第七話「勝つ」
「かっちゃん!」
僕は一人で静かに帰っていこうとするかっちゃんに呼びかける。急いで走ってきたからまだボロボロコスチュームのまま来てしまったが、そんな事を気に留める事なく僕はかっちゃんに伝えたいことを打ち明けようとした
「あ…?」
「あのさ…えっと…」
「……えっと…」
言葉が出ない。可笑しいな…走ってる時に何言うか必死に考えたのに、いざ口に出すとなると頭が真っ白になってしまう。昔からかっちゃんといても僕はこうやって自分から物言いした事がなかった。いる時はいつも頷くかキツイ事言われても黙ってるしかしなかったからだ。でも、今回だけは違う“これだけ”は今どうしても言わないといけない気がしている。
「今、全部言える訳ではないんだけど…」
「僕の力はえっと…自分自身の力じゃなくて、他の人から借り受けた力で…」
「まだ…からっきし使えないしまだまだだ、
前を向き、目が点になっているかっちゃんに向かって僕はこう言う
「いつかちゃんと自分のものにして、君を超えてみせるよ」
気づけばそう言っていた。説明どころか、僕は彼に宣戦布告の言葉を投げかけていた。かっちゃんを探しながらどう言えばいいのか必死に考えたけど、周り回って絞り出した結果僕はこの言葉が出たんだ。でも、やっぱりこういうのを言った事がないから僕はそんな威勢のいい台詞を吐いた後にオドオドしてしまう。普段であればここでかっちゃんの怒声を浴びるところだが、一向に口を開く気がない。
「ご、ごめん…ッ!な、なんか自分でもよく分からない事言っちゃって…」
「自分自身の力じゃない…ィ?」
「借り物ォ…?」
「テメェこれ以上に俺をコケにどうすんだよ…ッ。なぁ、俺はテメェに負けたんだよ…訳分かんねェ事言ってんじゃねェよ…ッッ!!」
「テメェが最後の一撃を繰り出す時に、俺は“負けちまう”と思っちまった…ッ!」
「クソ雑魚だったテメェに一瞬でも“勝てねぇ”と思っちまったァ…ッ!!」
「!」
「いいかァ!デクッ!こっからだ!!」
「俺はここで、“一番”になってやるッ!!」
「次はねェぞ!クソがッ!!」
かっちゃんはその時、微かにだけど涙を流していた。子供の頃から今までは負ける事を知らなかった彼だが、今日初めて自分が完全に“追い越された”と痛感しそれがかっちゃんにとって他の人達よりも一段と強い挫折を味合う事となった。
ましてや、その相手が今まで見下していた石ころ同然の人間てあったのだから
「かっちゃん…」
「“泣いてた”…」
あの時のヘドロのような“助けを求めていた”時じゃない。それは僕に勝つための“悔しさ”
「あの時のパンチ…あれがなかったら僕は動きを完全に止められて倒されていた…」
「技量や判断能力は完全に負けていたんだ…!」
かっちゃん…僕も、君を超える為に全力で挑むよ…!今よりももっと強くなって…
「…」
「あの時の感覚…なんだったんだろ…」
黒い閃光を放ってから、身体の様子が変になっている。ゲームや漫画でよくある“力が湧いてくる”というのは、こういう感覚なのだろうか…
何にせよあの現象について謎が深まる中、制服を着るために教室へと戻っていった。そして、僕は溜めた疲労を取り払う為に家へと帰宅し明日の試練に備えて早めの就寝を取った。お母さんは僕のボロボロの姿を見て泡を吹いてしまったが、今後このような無茶はしないようにしようと心に誓った日でもあった。
オールマイトから連絡が来て、明日は休養するようにと言付けを受ける。その訳はあまり口にはしていなかったが僕は言うことに従おうとその日は自主トレに励んだ。
そして、翌々日…一日ぶりの登校に謎の緊張感を持ちながら雄英に通学する
「お!来た来た!」
「おっはよー!緑谷ー!身体ダイジョブそー?」
「…ぅえ?」
僕はあまりの突然の言葉に間抜け声を出した。ホームルームまであと15分の所で教室について扉を開けると、このように何人か僕の元へと集まっていた。正直麗日さんと飯田君以外とはあまり喋ってない為、名前の知らない人達に僕は困惑してしまった。
「いっや〜〜!マジで熱かったぜ!お前の戦い!」
「ホントだぜ、爆豪は才能マンで半端ねーけどやっぱ主席取った人間は格が違うよなぁ〜!」
「一番すごいのはあの黒い雷みたいなのだよね!あれって個性でしょ!?」
「え、え…?」
捲し立てるように次から次へと僕への言葉が止まらない。
「あ!そうだ、自己紹介まだだったよな…!俺、切島っつーんだ!よろしくな!」
「私、芦戸三奈!よろ〜!」
「瀬呂範太な!」
「俺、佐藤!」
「う、うん!宜しく…!」
一日休んだだけで皆の友好関係は大きく進んでいた。よく見ると殆どの人達は和気藹々と雑談をしながらもホームルームまでの時間を探していた。このあたりは普通の学生生活とは何ら変わりはない。雄英に来てから非日常のオンパレードかと思いきやこうした普通の授業日にはギャップを感じる
そんな事を考えていると、峰田君が僕の裾を引っ張る。
「おいっ」
「な、何?」
「あん時の戦いで上鳴が酷く落ち込んでいたぞ…!「俺の立場がぁ…!」って!」
「か、上鳴君が…?」
「お〜い、緑谷〜…」
恨めしい声質が僕の背中を刺すように飛ぶ。この声は上鳴君だと思うが普段の彼とは一変しどんよりとした表情で
「雷の個性持ってんなら早く言ってくれよな〜…しかも黒い電気とか俺よりかっけーしよぉ〜…」
「アッハハハハ!」と切島君達はそんな上鳴君の切実とした訴えに可笑しく感じ笑っていた。
自分の個性については麗日さんと飯田君以外にはあまり言っていない。入試の時から話題になっていたといえ自分自身でうち明かした事はないからこうして誤解されるのは可笑しな話ではない。
とはいえ、上鳴君には悪い事をしてしまった。不本意とはいえ…そんな中、泣きかけていた上鳴くんの後ろにヒョコッと現れたのはノート(?)を抱える麗日さん。僕を見るや否や「あ!」と叫びながら僕の方はと急接近する
「デク君おはよう!久しぶりだね!怪我大丈夫?なんか、凄いらしいって聞いたんけど」
「あ、あああ、うんっ大丈夫大丈夫」
ち、近いいぃ…!
