第五話「黒い火花」
俺はガキの頃から何でも出来た。
運動、勉強、そして個性の扱い方…全てにおいて俺は一位という結果を常に取り続け将来は名を馳せるプロヒーローになれるんだと自分の中で断定した。当然、個性も俺は他のモブ共より優秀で誰よりも扱えていた。そして、幼稚園の時から俺の横にずっとひっついていた野郎が一人いた…
“緑谷出久”
何も出来ねぇ、石ころのクソナード
俺とは違って何をやってもビリッけつで才能も何もねぇ木偶の坊…
俺がアイツより下になる事は絶対してはなかった。常に俺が一位でアイツがドベ…だから俺はアイツをずっと見下していた。仮に個性が発現したとしても、奴に越えられるとは微塵も思っちゃいねぇ…
『来んじゃねェ、デク…!』
『だって…君が、助けを求める顔をしていたから…ッ!』
ヘドロ事件で、俺が捕まった時に放ったアイツの言葉…俺が大丈夫だも思っていてもあのクソは俺を助けようと達観した態度で手を差し伸べて来やがる…!おまけに野郎はその瞬間ヘドロを粉微塵にした…そうだ、個性だ…奴は“持っていやがったんだ”…!!しかも俺からずっと隠していた…
ッ!!
考えるだけで虫唾が走る…ッ
「おい」
俺のパートナーのクソ眼鏡は確か昨日から奴とつるんでいたな…
「何だ?」
「デクは、個性を持っているんだよな…?」
「君、彼と同じ中学出身だろう?入試の話の通り、彼は…」
そうだ…俺が入試で主席を取るという計画をズタボロにしたのもアイツだった。全ては俺を騙す為に…!!
「俺が上だ…」
「アイツがどんな個性を持っていようが、俺の方が上なんだ…ッ!」
「俺が、ねじ伏せてやるんだよ…!!」
◇◇◇◇◇◇
「デク君」
「うん、こっちにはいない…多分二人は核の場所にいると思う」
正直、こうなる事は予想していた…かっちゃんとこうして勝負するという事を
「僕の予想では、あと数秒後にはかっちゃんが一人でここに突っ込んで来るかもしれない…」
「結構、敵視してたから…!」
「あー…爆豪君、さっきめっちゃ睨んでたもんね…」
僕と麗日さんは屋内の中へと移動しながらも飯田君達の動向を推測していた。僕達二チームには三つのアイテムが支給される…通信を傍受する為のインカム、ビル内の構造を記された見取り図と確保用のテープだ。核の場所はヴィランチームしか知らされず、僕たちヒーローチームはまず核を探すという工程から始めないといけない。これは普通に考えれば僕達の方が圧倒的に不利…制限時間15分以内に核の場所を特定しつつ、さらに二人の攻撃を避けながら触れないといけない…!
「(確保するという手もあるけど相手がかっちゃんだと返り討ちにあうのが目に見えてるし…)」
「で、デク君ッ!」
「死ねやァッ!!」
思考を重ねていた僕はその間視界が若干にも狭まっていた。それ故に横から現れたかっちゃんの奇襲攻撃への対応が遅れてしまう
「うッ!!」
ただ、ギリギリにも僕は爆発の直撃を回避する事に成功した。麗日さんの声掛けがなかったらモロに喰らっていたかもしれない…。あわよくば横腹事持っていかれてただろう…なんて事を考えながら冷や汗をかいていると、爆風から現れたかっちゃんはまるで獲物を仕留める猛獣のような目つきで僕の前に立ちはだかる。
「デク…テメェには随分と騙されたが…」
「俺が強ェっつー事をここで証明してやるよッ!」
「か、かっちゃん…!」
そう掌を火花で散らしながら僕に歩み寄る。それは僕の予想通りの展開となるもその威圧感に気圧されてしまう。実際に戦っても勝つのはまずかっちゃんだ…情けない話、今まで幼馴染として付き合った何年の間にかっちゃんに喧嘩で勝った試しがない…まぁ、僕がふっかけるような事はなかったけれど…
とはいえ…今の僕がどれだけ彼のセンスと個性についていけるか…
「(まず、麗日さんが核の場所まで上手く通れるように僕がかっちゃんの相手をしないと…)」
「麗日さん」
「デク君…」
「…大丈夫」
「勝つさ」
