と一瞬の出来事に困惑する耳郎

 

「ゲホッ…冷えた空気が熱にふれた事で発生した熱膨張…これは恐らくその爆破ですわ」

 

それについての状況の解説をする八百万

 

 

「おい!」

 

「緑谷がいねえってよ…」

 

「アイツ…もしかしてさっきの爆発で吹っ飛んだのかな…」

 

峰田はそんなことを呟きながら、周囲を見渡していた。

 

 

「麗日君ッ」

 

「う、うん…!デク君が…!」

 

「ああ、前々から思っていたのだが…やはり、彼は何かを隠している…!」

 

その違和感は確信に変わるように、飯田は緑谷の正体を突き止めようとした。

 

「いや、もしかすれば…」

 

「彼は…“緑谷君ではない”のかもしれない」

 

「それって、どういう事?」

 

「似て非なる者…」

 

ズッ…と飯田の頭の上にカラス頭が現れる。常闇がそう囁きながら二人の会話に割り込んだ

 

「と、常闇君…?」

 

麗日はその言葉の意図が分からなかったが、続け様に常闇がこう口にする

 

 

「俺と奴の個性ら同じタイプだという事だ」

 

「(急に語り出した…)いや、全然違うではないか…」

 

 

ビシッ、と機械的な動作で突っ込む飯田。だが、そんな委員長の言う通り緑谷と常闇の個性にはまるで接点がない…。だが

 

「そこではない」

 

「俺の個性“黒影”は影を操る力だと言われているが、少し語弊がある」

 

「厳密には、影を纏う生物を身に宿している説明した方が正しい」

 

「…そういう事か、常闇君」

 

「ど、どゆこと?」

 

未だハテナマークが浮かぶ麗日に、常闇の意見を要約し説明する。

 

「“闇影”は完全に意思を持つ存在であり、性格や言動も常闇君とは全く異なっている」

 

「その彼が分離型だとすれば緑谷君はその逆の“一体型”である可能性が高い…」

 

「これは昔兄さんが読んでた心理学で解離性同一障害というのが載っていたが…それに近い物なのかもしれないな」

 

「ちょ、ちょっと待って…」

 

「じゃあ、今のデク君はデク君じゃないって事…?」

 

個性は一人につき一つであり、それはどんな人間であろうと一人に二つの個性を持つ事例は存在しない。しかし、轟戦にて緑谷(?)は最低でも二つの個性を持っている事が判明した以上その通説は覆る事となると。もし飯田の言うように二つの人格が存在し、それが二つの個性を持つ要因であれば…

 

「…麗日君、これはあくまで推測だから事実と述べている訳ではない…だが」

 

「いいや、常闇の意見は一理あるぜ!」

 

飯田の話を聞き盗んでいた峰田は彼の頭の上から現れ、その推測に強く賛同した。

 

 

「オイラ達、襲撃事件で一緒になった事があるから分かるんだよ…ほんの少しだけど…緑谷があんな危険な事する奴じゃねーって!」

 

「な、蛙吹もそう思うだろ!?」

 

 

隣で聞いていた蛙吹に目を向けてそう尋ねた。峰田は勿論、蛙吹も宿儺へと入れ替わっていた瞬間を目撃した一人であり襲撃後も彼が一体どういう人間なのか思考を巡らせていた。

 

「…緑谷ちゃんは」

 

「女の子と話す時はオドオドしてて、ヒーローの事になると周りの事が見えなくなるくらい大好きで…ただそれだけの普通の男の子、それが緑谷出久という人間」

 

「…でもあれはどう考えても同じ人間にも見えない。まるで悪魔に取り憑かれたみたいな…急に豹変してしまう事があったのは事実よ」

 

 

そこに確証的根拠は存在しないものの、僅か数週間の間で知った緑谷の人物像は今の彼と照らし合わせても一致する事はなかった。宿儺のその姿は魔王の如く暴れ回り、あのように自分勝手に欲を満たすような人間性ではない。

 

 

「でも…」

 

 

「やっぱり…分からないわ」

 

 

「緑谷ちゃんがあんな事はしないと信じている一方で、それと同じくらい“もしそうでなかったら”という否定的な考えが今でも離れないの」

 

「…僕も正直な所まだ彼を全て知っていると言われればそうではない」

 

 