「そっかあ〜!ちゃんと勝ったんやけどね、デクが怪我して気絶しちゃったから申し訳ないなって思っちゃって…!」
「い、いやいやいや!!そんな事!!」
「お前ら」
ドスの聞いた声が教室に広がる瞬間、パタリ…と賑やかな雰囲気は一変しそれぞれ自分の席へと速やかに着いていた。時計を見れば丁度ホームルームの時間になっていた。相澤先生は合理的主義の人なので一分一秒の遅刻すらも許さない、これが雄英…やっぱり最高峰なだけあってシビアな所はシビア…!
「はぁ」と気だるそうにため息をついた後、単刀直入に本題へと差し掛かる
「さて、緑谷も復帰した所で早速今日の授業の説明をする」
「ヒーローとして基礎である「人命救助」…その訓練を今日から行う」
人命共助________!!
クラスの心の声が一致する。
ヒーローは本質的には「奉仕活動」を重きに活動する団体…それは強さ以上に重要視され、実際に人命救助実績の最多を誇るオールマイトは現在もNo. 1の座に君臨し続けているのだから僕たちにとってはこの上ない必須科目である。
救助訓練の詳細についてはUSJと呼ばれる救助専門の訓練施設に言ってからと相澤先生は風のように消えていった。USJ…名前からして某テーマパークを連想させるが今回向かう場所はそんな楽しそうな物ではないのだろう。興味と不安が入り混じる中、僕達は先生に叱責を喰らわないよう各々コスチュームに着替えて準備を進める。
USJはバスで数分かかるらしいので校舎の玄関前で集合する事となった。
「緑谷君!コスチュームの方はどうしたのだい?」
ビシッ!とキレのありすぎる挙動をしながら飯田君は僕にそう尋ねる。
「ああ、うん。こないだの戦闘訓練でだいぶ破損しちゃったから」
「そうか、君の決死の一撃は凄まじかったからな…」
「くっ、あの日の悔しさが未だ拭い切れんッ!」
そうか、あの時は麗日が核に触ったから僕たちは勝ったんだっけ。混乱の中でどさくさに紛れて触るというなんとも言い難い作戦だったろうけど飯田君達に上手く刺さってよかったのかもしれない。後で視聴覚室で戦闘訓練での自分の様子が見れるらしいからチェックしよう。
さぁ!早く席に着くのだ!番号順で!と飯田君は独特の動きをしながらクラスのみんな先導する。
番号順とはいったがバスは横ではなく縦に位置するタイプだった為結局好きな場所に座る事となった。どんまい飯田君…
「緑谷ちゃん」
バスの中で賑やかな談笑が響く中、僕の横に座っていた緑の女の子に声を掛けられる。何故だか分からないが最近女の子に呼びかけられるのが多くなった。フレンドリーな人だらけというのもあるが、クソナード極まる僕にとっては刺激的だ
「はいッ!?」
「こないだの戦いを見て思ったのだけど、あのパワーって一体どこから来ているの?」
「えっ」
「あーっ、そういやそうだなぁ。増強型でもないんだろ?もしかして、素の力であれって事なのか?」
「う、うんっ…まぁそんな所だね…っ」
切島君のラッキーアシストに首を縦に激しく振った。この力は生来の肉体で放たれたもの…オールマイト程ではないが人間離れした動きは一応可能ではある。
「しっかしいいよなぁー、緑谷の個性は派手でかっこいいしよぉー。オレなんかちょっと硬くなるだけだぜ、こんな風に」
「ぼ、僕はカッコいいと思うよ!切島君の個性!」
切島君の個性は“硬化”
最強の矛にもなり最強の盾ともなる…確かに地味さが目立ってしまうがそれ故に汎用性の高い能力とも言える。
「そうかぁ?とはいえよ、爆豪みたいにやれる事が多い個性持ってるのは羨ましいんだよな」
「あ」
ピクッと唐突に話題に出たかっちゃんが名前の出た途端に軽く反応する。切島君に続くように蛙吹さんが口に人差し指を添えながらこう言う
「でも爆豪ちゃん暴言ばっかりだから人気でなさそ」
「あぁ!?出すわッッ」
「既にクソを下水で煮込んだような性格してるって周知されてんのがすげぇよなぁ」
更に続けて上鳴くんがとてつもなく酷い言い回ししながらかっちゃんをディスり始める。
「テメェはどういうボキャブラリーの言い回しだぁッ!」
あのかっちゃんをここまで手玉に取るなんて…!恐るべし、雄英…ッ!
