暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
お披露目会に使う森の奥で。
プラフタとモニカに立ち会って貰いながら、新しく作った装備品を試す。
ちなみに装備品には。
アンブロシアの花冠と名付けた。
形状的には鉢金と、それを頭に着けるためのヒモなのだが。
このヒモの部分に、美しい赤い花が咲き誇っている。
この花が、非常に頑丈で。
まず散ることが無い。
というか魔術で徹底的にガードしているので。
生半可なブレスくらいでは散ることも無いだろう。
マイスターミトンを一とする、ブーストアップに使う装備品を全て外し。
更にレオンさんが作ってくれた戦闘衣ではなく、普段着に替えた後。
拡張肉体のサポートまで切って。
素の自分だけの状態にする。
モニカは見ていて不安そうだったが。
あたしは最初には、自分で実験をする。
どうしても専門職の手が必要なもの以外は。そうするのが筋だと、あたしは考えていた。そしてその筋は絶対に通す。
それがあたしなりのやり方だ。
アンブロシアの花冠だけを頭につける。
同時に。
全身の箍が外れるのが分かった。
呼吸を整えながら。
軽く踏み込んで、杖を振るう。
岩が木っ端みじんになる。
ハルモニウムで強化している杖とは言え。
この火力は、あたしの素の身体能力だけでは出せない。
体へのダメージは感じない。
日光がわき上がるような力になり。
そればかりか、体が壊れる限界ぎりぎりまで力を出しながら。
それによって掛かる無理が、瞬時に回復し続けているのも実感できた。
流石にドンケルハイトを用いる装備品だ。
これは本当に使える。
続いて砲撃。
杖を構え、詠唱をするが。
これについてはサポートもいらない。
普通に素の砲撃をするが。
魔力も大幅にブーストアップが掛かっている。
ターゲットにした、家よりも大きなクズ石材が、木っ端みじんになり。
無言でモニカが壁を展開。
飛んできた石材を防いだ。
爆炎が辺りを覆い尽くす。
壁を避けて左右に拡がった爆炎は。
森の手前まで届くほどだった。
此処は結構広い空間なのに。
拡張肉体を使って倍率を上げていない砲撃でこれだ。素晴らしい、としか言いようがない。
ただ、森を傷つけたら大変だったので、其処はひやっとしたが。
光のエレメンタルを焼き尽くした時同様、無茶苦茶に体中の力を絞り上げているのだ。壊れない程度に。
それでいながら、体のダメージは逐次回復してくれている。
これをつけつつ、生命の蜜を口に含み続ければ。
生半可な傷では死なないと断言しても良いだろう。
というか、休む場合は、後方に下がってじっとしているだけで、体力を一気に回復してくれる筈だ。
素晴らしい。実に素晴らしい。これぞまさに錬金術の力だ。
思わず、あたしは。
凄絶な笑みを浮かべていた。
これならば、光のエレメンタル相手に楽勝、とまでは行かないにしても。
少なくとも風のエレメンタルが相手なら。
多分自警団の総力を挙げなくても。
いつもの面子だけで倒せる。それも、総力戦ではなくとも、だ。
更に、である。
他の装備品もつけて見る。
他の装備品は、元の能力を倍増しにするタイプの強化を行うが。
アンブロシアの花冠は、元の能力を極限まで引き出す。
故にその効果はバッティングしない。
更に倍率が掛かる身体能力。
なるほど、全盛期プラフタが単独で邪神とやりあえる訳だ。
当然全盛期プラフタはあたし以上の腕の錬金術師だった訳で、更に効果が高い装備品で身を固めていただろう。
使っている爆弾ももっと火力があった筈。
魔術は使えなかったらしいが、そんなものは拡張肉体でどうにでもなる。
軽く動いてみる。
今まで以上に速く。
そして力強く動ける。
ただ、あまりにも速く動けすぎるので。
いきなり実戦投入するのは危険だ。
人間が出来る動きの限界を軽く超えてしまっている。
歴史に残るような戦士達でさえ。
素の身体能力で、此処までのものを発揮する事は出来ないだろうし。
