永久の少女の千年旅行〜蒼い星へ還る日まで短編集〜 作:スグリ@あれこれ書いたりする人
アメリカ、サンフランシスコ。
人の手を離れて数百年が経ち草花に覆われた廃墟と化したこの街で今、人類の未来をかけた激しい戦いが繰り広げられていました。
一方はそれぞれ女の子たちが操縦している六機の巨大ロボット。
もう一方は、大地や空を埋め尽くすほどの無数の兵器たち。恐るべきことにその数は、一千万以上。そしてそれを統べるのは「天使」と呼ばれる、何キロメートルもの巨体を誇る人類の敵。
「ミサイル、弾道入力……発射!」
ですがそんな脅威を前にしても、女の子たちは一歩も退きません。
今ミサイルを撃った子はフランちゃん。六人の中で一番歳下ですが、大人の学者先生顔負けの頭脳でみんなを支えるまさに博士です。
彼女が放ったたくさんのミサイルは指示した通りの軌道を描きながら、それぞれ空を飛ぶ無数の戦闘機に命中。周りを巻き込む大爆発を巻き起こしました。
「相変わらずとんでもない数だね〜」
爆発でもまだ減っているように見えない敵の数にうんざりするようにぼやきながらも、素早く飛び回りながら剣を振り敵の戦車やロボットを次々と真っ二つに斬っていく女の子。
彼女の名前は
「メガトン級の爆弾あんだけ撃っても全然減ってないんですけど」
そしてそう言いながら、下半身が戦車のようなロボットでビームやミサイルをばら撒き敵を迎え撃つこの子は
六人の中では自慢できるような特技はないものの持ち前の優しさと気配りで何度もみんなを助けてきた、みんなの心の支えとも言えるギャル系の子です。
「後ろは、任せて……」
そんな悠樹の後ろを守るように、キャノンがついた力強い重装甲のロボットで戦うのは
内気で臆病な性格ですが、どれだけ限られた材料でもとっても美味しいお料理を振る舞ってみせる、みんなにとって最高のシェフです。
最初は性格のせいでみんなの輪の中に入れませんでしたが、悠樹に手を引いてもらって今では仲良し。ご飯を作るときはいつも悠樹と一緒です。
「全員、深追いはするな。時間さえ稼げればいい」
無数の敵に囲まれながらも冷静にかいくぐり、周りを見て指示を出すのは
細身で背が高くとっても美人かつ一見クールなお姉さんですが、下ネタ好きの元引きこもりゲーマーというちょっぴり残念な子。けれどゲームの経験を活かして戦いでは大活躍です。
ちなみに実は智実とは夜によく二人きりになっていて、ちょっぴりオトナの関係だとか……?
「光里、崩壊砲は」
「もう撃てる! あと五秒!」
そして最後に、崩壊砲という必殺の武器を構えて天使の本体を狙うのは
みんなが乗っているロボット「ゼクト・オメガ」の中でも一号機に乗っていたという適当な理由と、その場の空気でリーダーに選ばれたものの、今も立派にみんなのリーダーとして頑張っている子です。
彼女の凄いところは、何よりも戦いの才能。ひとたびロボットに乗れば他の五人が一緒になっても勝てないほどのテクニックを魅せ、鉄砲を持てば1キロメートル先にいるニワトリの頭を狙って当てることさえできてしまいます。
その強さとは裏腹に、とっても優しい心を持つ光里。そんな彼女は以前にフランに告白され、結婚もして今では二人はみんなが認める夫婦。毎日一緒にお風呂に入る程のラブラブです。
「崩壊砲……発射!」
光里が引き金を引いた瞬間。禍々しい黒いビームが放たれ、それを受けた天使はたった一撃でぐちゃぐちゃになった後爆発。跡形もなく消し飛んでしまいました。
戦いの後。みんなは火がまだ残っているサンフランシスコから一旦離れて、海に浮かぶ自分たちの船「ラグナロック」に帰りました。
「みんなお疲れ様!」
「安定して全員無傷で勝てるようになってきたね〜」
「成長は、してる……」
「バリアがあっても当たって機体が揺れたら怪我するし、やっぱ全避けがベストじゃんね」
旅に出てから年月が経ち天使とも何度か戦ってきた光里たち一行は、みんな経験を重ねて以前よりもずっと強くなっていました。
