受肉体、緑谷出久   作:助5103

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第八話「呪いの王」

第八話「呪いの王」

 

 

 

 

 

「ヴィランだ______!」

 

 

 

相澤先生がそう発してから数分経った頃には、僕は知らない場所へと敵の個性によって“転送”されていた。そこは辺り一帯を人口湖が取り囲む、所謂【水害ゾーン】…。僕がここに来る寸前、相澤先生の指示によってUSJ外へと出て避難しようとしていた。しかしそれを許さないヴィラン集団の刺客の一人である黒いモヤで覆われたヴィランによって、退路を絶たれてしまう。

切島君やかっちゃんが奴を倒そうとしたが、それは叶わず何人かが個性によって別々の場所へと送りだされた。散らして、なぶり殺すと言う台詞から考えるに、恐らく僕達を分断させて待ち伏せしているヴィランに対峙させる作戦なのだろう。

 

 

意識を取り戻しながら、僕は事の状況を整理する。

 

 

「う…」

 

 

 

「緑谷ちゃん…」

 

 

「!あ、すい…さんっ」

 

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 

 

梅雨…ちゃんも、どうやら僕と同じ場所に送り出されたみたいだ。よく見ると後ろにはガタガタを震えている峰田君の姿が見える。水害ゾーンには、どうやら僕達三人しかいないみたいだ。今いる船舶型のハリボテから水面を見下ろせば、うじゃうじゃとヴィランが泳ぎ回っている。水中特効の個性を持っているのは明白だ。

ヴィラン達は餌を待つ猛獣のように、僕たちから視線を離さない。

 

 

 

「やばいわね、この状況」

 

 

「うん」

 

 

 

正直、この数を相手するのは無謀にも程がある。仮に逃げたとしても出口付近にはモヤの男がいる可能性が高い。それに…

 

 

「集団で来ている以上、ブレーンを担う人物がいるハズ…」

 

 

 

ヴィラン連合には“ボス”がいる…そうでないと、こんな大規模な襲撃に説明が付かない。

 

 

「このタイミングで来たってことは、事前に情報を掴んでいた可能性が高いわね」

 

 

「うん、そうなると…」

 

 

ここで、目を血走らせた峰田君が声を上げた。

 

 

 

 

「でもよ、オールマイトがきっとなんとかしてくれる筈だぜ!?後から来るって話だしよ!あの人がいりゃあ、きっとやっつけてくれるって!」

 

 

「あの人がいりゃきっとやっつけてくれるって!」

 

「…」

 

 

オールマイト…情報を掴んでいる以上、その辺りの警戒はしていない筈がない…にも関わらず、ヴィラン連合は僕達の元に現れ襲撃を強行している。

 

 

 

「峰田ちゃん。多分だけど、向こうはオールマイトに対抗出来る物を持っているから襲撃する手段を取ったんだ思うわ…でなきゃこんな無茶な事しないもの」

 

 

「でなきゃこんな無茶な事しないもの」

 

 

「え…」

 

 

「もしそれでオールマイトが太刀打ち出来なかったとして・・・そんな奴から逃げれるのか…」

 

 

「…」

 

 

 

梅雨ちゃんの推測を聞く峰田君は、みるみる内に顔を青ざめさせる。

 

 

 

「み、緑谷ァ〜!なんなんだよアイツ〜…!」

 

 

「…」

 

 

「ごめん、峰田君」

 

 

正直言って彼女の言う事は正しい筈だ。とても合理的で、筋の通った理論。ただ、それはそれとして不可解な点がある。

 

 

 

「なんで梅雨…ちゃんが、ここに飛ばされたのか」

 

 

「どういう事?」

 

 

「個性的に梅雨ちゃんは水中戦が得意だよね…そんな人を、水害ゾーンに飛ばすかな…」

 

 

「確かに・・・事前に情報を仕入れているにしては、色々とおざなりな部分があるわね」

 

 

「お、おい!やべぇって!何かアイツらシビレ切らしてるって!!」

 

 

