暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、道楽と夢

プラフタにレシピを見せると、また考え込まれた。

 

「もう少し能力を下方修正するか、上限下限を設けるか……の措置が必要でしょう」

 

「おや、今度はさっきと少し違うね」

 

「これはソフィー、貴方の身体能力に合わせたものに仕上がっています。 普通の自警団員が使ったら、過剰回復で体が崩壊してしまいますよ」

 

「む……」

 

そうか。

 

ならば、どうにかして可変性を設けるか。

 

いっそ開き直って、あたし専用と、他の人用を作るか。

 

ええい、面倒だ。

 

その辺りの調整は、魔術を組んでそれに任せてしまおう。

 

もう一手間だが、仕方が無い。

 

さっさと手を入れて、レシピの修正を終える。

 

プラフタも、修正版には納得してくれた。

 

調合を開始。

 

五日ツルをまずすりつぶして、エキスを抽出。

 

これもまた、作成にドンケルハイトの中和剤を使おうと思ったのだが。素材としてドンケルハイトを使うので、避けた方が良いか。

 

中和剤としては、深核を用いる。

 

そしてハルモニウムを熱して更に中和剤で変質させ。

 

軽く形を整える。

 

ハルモニウムはほんの少しだけで良いので構わない。

 

これに魔法陣を組み込む。

 

発動する魔法は、このハルモニウムの鉢金と組み合わせるヒモである。

 

ヒモには普通の糸を用いるが。

 

このヒモに、五日ツルのエキスをしみこませ。

 

定着させた後、更に中和剤で変質させる。

 

そして、ハルモニウムに仕込む魔法陣は。

 

ドンケルハイトを贅沢に使ったゼッテルを用い。

 

その魔法陣から発動する魔術を、全て引き出すのである。

 

魔法陣の調整には手間取った。

 

何しろドンケルハイトである。最高位の植物素材である。

 

プラフタも、これはあまり多くを入手できなかったと言っていたもので。レア度で言うとヴェルベティスと大差ない。

 

組み合わせると、五日ツルのエキスをしみこませた糸に変化が起きる。

 

なんと形状が変化し。

 

花が咲き始めたのだ。

 

驚きだが、まあこれくらいは想定の範囲内だ。

 

魔術を一つずつ確認。

 

下手すると力を引き出しすぎて、体が内側から吹き飛びかねない装備品である。

 

今までの、力を増幅するものではなくて、引き出すものなので。

 

大変に危険な代物なのだ。

 

さて、被ってみるか。

 

そう思った矢先に。

 

ドアがノックされる。

 

ドアを開けると、満面の笑みで、レオンさんが立っていた。

 

 

 

あたしが渋い顔をしているのは、着せ替え人形にされているからである。何だかフリッツさんにとんでもない発言をされていたプラフタの気分が今更ながら分かる気がする。

 

まあそれくらいは良いだろう。

 

レオンさんが作ってきてくれたのだ。

 

最高の服を。

 

ヴェルベティスを大胆に用い。

 

それでいながら紫が下品にならないように、非常に注意深くデザインを調整してくれている。

 

黄金もそうだが。

 

高貴な色というのは、雑に使うと下品になってしまうのである。

 

分かり易いのが鎧などで。

 

金一色で固めたりすると、それは美しくなくむしろ下品。要所要所で金以外の色も入れないと、ただの下品アーマーと化してしまう。

 

錬金術師の正装は、どちらかというと実戦を想定した動きやすいものだが。

 

この新しい服は、おばあちゃん譲りの帽子にも合わせているらしい。

 

白を基調にして、所々に紫を出し。

 

体の要所を的確にヴェルベティスでガードしながら、その強烈なオーラで服全体も守るように仕上げている。

 

スカートタイプだが、足も守るように靴下も一式で作ってきてくれていて。

 

鏡の前に立つと、白が基本の新しい服に身を包んだ姿が見えた。

 

少しだけ表情もほころぶ。

 

「似合うわ! 良かった!」

 

「はあ、有難うございます」

 

「……ふふ、やっぱりあまり自分を着飾ることに興味が無いのねソフィーちゃん。 いつも同じデザインの服ばかり着ているし、そうだとは思っていたけれど」

 

それはそうだ。

 

あたしはあたしが大嫌いだからだ。

 

容姿なんぞどうでもいい。

 

モニカとこの辺り口論したことも何度かあるが。今でもこの考えは変わっていない。

 

レオンさんは、笑顔のまま。

 

