暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
消耗した爆弾や物資を補給し。
異世界アトリエを拡張。
更に色々な道具類を開発しているうちに、コルちゃんが粘金の鋼糸の複製に成功した。案の定痩せこけていたが。
それでも、前のように、死にかけている訳では無いし、良しとするべきなのか。
あたしもリハビリは完了。
光のエレメンタルと同レベルに手強い相手と戦うのは正直つらいが。
仕方が無いとも言える。
そもそも、中位の邪神に匹敵する実力者だという話は聞いていたのだ。死者を出さずに勝てただけでも良しとするべきなのだろう。
それに、である。
今後は恐らく中位どころか上位の邪神との戦闘も視野に入れていかなければならない。
皆がいつまでも側にいる訳では無い。
その場その場で見繕える最強の面子で。
倒せるだけの戦闘力が必要になってくるだろう。
キルヘン=ベルを守るだけでは駄目だ。
この世界そのものを変えなければ。
何も変わらない。
世界は変わらないから、自分を変えろ。
そんな言葉を発する人もいるらしいが。
それはあまりにも無情だというものだろう。少なくともあたしは納得しない。
この世界が、ドラゴンと邪神によって蹂躙され。荒野にみちるネームドと猛獣が牙を剥き続ける限り。
あたしは殺戮の刃でそれらに応じ続ける。
それだけだ。
さて、粘金の鋼糸の糸を持ち帰る。かなりの分量増やしてくれたので、早速これを布にする。
まず糸にする所からだが。
これは危険な素材だ。
下手に触ると指が消し飛ぶ。
それくらい鋭いのである。
まずこの鋭さを緩和する所から始めなければならないだろう。
プラフタがレシピを見せてくれる。
そして、いつものように説明もしてくれた。
「この素材を布にするには、何段階かの行程を経る必要があります。 まず糸にしなければなりませんが、この危険すぎる糸はより合わせる過程で糸繰り機を粉みじんにしてしまうでしょう。 素人に扱える品ではないのです」
「ふむふむ」
「まずは第一に、この糸をコーティングする事から始めます」
なるほど。
まずは植物性の中和剤を作る。
前に採取したドンケルハイトもコルちゃんに無理を言って増やしてあるので、これを中和剤にする。
植物性の中和剤を作る理由は。
布にする際に必要だから、だそうである。
この中和剤を使って、複数種類の中間生成液を作る。これらは粘性が強い上に、固まりやすい。
粘金の鋼糸をすっとくぐらせることで。
そのまま、粘金の鋼糸をコーティングしてくれる。
ただし、そのタイミングが極めてシビアだ。
下手をすると錬金釜を傷つけかねないので。
慎重に少しずつ、ピンセットで摘んだ粘金の鋼糸を、中間生成液に通していく。
それを何回か重ねていくうちに。
名前にある金色がくすみ。
紫色へと変わっていった。
なるほど。
昔、教会では下品な紫を好む傾向があったらしいが。
これは何というか、とても深くて上品な紫だ。
触っても、危険性はかなり減っている。
というか、この中間生成液そのものが、弾力性のある良い素材の様子である。まあ素材としても、多くの種類の植物を、複雑な加工の末に調整している。
これくらいに仕上がらないと、作る側としてもやりがいが無い。
続けて、糸を繰る。
此処からは一旦職人達に任せて良いと言う。ただ、現時点では、熱を与えてはいけないため、ゆっくりと糸を繰るようにと注意する必要があるとも言われた。
糸繰りをする人はそれなりの人数がいる。
今回は最近越してきた獣人族の女性に任せた。
犬顔の彼女は獣人族らしく思考が単調だが、その分単純作業には向いている。白黒斑の毛皮を持つ彼女は、速く繰らないようにと注意をすると、頷いて作業をしてくれた。まあ、見ている限りは大丈夫だろう。
それ以上の速度で繰らないように、という注意と。熱を含むと、糸が凄まじい切れ味を出して、糸繰り機をバラバラにしてしまうという話をすると、驚いて此方を見返したが。
これは事実なので、伝えておく。
獣人族はヒト族より思考が単純で、その分愚直だ。
こうやって脅かしておけば。
馬鹿な事はしないし。
しっかり言ったことは守るだろう。
その後は、中間生成液を更に何種類か作る。
糸が仕上がるまで三日。
三日後、仕上がってきた糸を、今度は布に変えるのだが。
此処でまた作業が必要になる。
