狩人さんはアーク暮らしを夢見たい   作:風袮悠介

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10話-道案内をしてくれるらしい

 さて、どうしたものかと思案する。狩人として活動していた頃の私は、ただひたすらに獣を狩ることだけを考えていた。狩ることだけを考えすぎて、取り巻く事情に関しては全く無頓着だったと言わざるを得ない。

 だが、そんな私にはっきりとした目標ができた。

 

 アークに住む。

 

 獣を狩り、血に染まり、街や森、夢を駆けずり回ったあの頃。

 地下に潜って血晶石を求めて彷徨った頃。

 血の岩を求めてヤーナムを走り回った頃。

 そろそろ、休んでもいいじゃないか、と思うんだ。

 

「そうは思わないか?」

「何がですか???」

 

 胡散臭い男との話を終わらせた私が建物から出ると、すぐさま二人組が私の前に現れた。

 考えていたことを聞いてみたのだが、ダメか。答えてくれないか。

 

 仕方ないな、「そうとは思わないか?」っていうのが、目の前の2人との初めての会話なんだし。

 

 私は改めて周囲を観察する。ここ……アークはヤーナムよりも明らかに技術面で優っている都市だ。

 馬がいなくても走る馬車、ディーゼルが乗っていたような蛇の如き馬車。綺麗な四角形の建物や円形と四角形を複雑に組み合わせた建物。歩く人々は謎の四角い板に目を落とし、着ている服は単純だが洗練されたもの。

 謎の石で舗装されて整地された道路に、ところどころ剥き出しとなっているが整地された地面とそこから生える樹木。

 空を見上げれば、青空が広がっている。しかし、よく見ればかつての赤い月を隠していたヤーナムの夜空の如き偽物だとわかる。大きな板に写している幻にすぎない。だが、よく観察しなければわからないほど、精巧に作られていた。

 どこか淀んではいるものの、ヤーナムのそれよりも遥かに正常な空気がこの場にはある。

 

「この街は、美しいと」

「え……まぁ、はい。美しいんじゃないですか?」

 

 目の前にいる二人組のうち、片方がぶっきらぼうに答えた。

 

「美しい街に、美しい女性か」

「新手のナンパですか?」

「お前ら、さっきの部屋にいた4人のうちの2人だな?」

 

 私の質問に、2人の体が強張る。

 

 1人は右目に眼帯をした少女だ。黒を基調とした軍服と膝あたりまである厚手のスカート。両手には手袋をはめていて、靴下に革靴を履いている。腰あたりまである金髪は外に少し跳ねている。顔つきは軍人のそれらしく、凛々しい。

 軍服もキチンと着こなした、油断ならぬ少女だ。隙がない。

 なぜかずっと右目を手で触っているが……古傷でも痛むのか。

 

 もう1人は口を鉄マスクのようなもので覆っている女性だ。こちらは色合いが紺色に近い黒の軍服だが、少女と違って下はものすごく短いスカートの上を覆うような腰巻き……? それをスカートにしないのか?

 だが、こっちはベルトが多数付けられていて、どこか防御力が増しているように見える。もちろん、両手には手袋。

 ともすれば地面につきそうな程の艶やかな黒髪と、バラを模した大きめの髪留め。

 気だるげな目線で細い眉も相まって儚げな雰囲気がある。

 

 いきなりこの2人は建物から出たばかりの私の前に現れ、こうして会話をしていた。

 どうしてあの部屋にいたのか、聞いてみたくてな。

 

「……そうだが?」

 

 少女が答える。私は少女へ視線を向けて口を開いた。

 

「なんのつもりで私の前に現れた? あそこで攻撃するような人間を前に、隠れていたお前らがどうして姿を見せる?」

「道案内を、頼まれたが故」

 

 随分と古風な喋り方というか、芝居がかった話し方をする少女だなぁと私は思った。

 

「ほう。私がこれからどこへ向かうかわかっているのか?」

「もちろん。我らが宿敵を眼前とした城砦にいる、友の元にだろう?」

 

 うん……うん?

 

「なんだって? 友?」

「そうだ。お前がこれから向かう場所。そこには我が友がいる。迷宮が如きこの都市で、お前が道を踏み外し闇に堕ちぬよう、導き手として我らが選ばれたのだ。ついてこい、夢に迷わぬように、な」

 

 ……。

 

「わかった」

「え。何も、言わないんですか? ギロチンの言葉が理解できたんです?」

 

 私が平然と答えたところ、女性が質問してきた。信じられないものを見るような目だ。

 少女、ギロチンという名前か。ギロチンの言う言葉について、この女性は疑問に思うということか。

 

「いや、別に。私がヤーナムにいた頃、どういう事態が起こったのか調べた時、残された手記や記録からはそこの……ギロチンというのか、ギロチンの言葉のようなものしか残ってなかったから、慣れた」

 

 本当にギロチンの話す言葉のような文章しか残ってねぇんだよな、ヤーナムには。

 硬貨なんて「あるいは、遠い夜明けまで貯め込んでおくとよい」なんて説明があるんだぞ。もっともらしい文言で何かあると思って持ち歩いてたのに、結局何もないし。そこら辺にばら撒いて目印にするのが正しい使い方なところさえあった。

 かと思えば遠視鏡なんて「覗きこむことでモノが大きく見える。特に狩道具でもないアンティークでありどう使うかのかは使用者次第」って説明だった。なんか遠視鏡の説明にしてはそのまんま過ぎて落差激しくない?

 

 それに比べたら、ギロチンの言葉なんて理解しやすい。根は真面目で善良かつ知識ある娘なのだろう。わかりやすい。

 

「……難儀なところにいたんですね、あなた」

「くくく、メイデンよ。そう難しい顔をするな……闇夜に惑う狩人を案内するという話であるのみだ」

「複雑にしてるのはあなたですよ」

 

 呆れた顔を浮かべる女性ーーメイデンは疲れたような様子だった。

 

「彼が……指揮官がいるところまで案内してくれるなら話は早い。私も幾度か悪夢を彷徨い道に迷ったものだ。獣に襲われ、人の悪意に触れてきた。君たちの助けは非常に助かる」

「! そうか、そうだな! くくく、貴様もそうなのだな……」

「ああ。注意しなければ夜の空、向こう側にある宇宙から来たる脅威に脳を揺さぶられていたことだろう。道案内は心強い、彼の元まで頼む」

「くくくく! いいだろう……同類よ、逸れぬようにな。心まで連れていかれぬように」

「心ならすでに、宇宙の娘に盗まれていたさ」

 

 ギロチンはすごーく楽しそうな様子で歩き出した。

 ふむ、これから案内してくれるようだな。本当に心強い。ヤーナムにいた頃は、基本1人だったし。

 気づいたら私以外の誰かと一緒に狩りをしていたような気がするが、まぁ夢のようなものだ。1人ってことで。

 隣を歩くメイデンは額に手を当てながら私に聞いてきた。

 

「あの〜……無理してギロチンに付き合ってもらわなくて結構ですよ? 喜んではくれるでしょうけど」

「? 全て事実だが?」

「あ〜……そうですか。そうなんですね……」

 

 メイデンは頭痛を抑えるように眉間に指を当てた。小声で「ギロチンと同じ面倒な人が増えた……」と嘆いている。

 彼女が何を苦しんでいるのかわからないが、その苦しみがいつか癒されると良いなと、私は思う。

 

 あと、後からやってきて合流したポリからは「今度は丸薬なんていりませんよぉ?」と嫌そうな顔をされた。ミランダも同じ顔をしてた。解せぬ。

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