この服をくれると言う。

 

まあ他の人達の装備も強化してくれるらしいので、これはこれで貰っておくとするか。実際に非常に強力な服だ。生半可な鎧なんか、これに比べたら紙屑も同然だろう。

 

レオンさんは咳払いすると。

 

自分の事を話してくれた。

 

 

 

プラフタが茶を出してくれる。

 

レオンさんは茶菓子を持ってきてくれた。

 

あたしはせっかくの新しい服だから、汚さないように気を付けながら、話を聞くが。まあ汚したところで性能は変わらないだろうし、何よりこの纏っているオーラ。汚れなんて水洗いだけで簡単に落ちるだろう。

 

レオンさんは大体予想はしていたが。

 

やはりアダレットの大都市出身のお嬢らしい。

 

資産家としては有名だったらしいが。

 

虚名だったと、レオンさんは顔に影を落とした。

 

「大都市と言っても、いつドラゴンや邪神に落とされるか分からない程度の場所よ。 金持ちや大商人が集まっている其処は、文字通り退廃の坩堝でね」

 

港に面しているその都市は。

 

膨大な魑魅魍魎が蠢く、ある意味荒野より危険な場所。

 

道ばたには明日をも知れない命で、物乞いをする者がいると思えば。

 

バカみたいに着飾った者達が、飾り立てた馬車で香水の匂いをまき散らしながら騒ぎ散らしている。

 

領主は典型的な無能な二代目。

 

公認錬金術師は街の状況をどうにかしようと真面目に頑張っていたが。

 

領主はその足を引っ張るばかりで。そればかりか富を独占することばかり考え。

 

真面目なホムが真面目に商売をするのを鬱陶しがり。

 

公認錬金術師と、いつも対立していたという。

 

「公認錬金術師が何度もドラゴンやネームドを撃退しているのにね。 その無能な領主の腰巾着が私の両親だったのよ」

 

レオンマイヤー家。

 

昔は武門としてならした家だったが。

 

今ではすっかり文弱に成り下がり。

 

その娘の一人であるレオンさん。本名、アメリア=レオンマイヤーは、何もかもに嫌気が差していたという。ちなみに妾腹だったそうだ。

 

馬鹿馬鹿しい舞踏会やら社交界の儀礼。何ら実利の無いお遊びの数々。

 

豊かになれば心にも余裕ができるなんて大嘘。

 

兄弟姉妹で財産を奪い合い。陰湿な嫌がらせを繰り返し。

 

背徳の宴を大喜びで繰り広げる。

 

そんな場所で、レオンさんは「服のデザインの才能がある」と言われて。

 

親が言うままデザインの勉強をした。

 

そして「目の肥えた」金持ちが喜ぶような、使えもしない服ばかりを作らされたという。

 

「服飾が好きだったのは事実よ。 やりがいを感じていたのもね。 でもね、私が作らされていたのは、外に着ていくことさえ出来ないような意味不明な代物ばかり。 デザインというのは行き着くところまで行ってしまうと、実用性から完全にかけ離れてしまうものなのよ。 そんなものを喜ぶ場所に、私は耐えられなくなった」

 

レオンさんは、大きく嘆息した。

 

そして、レオンマイヤー家出身のデザイナーであるという理由だけで。

 

レオンさんは「品評会」で優勝した。デザインが優れていたのでは無く、全て政治闘争の結果だった。自分のものより明らかに全てにおいて優れているデザインの服が、予選で落とされたのをレオンさんは見た。其処には出来レースしか存在しなかった。

 

その瞬間。何もかも馬鹿馬鹿しくなったという。

 

一応武術は身につけていたから生きていく自信はあった。その時は、だ。

 

生活に困らない程度のお金を持ち出すと、家族と縁を切った。

 

こんな馬鹿馬鹿しい場所にこれ以上いられるか。

 

それがレオンさんの本音だった。

 

兄弟姉妹は大勢いたし。

 

資産を奪い合う相手がいなくなる事に、そいつらはみんな大喜びした。

 

親でさえ、レオンに興味を失った。

 

そういう連中だったのだ。今でも、家を飛び出したことに関しては、後悔していないという。

 

街を飛びだしてみると。

 

其処は想像以上の地獄だった。

 

城壁と公認錬金術師に守られているだけだったのだと、実感できたという。

 

「美しいデザイン」など、其処では何の役にも立たなかった。

 

