BloodborneはDLCをクリアする程度ですが、脳に瞳を得ることができるように頑張ります。
「青ざめた血を求めよ」
目覚めた『私』は、自分というものがわからなかった。
頭の中に響く声と体の違和感に目を覚ました私の目に飛び込んできたのは、見覚えのない天井。
薄暗い部屋の中で体を起こす。
周辺を観察すると医療道具がいくつかあり、『私』は病人を寝かせるための診療台で寝ていた。
どうやらここは診療所らしい。
ずきり、と痛む頭の片隅にあるのは謎の老人と交わした『誓約』と、誰かが言った『狩人様を見つけたのですね』という声だけ。
何が何だかわからないまま部屋を出たとき、『私』が目にしたのは……死体をむさぼる異形のバケモノ。
巨大な獣のようなバケモノに殺された……と思ったが、次に『私』が目覚めたのは謎の洋館の前だ。
これが何なのか、夢なのか、幻なのか、それとも現実なのか? 殺されたはずの『私』が何故にここにいる?
狂いそうになる頭を理性で保ち、館の前に転がっていたノコギリへと変形する機構を持つ鉈と、水銀を内封した弾丸を使用する銃をそれぞれ携え、わけもわからないまま再び街に戻り、異形のバケモノと襲い来る人たちをこの手に掛けていく。繰り返し繰り返し、ノコギリ鉈と銃を血に染めた。
狂いそうになるほどの時間がどれだけ過ぎただろうか? 気づけば『私』は、再び洋館の前に立っていた。
洋館を調べようとすると、館の前に一人の女性。明らかに人間離れした美貌と、人外を示す球体関節を覗かせる指が艶美に動く。
「はじめまして。狩人様」
彼女は自身を『人形』と名乗り、ここは最初の狩人ゲールマンという老人の館だと答えた。
館の中に入りゲールマンと邂逅した『私』が様々な質問をぶつけるが、老人は一貫としてこう答えるだけだ。
獣を狩りなさい、と。
このときから『私』は私となり、『狩人』となった。
青ざめた血というのが何なのかわからない。改めて診療所に行ってみると、手紙が置いてあった。「青ざめた血を求めよ。狩りを全うするために」と。
しかも、私の筆跡の走り書きだ。記憶にない。何時書いたのかすらわからない。
だが、私の目的はこの街……ヤーナムで、獣の病によって獣と化した元人間たちを狩り、青ざめた血とやらを手に入れることだったらしい。
私は『狩人』として、狩りを全うした。
狩りをこなし、返り血を浴び、啓蒙を拓くことで、狂った街を生き延びてきた。
同じく志を共にする狩人を、人を救いたいと願いながらも獣と化してしまったものも、気高い誇りを抱いた医療協会のものも、獣とは違うナニカのバケモノたちすらも、私は狩ってきた。
狩って、狩って、狩って、狩って、かって、かって、かって、かって、カッテ、カッテ、カッテ、カッテ……。
カッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテカッテ狩り尽くした。
気づけば、最後にはゲールマンの前で私は介錯を頼んでいた。
これが終われば、全ての狩りは、こんな悪夢が終わると信じていた。
だが、どうしたことか。私は直前になりどうしてもゲールマンの刃を受け入れられなくなった。
受け入れれば狩りから解放され、こんな悪夢とはおさらばできるのに。
私は狩りの中で手に入れた数多の武器達から、再びノコギリ鉈と銃を手にした。
私とゲールマンは、殺し合った。
結果として、私はゲールマンを狩ってしまったのだ。血だまりに沈んだゲールマンを、私は呆然として見る。
もう私はこの悪夢から逃れられない。どうしてこんな選択をしてしまったのか、自分でもわからない。
そもそもこれは現実なのか? カインハーストの女王との出会い、星の娘エーブリエタースとの一時、時計塔のマリアとの甘美な時間。
医療協会の隠された秘奥を守りし月光を携えたルドウイークとの決闘、最奥にて暴かれたゴースの遺子との死闘。
これら全ては、現実ではなく夢じゃなかったのか? ゲールマンの血で真っ赤に汚れた手を見て、私はもはや自分がわからなかった。
狂った私に、月光を遮るものが現れる。
魔物だ。多数の触手を持つ、人型の魔物。私が狩ってきた獣とは別の異形、『上位者』と呼ばれるもの。
もう全てがどうでもよい。私は月から降臨せし魔物に、全てを委ねようとした。
触手に絡め取られ、もう終わりだと安堵した……が、私の中の何かが月の魔物を拒んだ。
狩りの最中に取り込んだへその緒が、月の魔物を弾き飛ばしたのだろう。
月の魔物が私を敵と定め、襲いかかってくる。
ああ、いつも通りだ。
狩人として身に纏う、帽子と口元を隠す厚手のロングコートが満月の夜、夜風にはためき私を導く。
予想以上に、月の魔物は弱かった。
体はいつも以上に加速し、業は夢の中で錬磨されていき、血を求める獣性が心を埋め尽くす。
月の魔物を殺し、血の雨を降らせ、私は月を見上げて恍惚と嗤った。
終わった。
全て、終わった。
私の意識が途切れ、『狩人』としての私が終わりを告げ、狩人から『私』へと戻る。
体が変質していき、浴びてきた血によって『私』は終わる。
はずだった。
「……は?」
次に目を開くと、今度は全く別の場所。私はまだ『私』ではなく、『狩人』のままだった。
周囲を見渡すと、崩壊した街並みが広がっていた。ゲールマンと、月の魔物と戦ったあの庭園でない。
それどころかこの街並みは、ヤーナムのものですらない。全く別の建築様式が使われている。
「え、は? ……どういう、ことだ? 私は、私はゲールマンを、月の魔物を狩り……うぉえっ!」
溢れ出す今までの記憶に、私はその場に蹲り嘔吐した。咄嗟に口元のローブを外して吐瀉物を地面にぶちまける。こんな行動、ヤーナムにいた最初の頃から頻繁にやってたことだ、すでに慣れている。
だが、何故だ。最近では吐くことはなく、淡々と狩りができていたはずだ。まるで、心の正常さがあの頃に戻ったかのように。
それはいい、まだいい。なのに、体に漲る血の力と獣性はあの頃のままだ。このままだと、かつてのガスコイン神父のように飲み込まれてしまいそうだ。
「ふぅ……ふぅ……!」
落ち着いて深呼吸を繰り返し、心を、沸き立つ血を、抑え込み沈める。腰のポーチを探れば、あの頃から持っていた道具が残っている。その中にあった鎮静剤のフタを開き、一気に中身を飲み込んだ。
清涼さが口から胃に流れ、頭が冷えていく。ようやく冷静になれた。
冷静になった頭で、改めて周囲を見る。
見たことのない馬車のようなもの……だった破損物、破壊された建物、石畳とは違う道路。
何もかもが、私の記憶の中にあるものと違う。
「こ、こは?」
私は呆然と呟く。
「ここはどこだ?」
誰もいない街で、私は困惑するしかなかった。
重苦しい内容はここまで。
ここからは緩さとシリアスさを交互に使い分けながら書きたい。