一度中間生成液でつけた弾力性を落とすのである。
話によると、この成分は糸そのものを加工するためだけにつけたのであって。布にする際には邪魔になってしまうとか。
中間生成液を慎重に温度調整し。
糸をくぐらせ。
残った液を廃棄する。
これらの廃棄液は非常に毒性が強いと言うことで、固めて異世界アトリエのゴミ捨て場に置く。
その内次元操作ができるようになったら、圧縮してしまうか。
或いは、もっと強力な薬液で強制的に無害化してしまうか。
どちらかの手段が採れるという。
今はこうやって、固めて廃棄するしか無い。
色々面倒だが、複雑な行程の果てに、紫色が更に濃くなった糸が出来る。弾性のあるコーティングは失ったが。
しかし力強い糸だ。
そして、表面に弾性は無くなったが。
手触りは悪くない。
触ってスパスパ行くほど危険ではない。
これを機織りに出して、布にする。
かなりの量の布が出来るのだが。其処からまだ作業がある。色々と大変だが、何しろ上位次元からの攻撃に耐え抜く素材である。
作るのが大変なのは、仕方が無い。
実際問題、地を割り空を砕く破壊力の邪神どもの攻撃を見た後だ。
どれだけ強力な防具を作っても。とてもではないが、守りきれる自信は無い。
レオンさんは、壊された防具を見て自信があったのにと、悔しそうにしていたが。
あれは相手が悪かったから。
今度は、そんな悪い相手でも対抗できる装備を作る。
ただそれだけである。
機織りに出した後、また中間生成液を作るが。
ここからが本番だ。
今までとは比較にならないほど高品質の素材を惜しみなく使って、大量の中間生成液を作っていく。
これらを更に混ぜ合わせながら、話を聞く。
まずこれらの素材は、中和剤を介して、上位次元に品質を近づけていくために使うのだという。
更に、布そのものに、魔術を練り込む。
本来魔術で出来る作業では無く。
錬金術による増幅を行って、魔術を糸の隅々にまで染みこませ。極限まで増幅させることにより。
魔術では超えられない領域まで、布を強化するという。
しかも、その状態から。
布に魔法陣などを仕込む事により。
更に強化が可能だという。
なるほど。
強化に強化を極限まで重ね。
次元の壁を越える、と言う訳か。
空気を魔術で操作しながら、丁寧に中間生成液を作っていく。
汗一つ埃一つ落とさない。
やがて、三種類の中間生成液に仕上がる。
60を超える行程をこなした後だ。
品質もプラフタのお墨付きである。
さて、此処からだ。
ドンケルハイトを使った中和剤を用いているほどの中間生成液だ。これで、最強の布を作り。
そして防具に生かせば。
邪神に対して、更に楽に戦う事が出来る。
布が仕上がってきた。
美しい紫色だ。
此処から更に複雑な処置をしていくことになるが。その価値はあると信じる。
まず、何度も蒸留して徹底的に不純物を排除した水で、徹底的に洗う。埃などの不純物を取り去るためだ。
その後、乾燥させ。
中間生成液に順番に通していく。
この時、魔法陣を描いて、その上で作業をしたり。
逆に、錬金釜をグツグツに煮込んで、その中に入れたりと。
複雑な作業が続く。
だが、内容自体は理解しているし。
作業も休み休みながら、丁寧にこなして行く。失敗は、現時点ではする気がしない。
呼吸を整え。
最後の作業に取りかかる。
布を乾燥させた後。
実験をするのだ。
外に干して、充分に乾いたのを確認後。
砲撃を浴びせてみる。
効果は。
想像以上だった。
レオンさんの所に出向く。
最近色々あったせいか、機嫌が悪そうなレオンさんだったけれど。あたしが高貴な紫色の布を持ち込むと。
すぐにそれがただの布では無いと気付いたようだった。
「こ、これはまさかヴェルベティス!?」
「知っているんですかレオンさん」
「それは勿論よ!」
興奮した様子のレオンさんである。
まあこの人、服飾関係者だという話だし、知っていてもおかしくは無いか。
ヴェルベティス。
錬金術における最高峰の産物の一つ。その中でも、布という素材に限定すれば、これ以上のものはない。
図鑑で見た内容でもこれだけのべた褒め。
実物は、プラフタが上位次元からの攻撃を防ぐと発言した程の代物である。更にこのヴェルベティスには、布にする過程で、魔法陣を仕込んである。機織り職人は、面倒くさがりながらも、複雑なデザインを再現してくれた。
