第六話「決着」
「うおおおぉお!!」
モニター室から、クラスメイトの歓声がこだまする。放った拳から放たれる“黒閃”が広範囲に渡り建物を破壊させていく。幸いにもかっちゃんへの身体の損傷は免れたが、接触した籠手が跡形もなく粉砕し右腕の軽度の骨折を起こしていた。
「ッてぇ…」
ほんの“ひと掠り”だった。直撃ではなかった為致命傷には至らなかったがそれだけではかっちゃんの身体へのダメージは甚大ではなかった。
「一体何が起きている!?」と飯田君から無線を通してかっちゃんにそう尋ねていたが、今の彼がまともに会話する余裕はない。ズキリと痛む右腕を抑えながらも身体を無理やり起こした。
「んだよ…今の攻撃はァ…!?」
「(反射神経でギリギリ避けれたっつーのにこの威力…しかも、普通の打撃じゃねえ…)」
「(デクの、個性…ッ!)」
敗北
一つの言葉は彼の脳裏に過ぎる。一度も考えた事もなくその経験すらないかっちゃんにとって初めての感情だった
「テメェッ!!やっぱり持ってたんじゃあねぇかぁ!!」
一方で、派手な技を見せつけたと男子陣はそれぞれの反応を露わにしていた。
「俺と個性ダダ被りかよぉ、しかも黒い稲妻とかカッコ良すぎっしょ…!?」
「これ、あれじゃね…上位互換って奴?」
被ったと落胆する上鳴に片や追い討ちをかける瀬呂、その間で常闇がボソリと一言だけ呟いた
「俺には黒い閃光が迸るようにも見えた…」
「さしずめ“黒閃”と言った所か…」
「勝手に命名していいのか…?」と常闇の発言を聞いた尾白は心の中でそう突っ込む
そんな生徒達がザワザワと言葉を交わす中、オールマイトは彼の“黒閃”を見て更に疑問が沸いた
「(いや、違う…あれは緑谷少年の“個性”ではない。斬撃の応用にしてはあの芸当はあまりにも離れすぎている…)」
「(ならあれはなんだというのだ…?少年、君は一体何者なのだ…?)」
「…」
「(……いや、今はこんな事考えている場合ではない。私には言うべき事がある…)」
「緑谷少年、爆豪少年」
オールマイトは己に渦巻く疑問の嵐を抑えつつも、激闘を広げる二人にアナウンスを行う。
「水を差すようで悪いが、これ以上の被害を招くようなら演習を中断させる」
「あぁッ…!?」
「え…」
「そういった大規模な破壊行為は自身の牙城の損壊を招く…双方にとっては愚策だよ、それは!」
「大幅減点だからな!」
「く…」
「く、クソがオラァァァァッ!」
「殴りあいだァァァァッ!!」
突進!かっちゃんは怒りを露わにしながらも爆破の勢いを利用した高速移動“爆速ターボ”で僕に向かって襲いかかる。
そんな僕は自分の今の状況を整理できないでいた
「な、なんなんだよ…今の!」
「なんか、黒い電気みたいなのが走ったぞ…!?」
言い出せばキリがないが、とにかくこの状況を打開する術を見つけなくてはならない。考えるのはその後でいい
今激昂しているかっちゃんは、前と同じ右の大ぶり…いや、さっきの一撃でダメージが入っているから“左”で来るはず…!