「…いやいやいや!ちょっと待てよ!?どう見たってあれが緑谷な訳ねーだろ!?」

 

「そんなのありえねぇよ!」

 

「峰田君…」

 

嫌でもそんな最悪のケースを否定するように峰田は皆にそう強く非難する。彼は頻繁に欲情する人間だが、男子との友情は大事にする男だ。勇敢な姿勢を目の前で見せたその姿が、彼にとって大きい物だった。

 

そんな疑惑と疑問の数々が飯田達の思考を鈍らせる。

 

「緑谷君…君は一体…何者なのだ…?」

 

 

 

そうして、一つの試合は衝撃と混乱を招いた大きな出来事として観客達の脳に深く刻まれた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

出久と轟の戦いは謎を残したまま幕を下ろした…皆に多くの衝撃と困惑を与えて。それからというものの、巨大な嵐が過ぎ去ったように大会は続行され、各々の試合は滞りなく進んでいった。

あの試合では轟は“開”との火力勝負にて大敗を喫した。しかし、致命傷には至らず数箇所の火傷を負う程で済んでいた。その理由は“二つ”

 

一つは出久による無意識下においての抵抗により宿儺の呪力出力が下がりつつある傾向にあった事

 

二つは、轟は直撃寸前において氷による障壁を形成し“開”によるダメージを最小限に抑えた事。

 

 

これらにより轟は半刻で復帰する程度に収まっていた。一方で勝者となった出久は会場から消えた事によって失格扱いとなりその試合は謎に包まれる“今年度最高の戦い”として体育祭後にはニューストピックに掲載された。

 

 

そして最終的な成績結果では、例年通りA組達が上位を斡旋する事となった。一位、爆豪…二位轟…三位、常闇と結果としては主席を抑えた形での順位となる。一位に返り咲いた爆豪だったが本命となる二人とは不十分に戦えなかった事から頑なにメダルを授与を拒否していたその光景を最後に体育祭はひとまず終幕となったのだった…

 

 

 

 

 

「Hay!いい活躍だったぜお前達!」

 

 

「イレイザーヘッドは急遽会議に呼ばれたから俺が代理にHRを行うぜ!」

 

 

 

A組は放課後のHRとして一度に教室に戻っていた。スピーカーから大音量の声を響くその声は疲弊したA組達を余計に疲れさせる。

相澤は、緑谷の件について追う事となりプレゼントマイクが今回の指揮を取ることに

 

 

「せ、先生!緑谷は…!」

 

 

「あー、心配すんなぁ!緑谷はあん時の試合で結構吹っ飛ばされちまっててなぁ…今リカバリーガールの処置を施して貰ってる状態だ」

 

 

「勿論命に別状はねぇ…アイツは見かけによらず頑丈だからなぁ」

 

 

「ま、嘘だけどな」と、マイクは心の中でそれは戯言であると生徒には本当の事を隠してそう告げる。本来の緑谷は現在行方をくらましているからだ

 

 

「つー訳だ!今日は家に帰って英気を養いなァ!」

 

当の生徒らはそれに気づかず、マイクがHRを終わらせると同時にピリピリしたムードから解放され、各々雑談をし始めた。

 

 

 

「ぐわぁ〜疲れたァ〜」

 

 

「つーか、緑谷マジぱなかったね〜!炎も使えるなんてあたしら何も聞いてなかったよ?」

 

 

疲労を感じる上鳴と、緑谷の話題にいち早く触れる耳郎。

 

 

 

「つーか、アレ個性どーなってんの?」

 

 

「話で聞いたけど、緑谷は何でも物を切る個性って言ってたけどよ…」

 

 

瀬呂はそう佐藤に尋ねるが、緑谷が“切断”の個性以外に知っている情報はなかった。いろんな場面で規格外な能力を目の当たりにしたA組達は緑谷の戦いの話題で沢山だった

 

 

 

「でも爆豪も凄かったよね〜!緑谷と同じように才能マンだもんなぁ!」

 

「褒められてっぞ〜爆豪!」

 

芦戸が爆豪達の活躍に触れると、周りも彼の方へと視線を向け始める。一応親友でもある切島が爆豪にそう言葉をかけるとメダルをかけたままこう

怒号を飛ばした

 

「るせぇわッ!!黙れや!」

 

「アイツと戦わなかったら意味ねぇんだよッ!」

 