この時、僕は極度の緊張のせいでその二言しか出なかったが「勝つ」という意味は勝負ではなく“試合”での意味でそう放った。なんて…そんなカッコつけた言動の割には、きっと足が崩れる寸前のように震えていたのかもしれない…我ながら自分のダサさには嫌気がさす
「うん」と、僕の情けない格好を見たのにも関わらずその発言を信じ、向かいの通路へと走り出す。
「“勝つ”…だぁ…??」
「テメェはどんだけ俺をコケにしやがんだァ…?あぁ…!?」
その歩みは段々と速さを増し、僕の言葉をきっかけに怒りのボルテージが上がり続けていく。
それもそうだ、こんな事…かっちゃんと今まで一緒にいて一言も発さなかった言葉なのだから
「死なねェ程度に殺してやるよォッ!」
後4メートル、という所でかっちゃんは僕に速攻の爆破を仕掛けてきた。何も無作為に“勝つ”なんて言葉を言った訳ではない…これは彼に限った話じゃないけど僕にはヒーローが大好きなあまりにその分析や技の特徴を書き溜めたノートが何冊もある。何の役にも立たない趣味だったけど、そのお陰で僕は人よりも少し分析力と推察力が優れるようになった
だから今、僕はかっちゃんが初めにする攻撃手段が何か既に読んでいた。特に動きの起伏がすごいかっちゃんは、最初に“右の大振り”を仕掛ける
「(なら…!)」
その上で僕の導き出した答えは…!
「(背負い投げだ…ッ!!)」
「ぐッ!?」
読み通りに大振りした右腕を掴まれたかっちゃんはそのまま円を描くように宙を浮く。
「す、すげぇ…!」
「背負い投げで返しやがった…!」
「綺麗に返されたなぁー、爆発さん太郎…!」
上鳴、瀬呂、切島の順へと緑谷の見事な対処に感嘆しながらもモニターごしで興奮していた。
他の生徒達も、声には出さなかったが少しながらも顔色を変えていた。
「…やるねぇ、緑谷少年!」
そして同じように、観戦していたオールマイトは彼の最適とも言える行動に賞賛の言葉が出る。
「でもよ、爆豪もそうだけど緑谷だって派手な個性あんだからそれで反撃すりゃいいじゃねぇかよー…」
そう発した峰田はある意味ごもっともと言える。だが、そんな言葉を耳にしたオールマイトは「NO!」とその意見をバッサリと否定する。
「この演習で重要視されるのは敵の迎撃は勿論、“どれだけ戦闘の被害を抑えられるか?”という点だ…峰田少年の考えはあながち間違えではないが、今回のような屋内での戦闘では避難途中の社員達がいるというケースもありえる話さ」
「爆豪少年の“爆破”、片や緑谷少年の“斬撃”…一歩間違えれば死に至る程の危険な個性であるが故により制限された戦いを強いられる事となる…!」
だからといって爆豪がその配慮をしていないのかとなるとそう言う訳でもない…彼も一見大雑把な攻撃をしているように見えて最初の一撃を含め全ての爆破規模が最小限に抑えられていた。凶暴と見せかけて意外と冷静な一面があるという事なのだろう
「しかし…」
しかし何よりもオールマイトが着目したのは爆豪の歪んだ自尊心だった。彼がどう言った性格なのかは先日相澤から聞いたのだが、想像以上の悲惨な様を見て流石のオールマイトも口角が下がりそうになる。
「爆豪少年…話以上の男だな」
「(自尊心が肥大化しすぎているぞ…恐らくだが、緑谷少年に対して何かしらの執着心か原因だと言うのか…?)」
「どちらにせよ教師としてそこはしっかりと向き合っていかねば…」
彼はヘドロ事件の被害者として中学時代ちょっとした有名人でもあった為、オールマイトは既に認知していた。囚われていても臆するどころか反撃を画策しようとした彼の“勝利”に対するこだわりの強さはその時既に感じていたのだ。
そして、あの事件にはもう一人重要人物として彼以上に名が広まる事となった少年がいた。
奇しくも、それは今彼が相手をする「緑谷出久」……
「…」
「(彼も彼で色々と思う所がある)」
爆豪少年にも目が行きがちだが緑谷もまたオールマイトが特に着目する人間の一人で、中学から卒業したばかりとは言えないその規格外の強さは以前の入試で充分で証明されている。
観戦兼レスキューポイント審査の為、オールマイトもその場にいた。