バンバンと僕の足を叩き、峰田君は今乗っている船がグラグラと揺れている事を指摘する。恐らくこのエリアに僕達以外に生徒いない。揺れは時間が経過していく毎に段々と大きくなっていく。

 

 

 

 

「あぁーもう!何なんだよ!?」

 

 

「多分、船の下で何かしている…!」

 

 

「逃げましょう、私に捕まって!」

 

 

 

「あ、あんなに敵いんのに逃げきれんのかよぉ〜!!」

 

 

「やるしかないの、早く!」

 

 

 

 

梅雨ちゃんの個性は“カエル”。曖昧だがカエルに関する特性を備えている。特に水中での移動や活動が得意だ。

僕達は梅雨ちゃんの言葉を信じ、ヴィランの大群が待ち伏せている水面へと飛び込んだ。僕と峰田君はそれぞれ梅雨ちゃんの身体につかまりながらも、水中に適さぬ個性の数倍はあろうスピードで泳ぎ出す。

 

 

 

「ケヒヒッ!!わざわざ飛び込んで来やがったあ

 

「船の上で隠れてねぇで戦おうぜ!!?餓鬼共!!」

 

 

案の定水中で待機していた、魚の形質を持つ異形型のヴィラン達数人が目を血走らせながらこちらに接近してくる。

 

 

 

「(まずい…やっぱり、このままだと)」

 

 

陸まで残り数百メートル、進行速度は奴らの方が速く、後方4m程まで距離を詰められてしまう。僕らが重りになっているせいで、梅雨ちゃんのスピードを削いでしまっているからだ。

もし、誰か一人分の重さが無くなればなんとか振り切る事が出来るのかもしれない。誰が離れるかは、消去法的に自動で決まる。

 

 

「(正直、今の場合なら峰田君より僕の方が適任だ)」

 

 

 

 

意を決して、僕は掴んでいた手を離した。重量と水の抵抗が大幅に減り、梅雨ちゃんのスピードが如実に上がる。

 

 

「み、緑谷ちゃん!!」

 

 

 

「(大丈夫…!僕が何とかして見せる!)」

 

 

 

僕は梅雨ちゃんの方に背を向け、敵の方へと向き直る。水中でのアドバンテージがあちらにある事は分かっている。それでも僕は、二人の為にここに残る事を決めたのだ。戦って勝つ力がないからこそ、僕は“ヒーロー”として仲間を守る選択をした。しかし、一瞬の交戦を行うも人数の差によって僕の抵抗は虚しく散る。何も自分が大切じゃない訳ではない、勿論死にたくないしまだやりたい事が一杯ある筈なんだ。

ただ、“オールマイトのように”どんな窮地でも笑顔で助けるようなヒーローになりたかったから、この時一瞬の後悔もしなかった。でも、分かっていた事だろ…

 

 

身体能力が上がっていても、僕の攻撃は虚しくいなされてしまう。あの時の【黒い雷】は音沙汰もなく再び発現する事もなかった…

 

 

「(く、くっそぉ…ッ!!」

 

 

 

「ギャハハ!!泳ぐ事もままならねぇ癖に張り合おうってかぁ!!?」

 

 

 

 

「おい!コイツ、目的のガキだ!殺すなよ!」

 

 

 

 

 

「(どうせ勝てない癖に、なんで威勢よく突っ込んじゃったかな…!)」

 

 

 

 

━━━━━お前に何が出来んだァ!?