空間ごと敵の攻撃を防ぐバリア、アブソルートテリトリーもあるとはいえ、今回は全員機体もパイロットも無傷。まごうことなき完全勝利です。
「だが、次の課題も見えてきた」
「課題?」
けれど小夜子は、今回の戦いに思うところがあったみたい。光里はピンときていない様子ですが、フランは彼女が言う課題に気付いていました。
「効率、ですね」
「ああ」
効率が課題とはどういうことなのでしょうか。みんなが耳を傾ける中、小夜子とフランは説明を始めます。
「現状、火力はメガトン級爆弾での面制圧とビームライフルに依存している。弾頭とミサイルを作れるのは、生活との兼ね合いでせいぜい年に10発と少し程度だ」
「ビームライフルは直線照射か拡散放射になりますが前者は範囲が、後者は密度が課題です」
「確かに拡散で撃ってもすり抜けられるわ」
各々好きなようにゼクト・オメガをカスタマイズしていますが、今のところ頼っている武器は主に二つ。メガトン級爆弾を弾頭にしたミサイルと、最初から持っていたビームライフルです。
メガトン級爆弾はかつて核兵器に変わる強い爆弾を作ろうとしたアメリカ軍が作った爆弾で、光里たちは手作りのコピーを使っていますが使える数が多くありません。
一方ビームライフルは機体に組み込まれたブラックホールの力を利用する縮退炉からエネルギーを取り込むことで何発でも撃てる上に、圧縮して撃つ集束モードと広い範囲に向けて撃つ拡散モードがあります。
しかし集束モードは何千万の敵を相手にするには巻き込める範囲が狭く、拡散モードは飛び散るようにビームを撃つのでどうしても隙間ができてすり抜けられてしまいます。
最初こそ圧倒的な強さに驚いたものですが、慣れた今となっては武器に物足りなさが見えてきていました。
「崩壊砲のチャージで最強の光里が動けなくなるじゃん。穴埋めができるくらいは改良したいよね〜」
さらに智実が言ったこれも大きな問題。
みんなの中でもずば抜けて操縦が上手い光里しか必殺武器の崩壊砲を使えないので、溜めて撃つまで肝心の天使本体との戦いでどうしても光里が抜けてしまうのです。
この大きな穴を埋めるだけの力も、みんなにとって必要な要素のひとつでしょう。
「また、アメリカ軍の基地……探らせてもらうのは、どう、かな……」
「確かに、メガトン級爆弾もアメリカの軍隊の秘密資料から作ったんだもんね」
「ラグナロックには荷電粒子砲も搭載されていますし、詳しいデータがあるかもしれませんね」
そこで月美が提案したのは、アメリカ軍基地の探索。
今ではみんなで作るようになったメガトン級爆弾も基地に保管されていた軍事機密の資料を見て作ったものですし、この船ラグナロックに積んである荷電粒子砲も元々はアメリカ軍が設計したものです。
どちらを改良するにしても何かのヒントが見つかるかもしれない。そう考えた光里とフランは月美の意見に乗ります。
「ビームライフルも一つバラしてみる? 実物見るのも大事だと思うんよ」
「当面の間火力は下がるが……その間は天使との直接対決を避ければいいだけだ。私はいいと思うぞ」
「あたしもさんせ〜」
一方悠樹が提案したのは、六つあるビームライフルの一つを分解してみること。組み立て直すまでビームライフルが一つ使えなくなる上に下手をすれば戻せなくなるかもしれませんが、実物の中身を見てみるのは大切でしょう。
これについても小夜子と智実、続いてみんなも賛成します。
「目標は新しい武器を自分たちで作る、でいいかな?」
「年単位はかかると思いますが、やってみましょう!」
昔に作られたものの見様見真似ではなく、自分たちで工夫して新しい武器を作る。新たな挑戦が今、ここに始まったのでした。
それから半年後。
「やっぱラグナロックの図面だとどうしても粒子加速器がデカいね〜。ビームライフルはどう?」
「基礎はラグナロックと同じですが、かなり小型化していますね。必要電力が多いのは縮退炉があるので問題ないとして、そのエネルギーに耐えられる素材を精製する技術が今の私たちにはありません」
