ブラボの感覚も鈍ってんなぁ……三周目に突入して、腕を磨くか……
私はギロチン、メイデン、ポリ、ミランダの案内で前哨基地に戻る道中を歩いていた。
道中、往路のように目隠しされなかったのはなぜだ? と聞いてみたが、
「目を隠すのは良くないであろう……我々は監視されている。どこに目があるのかわからぬのに、同類の目を隠してしまえばどこに目を得ることになると思う?」
「……脳か?」
「その通りだ! ククク……さすが同類、分かっているな……!」
と、ギロチンは答えた。
こいつ……話せば話すほど、どうにもこちらの事情を知っているとしか思えない言動が多いな……楽しそうなギロチンの背中を見つめながら、私は右手の指を動かす。咄嗟に反応できるようにするために。
怪しい、こいつは本当に怪しい。まさか……メンシス学派のものか? ミコラーシュの関係者か?
「しかし……宇宙の娘か……同類よ、その娘はどんな娘だ?」
「……ギロチンはどんな娘だと思う?」
「脳の瞳から見れば、さぞかし美しい娘なのだろう。啓蒙なきものが見た場合は、知らないがな。啓蒙ありき同類だからこそ、娘の美しさに気づけるのだろう。ククク!」
間違いない、こいつはメンシス学派だ!! 私の背中に緊張が奔る。手袋の下の手に汗が滲んだ。
まさか脳の瞳と啓蒙を持ち出してくるとは……! 楽しそうな様子は、私を謀るためのものか……!
どうする、こいつの右腕を落としてミコラーシュやメンシス学派の居場所を聞き出すか……? いや、まさかアメンドーズが近くにいるのか……!?
私は右手を懐に伸ばそうとした。が、その手を横から伸びたメイデンの手が掴む。
「何をするつもりですか?」
「ギロチンは……何者だ? メンシス……いや、なんでもない……」
「あのですね、ギロチンの言葉は、その、適当なんです。あなたが付き合う必要も、警戒する必要もないんです」
「なんだ……と?」
適当、だと? あの言葉全てが、適当……!?
思わずポリとミランダを見れば、二人とも頷いている。どうやら既知の事実らしい。
再びギロチンを見るが、彼女は楽しそうに前を気取って歩いているだけだ。
ここまでの言葉が適当……そんなはずはない! ここまでピッタリと符合する言葉を吐けるなんて、関係者以外あり得ないだろう!
観察しろ、私。こいつの言葉を探れ、真実を、
「見ろ、同類! 青空の合間に見える微かな星の光を! ククク!」
あ、適当言ってるだけだな、こいつ。
空を見て、あの板のようなもののどこに星が見えるんだ。光ってどこだ、なんのことだ。
ここまで考えて私は、自分自身の考えを恥じた。
気にしすぎで、神経質になっていたと。
「しかし……気になるものだな。同類の体から漂う、血と火薬の匂い……どういう獣と戦ってきたのか……ククク!」
本当に違うんだよな!?!?
いちいち私の事情に掠る発言をするギロチンに警戒を払いつつ、私は他の面々の案内を受けてエレベーターの近くにまで来た。
前哨基地へ向かうためのエレベーターを前に、私はふとエレベーターの横を見る。
謎の大きな扉がある。
散々医療教会関係で見たような扉だ。あれより頑丈なのは間違いないが。
「すまない、あの扉はなんだ?」
「はい? ああ……あれはアウターリムへの扉ですね」
アウターリム、という言葉に胸がざわめくのを感じる。曇り空……といえど偽物の空だろうが……の下で、あらゆる部品の残骸まみれの前に鎮座する巨大な扉。
薄汚れていて周囲には異様な空気が漂っている。この空気……ヤハグルのそれを薄くしたような感じだが、それでも嫌な感じだ。
私は続いてメイデンに聞いてみる。
「アウターリムとは?」
「簡単にいうと、アークに住めない人たちがいる、スラム街ですよ。アークに住むための資格を失ったり、元々持っていなかった人たちが住み着いていて、元は廃材を捨てるための場所だったんですけど……徐々に人が集まり出して、規模が大きくなったところですね」
メイデンの目が険しいものになっていた。他の面々も同様に、あの扉に対して良い感情は持っていないらしい。
だが、私にとってはどこか懐かしい空気を感じる。嫌な感じだが、ヤーナムやヤハグルに比べればだいぶマシというか。
「ふむ……あそこにいるのも、アークの住民てことか?」
「違いますねぇ。アーク市民には認証チップというものがありまして、それを持っている人だけがアーク市民と認められますぅ。でもアウターリムの住民には認証チップはないので、アークの恩恵は受けられません。アークに入った瞬間、殺されますぅ」
「なぜだ? こういう状況だ、人類一丸になってラプチャーを倒して地上を取り戻さないといけないのだろう? なぜ彼らはアークに住めない?」
私の質問にメイデンは視線を逸らし、ポリは言い淀み、ギロチンは眼帯をいじって言葉を濁していた。
奇妙な話だ。地上を取り戻すために戦うのならば、獣ではない人は貴重な戦力だろう。どうしてアークから締め出して隔離し、劣悪な環境に住まわせているのか?
彼らも指揮官同様、訓練を施して地上での戦闘に参加させればいいじゃないか?
些細な疑問に対して、ミランダが元気よく答えた。
「彼らはアーク内で重大な犯罪を犯しました! それで認証チップを剥奪され、アウターリムに追放されたんです! 彼ら彼女たちは罪人なんです!」
「それなら尚更、地上での活動を罰則にすればいいじゃないか。わざわざ犯罪の温床になるような場所を作らなくても良いと思うが?」
「そこら辺はマスタングに聞けばいい」
ミランダへ質問を投げかけていた私に、ギロチンがぽそりと答えた。
「彼の者はアウターリムの管理のため、アンダーワールドクイーンと呼ばれる悪の女王たちを派遣している。シュエンもエキゾチックという狂犬たちで内部から情報収集している。悪の道と闇の道……マスタングの方が、そこら辺の事情は詳しいであろう」
「ふむ……あの眩しい御仁か」
目の奥に星の光を宿した不思議な男。あの男には、何が見えているんだ?
気になっていると、なんか門の近くが騒がしい。
そこには、軍服を来た男が護衛を連れてきていた。門に向かって何かを言いながら悪態をついているようだ。護衛が止める様子もない。
筋骨隆々とした男で、かなり背が高い。アンダーソンに比べたらかなり粗野で粗暴な印象を抱く。
「くそ! さっさとアウターリムを一掃すればいいのに……! こんなゴミ捨て場を放置するなんて……エニックだって何も言わないはずなのに、どうして誰もアウターリムの放置を認めるんだ!」
その男を見て、私はどことなく獣の匂いを感じた。
血の匂いに酔いしれた良い狩人になりうると同時に、血を求める獣になりうる危うさと共に。