第九話「No. 1ヒーロー」
「お〜い!」
USJ中央に位置するセントラル広場の付近へと向かっていた切島と爆豪…倒壊ゾーンにて転送された二人は残党共を難なく撃滅させボスである死柄木達の方へと向かう途中でその場にいた峰田と鉢合わせる形で合流する。一方で蛙吹と峰田はと言うと負傷している相澤を担ぎ避難していた。脳無と戦う変貌を遂げた出久を目の辺りにした二人は巻き添えを喰らわない為にセントラル広場からおよそ100メートル離れた所で二人の死闘を観測していた
「大丈夫か?」と人当たりの良い切島は蛙吹達の安否を確認する。
「ケロ、大丈夫よ。それよりも相澤先生の方が重傷だわ…」
「畜生…俺たちがあんなヘマをしなけりゃ…でも、あとちょっとで飯田が先生達を引き連れて助けてくれる筈だ!」
「た、助かんのか!!?」
「やったぜ〜!」と貯め切った感情を爆発するかのように涙の滝を流す峰田。そんな姿を横に普段とは打って変わって冷静な表情で今の現状を蛙吹に尋ねた
「今どうなってんだ」
「緑谷ちゃん…が瀕死の相澤先生を助ける為にあの化け物を戦っているの…」
「デク、が…ッ!」
緑谷という単語を耳にした瞬間、ギッ!と目を見開く爆豪。恐らくだがこのUSJ内で最も戦闘能力が強いのはその“怪物”と呼ばれる存在で爆豪が最も卑下していたあの緑谷がそのヴィランと戦っているという状況で、爆豪は黙って立っていける訳もなくすぐさま現場へと足を踏み入れようとする
「(あんのクソナードがァ…いいトコみせようてぇのかぁ!?)」
「テメェに追い越される訳にゃいけねぇんだよ、俺ァ!」
「ば、爆豪ちゃん!!」
高速移動技“爆速ターボ”ですぐさま急行しようとした瞬間だった。
「ッッッ!!」
「なんだ!?」
あたり一帯が見えない斬撃によって細切れになっていく。切島がそう叫びながらも相澤の身体を覆うように硬化しながら守る。爆豪も優れた反射神経で斬撃をもろに喰らう事はなかったが一歩でも進めば瞬く間に千枚卸しになってしまう程の深沢の渦に流石の彼も足を止めてしまう。
「クソォッ!これは…」
「まさか…あのデクが…!?」
「こ、今度をなんなんだよぉ〜!!」
ガタガタと震えながらも、そんな恐ろしき現象を目にしながらも自身の防衛に必死な峰田は今起きている現状に理解が追いついていなかった。
それは全てをかき荒らす暴風域が標的である脳無を死滅させる為に1分もの間絶え間ない斬撃の嵐が奴を襲い続ける。
「ほう」
「一分耐えれるか」と、閻魔天印を結んだ状態のまま未だな再生を続けて生存を継続させている脳無に対しそんな言葉を溢した。彼の見立てではおよそ10秒の満たぬ間で殺せると判断したのだが、脳無のその再生力は生の出力の反転をも超えていた。今回の場合呪力のない物体に切りつける“解”のみの為術師よりも“伏魔御厨子”の効果はやや薄い…のだが、それでも脳無は再生をし続けながらも宿儺の元へとゆっくりと向かってきていた
「仕方ない」
「ここであの“餓鬼ども”を殺しても特に不自由はないが…今のところは刻むのは“お前”だけにしておいてやろう」
宿儺が展開した領域の範囲を狭める事で付与された斬撃の出力は徐々に高まっていく。
およそ100メートルまで広がっていた領域は、半分の50メートル程はと縮小する。
「ではな」
よい玩具であった、と宿儺は脳無に別れを告げ展開してから1分半経過した頃には脳無の再生は斬撃に追いつかれ肉体が跡形もなく散って行った。
「…」
「逃げたか」
宿儺は脳無を撃滅しま後、死柄木と黒霧の所在を確認した後そう呟いた。黒いモヤによる瞬時に別の場所へ転移できる黒霧の能力だろうと宿儺は察知した。
「!」
刹那、宿儺の肌からヒリヒリと感じる程異常なまでの強者のオーラが、直ぐそこまでやってきていた。伏魔御厨子によって大半のオブジェクトが破壊された荒地に颯爽と現れたのは…
「来たか」
「少し遅かったのではないか?」