 

 

 

走馬灯かは分からないが、突如としてその言葉が脳裏によぎった。かっちゃんに昔言われた一言…君の言う通りだ、僕は何やっても結果は出せなかった。ヒーローになるべき逸材でもなく、社会に貢献出来る程の高い能力を持っている訳でもない。何の役割も無い、無力な人間。

 

 

ただ、ヒーローという光に心を焦がした、ただの子供だったんだ

 

 

 

 

それから意識は薄れていった。痛みや血は流れていなかったから、僕を殺す訳ではないのかもしれない。そう思考を巡らせる途中で、意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

“契活”

 

 

意識が遮断する直前に、僕は内から聞こえるその一言を耳にした。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

ヴィラン襲撃から12分経過し、それぞれの災害ゾーンに転送されてしまった雄英生徒達は応援が来る事を信じ、現在はヴィランの猛攻に耐え続けている。そして、水害ゾーンでは蛙吹梅雨と峰田実がヴィランとの交戦を避ける事が出来た一方、緑谷出久ただ一人が彼らの手によって囚われてしまった。

 

 

 

「さぁて、テメェらいいか?」

 

 

「ああ…死柄木さんの目標通り、このガキを捕える事が出来た」

 

 

「しかし…あの人の考える事がわかんねぇ」

 

 

「こんなガキを欲しがってどうなるってんだ?」

 

 

「さあな、噂じゃ恐ろしく強いと言われてたらしいが所詮は年端もいかねぇ野郎さ…ま、これで俺たちの待遇が変わればなんでもいいけどよぉ」

 

 

 

一際体格よい魚のような異形型の男がグッ、と緑谷の顔を掴み持ち上げる。その一瞬の事だった

 

 

 

 

「1秒やる」

 

 

 

緑谷出久の意識は先の水中戦にて完全途絶えてしまっていた。少なくとも暫くは目を覚ますことはないだろうとその場にいる全員が確信していた事だった。

 

 

しかし…それによって緑谷の深層内部に眠っていた“呪いの王”が、今そこに“顕現”した

 

 

 

 

「どけ」

 

 

「何言ってんだァこのクソガキ______」

 

 

 

そこにいるヴィラン達は警戒態勢を整えようとした瞬間に宿儺の“御厨子”によってバラバラに切り刻まれた。そこに断末魔や威勢のよい言葉はなく、ただ肉塊が落下する音だけが周囲に響いてた。

 

 

 

「フン」

 

 

「このような雑魚に負けるとは」

 

 

「つくづくお前はつまらん」

 

 

 

コキコキ、と首の骨を鳴らしながら緑谷の行動に悪態をつく宿儺は「ここは何処だ」と辺りを見渡していた。

 

 

「ここから南に数キロ程離れた所から強いエネルギーを感じるな…」

 

 

「見た所このヴィランだとかいう腑抜けた集団に特に面白味は感じぬ」

 

 

「まぁ、せいぜい“慣らし”としては丁度いいか…」

 

 

 

「行くか」と宿儺が強い力を感じる場所へと移動する最中、一人の人間が彼の背後に立っていた。

 

 

 

「誰だ」

 

 

 

宿儺がその者にそう尋ねると、飄々とした態度でこう答えた

 

 

「私だよ、私」

 

 

 

 

「…!」

 

 

「羂索か…!」

 

 

 

「正解!よく分かったね」

 

 

ニコニコと、殺伐とした場所なのにも関わらずそれすらも気にも止まない様子で宿儺との再会を嬉しがっていた。

 

 

「貴様か、こんな下らん遊びを計ったのは」

 

 

「まっさか…そんな暇ないよ私」

 

 

 

「この混戦を利用して君に会おうと思ってね…これを渡す為に」

 

 

「はいこれ」と羂索が彼に渡したのは死蝋とかした4本の人間の指…それは生前に宿儺が残した自らの指を呪物化させた物だった。渡された本人は眉をひそめながら羂索に

 

 

「指は貴様が全て持っている筈だろう」

 

 

 

「あー、ごめんごめん…君がまだ受肉される前に私が少しヘマしちゃってね」

 

 

「残りの指を落としてしまったんだよ…今裏梅が頑張って探しているから見つけたら君に渡すさ」

 

 

 

 

「…間抜けが」

 

 

羂索の言葉で宿儺の機嫌はガクンと下がる。しかし、軽い気まぐれ程度で他の人間を殺めるかの呪いの王は羂索に対してはその素振りを見せないでいた。それには彼と【契約】を交わしているからなのか、他人に一切の興味を示さない宿儺は彼と協力関係を結んでいた