その読み通り、かっちゃんは左の腕を大きく振りかぶろうとした。
「オラァッ!」
「うッ…!」
右手を負傷している筈なのに小さな爆発を起こして目をくらまされる。僕は直ぐに目を見開いた時にはかっちゃんの姿は消えた。
その時、かつて僕のヒーローノートで書き残したあの言葉が脳裏に浮かんだ。
かっちゃんの【爆破】の真価は攻撃だけではなく、それを応用した高速移動とその機動力だ。
50メートル走で見せた“爆速ターボ”は一定の威力を放ち続けながら直進的に移動出来るが指向性と威力の調整を測る事で更に細やかな動きが可能となる。なまじ何でも出来るかっちゃんにとってはその芸当は造作もない事だった。
「デクッ!テメェがどんな個性を持っていようが______」
「俺より“下”だァッ!!」
小さく、細やかに爆破を起こして僕の背後へと一瞬に回り込んだ…その思考に辿り着いた直後には、僕は身体ごと地面に叩きつけられていた。
「あぁ…ッ!!」
驕ってしまった。
あの訳のわからない現象が起こった時に、“勝てるかもしれない”と自分の中で確信のような物が芽生えていた。けどそんなのは一瞬の思い上がり…言ってしまえばあれはただのラッキーパンチで、僕は運で瞬間的に勝っていただけなんだ
「なぁ…オイ…クソデク…」
「楽しかったか…ァ?俺は今まで騙してよぉ…!」
ちがう…
「あのデケェ稲妻がなんなのかは知らねェが、いい個性だなァオイ…アァ!?」
「ガキの頃からテメェは何考えてんのか分かんねぇから気色悪いと思っていたがよォ…!」
「この日までずっと心の中で俺を舐め腐ってたのかぁ!!?」
ちがう…!!
「“あん時”からずっとよぉッ!!」
「ちがう」
そんな事は一つも思っていない…不確かな事だけど、強い力を僕は授かったのかもしれないけど…!それでも、僕は君には到底敵わないと思ってしまうんだ…それは、君が昔から何でも出来てしまう凄い奴だから…そして、どんな強い敵が現れても“勝とうと”する姿勢を崩さないその姿を見てきたから…!!
「君が…」
その分嫌な奴さ…でも、それが消えてしまうほどオールマイトと同じくに君に憧れていた!
「君が凄い奴だから、越えたいんじゃないか!バカ野郎ォォォォォ!!」
「…その顔やめろや」
「クソナードォォォォオッ!!」
その時僕は初めて人に向けて“暴言”を吐いてしまっていた。気弱で何を言われてもまともに返せない僕はよりにも一番苦手な相手を前に啖呵を切ってしまったのだ。それは、あの黒い火花を出してから得体のしれない高揚感が湧き出ているのが原因なのかは、自分自身でも分からない…
ただ今分かるのは、僕はかっちゃんに“勝ちたい”という気持ちがある事だ
「や、やばいぜあれ…ッ!もうこれ止めた方がいいって!先生!!」
モニター室では二人の戦いのボルテージが限界まで突破しもはや危険な状態に突入していた。それをいち早く察知したのは、意外にも熱血漢の切島だった。彼がそうオールマイトに危惧するが当の本人は一向に中止の言葉を投げ出さないでいた。
それは、ある一つの“思い”があった
「(先生として、これ以上の損壊は麗日少女と飯田少年の身に危険が及んでしまう為止めるのが最適解…ッ)」
「(だが)」
「(これは、あの二人にとって大事な瞬間になろうとしている…ッ!!)」
「うぁぁぁああああ!!」
来る。
右の拳を振り上げる時、僕はなんとなくだけどさっきの黒い雷が来ると予感していた。いや、予感というよりは“確信”に近い感覚だった。それはかっちゃんもきっと分かっている筈だ
「(来るッ!さっきのデケェ火花がッ!それを喰らう前に、俺の爆破を先に当ててやるッ!!)」
お互いが持てる力を解き放とうとぶつかり合う瞬間、葛藤していたオールマイトが遂に中止宣告のアナウンスを呼びかけようとした
「双方ッ!中______」
「今だッ!麗日さぁんッ!!」
言い終わるその前に、僕は麗日さんにそう合図を呼びかけた。今ならきっと核の場所に辿り着いてる…そして、僕の推測が正しければ今いる場所はその真下に位置しているはずだ