「ちょっと訳アリでね…」
「君と会うのは初めまして、という所かな…“両面宿儺”」
オールマイト______現代最強のヒーローが、今そこに、現着した。
「申し訳ない、緑谷少年」
「この時にこそ、その力を抑えるのが私の役目だというのに…」
「本当に…」
彼の顔は溌剌にした笑顔はとうに消え、空気は張り詰めるような真剣の眼差しを宿儺に向けていた。オールマイトは本来ならば宿儺の顕現の抑止圧とその防止を任された監視役であり、当然ながら今回の救助訓練でも同行する予定であった…が、早朝にて突如として発生した2件の事案にて己の力を行使した結果、制約された活動時間を消耗してしまうミスを起こしてしまった。
彼には今、充分に戦える程のパワーは残っていなかった。
だからこそ、他のプロヒーローに任せるという判断もあったが“平和の象徴”として彼がどんな状況でも助けを求む人間から目を背ける理由などどこにもないのだ
そして今、襲撃からおやそ一時間程経過してから飯田の行動によって多くのプロヒーロー達が入り口から続々と登場して各エリアに向かう様子が見えていた。オールマイトがその形態を維持できる時間は……およそ“10分”
「確か、貴様の名は…“オールマイト”だったか?」
「この世界で最も強いのだろう?」
「私がNo.1として立つ理由は強さだけではないさ」
全てのプロヒーローはヒーロービルボードチャートjpと呼ばれる番付にてその実績と貢献度によって順位づけられる物が存在している。今となってはヒーロー飽和社会と呼ばれる程何千何万といる中でナンバーワンの座に輝くのが、圧倒的力を持つオールマイトである。
彼の存在そのものが抑止圧となる程彼の強さとその救助数は彼の絶対的な信頼と安心をもたらせる所以となっている
しかし、そんな事は宿儺にとっては大層どうでも良いこと…力以外の序列を知らない彼によってはそれよりもその力に着目していた。
「宿儺、君に聞きたい事がある」
「君は一体この世界で何をしようとしているのだ?」
「…特に大義はない」
「ただ、死ぬまでの暇つぶしだ」
彼が人を殺め、弄ぶ事にはそれといった理由はない。ただ生まれた時からその意思は変わることがなく、常にその力を振い続け己の欲求のままに刻んでいた。自分の前に立つ強者は単なる“食”のような物でしかなく、そしてその味は千差万別であると宿儺はただ自分の行った行為にはなんの異常もないと赤裸々に語る。
「…下衆め」
多くの悪を見てきたオールマイトは呪いの王と呼ばれる程の邪悪な言葉に吐き気を催す程の気分に見舞われる
「ククッ」
「この世も、俺がいたその世も…さして変わらず虫が湧く」
「だが、今の現代には貴様の様に並外れた力を持つ強者が何人か存在している」
「あの爆破の奴もそうだ…」
宿儺は爆豪の事をそう名指しした
「せいぜい退屈しそうにはない程にな」
「(なんなのだ、この違和感は)」
「(さっきから気圧される程の威圧感を放っているが、それとは反して拳を払う素振りを全く見せない…)」
「(何かの時間稼ぎか…?)」
それは強者の余裕なのか、それとも彼の能力には何かしらの制約があるのか…術式の未知数な要素に推測と警戒を続けるオールマイトだったが、このチャンスを逃さないためにも宿儺に向けて挑発する
「どうした、さっきから喋ってばかりだが…かかってこないのかい?」
「案ずるな」
“解”
唐突までに繰り出される決死の斬撃。腕組みをしたまま繰り出されるノーモーションの必殺撃は生涯をもって研鑽を続けた“極致”であった
「依然、最初からそのつもりだ」
煙幕が立ち上がる中、宿儺はその目を疑う事はなかった。確かにそれは立っており、それは斬撃を捉え見事に切り下ろされた人間の筈だった。
「!」
「イテテ…全くあの時と比べていれば随分と身体が老いてしまっているが」
「どうって事はないね」
最強は、凶刃によって刻まれる事なく依然として宿儺の前に立っていた。