槍を振るって必死に生き延びながら、あらゆる技を磨いた。戦闘技術は「一流の教師」から習っていた筈だが、そんなものは使い物にもならなかった。武門によって知られるアダレットなのに、だ。だから基礎から全てをやり直した。

 

軟弱な胃は、最初から鍛え直さなければならなかった。

 

獣を捌くのを覚えるときに。

 

何度も吐き戻した。

 

今まで食べていた肉をどうやって得ていたのかから知らなければならなかった。

 

荒野しかない世界で、何度も傭兵仲間が死んでいくのも見た。

 

猛獣に喰われる人間も見た。どれだけの強者でも死ぬときはあっけなかった。ネームドの凄まじい脅威も思い知らされた。

 

油断すれば一瞬で命を落とす世界で。

 

それでも、レオンさんは。

 

この世界で、必死に、自分の意思で生きたいと願った。

 

戦闘に適正があったのだろう。運も勿論あったに違いない。

 

戦いを繰り返していく内に何とか生き延びていったが。

 

やがて。傭兵として、難民の護衛の仕事が飛び込んできた。

 

レオンさんは黙々とそれを受けた。

 

その頃には、匪賊退治で人も殺したし。

 

生きるための術はあらかた覚えていた。

 

この世の残酷さを思い知らされ。

 

如何に世界が理不尽かを叩き込まれていた筈だった。

 

だが、どうしてだろう。

 

ドラゴンに街を滅ぼされ、街を焼き出された難民達を見て。割に合わない仕事だとぼやく周囲の傭兵達を見て。

 

何かに火がついた気がした。

 

何のために荒野に出たのか。

 

あらゆる理不尽を叩き込まれて、全てに嫌気が差したからでは無いのか。

 

今、目の前で。

 

戦う力が無い者達が、理不尽に晒されている。

 

昔は知っていても、どうにも出来なかった弱者が。

 

今、世界そのものに蹂躙されようとしている。

 

そう悟った時。

 

レオンは、やさぐれきっていた心に、火が再び点るのを感じた。

 

「それからは、知っての通りよ。 街を経る度に減っていく難民と、それ以上のペースで減っていく護衛。 やがて私とシェムハザさんしか残らなかった。 東の街での話」

 

「そうだったんですね」

 

「私はね、意味のあるデザインがしたかったの。 キルヘン=ベルに来て、死んでいた心が溶けたかと思った。 多分、傭兵としての荒みきっていた私は、ノーライフキングの手下どもとの戦いで死んだのね」

 

無言で話を聞く。

 

勿論あたしはあの時レオンさんのために戦った訳では無い。

 

本当の意味で守らなければならない者達のために戦ったのだし。

 

何より気に入らない奴を叩き潰すためにも戦ったのだ。

 

だが、それがレオンさんの人生に光をもたらした。

 

実際あの時レオンさんの奮闘に救われた人は、今でも彼女に感謝している。

 

それが事実だというのなら。あたしはそれを受け入れる。

 

服は、役に立つ。レオンさんは、今までの礼だと言った。何より、ヴェルベティスほどの素材は、実家でも手に入れられなかったそうである。王室の人間が着るような服に使われる、国宝級の素材なのだそうだ。

 

「だから、提供してくれたソフィーちゃんには最高のお礼。 今後も、切り札として使って行って」

 

「分かりました。 有難うございます」

 

「後も、残さず使い切ってキルヘン=ベルのためにするわ。 やっと、生きてきた意味が出来たのかも知れない」

 

目元を拭うと。

 

レオンさんはもう一度、晴れ着になったあたしを見て。

 

そして、心底から嬉しそうに。

 

微笑んでいた。

 

 

 

数日後。

 

流石に仕事が早いというか。

 

様子を見に行くと。

 

フリッツさん。ジュリオさん。コルちゃん。ハロルさん。それにモニカもオスカーも。見かけた面子は、みんな鎧なり服なりに、あの美しい紫を仕込まれたようだった。それも、最高に良い場所に、である。

 

美しい色は。

 

手垢がつく場所に置いていても、その真価を発揮できない。

 

目立つ場所は裏地に。

 

そしてここぞという所で必要な場所に関しては色を出す。

 

そうすることで、レオンさんは。

 

デザインと実用性を両立させたのだ。

 

モニカも新しい自分の制服に満足しているようだ。元々軽めの装備で戦場に出る事が多いモニカだが。その装備の各所をヴェルベティスががっちり守っている。所々に非常に美しい紫色がアクセントとなって、モニカも満足しているようだった。

 