その結果、今側から見ても、わき上がるような凄まじい魔力が噴き上がっていた。
というか、明らかに周囲の空間に影響を与えているレベルである。
魔術が使える人間が、此方を二度見しているほどだ。
まあその後、あたしが持っているのを見て、ああそういう事かという表情で視線を戻していたが。
「これを使って、十人分程度の防具を強化出来ますか? 実戦向きに」
「つ、使って、良いの!? と、というより、触って、いい、の!?」
「勿論ですよ。 足りないようなら増やします」
「いえ、これだけで充分よ!」
完全に目の色を変えているレオンさん。
まあそれはそうか。
伝説の素材を触っているのである。しかも反物単位で。恍惚の表情で頬ずりしているほどだ。よだれを垂らさないか心配である。まあよだれなんぞでどうなるような素材でもないが。溶岩に放り込んでも余裕で耐えるだろうし。
後は任せるとして。あたしはあたしで、試してみたいものがある。
それで戻ろうと思ったのだが。
レオンさんに声を掛けられた。
「あ、待って、ソフィーちゃん」
「どうしました?」
「採寸させてくれる?」
「はあ、まあ良いですけれど」
あたしなんか採寸して何か面白いのだろうか。
レオンさんは手慣れた様子で、ぱっぱと採寸を済ませる。殆ど時間は掛からなかった。
とりあえず、これでこの街の主力級戦士の装備は、極限まで強化出来る。
後は、更に装備品を開発して。
それらによるブーストアップを掛ければ。
今までよりも、更に楽に戦える筈だ。
何しろあのヴェルベティス。
あたしが実験代わりに砲撃を浴びせたら、耐え抜いたのである。それも、焦げ目一つ突かなかった。
拡張肉体を使っていなかったとは言え。
それでも、能力をブーストアップさせる装飾品はフル装備していた。
それこそ弱めのネームドなら瞬殺出来る程度の火力は出したのだが。
それなのに、焦げ目一つつかなかった。
しかも、直撃したのに、揺らぎさえしなかったのである。要するに衝撃を通さなかったのだ。
これが何を意味するかは、言う間でも無い。
冗談抜きに、たかが布っ切れが物理を超越する防御力を展開した、という事である。
本来だったら、高級素材だろうが何だろうが、布きれは布きれ。魔術師が10年がかりで魔術を練り込もうが、あたしの砲撃をまともに食らえば焦げるし、溶岩に放り込めば焼ける。
だがアレは違う。
行けるかも知れない。
レオンさんが採寸していたのは何だか気になるが、それはそれで別に良い。
あたしは戻ると、新しく装備の作成に入る。
今まで能力にブーストを掛ける装備品は量産してきたが、更にランクが高いものを作ってみたくなったのだ。
この間、水源で回収してきた薬草に貴重なものが幾つかあったが。
その中の一つ。
五日ツル。
これを用いて、強力な装備品が作れそうだったのである。
残念ながらこの五日ツルは日持ちしない素材で、しかも環境が極めて安定した場所でないと育たないらしく。
おばあちゃんも何処かから入手してアトリエの側や森の中で育てようとしたが、上手く行かなかったらしい。
この辺りは、おばあちゃんが残したレシピに記載があった。育ててみようと四苦八苦する様子も書かれていたので。本当にいつまでも頑張り屋だったんだなと、感心するばかりである。
人間はいつまでも全盛期の能力を維持できない。
年を取ると、切れ者と呼ばれていた人間が、意固地で愚かになってしまう事が珍しくもない。
おばあちゃんは最後まで頑張り続けた。それだけでも凄いと言えるだろう。
ともかく、レシピを書く。
これも極限まで性能を引き出すなら、ドンケルハイトを素材に使った方が良いか。
後はハルモニウムも使うが、これは小さな欠片だけで充分だ。
黙々淡々とレシピを書く。
この装備品の主力となるのは、五日ツルから抽出するエキスである。このエキスには、本人の能力を引き出す効果がある。
そう。能力の引き出しである。
とは言っても、無いものは引き出せない。現時点である能力を、最大まで引っ張り出しつつ、体が壊れるのを防ぐ。
そういう道具を作ろうとあたしは考えていた。
一歩間違うと体が自壊してしまう危険な道具なので、作るのには精査が必要だ。
火事場の馬鹿力というのは有名な話だが。
それは一歩間違うと、体が壊れてしまうものなのである。
ともあれ精査を続ける。
プラフタにレシピを見せるが。
彼女は珍しくかなり悩んだ。