「(…全く効いておらんか!)」
彼が避ける判断をしなかったのは後ろにいる生徒達を守る為…例えそれで真っ二つに裂かれたとしても、その足を動かす事は彼の脳内には存在していない。
これがNo.I…誰もが憧れ、尊ぶ最強の男の姿
これまで幾度となく挑戦を仕掛けた猛者の中では、御厨子を避けようとした者は少なくなかったが直撃耐えるという極めて無謀な行動を起こす人間というのはかつてない程だった。その為か鮮烈な感覚に襲われる宿儺は奴の強靭な肉体と精神に気圧される。
「待ちなよ宿儺君」
「残念だが私は自他共に認めるナチュラル・ボーン・ヒーローなのでね、君が緑谷少年の身体に居座る限りは不要に手を出すことはしない」
「フン…つまらん奴だ」
不敵な笑みでそう捨て台詞を吐いた宿儺は体に印された呪印が徐々に消えていった
「…少年ッ…!」
両面宿儺は再び緑谷の心中へと沈み、出久は未だな意識を戻すことなく目を閉じていた
「オールマイトさん」
「セメントス…」
「残党の方はこちらの方で既に対処済みです、して…」
「その子の方は…無事になんとかなったようですね」
「ああ、運良く…といった所だろうか」
「(奴は私を本気で殺す気など最初からなかった…)」
「(あの一太刀の斬撃は、単なる宣戦布告に過ぎない)」
「(君が何を企もうと、私が怯む事は決してないぞ、宿儺)」
本来予定された救助訓練は連合の襲撃によって一時中断という形となり、1-A委員長の飯田天哉の緊急報告により召集されたプロヒーロー及び雄英の教師達の手によってヴィラン連合の大半の人間を捕獲を成功、襲撃に遭ったA組の生徒達は各々の個性を用いて凌いでいた事で相澤消太と緑谷出久以外は怪我人無しという結果で事件の幕が下りる。
A組の皆は大損害を負ったUSJから離れ、後から駆けつけた数十人の警察と同行しながら雄英の校内へと戻る事となった。バスから降りた後、塚内刑事と呼ばれる男が体調安否の確認を一人ずつ執り行っている最中に麗日はバスに不在であった緑谷の事を考えていた
「…」
「麗日くん」
不安が詰まる中、飯田が彼女の憂いた表情を見て名を呼びかける。
「飯田君、特に怪我してないんよね…」
「ああ、君も五体満足の様でほっとしたよ」
「…わかっているさ、緑谷くんの事だろ」
「…うん」
小さくも頷く麗日を見た蛙吹が安心させようと彼女の横からこう口を挟む
「大丈夫よ…さっきチラッと聞いたのだけど特に命に別状はないみたい…オールマイトが緑谷ちゃんを助けたって話だから、放課後様子の方を見に行きましょ」
「そっか…」
「あんがとね、梅雨ちゃん」
それを聞いた麗日は少し不安から解き放たれ、その優しい心遣いに深く感謝する。それに対し蛙吹は「ケロ」と一言だけ呟き笑みを浮かべる。
「…」
「峰田ちゃんもそんな顔しなくてもいいのよ…あの時は私にも責任があるし」
「…ちげーよ」
縮こまって座っていた峰田も同様に
「…あいつがすげー強いっていうのは入試の時からよく聞いてるけどよ…」
「今回ばっかりは緑谷でもなんとかならんねーんじゃって思ったんだ…」
「…それはどういう事なのだ?」
「でもよ、水難ゾーンから抜け出した後に緑谷がその時いたから声をかけようとしたんだけどよ…」
「なんか、アイツの顔が怖く感じてさ…」
「…私も、いつも緑谷ちゃんとは少し違うように見受けられたわ」
「だ、だろ!俺あんな緑谷見たことねーんだよ…」
「まるで“人が変わってみてーにさ…”」
「峰田君…」
「君、いいかな」
「蛙吹君、その話は本当なのか?」
「…私の見た限りでは」
「…彼の個性はシンプルのようで難解な物だからな…こないだの戦闘訓練といい彼の話題は尽きぬばかりだ」
「…でも、きっと大丈夫だよ」
「デク君は、私達の知ってるデク君なんだから」
領域展開後は術式使用困難という特質がありますがこの世界線では宿儺は既に脳破壊方式を既に習得している状態になっています。