 

 

「爆豪、まだあんな感じ?」

 

 

「そりゃあなぁ…轟との戦いでも結局炎を出さずに終わっちまったし…」

 

 

最終試合では爆豪と轟が当たり、緑谷戦につぐ盛り上がりを見せた。失格となった緑谷は勝負に負けて試合に勝ったという言葉通り轟が勝ち上がりその後も個性の強さを押し出す事で順調に勝ち上がった。その戦いでは、轟は炎を使う事もなく緑谷戦での消耗もあったのか惜しくも爆豪に敗北し負けてしまう。それも相まって今彼はあのような鬼の形相をしていたのだ

 

 

「でも、轟さんも凄かったですわ…あの華麗な個性の使用と、その練度の高さ…どれをとってもプロヒーロー並でしたもの!」

 

「…負けちまったけどな」

 

八百万はそう彼を褒め称えるが轟は釈然としないような表情でそう言葉を返した。

 

 

 

「よかった…デク君、無事みたいだね」

 

「ああ…」

 

 

 

マイクの言葉を聞いた二人は、出久の安否を確認出来た事で安堵の表情を浮かべる

 

 

「あのさ、飯田君」

 

「あん時の会話の続きだけど…もしデク君の個性が普通じゃなかったら、うちらはどうやって関わった方がいいんかな」

 

「麗日君…」

 

「そりゃ、自分ら出来る事ならなんでもやるさ…でもデク君は今までもそうだけどそういう話したがらないやん…?」

 

 

彼について知る事は、オールマイトへの憧れと、以上までにヒーロー敬愛する“オタク”である事…しかしそれだけであり、彼の本当の姿を知る事はなく、本人もそれを隠すように麗日や飯田にも打ち明かさなかった。そのことについて麗日は体育祭から前より心に引っかかっていた

 

 

「…ああ、そうだな」

 

「その辺りは、確かに彼からの言葉で聞いた事はない」

 

「それなら」

 

「直接聞こう…なんて言おうと僕らは友達だ、彼が悩んでいるのなら…それに手を差し伸べるのがヒーローの務めでもある!」

 

「…うん!それなら、今から行こう!飯田君!」

 

 

「いや、彼は休養中だ!それはそれとして明日聞こう!」

 

 

「(…流石委員長…!)」

 

 

 

 

そうして、麗日達は出久が回復するまでその話をしまっておく事にしたのだった。

 

 

 

話題はいずれ尽きていき、続々と教室から出始める最中で爆豪は一人でに自宅へと帰る準備をしていたかに思えた。

 

「なぁ爆豪、お前も一緒に反省会やらねーか?」

 

「いかねぇよ」

 

 

切島の誘いを跳ね除けた彼が向かっていたのは、広大な敷地面積を持つ“運動場β”…。個性伸ばしの為に放課後にて訓練を行う生徒達は担任にその申請を受けなければ使用許可は許されないのだが、爆豪は手続きを受ける事なくそのまま運動場へと向かっていた。

 

 

着いた時、ビルの屋上に居座っていた男が一人いた。

 

 

 

「ここもまた随分と広いな」

 

 

「オイ!」

 

 

それは、未だ意識がない緑谷の身体を乗っ取っていた宿儺の姿がそこにあった。視認した爆豪は自分の存在に知らしめす為に声をかける

 

「来たか」と、彼に気づいた宿儺は少々の笑みを浮かべ地面へと着地し、爆豪の近くへと歩み寄った

 

 

「テメェ、デクじゃねぇな…これ送ってきやがって」

 

 

 

「こっちに来い、待っていてやる」と爆豪のスマホに送信された一通のメールを宿儺に見せる。数十年現代の生活を見ていた宿儺はスマホや、電子機器など生前にはないものを扱えるようになっていた。

 

 

「貴様らは見るからに犬猿の仲のようだったが、連絡先は持っているのだな」

 

「持ってても特に何も話してねぇわ!」

 

 

 

「んでよぉ」、と話を切り替える爆豪

 

 

 

「単刀直入に言わせてもらうが」

 

 

「誰だよ、アンタ」

 

 

「…はっ」

 

「流石に気づく人間もいるだろうと思っていたが」

 

「クソナードはそんな喋り方しねぇんだよ」

 

 