「これは面白いですが、現状の能力を上昇させるのでは無くて、元々の能力を引き出すという発想に転換した理由は?」
「増幅を続けれると、恐らく同じ種類のものだといずれ上限に到達すると思ってね」
「ふむ、面白い判断ですが……」
修正では無いがと珍しく前置きして。プラフタはアドバイスを幾つかくれた。
普通だと容赦なく此処を直せと言ってくるのだけれど、珍しい。これはつまり、プラフタからみて間違ってはいないけれど、こうした方が良いかも知れない、という意見だと言う事か。
初めての経験である。
面白いし、話を聞いてみるか。
ともかくアドバイスを取り入れながら、レシピを書く。
本来の能力を全部引き出しつつ、体が自壊しないようにする。
それだけではない。
五日ツルは、その名前の通り五日間しかもたないのだが。その間だけは凄まじい爆発的生命力を発揮する。その力の根源は陽光である。
日光に晒されている間は、圧倒的な力を引き出せるようにすれば、更に五日ツルの力を使いこなしたと言えるかも知れない。
どうせなら贅沢にやってみるのも手だ。
修正を掛けながら、あたしは幾つかの方法を模索してみるが。しかしながら、複雑になった分難易度が跳ね上がっている。
腕組みして考え込むが。
勿論簡単に正解など出てこない。
途中、モニカがお菓子を差し入れてくれた。
ついでに掃除を頼んで、モニカに近況を聞く。
どうやらかなり面倒な事になっているらしい。
「教会を増やそうかという話が出ていてね」
「ふうん?」
キルヘン=ベルは今後も広くなる。人口は年内に千人を超えると予想されているし、何より東の街との統合が果たされる頃には更にその数倍にまで跳ね上がっているだろう。
教会に足を運ぶ人間はそれなりにいる。
今はまだ、街の中がそれほど広くない。パメラさんがいる教会に足を運ぶのは難しくは無い。
だが、川を跨いで街道だった辺りまで街が拡がり始めていて。
その辺りに住んでいる人達が、今後利便性が悪いと言い出すかも知れない。
特に足腰が弱っている老人などは苦労する筈だ。
「神父さんは? 候補に誰かいるの?」
「……」
モニカは苦々しげに自分を指さす。
なるほど、そういう事か。
元々彼女は聖歌隊のリーダーも務めたがっていた。しかしながら、自警団の次期団長の仕事が確定している。
その上教会の管理までとなると。
とてもではないが、やっていられないだろう。
「新しく来た人に、神父をやれそうな人は?」
「昔は神父をやると色々と「美味しい思い」が出来るからとかで、神父になりたがる人は多かったらしいのだけれどね。 今は神父になって悪さをすると、あっという間に死ぬという噂があって、知識があってもやりたがらない人が多いらしいわ」
「ああ、なるほど」
深淵の者か。
それも意図的に噂を拡げている、という事だ。
だが、その方が良いだろう。
実際問題、子供を金づるや欲望のはけ口にしか見ないようなクソ坊主が神父をやるよりも。
覚悟を持って信仰にうち込む人間の方が、それに相応しいはず。
ただ、幾つか疑問もある。
「現時点では、東の街にも小さいけれど教会があった筈。 真ん中にもう一つ作るという事?」
「いえ、東の街と統合するタイミングを見計らって、重要拠点となる谷周辺に作るつもりらしいわ」
「そうなると早くても二から三年後?」
「たった三年よ」
モニカは自警団の次期団長だ。
ホルストさんと良く話をして、都市計画についても把握しているはず。
今、このキルヘン=ベルが問題なく拡充しているのは、ホルストさんら顔役がしっかりしているからで。
おばあちゃんの残した威光として、まだこの街を照らしてくれているとも言える。
いずれにしても、三年か。
もう一度ため息をつくモニカだが。
彼女はこのままだと、憂鬱な表情ばかり見せるようになるかも知れない。
元々生真面目な性格だ。
他人にも厳しいが、それ以上に自分に厳しい人間である。
彼女の聖歌が強烈な効果を持っているのも。恐らくその辺りが原因で。
それについてだけは。
神には見る目があるとあたしも認める。
愚痴を言ったモニカが掃除を終えて帰る。
あたしも愚痴を聞くくらいなら吝かでは無い。
普段はあたしが迷惑を掛ける側なのだ。
モニカのことは家族と思っているし。
一緒に何度も死線をくぐり抜けたのである。
これくらいはどうと言うことも無い。
さて、続きだ。
レシピを気合いを入れて仕上げる。