それと、自警団用に残りの生地も使ってくれたらしい。

 

これでドラゴンに襲われた場合も、対応が更に楽になる。

 

ヴェルベティスで作った防具を身に纏っていれば。

 

あの常識外れの火力を誇るブレスでも、即時陥落という事は無いはずで。

 

しかもこの強大な魔力。

 

相手にとっては非常に目立つ。

 

つまり盾役として、敵の攻撃を一手に引き受けられる。

 

モニカのような実力のある戦士が使えば、敵の注意を引きつつ、他の味方への被弾を減らせる。

 

それに、である。

 

皆、更に装備を軽装にしていた。

 

つまりその分余計に装備を持って行けるか、身を軽く出来る訳で。

 

「常識外の防御力を実現する布」の恩恵は。

 

攻撃面にも現れると言う事だ。

 

ただ、ヴェルベティスの量産は相応に時間が掛かるし、手間も掛かる。

 

あたしはあの光のエレメンタルが、夢の中で言ったことがとても気になる。

 

この不平等でいい加減な世界には理由がある。

 

それを知るべきだ。

 

彼奴はそう言った。

 

わざわざそんな事を言ったということは。

 

邪神には明確な意図があって。

 

あのように、人間を襲っているという事にもなるだろう。

 

ナーセリーも。

 

それが故に滅ぼされたという事になる。

 

ならば知らなければならない。

 

レオンさんの所に出向く。

 

早速新しい服を着ている事を、レオンさんは喜んでくれたが。

 

彼女自身も、自分の服にヴェルベティスを縫い込んでくれていた。

 

これで戦いは更に有利になるとみて良い。

 

光のエレメンタルは言った。

 

更なる災禍が襲うと。

 

それならば。これくらいの備えはしておかなければならないのである。

 

「どう、その服の着心地は」

 

「最高ですね。 ただこのヴェルベティス、量産には相当に手間も掛かりますし、更に増やすのは落ち着いてから、になります」

 

「その時はまた持ち込んでね。 作れる分だけ服を作るから」

 

「はい」

 

レオンさんも笑顔である。

 

そして、やはり成し遂げたからか。

 

満足そうに、自分の服について聞いて来た。

 

前からあたしはオシャレには興味が無い。

 

だからデザインは実用性しか見ていない。

 

レオンさんが着ている服は、以前は血の汚れが取り切れていない皮鎧だったり。此処で新調したドレスを意識した皮鎧だったりしたが。

 

今は、ドラゴンの鱗を使った鎧に。

 

スカートをあしらった布地をつけて。

 

足下も旅人の靴で固めている。

 

旅人の靴の速度と。

 

皮鎧に貼り付けたドラゴンの鱗。

 

それにヴェルベティスを要所に使う事で。

 

早さと機動力を両立し。

 

なおかつ美しく自分を立てる。

 

そういう目的なのだろう。

 

デザインの良し悪しについては、正直分からないが。

 

ただ、実用的ですねと答えておいた。

 

レオンさんは、満足げに頷くと、付け足した。

 

「でもそれだけじゃあないのよ。 実用の極限の先には美しさがあるの。 何だかやっと私は、これで本当のデザイナーになれた気がする」

 

「今までも服飾で随分街に貢献してきたし、レオンさんの服に文句を言う人なんていなかったじゃないですか」

 

「ふふ、それはね。 単に当たり障りが無いデザイン選んで、なおかつ好みをきちんと調査して、それに沿った服を作っていたからよ。 私のデザインなんて、服には本当は欠片も出ていなかったわ」

 

レオンさんは案外謙虚だ。

 

というか、嘘だらけのこの人の故郷の人間達の言葉でも。

 

デザインセンスがある、というのだけは本当だったのだろう。

 

「品評会」とやらでの欺瞞がレオンさんを怒らせたのも。

 

実際には、彼女はセンスに自信があって。

 

それ故に本当にデザインというものを愛していて。

 

自分よりも優れた服を作った人間を冒涜し。政治闘争の材料にした家族を見て、心底から頭に来たから。

 

なのではあるまいか。

 

それに、確か好みに合わせて、相応に「しゃれた」服もデザインしていた筈。

 

だがレオンさんの言葉からして。

 

それはデザイナーの個性が出るようなものではなく。

 

単純に基礎的知識を使っただけの。

 

本当に当たり障りの無い組み合わせだったのかも知れない。

 

「今後、レオンさんはどうするんですか?」

 