ラグナロックの食堂にて、智実とフランの二人がテーブルの上に並べられたたくさんの紙と睨み合っています。
それぞれ見ているのは、智実はアメリカ軍の荷電粒子砲の設計資料。フランは数え切れないほどのメモが書き込まれた、分解されたビームライフルのスケッチ。見ているものは違いますが、二人が悩んでいる理由は同じ。ビーム兵器の心臓になる、粒子加速器を今の自分たちでは作ることができないということです。
「なになに、武器作りの話?」
二人が頭を抱える中、そう言いながら悠樹がやってきました。何かおやつでも作って食べるつもりで食堂を訪れたのですが、新兵器のお話ということで彼女もその話に加わります。
「そだよ〜」
「ですが粒子加速器をどう作るかに行き詰まっていて……」
粒子加速器を作れない。そんな悩みを聞いた悠樹は、あることを思い浮かべました。
「その加速器にかける電圧を上げるとか無理なわけ?」
「それはできますが……」
「なら今のとこは加速器使い回してさ、ライフルよりもっとデカい武器作るとかどうよ」
「それだ〜っ!」
粒子加速器が作れないなら、もう分解してしまったライフルを組み立て直すのではなく粒子加速器を使い回して新しい武器を作ってしまえばいい。
「改造ということですか。それで考えてみましょう」
あまりにも単純で、だからこそ思い至らなかった発想。悠樹がくれたアイデアに刺激され、智実とフランの話し合いは進みメモがみるみるうちに積み上げられていきます。
「んじゃ、うちはおやつ作っとくわ」
そんな二人の様子を微笑ましく見守りながら、悠樹は二人の分のおやつも作る為にキッチンへと向かいました。
粒子加速器を使い回した新兵器作りを始めてからまた半年後。
「フランちゃん、何悩んでるの?」
またもお部屋で頭を抱えて悩んでいるフランに、光里がお茶を出しながら尋ねます。
「ビームライフルの材質をどうしようかと……」
「難しいの?」
「今より強力なビームを撃つとなると、どうしても砲身が耐えられないんです。やっぱり私たちで新型の荷電粒子砲を作るというのは無理なんでしょうか……」
今フランが悩んでいるのは、新型ビーム兵器に使う材料。目標は今のビームライフルより強力なビーム兵器ですが、ビームライフルでさえ月の最高のテクノロジーが使われた武器のひとつ。
これを超えるものを作ろうとすると、どう設計してもビームの熱に銃が耐えられないのです。
「バリアで砲身を守っちゃうのは?」
「指向性を持たせて照射する為には砲身に磁場が必要なので、遮断してしまうとだめなんです」
「んー、難しいことはわからないけど……」
ビームを狙ったところに飛ばす仕組みは、銃口の中に電磁力のレールを作ってそれに乗せてビームを飛ばすというもの。集束と拡散を切り替えられるのも、このレールの形を調整することでできる機能です。中にバリアを入れるとこの電磁力がなくなってしまうのでそれはできません。
どうすればもっと強いビームに耐えられる金属を作れるのか。それは光里には想像がつきませんが、一つのアイデアが彼女の中に浮かんでいました。
「私の崩壊砲みたいにしちゃうのはどう? あれ、グラビトンバレルっていうのかな。あんな感じ!」
「あっ……」
そのアイデアとは、崩壊砲の仕組みを応用するというもの。
崩壊砲は時空すら捻じ曲げるほどの超重力を利用した武器。そもそも本来はこの世の物質で耐えられるものなんて存在しませんが、崩壊砲はグラビトンバレルという実体のない重力エネルギーを砲身に見立てることでこれを解決しています。
これと参考に、そもそも砲身の実体をなくしてしまえばいい。本来ならとても難しいテクノロジーですが、実体がないまではいかなくとも近いところまで再現する構造をフランは思いつきました。
「開放型バレル!」
「よくわからないけど、ヒントになったならよかった!」
「ありがとうございます光里さん。早速設計してみます!」
そうと決まれば早いもの。フランは自作のパソコンを開き、目にもとまらぬ速さで新しい砲身の設計図をCADで描き始めました。
後編へ続きます