爆豪は誰よりも早く緑谷の秘密に迫っていた。それは、あり得る事のない「もう一人の人格」を持っている事という事実…。

 

 

「俺は、千年前に生きた人間でな…こうやって身体に棲みつくにはやり方がある」

 

「千年前ェ…?」

 

「ククッ、理解できんか?」

 

「まぁそうだろうな…」

 

 

馬鹿にするような顔つきで宿儺は自分の正体を打ち明かそうとする。だが、爆豪気になっていたのは______

 

 

「デクはどうした」

 

「奴はアレのおかげで今も意識を絶っている」

 

「(洗脳野郎か)」

 

 

宿儺が緑谷の身体を乗っ取っていた事例は爆豪の記憶では体育祭と、USJの襲撃の二度。しかし、今回は肉体の支配を継続しながら宿儺が今目の前にいる。それが異常事態である事は流石の爆豪も危機感を感じていた

 

「暫くはこの身体は俺のものだ」

 

「(こいつ…)」

 

 

「(最終的にデクの身体を乗っ取ろうっていう算段なのか…?)」

 

「テメェ…何をしでかす気だ」

 

 

「この間あの男にも同じ質問をされたが…」

 

「死ぬまでの暇つぶし」

 

「ただ貴様らを喰らい、そして殺す」

 

「特に理由はない」

 

人間を見下ろす目つきで、淡々とそう答えた

 

 

 

「喜べ“爆豪勝己”…貴様も込みで、だ」

 

 

宿儺をそう言うと両手に呪力を収束させる。彼が爆豪をここまで呼んだのは、他でもない…

 

ただ、爆豪勝己を喰らい尽くす。たったそれだけである

 

 

「…はっ」

 

「寝言は寝て死ねや…!」

 

 

しかし爆豪は臆することなく宿儺への宣戦布告を受け取りそう豪語した。

 

 

 

 

だが________________________

 

 

 

 

 

強気な姿勢を切り崩す程の斬撃が爆豪を襲う______!

 

 

「……クッソ…ッ!!」

 

 

「ほぉ」

 

 

「避けたか」

 

 

一切な指向性を持たさず放たれる、“ノーモーションの解”…それは発動時点にて多くの術師を葬った一撃必殺の最強技である。だが、空気の流れに異常を感じ取った爆豪はその術を見切り躱しきった。後ろに聞こえる大音量の瓦礫がこだまする訓練場で、彼は一瞬ながらも宿儺の個性の正体に気づき始める

 

 

「…何か見えた」

 

「風を切って向かってくる“何か”が…!」

 

 

「あれが半分野郎の氷を刻んだ奴の正体か…!」

 

 

「おっかねぇ個性だなァ!」

 

 

 

“閃光弾”!!

 

 

緊張と高揚感が同時にのしかかる中、爆豪は距離を取る為に宿儺の視界を奪い取る。

 

「(目眩しか)」

 

 

「こっちだ!」

 

閃光が辺りを照らす中で、後方に回り込んだ爆豪が手のひらの爆破を宿儺に向ける、が…

 

“解”

 

 

次は指向性を持たせた“解”によって切り刻む。直撃した爆豪だったが轟の時と同様に致命傷には至らなかった。

 

 

「先程から小僧の抵抗によって出力が常に低下している」

 

「寝ていればいいものを…」

 

 

緑谷の抵抗に嫌気がさした宿儺はチッ、と舌を鳴らす。

 

「クッソォ…ッ!」

 

「反応も良い、動きも良い…だが」

 

「まだ貴様は能力を扱いきれていない部分があるなぁ…」

 

 

「先輩ヅラすんなやァ…!」

 

 

切り込まれた爆豪は依然としてその戦意が失われる事はなかった。むしろ、その飄々とした態度に彼は苛立ちが抑えきれずそう悪態をつく。

 

 

「まぁ待て」

 

「“ソレ”ならまだやれる事があるだろう?」

 

 

「あの轟焦凍もその一人だ、まだ未熟ながらも…俺に舌を巻く程の能力がある事を己が知っていないのだ」

 

 

宿儺は確信した要素が一つあった。爆豪と轟には“秘められた能力”が潜んでいるという事を。それは本人すら自覚しておらず、その力こそ宿儺が興味を示している物だった。自身の欲求しか興味のない彼の発言に、その言葉の意図が分からない事…そして緑谷の姿をしながらも常に見下している態度に怒りが爆発する

 

 

「…テメェ、何がしてぇんだよ…!」

 

「どいつもこいつも舐めプしやがってッ!」

 

「立て」

 

 

「まだ俺を楽しませてみろ」

 

 

刹那、再び“閃光弾”が爆豪の手のひらに発射される

 

 

「ッ!」

 

 

「……また目眩しか!」

 

「くどいぞ!」

 

 

 

“解”!!!