「ちびっちゃう」などと彼に冗談混じりに言ったが、彼がとてつもない素質の持ち主である事は断言出来るだろうと断定していた
「(しかし、それでも“入試”の時のようなパワーは依然として引き出す予兆はない…)」
「そもそも、彼は“斬撃”という個性を持っているにも関わらずあれほどまでの身体能力を用いているというのにも疑問だ…」
「君は一体…なんなのだ…」
跳躍力、打撃力、そして強靭な身体…並べてみればその特徴はある人物と酷似している
「まるで“私”そのものではないか…」
オールマイトは嫌な予感をよぎらせていた。斬撃とあと一つ個性を持ち合わせておりそれが身体能力の肝であるとしたら…
「ムッシュ、動くよ…爆豪君が」
憶測が飛び交う中、青山が彼にそう呼びかける。再びモニターの方に顔を向けるとそこには恐ろしい光景が映し出されていた
「な…!」
「オイオイ…あれって…」
◇◇◇◇◇◇
かっちゃんは両手に備えられたコスチュームの装備を解説しながらもピンのような物を引き抜こうとしていた
「コスチュームの要望通りいきゃア、コイツん中にはオレの爆破成分がたんまり入っている状態になっている…」
「分かるよなァ、俺が今からコイツは引き抜けばどうなっちまうのかよォ…?」
「か、かっちゃん…何を…!」
「爆豪少年!それ以上は危ない!」とオールマイトの声が屋内に響いている。そんな忠告を無視し、そのまま僕にその“何か”をぶつけようとしてくる
「当たんなきゃ死なねぇよぉ!!」
「や、やばい…!」
『いけ』
おそらく数日振りにあの人の声が心の中で聞こえてきた。いけと言われても、僕でも死を感じる程の嫌な気配を感じるのにその上に突っ込める勇気は、僕には当然ない。
『あの餓鬼は「当たらなきゃ死なない」と言っていただろう、つまりワザと外して直撃はしないという意味ということだ』
『つまり、このまま直進していけば当たらんということだ』
「…!」
言われてみれば、かっちゃんがそうするのなら当たらないかもしれない。最悪当たっても掠ってしまうけど…
「うおおおお!」
こんなのきっと悪い考えだけど、リカバリーガールがいる限り多少の無茶をしてもやり直せる所ごある。なら、ここはビビって後ろに下がる必要はない
引き腰でも、僕はかっちゃんの長距離爆破を避けながら突進していく。爆破による熱で肌が火傷するほどにヒリヒリするが、かっちゃんとはゼロ距離で詰める事が出来た
「こ、こいつ…ッ!」
「!」
『まぁ、奴が先ほどまで激昂するのも無理はない…貴様は今の所奴に力を示す“証明”をしておらんのだからな』
『“拳の一発”ぐらいは叩き込んでみろ……その気があるのならな』
僕が今までかっちゃんに“無個性”と思わせてしまったのは、無理もない話だ。実際宿儺さんが“個性”である事の確証は得られてないけれど、今の僕には強い力があることは確かなんだ。
ただ、今の君にはその事実を言う事は出来ない…多分信じてくれないだろうから…
だから
「ごめん、かっちゃん…!」
その時、自分の心の中には色んな感情が嵐のように渦巻いていた。緊張、恐怖、畏怖…色んな物があったと思う。振り上げた拳はかっちゃんの籠手にぶつかる
その一瞬、接触の瞬間に黒い火花が散った
「なんだありゃ…!?」
「緑君が個性使ったの!?今!」
モニター室で見ていた切島、芦戸が続くように緑谷出久の起こしたその“現象”に驚きを露わにする。他の生徒達もその光景に一瞬目を丸くさせる
緑谷出久には微力ながらにも“呪力操作”を行う事が可能となっている。呪術師“両面宿儺”による二度の肉体支配によりそれは無意識下で行っていた。そして偶然にも呪力の衝突と拳の打撃が限りなく一致する事で起こる“現象”が今、発動したのだった。
『黒閃』
かつての術師はその様をそう名付けたという
今の所は序盤の下り原作そのまんまです(ごめんネ!)
緑谷君の黒閃ですが、最初の一打目がたまたま発生した物なので対した威力はでていません、(100%スマッシュよりは弱い程度ぐらい?)