「はいっ!!」
正直、この作戦を立てた自分として演習の趣旨を考えればかなり愚策で危なっかしいプランであると自分でも自覚していた。僕がもっと才能があって判断能力がかっちゃんよりも優れていたらこんな強行手段はとらなかった…でも、今はこれしかない。かっちゃんは怪我している筈の右腕を振るも、僕は左腕でその爆破を塞いだ。
黒閃‼︎
天井に向けて振り上げた拳は天井を貫き、遥か先まで黒い雷が轟音を鳴らしながら周囲へ拡散する。これで、かっちゃんの攻撃をいなしつつ飯田君の隙も生まれたはずだ。瓦礫が大量に飛散する今の状況なら麗日さん【無重力】を遺憾なく発揮出来る。
これなら…
もう、思考できる余力もない。片手で受け止めてられたけど爆破の振動をモロに喰らってしまったからか脳がグラグラと揺れている。視界も段々ボヤキ初めてきた。
「あ…」
それから僕の意識プツリと切断されたかのように途絶えてしまった。
◇◇◇◇◇
僕が再び起きたのはそれから三時間経過してからの事だった。目を覚まし映し出されたのは、保健室の白い天井
「あれ」
そこから事の状況を理解するのに数秒かかった。演習の事、あれからどうなったのか、今自分はどういう状況なのか。整理していく内に男の人の声が聞こえてきた
「目を覚ましたね」
「あ…」
ヒーローコスチュームから一変し教師らしいピシッとしたスーツを目につけていたオールマイトが僕に呼びかけた。今までテレビで追っかけ続けていた人とこうして至近距離で話せるのも雄英の凄さを実感出来る所…ただ…今の僕にその嬉しさよりも知りたい事が沢山あった
「あの…演習は…」
「私がこうして君の側にいるのは他でもない…あの後の結果とその講評を伝えに来たのだよ!」
「単刀直入に言うと…結果はヒーローチームの勝ち」
「麗日少女が核に触れた事で実習は終了したのだ」
「…まぁ、つっても試合のMVPは飯田少年なんだがね!」
「そう…ですか」
そうか、あの直後で麗日さんはなんとか核に近づける事が出来たのか…。よかった…とりあえず、無駄じゃなかったんだ…。
「…君には毎回驚かせるよ、入試といい今回での演習も君の力には何か大きな可能性を感じる」
「君に関する個人情報…失礼ながら見させて貰ったよ。個性は【斬撃】と診断されているらしいが、今回君の活躍の中に不可解な点があった」
「…どういうことですか?」
身体が段々と力が入るようになってきたので上半身だけ起こしてオールマイトの話に耳を向ける。
不可解…それに関しては僕も思うところがあった。その時は必死すぎて考える暇もなかったけれど
「計二発…君はとてつもないパンチを繰り出したね…しかもただの打撃ではない、黒い稲妻のようなものを発生させていたのだよ」
「斬撃といい、謎の黒い稲妻といい、更には人並外れた身体能力を兼ね備えるときた…」
「明らかに君の力は一般のヒーローの域を超えていると私はあの時そう感じたのだ」
「緑谷君」
気がつけばオールマイトの後ろには一匹と一人のご高齢の方が僕の前に立っていた。恐らく僕がいる場所からしてリカバリーガールと…雄英を創設した根津校長であるのだろう。ただ、そんな人がどうしてここに…?
「君、一体なんなのだ?」
その日目にしたオールマイトの顔は人を助かる際に浮かべる満面の笑みではなかった。まるで、因縁の相手を対峙しているようなしかめ面をしていた。
「…」
僕は今まで宿儺さんについて誰かに話した事は一人としていない。お母さんでさえも、その事実を隠し続けていた。ただ、いつかこうして人に詰められる瞬間は来るのだろうと自分でもその予感はしていた。これを話すのは怖かった、言ってしまえば宿儺さんが“何か”してしまうのではないかと嫌な想像をしてしまうからだった。ただ、今そこにいるのは世界最強とまで謳われるNo.1ヒーロー…この人なら、僕の言葉を信じてくれるのかもしれない
恐らく彼は聞いているかもしれないが、それでも話すことで何か変わるのかもしれない。いつだってピンチを切り抜いてきたオールマイトなら…!