ガシガシ、と頭を掻く宿儺は気を紛らわせるように渡された指をその口に運ぶ。

 

 

 

 

「それはそれとして」

 

 

「どうかな、この子の居心地は」

 

 

 

「今すぐにでも受肉先を変えたいくらいだ」

 

 

 

 

宿儺は彼の病的な自己犠牲心にうんざりしていた。それは自身にとって最も関心もない要素であり、ただでさえ力を持たぬ緑谷が身を投げ打ってでも仲間を助けるその様は心底滑稽であると見下していた。

 

 

 

「…まぁ肉体さえ奪えばどうって事はない」

 

 

 

「?何処かに行くの?」

 

 

 

「ちょっとした遊びだ」

 

 

 

そう言い残し宿儺は雷のようなスピードで一瞬にして空を駆ける。

 

 

 

 

「相変わらずだねぇ…」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

ヴィラン連合襲撃から二時間が経過し中央のエリアから大量に現れた小悪党の寄せ集め達を抹消“イレイザーヘッド”がその強力な個性と捕縛布を交えた巧みな戦闘により奴らを次々と仕留めて行く。一方で出口付近でワープ個性を持つヴィランと対峙していた13号達は迅速な移動が可能である飯田天哉に応援要請を任せる。飯田が出口へと無事脱出してから15分経ってからの事だった

 

 

 

「なんだよ…これ」

 

 

水害ゾーンでヴィランの襲撃から流れた蛙吹と峰田はおぞましい光景を目撃する。筋骨隆々で脳を剥き出しにしている大柄の怪物が、プロヒーローの相澤がなす術もなく殺されかけているその光景を…

峰田の中にあったプロヒーロー達さい来てくれれば何とかなるだろうという希望的観測はその悲惨な状況を目にし、絶望の淵へと立たされていた。

 

 

「もう、駄目なんだ…緑谷みてぇに俺たちも殺されちまうんだぁ…!」

 

 

まだ雄英に入ってたかだか三日目程…数ヶ月程前まで普通の中学生だった峰田にとってはいきなり投下された死戦を前にして身体の震えが止まらなかった。しかし、冷静沈着な蛙吹は峰田の言葉をキッパリと否定する

 

 

「落ち着いて、緑谷ちゃんも…きっと無事よ」

 

 

 

「こんな状況でも…信じ続けるしかないの」

 

 

 

 

その矢先だった。

 

 

 

 

 

「…誰だお前」

 

 

 

全身に手を装着した歪な姿のヴィランが、近づく一人の少年にそう声をかける。脳を剥き出しにした怪物も握り潰さんとする相澤の顔を掴んだまま少年の方へと顔を向ける

 

そこには現れたのは______

 

 

 

 

 

 

「貴様か、この騒ぎの首謀者は」

 

 

 

少年、緑谷出久に扮した史上最強の術師“両面宿儺”…その登場はこの窮地を救う救世主のようではあるが彼にその気など毛頭ない。

 

 

 

 

「黒霧、アイツ…」

 

 

「彼こそが今回の目的の子…生きたまま捕えるのです」

 

 

 

「ハッ…ターゲットがわざわざ迎えに来たのか…こりゃどうも」

 

「脳無、いけ…両手は残しとけよ」

 

 

「ククッ」

 

 

宿儺が目にしたのは、脳無と呼ばれた改造人間らしき男……後ろにいるモヤと手だらけの男は“雑魚”と判断し、今この中で最も強い彼と少し“遊んでやろう”と宿儺は不適な笑みを浮かべ戦闘を開始する

 

 

「まずは味見…といった所か」

 

 

 

 

キンッと宿儺の凶刃が脳無の腕へと降りかかる。一瞬にして吹き飛ばされた腕は手だらけの男の横を横切った。

 

 

 

「な…ッ!!?」

 

 

 

「…む」

 

 

宿儺は吹き飛ばした脳無の腕の根本を見て少し目を見開く。ムクムクと新しい腕が生え始めようとしているのだ。

 