「お前ら、もう直ぐ着くから静かにしとけ」
相澤先生の言葉で皆は静まり、その後バスが停止し扉が開く。降りた先にはドーム状の巨大な施設が僕たちの視界に広がっていた。相澤先生に先導され、施設の中に入るそこには宇宙服を来たヒーローらしき人物が僕たちを待っている。
「あ、あれって…!」
あの方を見て最初に反応したのは麗日さんだ。次に僕も続けて反応する。ヒーローオタクの僕からしたらそこにいるのはよく知る人物だからだ。
その名は、スペースヒーロー“13号”
【個性】ブラックホールを用いて災害による被害の軽減と怪我人の救助を主に活動する、今日の授業にピッタリなヒーローだ。
「どうも皆さん初めて、僕の名前は…」
「勿論ご存知ですっ!スペースヒーロー13号!!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「後でサインを…!」
「…」
ヒーロー科にいる以上その辺りの知識を持つ物は僕だけに限る話ではない(とはいえ特に僕は重度のオタク気質という話なのだが)
自己紹介も不要と判断したのか13号はそのまま本題へと突っ込んでいく
「えー、授業を始める前にお話は一つ、二つ、三つ、四つ…」
「(多い…)」
「こないだの戦闘訓練で貴方達が身をもって体験した通り、個性を人に向ける事の危険さを感じたと思います。ご存知かと思いますが僕の個性は“ブラックホール”。周囲の物を引き寄せて吸い込む事が出来ます」
「この力は今に至るまで未だに自身でも完全にコントロールする事が出来ていません、故に人を誤って吸い込んでしまう事だって不可能ではありません。」
13号はコスチュームから分かる通り全身を覆うように身を隠している。もし素の状態で発動してしまうと13号自身がブラックホールの塊となり周囲を無作為に吸い込んでしまうからだ。本来の使い方としては指先だけを露出させ指向性を持たせる事で力の調整を行っている。
ちなみにこれは僕の分析ノートから引用している
「歴史上ではその危険性により、過去に人を殺してしまう個性を持つ物が不用意に力を払う形跡が後を経ちません。今も然りです」
「勿論これはあなた達にも言えることですが、自分の個性が危険であるか否かは結局の所自分がどう使うか次第なのです」
「ですので、今日は人命救助でこの力をどう活かすかを学んだ貰います。覚えて貰う事はただ一つ、その力を人を傷つける為のものではない…“人を救う”物だと…そう心得て帰って下さいな」
最高の演説を終わった瞬間、スタンディングオペーションの如く歓喜の声が響き渡った。ヒーローを志す者として13号の言葉にはとても響き渡るのだ。
「緑谷」
そんな中、相変わらず眠たそうな顔で僕に呼びかける相澤先生。
「はいっ」
「今日、オールマイトも同伴する予定だったが、個人の都合で急遽遅れるとの事だ」
「え…!?」
先の話の通り、オールマイトは僕の監視兼特別指導の先生であるのだが通告からそうそう不在である事を知り驚愕する。
「つーわけで、今日は俺がお前の面倒を見る。まぁ担任だしな…元々やる事は変わんねぇが」
「何かあれば“抹消”で対処する…いいな」
「は、はいっ!お願いします」
後から来ると言っていたし、本当に急遽来れない理由が出来たしまったのだろう…きっと大丈夫だ。いざとなればなんとかなるはずだ。
そんな雰囲気の良い状態でスタートする…と思っていた矢先で、遠くは何かが爆散する音を聞こえる。
それをいち早く聞き取り声を発したのは、相澤先生だ
「13号!」
「ッ!これは…」
「来るぞ…!」
一体何が来るのか…それは、上を見れば直ぐに分かることだった。ドームの天井付近に黒い靄が生じ、そこから100人以上の武装した人間が投下されている。
なんだ_?
入試みたいな奴でいきなり始まるアレか?
皆はこれがどういう事態になっているのか理解出来ないでいた。ただ何人かはこれが異常事態である事は察知していた。僕のその一人で冷や汗がグンっと下から上がっていく。
皆の疑問を晴らすように相澤先生がこう叫んだ
「違う、これは______」
「ヴィランだッ!」
『…五月蝿いな』
ヴィラン襲来と同時に今まで黙っていた心の中の“彼”が起き始めた