 

 

「クソがぁッ!!」

 

 

彼は視認せずとも、爆豪の姿を感知する事が出来る。その原理は不明だが、少なくともそれだけ分かっていれば充分だと爆豪は再び術を見切って回避する

 

 

「ククッ!」

 

 

「奴め、やはり勘だけで避けている訳ではないな…!」

 

 

「瓦礫を周囲に撒くことで、俺の術をより視覚的に見えるようにフィールドを作っているな」

 

 

「そして、その研ぎ澄まされた反射神経によって当たる前に回避…ククッ、非術師であれ程まで動けるのは奴が二人目だな」

 

 

その卓越した判断力と頭の回転力に僅かだが感嘆した。能力の使い方はまだまだだがその俊敏性は伊達に入試二位の実力者ではないと言える。

 

「だが」

 

「これはどうだ?」

 

 

“捌 蜘蛛の糸”

 

触れる事で発動する捌の派生技である“蜘蛛の糸”によって宿儺を中心とした周りの地面が崩れ始める。

 

 

「(瓦礫をぶっ壊した…!?)」

 

 

 

「さぁ、どう動く…爆豪勝己!」

 

 

「チィ…ッ!」

 

 

爆豪は崩れ落ちる中、手のひらで連続爆発させ空中から徐々に上昇する。その妙技は轟戦にて魅せた宿儺の空中ジャンプに酷似していた。

 

 

「まさか…!」

 

 

宿儺はその既視感に直ぐ気づいた。あの時に見せた技を、爆豪は見ていた…その瞬間のみで彼はその原理を理解し応用したのだ。潜在性は勿論彼のその類い稀なきその天性に宿儺は魅了される。

 

 

 

そして________

 

 

 

榴弾砲着弾!!

 

 

 

 

跳躍中に左右の爆破を調整しながら徐々に錐揉み回転を行い、その遠心力を付与した状態から繰り出される爆豪の最大出力の“爆破”彼が待てる中で最大で最高火力を誇る必殺技が、いま繰り出された。

 

 

「どうだァ!」

 

確かに、手応えはあった。散乱する瓦礫の山に立つ爆豪の顔は自信と確信に満ち溢れていた。

 

 

「ふむ」

 

 

だが、そこには傷一つなく鎮座する宿儺の姿が…そこにあった

 

 

「(お、俺の全力が…)」

 

「(全く…)」

 

「当たれば中々の攻撃だな…」

 

「当たればな」

 

 

ケヒッ、と榴弾砲着弾の強大な威力を賞賛する。しかし、肝心の宿儺には掠りともしていない。その圧倒的な余裕は爆豪の過剰なまでの自信をへし折ってしまった。

 

 

「勿論…終わりではないだろうな?」

 

 

「ガッ…!」

 

 

もはや、今の自分に打てる打算はもうない。その力に屈服した爆豪の首を掴んだ。今の宿儺はまだ腹三分目しか満足していない。

 

 

「ほら…立て…頑張れ頑張れ」

 

 

「ッ…!」

 

 

「俺を殺すんじゃなかったのか?」

 

囁く

 

「俺にまだ傷一つもつけていないが」

 

「貴様はそんなものか?」

 

 

すでに戦意がない少年に、まだ遊べるだろうとそう催促する

 

 

「死ぬほどムカつくが…」

 

「今の俺じゃあ歯が立たねェ…!」

 

 

「あん時の…USJでテメェが暴れてた時に…!」

 

「俺ァ、嫌でもそう感じさせられたんだよッ…!」

 

その露呈した屈辱は涙と共に彼の口から吐き出された。あの“領域”を端から見ていたあの時から…彼は初めての敗北の味を知り始めた。あの緑谷から…彼に与えられるとは、その時微塵も思っていなかった。

 

 

「…それで、どうする?」

 