 

 

「ほう」

 

 

「(反転術式と同じように身体再生させる術を持っているか…!)」

 

 

 

「(しかし、俺達の反転とは違いあれは核となる部分から細胞を分裂させ肉体を再生させているのか…)」

 

 

 

改人と呼ばれる“脳無”には二つの異能を持つ

 

 

先のように欠損した身体を再生させる「超再生」と二つ目の打撃を100%吸収し無効にする「ショック吸収」を併せ持つ。この場合オールマイトの『SMASH』のような強力なパンチを繰り出した場合、『ショック吸収』によって防ぎ切ることが可能だが宿儺の“御厨子”は斬撃でありその個性の対象外である。

 

 

 

「まぁ…サンドバッグとしては便利な奴か」

 

 

 

彼の言葉を聞かず、脳無は宿儺に反撃として強力な右ストレートをお見舞いする。遠くへ吹っ飛ばされた

 

 

 

「やるかッ!」

 

 

 

宿儺は次に振りかかる脳無のパンチを避ける、首元を狙おうと御厨子を繰り出そうとしたがその前に脳無に腕を捕まれ上空へと投げ飛ばされる。

 

 

「オールマイト対兵器だぞッ!?んなガキに負けてんなよッ…!」

 

 

手だらけの男は脳無が“負ける”という最悪の想定を否定するかのようにそう言い放つ。オールマイトと同等のパワーを誇る奴ならきっと______

 

 

 

「当たればな」

 

 

 

 

弄ぶかのように、宿儺はそう若干の笑みを浮かべながらもそう答えた。握り潰そうとする脳無の両手を一瞬にして細かく切り刻んだ。空中にいるのにも関わらず宿儺な軽やかな動きで脳無を翻弄する

 

 

 

「再生のスピードが早まっているな」

 

 

先よりも腕が修復される速度が倍へと跳ね上がり宿儺の斬撃を物ともしない脳無は向こうの水害ゾーンにて広がる海へと落とすように宿儺を叩きつける。

 

勢いより水飛沫を上げる中、宿儺は神話の出てくるモーセのように大海を斬撃で割り猛スピードで向かう脳無に無数な斬撃を繰り出した。

 

 

「これはどうだ?」

 

 

 

 

不可避の斬撃は脳無の四肢を狙うように切ってかかる。ガード、回避が限りなく不可能に近い無法の攻撃に対処できる筈もなく脳無は両手両足を失ってしまう。

 

 

「オイ…」

 

 

「どういう事だよ」

 

 

 

予想外、あまりにも規格外過ぎる大規模の戦闘を目の当たりにした手だらけの男はガシガシと首を掻く。付き添いでくるオールマイトの対策さえすれば「緑谷出久は脅威敵ではない」という話の元作戦を進めたつもりだったのだが、あの緑谷出久らしき奴は圧倒的な力を見せつけ脳無相手に余裕の笑みを浮かべていた。

 

「おいィ…ッ!!どういうことだよッ、黒霧ィ…!こんなに強ぇガキとは聞いてないぞ…!!?」

 

 

「す、すみません死柄木弔…まさかあそこまでとは…!」

 

 

黒霧とよばれる男もこの事態に動揺を隠せず、ワープゲートの個性を用いて脳無に加勢に出ようとするも

 

 

「駄目だ」

 

 

司令塔を担う死柄木と呼ばれる男はその手を止める。彼が懸念しているのは最高戦力である“脳夢”がやられてしまうという事、それこそが死柄木が最も恐れている事態でありそうなれば少なくとも脅威となりうるのはオールマイトだけではないという事…。

 

「黒霧、お前は“保険”なんだよ…撤退の手が打てるのはお前の個性があるからだ」

 

 

「ですが、死柄木弔…あのままでは」

 

 

 

 

 

