「パートナーに連絡してどうにかしてもらいましょう」
散々、私の前でぎゃーすか騒いでいた少女たちだったが、のんびり屋の少女の一言によって落ち着いた様子だった。
ようやくここから離れられるらしい……私もそろそろ疲れたよ。
「ところで、君たちはどこの誰か聞いても?」
少女たちに訪ねてみる。そういえば、この少女たちがどこの誰かも知らない。
質問に対して少女たちは互いの顔を見合わせた。何か一言二言会話してから、眠そうな様子の少女が口を開いた。
「プリム」
……どうやら少女の名前らしい。
「プリムさんだね、わかった」
私が答えると、プリムは満足そうに黙った。本当に口数が少ない少女らしい。
次に答えたのは生意気な様子の少女。
「オレはミルクだ。テトララインのカフェ・スウィーティー所属の何でも屋」
……わからない単語が多いが、ここは気にしないでおこう。
「ミルクさんだね。よし、覚えた」
「私はシュガーよ。同じくカフェ・スウィーティー所属」
「シュガーさんか。うん、これで全員か」
「ちなみにこっちのプリムが部隊のリーダー……隊長よ」
え、嘘。こんなやる気なさそうで眠たそうにしてる娘が?
プリムを見ても眠そうにしてるだけで何を考えているのかわからない。
「とりあえず兄貴に連絡を入れたぞ。驚いてたけど、ゲートキーパー? て奴の可能性があるから、一度前哨基地に連れてきてだってさ」
「じゃあAZXで前哨基地に行きましょう。パートナーに押しつけ……任せておけば大丈夫だわ」
「うん」
何やら話が進んでいるが、どうにもわからないことが多い。
「一つ聞きたいんだが、その、前哨基地というのは?」
「兄貴がいるところだよ」
どうやらそれが説明の全てらしい。少女たち……カフェ・スウィーティーの面々が私の方とは違う方向へ首を向けた。
「そろそろAZXが来るな。音が聞こえてきた」
ミルクさんが親指で、その方向を示した。
「詳しい話は前哨基地で、兄貴から聞いてくれ。アレに乗っていくぞ」
アレ? アレとは?
プワーン。
甲高い汽笛のような音を鳴らしたそれは、私の目を疑うような存在だった。
横に長い建物が、地面から少し浮いた形でこっちへ向けて進んでくる。
まるで黒獣パールを目にしたかのような緊張感が、私の背を伝った。なんだ、あれは。
思わず手に短銃を握ったが、その手をシュガーが掴んで止めた。
「落ち着いて。あれは乗り物よ」
「……乗り物?」
私はシュガーの言葉を繰り返し唱えて、もう一度長い建物、乗り物とやらを見る。
横に長い部屋のようなものをいくつか連結させ、それを先頭が引っ張って走っているらしい。
この乗り物、下手したら私が知っている狩人全てを乗せることができるんじゃないか?
これさえあれば、禁域の森すら他の狩人たちと一緒に、
『この穢れた女を、潰して潰して潰して、ピンク色の肉塊に変えてやりまたぞ! ヒャハハハ!!』
『ならば、鐘の音に怯えるがよい。秘密に近づく愚か者に、終わりなき死を。教会の刺客はどこまでも、お主を追っていくぞ。クハハハハッ』
ダメだな。彼らを乗せては悲惨なことになる。他に、他にまともな狩人はいなかったか?