「このまま俺に殺されるか、それとも…」

 

「そこで終わりだ」

 

 

彼の興はその声で唐突に中断される。それは、あの時入試で会ったあの“無精髭のあの男”の姿が…

 

「…貴様らは」

 

「…そういう事か」

 

 

「全ては、計略通り…という訳か」

 

宿儺はすでにヒーロー達の策略に嵌っていた事に気づく

 

 

「その通りよ」

 

 

 

「ゆっくり眠りなさい…」

 

 

ミッドナイトの個性“眠り香”によって、宿儺の意識を強制的に遮断させる。

 

 

「宿儺よ」

 

「君が言っていた事、忘れてはいないよ」

 

「…貴様に言葉をかけた記憶など、ないな」

 

「USJの時さ」

 

 

彼が初めての邂逅を果たしたのはUSJの襲撃であった。

 

______だが、今の現代には貴様の様に並外れた力を持つ強者が何人か存在している

 

あの爆破の奴もそうだ

 

 

その際に発した言葉から、彼が爆豪勝己に目をかけていたのはその時から分かっていた。最強故に戦いを好み力を求む彼の性格を考えオールマイト達は今より数分前、爆豪に宿儺に隙を作って欲しいと頼み込んでいた。彼は極端に気まぐれで己の欲求でしか行動しない為、それを逆手に取った作戦であった。

 

「爆豪少年!」

 

 

ようやく緑谷を拘束した瞬間、爆豪の全身から力が抜けてしまった。実力者とはいえ、かなりキツイ事をさせてしまったとオールマイトは自分の無念を悔やんだ。

 

「俺は最後までコイツに弄ばれた…」

 

「自分を責めるな、君はよくやったんだ…この化け物相手に」

 

「君を利用して…ホントにすまない」

 

「…慰めなんていらねぇんだよ」

 

「俺は負けたんだよッ…完膚なきまで…俺は…ッ!」

 

緑谷には対人訓練に負け、この戦いでも正しく文字通りの“完全敗北”を喫した爆豪はその力の無さを酷く痛感させられた。その際限なく大き過ぎる壁に衝突した彼は絶望の淵へと落とされたのだった

 

 

「…少年」

 

 

そして、彼は瞼を閉じ意識を失ってしまう。それと同時に相澤から声を掛けられた

 

「オールマイト」

 

「身体にある模様が消えている」

 

「これで恐らくは、大人しくなっているはずです…」

 

「つまり…洗脳の解除に成功したという事だね」

 

「ひとまず安心…だね」

 

肌の露出を防ぐ為に、破いたコスチュームに包帯を巻くミッドナイト。そしてこれからについて言及するマイクに、根津はこう答えた

 

「hay、どうするつもりだよ…緑谷の奴」

 

「…校長」

 

 

「これは、我々の責任でもあり大きな課題でもある」

 

 

「人々の脅威となりうる力を立派ヒーローとして育て上げるという課題…私達はその事を向き合う使命がある」

 

 

「きっとネットで色んな事書かれますよ…」

 

もううんざりだ、とばかりにため息をつく相澤に、オールマイトは自らの責務だと言わんばかりにこう告げる

 

「それでも、やるしかないのだ」

 

「退学処分という彼を突き放す行動はしたくはない…責任を果たすとはそういう事ではないからね」

 

 

「おい」

 

気絶したかと思いきや、先生達の会話を耳にした爆豪はオールマイトにこう言った

 

 

「…デクをどうするつもりだ、オールマイト」

 

 

 

 

 

「……大丈夫だよ、爆豪少年」

 

「きっとなんとかしてみせるさ」

 

 

ニッ、といつもの笑顔を見せ彼を安心させようとした。雄英はこの事についてより一層警戒心を固め、これからの苦難に備え覚悟を強めた。それは緑谷出久という人間から放たれるその魔獣とどう向き合うか…彼を懐柔する事は可能なのか…それが出来なければあるいは______

 

 

根津は非情ながらも大勢の生徒の未来を選択した。緑谷の高校生活はより険しく、厳しいものとなっても…

 

 

ヒーロー科、一年A組“緑谷出久”

根津校長の許可の元、彼を無期限の停学処分を下す______

 




ヒロアカ世界の人達はとびきり頑丈なのでちょっとやそっとでは死にません(無理矢理)
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