黒霧のワープゲートは指定した場所へと一瞬で転送する事が出来る個性であり、死柄木の頭には万が一を備えて撤退する準備が必要だと考えていた。しかし、ゲームオーバー間近であるのにも関わらず未だ諦める素振りがない「まだだ、まだなんだ…」と言いストレスが溢れ首の皮がボロボロと剥けるまで首を掻き続ける死柄木は脳無の勝利を信じ見届けた

 

 

 

 

「【捌】」

 

 

 

 

 

 

 

宿儺の術式【御厨子】には二つの技に別れている。通常攻撃として運用する【解】と、相手の呪力量と肉体強度に応じて最適な一太刀で卸す【捌】。それは例え強靭な肉体を持つ脳無もその例外ではない。とはいえ、条件である“対象の一部に触れなければならない”為、相手に近づく必要がある。とはいえ7本分の力を有した宿儺の力は到底脳無が行き届く距離ではない

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

「これで、終わりだな」

 

 

 

横一閃________

 

 

下半身と上半身が綺麗に真っ二つにされ、脳無は今度こそ終わりに見えたが…

 

 

「!」

 

 

 

 

ガシ、と脳無は落ちそうになった瞬間離れた下半身を掴んで急速で接合する。欠損した部位の修復は兎も角、物同士に単純にくっつけ合う“だけ”ならば造作もない。

 

 

「くはっ」

 

 

 

「まるで“ゾンビ”だな」

 

 

ケラケラとこの殺伐とした場で常軌を逸した反応をする宿儺。緑谷出久から見た過去の情景であったゾンビという言葉を出し、脳無の驚異的再生能力をそう比喩した。そして、これにより宿儺は確信に近い事実に辿り着く。

 

「俺たち術師と同様に奴の【再生】も頭で回しているという訳か」

 

 

「仮に脳をぐちゃくぢゃにしたとしても“完全に細切れ”にしなければ無限に再生し続ける不死身の化け物だという事か…」

 

 

脳無の性能を戦う事で推測に推測を重ね、その撃破法を模索する。【ショック吸収】はまだしもその異常な再生能力を見て、宿儺は千年前に戦ったとある術師を思い出す。その名はとうに忘れてしまったがその以上な反転術式の出力の高さは脳無と同等の物だった。

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

「まぁ、どうって事はないがな」

 

 

 

彼は一切の焦りを見せなかった、“呪いの王”としての余裕と力がある故に宿儺は死柄木達にこう口にする

 

 

 

「これが、あのオールマイトだとかいう人間を殺す為の武器だと言うのか?」

 

 

「だとすれば浅い目論みとも言えるな…これでは奴はおろか、俺の足元にも及ばん」

 

 

 

「アぁ?」

 

 

ククッ、と嘲笑の顔を浮かべながらも死柄木の作戦の甘さを指摘した。

 

 

「舐めプしてんじゃねぇよクソガキが…そういうのはその脳無を倒してからにして欲しいんだが…?」

 

 

「…」

 

 

「餓鬼…か…」

 

 

 

「そうか」

 

 

「てっきり周知のものだと思っていたが、貴様は現代の人間…知らぬはずだ」

 

 

 

「死柄木弔、今すぐ撤退しましょう。我々では歯が立たないッ」

 

 

「黙れよ…知らねえってのはどういう事だ」

 

 

 

 

「小腹が満たされる程度だが、あの化け物とは多少楽しめた礼だ…特別に見せてやろう」

 

 

 

「貴様らの【個性】とはまた一線を画す、呪術というものを」

 

 

 

「死柄木弔ッ!!奴が何かを仕掛ける気だ!このままでは私達もろともッ!!」

 

 

 

黒霧が嫌な気配を察知したその刹那______

 

 

宿儺は両手で“閻魔天印”と呼ばれる掌印を組みながら静かにこう呟いた

 

 

 

 

“領域展開”

 

 

 

 

 

「伏魔御厨子」

 

 

 

 

千年前、平安で盛んとされた呪術の最高峰でありその極致ともいえる究極の奥義…

 

 

神の御技と言われるその猛威が死柄達へと襲いかかる______!

 

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