記憶を掘り返し、思い出したのは……。
『狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。よい狩人だ。だからこそ、私は貴公を狩らねばならん!』
「ヒュッ!」
私は咄嗟に後ろを振り向き、高台を確認した。火薬の匂いに紛れた、あの狩人の気配を感じたからだ。
しかし、誰もいない。当たり前だ、いるはずがない。彼は私に火薬の狩人証を托し、今もあの旧市街地にいるはずだ。
……いかんな、落ち着かねばならない。
「どうしたんだよ?」
ミルクが私に訪ねてくる。突然の私の行動に、またも頭がおかしい認定を下しかけたのだろう。
だが、私は帽子のツバを持ち目元を隠す。
「いや、なんでもない。懐かしい匂いがした……そんな錯覚を覚えたからだ」
今も彼は、あそこにいるのだろうか。
戦場に残る硝煙の匂いが、彼を思い出させたのだと思う。
「は、吐きそう……これだけ吐きそうになったのは、人攫いに袋に詰められて地下牢に投げ捨てられた時以来だ……」
「苦労したのね」
私が吐き気を堪えながら乗り物、AZXというものから降りつつ、吐き気を堪える。
凄い、凄い乗り物だった。カインハースト行きの馬車と良い勝負だ、速さだとこっちが上だが静かさだと向こうが上、かもしれない。
後ろからシュガー、ミルク、プリムが降りてきて私の横を通り過ぎる。
さらに私の背中に、誰かが立つ音がした。
「うちの地上用AZXで酔うとは……イチゴキャンディを舐めますか? 酔いに効きますよ~」
朗らかな声に振り返れば、このAZXの車掌? とかいう運転手の一人、インフィニティレール部隊のディーゼルという名前の少女が立っていた。
この娘もカフェ・スウィーティーと同じ、まるで造られたかのような見事な器量よしの美少女だ。手には、桃色の包装に包まれた丸薬がいくつもある。
こちらに差し出してくるが、私はそれを手で制した。
「い、いや、問題ない。心配をかけた」
「そうですか? なら、お近づきの印にイチゴキャンディはいかがですか?」
「えっと~??」
この少女、何かとイチゴキャンディとやらを勧めてくる。AZXから降りてきて、私の前にイチゴキャンディを二つ差し出してきた。
AZXに乗ってから、慣れない揺れに動揺していた私を気遣ってくれる、優しい少女だ。
なのにこの少女がイチゴキャンディを勧めてくる様子は、かつてのアデラインを思い出す。やたらと可愛くて聞き心地の良い声だからだろうか。
あの娘はむしろ脳液を欲しがっていたが、こっちはイチゴキャンディを押しつけてくる。別種の行動のはずなのに狂気の方向性が似ている気がするのは何故だ??
「ディーゼル! ラプチャーを轢いた後の清掃と修理があるから速く戻ってきて!」
「はぁ~い」
AZXの中から幼い少女……ソリンの声が聞こえてくると、ディーゼルは朗らかに返事をした。
正直、あの娘は苦手だ。助けられなかったあの娘を思い出す。
気を抜いた一瞬、ディーゼルは私の口にイチゴキャンディを入れてきた。
「むぐっ」
「また難しい顔をしてましたね? どうやって地上を生き延びてきたのかわかりませんが、アークに来た以上はもう大丈夫ですよ~? あとはここの前哨基地にいる指揮官と話をして、身の振り方を考えればいいですよ」
「……あ、あぁ」
私は口の中の丸薬もどきを舌で転がしながら返事する。ディーゼルはにこりと笑ってから、AZXに戻っていった。
その後ろ姿に、私は思わず見惚れてしまっている。
あの星の娘エーブリエタースと初めて出会ったときのような胸の高鳴りと、人形と血の意思を交わしているときのような安心感が胸中に湧いていたからだ。
ふ、まさか私のような狩人が、今更あの女性たちを見てきたときのように、ディーゼルに胸を高鳴らせるとはな……。人間とはわからぬものだな……。
「彼女たちのように可憐な娘がいるとはな……」
「なぁ。念の為に聞くけどお前のいう彼女というのは人間なのか?」
後ろでミルクが不気味なものを見るような目で私を睨んでいた。
「ああ、すまん。いや、人間ではないが……これからどこへ行くんだ?」
「さらっと人間じゃないって言うなよ。怖ぇよ。……これから行くのはあそこだよ」
ミルクが指さした先には、この土地において一際目を引く建造物。
どことなく狩人の夢の館を思い出させる安心感を感じる建物だな。
私はミルクへ聞いた。
「あそこは?」
「コマンドセンター。指揮官のための業務スペースだ。そこに……兄貴がいるからよ。案内するから来い」
ミルクとシュガー、プリムが歩き出したので私も追いかける。
ふと、口の中の丸薬が甘くて不思議な味がすることに気づいた。
どうやら、この味をちゃんと感じることからして。
私は夢を見ているわけではないらしい。