「(…言おう)」
「(僕の知るオールマイトなら、そんな事にはならないはずだ…!)」
僕は始まりでもあるヘドロ事件から今に至る数年間をオールマイトに全てを伝えた。
「そうか…」
「突然現れた“スクナ”と呼ばれる謎の概念…実態はないが幾度として君の身体を乗っ取りその力を振るってきた…」
「それにしては、君が【斬撃】を使えないのというのは疑問だな…宿儺という全てが一括りの【個性】であれば納得出来るだが…」
「はい…それに、自分でも先の黒い雷に関しては自分でもてんで分からなくて…」
「…ますます謎の多い子だね」
カツカツ、と杖をつつきながらリカバリーガールがそうため息をつきながら僕にそう言った。
「アンタの治療を施した際、他の子達と比べても身体の治りが数倍速かったんだよ。生まれながらタフと言うのは余りに説明がつかない程にね」
「実はアタシが治癒を施したのは爆破を受けた左手だけで、他の部位はアンタが持つ治癒能力で勝手に治っていったのさ…」
「え…そうなんですか…?」
「全く、とんでもない子を入学させたね…どういうつもりだい?」
「私もその異常性については周知しているつもりさ、その上で君の入学を認めたのだよ」
根津校長はトテトテと歩み寄りながらも片手に持つ紅茶を啜る。パンフレットで見た通り、その姿はネズミそのものだ。その姿は異形型と思われがちだが実はれっきとしたネズミ、世界初の動物の個性持ちとして雄英の校長としてその名を馳せる生きる偉人である。
「あー…えーと…は、初めてまして…!」
「怪我の様子はどうだい?」
「だ、大丈夫ですっ…!この通り!」
「それは何より…君の活躍、少しだけと拝見させてもらったよ。あのド派手な攻撃、まるでオールマイトのようだね」
「あ、ありがとうございますっ」
「いいんじゃないかな?この子でも」と根津校長がオールマイトにそう言いかけるも「校長その件は…」と申し訳なさそうな顔でその話をやめるよう催促する。一体何の話をしているのだろうか
まさか、相澤先生のように除籍処分を…?
「あ、そうそう…話が逸れない内に本題に入るけれども…」
「私達がここにいるのは他でもない、君に【個別指導】の先生を配属させる事を伝える為さ!」
「個別、指導…?」
「君の力は不安定で、かつ強大な力を宿している。それに加え危険性を持つ“宿儺”という第二の意思がそこに在中する以上、雄英が君を監視する他はない…」
「でもね、君はまだ高校に入学したてのいたいけな少年。そんな子に青い春の三年間を下手に奪うような真似はしたくない…そう僕は考えたのさ」
「そこで!!私の出番という事だ!」
HAHAHA!とオールマイトはそう言いながらも豪快に笑う。
「私が君の【指導係】として新たに任される事となったのだよ!」
「お、オールマイトが…」
僕の指導を…してくれるぅ!?そんなのアリかよ…ッ!?ずっと憧れ続けていたオールマイトが僕の個別指導をしてくれるなんて、こんなコミックのような展開あるのか…!?
「宿儺というまだまだ得体の知らぬ力に対抗出来ると考えた上で、では誰が一番確実に収められるのか…?となった時に!「私しかいないでしょう!」となった訳で私が選ばれたのだよ!」
「ううう嘘だ…そんな夢のような展開が…!」
「君も私が側にいれば安心だろう!No.1ヒーローである私ならどんな状況になってもキチンと解決間違いなし!だからね!」
「と、いう訳だ!早速だが明日も明日で大忙しになるだろう!なんせ今週には“救助訓練”があるわけだからな!」
「家に帰って身体をゆっくりと休めるといい!」
「は、はい…!」
なんだか、凄い事になったぞ…!
「あ…」
唐突に僕はある人の顔を思い出した
「あの…」
「ん?まだ何か心配な事でも?」
「いえ、今何時か聞きたいんですけど…」
「ああ…それならHRが終わって生徒達が帰る時間になっているよ」
「まぁ待て少年!その心配はいらないさ!帰りまで迎えに来ることは無理だが、この連絡機を使えばいつでもどこでも駆けつけに______」
「あれ」
オールマイトが一人でに喋っていたら彼の姿はなかった。さっきいた筈なのだが、右左見ても緑谷出久はどこにもいない。
「…緑谷ならさっき帰ってったよ」
「え…」
リカバリーガールはそういいながらもデスクへと戻って行った。片や根津校長も「僕も用事があるし、それじゃ!」と保健室から退室した
「彼、50メートル3秒で走るんだろう?アンタの答え聞いた瞬間にすぐさま消えていったよ」
「…」
「ほら、アンタも仕事残ってるんだろ?さっさと職員室に戻りんさい」
一人ぽつんと残ったような状況でリカバリーガールの言葉を聞いたオールマイトは「はい」とただ無機質に答えるしかなかった
宿儺が喋ってない時は基本的に寝てるかぼーっとしてます