「この街に残るわよ。 ああ、コルネリアちゃんの商会には入るつもり。 私のブランドを新しく立ち上げて、それで売ろうと思っているわ。 金持ちが喜ぶような実用性皆無の服じゃ無くて、誰でも買えて、しかも実用性があって、それでいながら美を追究できるデザインの服をね」

 

「それは、楽しそうですね」

 

「ええ。 貴方のおかげ。 結局私、傭兵として槍を振るうよりは、この方が性にあっていると思う。 それにこのデザインを私がした事を故郷の家族が気付くことも無いだろうし、お金持ちだけを対象にした服なんて売るつもりも無いから、どうでもいいわ」

 

くつくつとレオンさんは笑った。

 

改めて見ると。

 

彼女の顔には、細かい無数の傷跡など、苦労がうかがえた。

 

普段は綺麗に整えているが。

 

今は本当に嬉しいからか、油断が少し出てしまっているのかも知れない。

 

勿論彼女は若くて美人だが。

 

それでも、こういう素の姿が見られるのは、とても嬉しいことでは無いのだろうか。

 

せっかくなので、たまには服でも買っていくか。

 

プラフタの分の服も、ヴェルベティスで強化してもらってはいるが。

 

着た切り雀では可哀想だろう。

 

人形の体で代謝がないとはいえ。

 

プラフタの魂は人間なのだ。

 

それに私とは違って、オシャレにも興味はあるだろう。

 

「プラフタ用の普段着をいただけますか? 何着か」

 

「ええ。 サイズは分かっているから、数日以内に作るわ」

 

「お願いします」

 

一礼すると、あたしはアトリエに戻る。

 

レオンさんは大丈夫だ。

 

この街に残ってくれるという事は、モニカと並ぶこの街の守護神として、当面活躍してくれるだろう。有事の際には、必ず力になってくれるに違いない。

 

それにしても、金持ちの実情か。

 

深淵の者の長。

 

ルアードと言ったか。

 

ルアードの言葉を思い出す限り、腐敗した役人や商人は、片っ端から粛正している様子だが。

 

それでもまだ残っているものなのだな。

 

もしもルアードが手を下して、現在を無理矢理造り続けていなければ。

 

今世界はどうなっていたのだろう。

 

二大国による安定などは存在せず。

 

まだ多数の都市国家がいがみ合い。

 

生臭坊主が政治に関与し。

 

腐敗官吏が匪賊と結託し。

 

匪賊は小さな村を荒らし回り。

 

錬金術師はそれらを鼻で笑いながら、平然と根絶の力に手を染めていたのではあるまいか。

 

それを防いだ現在でも。

 

まだまだ汚染は彼方此方に残っている。深淵の者は恐らく義憤に駆られてこの世界を変えている筈だ。だが、それでも現在さえ無いと断言するのは。こんな状況でも、摘んでも摘んでも出てくる邪悪に嫌気が差しているからではあるまいか。

 

何だか笑えてくる。

 

レオンさんは、満足そうにしている。

 

腐りきった家から離れられたのだ。今、本当の意味で。

 

あの人が、あたしにある程度の理解を、一定の距離を保ちながらも持っていたのは。

 

恐らくは、実家がそんなだったから、なのだろう。

 

なるほど。

 

陽気なあの人にも、そんな影があったか。

 

一歩間違えば、あたしと同じ。

 

全身を血に染めた、修羅の路を歩き続けることになる人だったのだろう。

 

失敗していたら、匪賊にまで落ちていたかも知れない。

 

だが、あの人は。

 

運良くこちら側に戻ってくる事が出来たのだ。

 

さて、戻るか。

 

例の錬金術の装備品。

 

あれを仕上げてしまわないといけない。

 

恐らく後数日もあれば完成させられる筈だ。

 

ヴェルベティスを纏い。

 

ハルモニウムを牙として。

 

更に自分の能力を極限まで引き出せるようになれば。

 

今までとは比較にならないほど簡単に。

 

ドラゴンとも邪神とも渡り合えるようになる筈。

 

その時こそ。

 

人類が反撃に転じるとき。

 

この街が如何なる災いに襲われようとも。

 

叩き潰し。

 

はねのけてみせる。

 

そう、それは圧倒的な。根絶の力などでは無い、外法では無い圧倒的な力によってだ。

 

あたしは、誰も見ていない所で。

 

凶暴な笑みを浮かべていた。




ソフィーも思わず大満足する性能をたたき出す最高位素材の装備。

しかし更に先を目指すのです。
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