彼らの絶技でさえ。
ヴェルベティスで固めた状態の錬金術防具を貫くことは出来なかっただろう。
満足だ。
その後は、普段着から戦闘衣に変えて。
それで実験もしてみる。
あたしに対して、モニカに斬り付けて貰うが。
弾くようにして剣撃は防がれた。
徐々に剣撃の威力を上げて貰う。
ハルモニウム製の刃だというのに。
そもそも通らない。
普通剣で斬られると、ざっくり行かなくても鈍器で殴られるのと同様のダメージが来るのだけれども。
ヴェルベティスはそれさえも吸収し。
溶かすように消してしまっているようだった。
徐々に本気になるモニカは、得意とする刺突も交えて攻撃してくるが。
あたしは棒立ちのままそれを防ぎきる。
呼吸を整えながら。
モニカは肩をすくめた。
「降参よ」
「爆弾も試してくれる?」
「ちょっと、本気?」
「それならば、私がやる」
不意に場に入り込んでくる声。
エリーゼさんだ。
光のエレメンタル戦でも、彼女は珍しく出てきてくれた。というか、普段は守りの要員として本屋に籠もっている彼女でさえ。出なければならないほどに危ない状態だったのだ。
熱を扱う魔術に関するスペシャリストであるエリーゼさんにも。
当然自警団から、あたしが作った装備類が支給されている。
彼女は肉弾戦こそ得意ではないが。
それはあくまで魔術に比べて、の話であって。
レオンさんが軽蔑していた、堕落しきっていた昔は武門の一族だった連中やら、それがやとった「一流の教師」やらよりは、遙かに強いだろう。
プラフタが頷く。
そういう事か。
声を掛けてきてくれたのだろう。
「では、お願いします」
「まずは弱火から」
詠唱しつつ、エリーゼさんは舞うようにして体を動かす。
詠唱の仕方は人それぞれ。あたしは殆ど動かずに、最低限の詠唱だけをするが。敢えて戦舞を取り入れることで、魔術の火力を上げる人もいる。というか、魔術は精神に影響を結構受けるので、本人が「かっこよさそう」とか思うやり方で魔術を使うと、火力が上がったりするものなのだ。あくまで「わずか」にだが。だがその「わずか」が、意外とバカにならなかったりもするのである。
ばちんとエリーゼさんが指を鳴らす。
本屋をしているからか、彼女は結構力強く指を鳴らした。
本は重いのだ。
あたしの体を、紅蓮の炎が包み込む。
だが、そよ風である。
炎が収まると。
焦げ目さえついていない、ヴェルベティスで守られた服と装備品の数々。勿論花冠の花も散っていない。
頷くと、エリーゼさんは、先の三倍ほど時間を掛けて、火力を上げた術式を展開する。
文字通り、炎の柱が。
一瞬で魔術で守られていない人間なら消し炭にしてしまう程の火力の炎が。
あたしを包む。
多少息苦しいかな。
そう思ったくらいだ。
勿論熱くなど無い。
肌が露出している部分もあるが。それはヴェルベティスに仕込んでいるものや、他の装備品の防御魔術が悉く防ぎきっている。
術式の展開が終了。
満足そうにエリーゼさんが頷く。
あたしの周囲は、溶岩がぐつぐつ言っていたが。
全然平気である。
というか、そもそもだ。
ドラゴンのブレスにしても邪神の使う攻撃にしても。
この程度の火力ではなかった。
つまりこれに耐えられないようでは。
上位次元からの攻撃を防ぐなんて、夢のまた夢と言う事である。
エリーゼさんが、聞いた事のない呪文を呟く。
これは、切り札を出すつもりか。
魔術師には切り札を持っている人が時々いるが、エリーゼさんも街の未来のために、自分のジョーカーを切ってくれるつもりになったのだろう。
詠唱もまったく聞いたことが無い。
ガードしようかなと思ったが、敢えてそのまま受ける事にする。
モニカが慌てて、全力で壁を展開。
プラフタもその影に退避する。
エリーゼさんは詠唱を終えると。
印を切った。
「焼き尽くせ」
その言葉は、むしろ静かだったのに。
その後の火力は、途方もない代物だった。
炎の鳥が、一直線に此方に突っ込んでくる。あたしはノーガードで受けたが、凄まじい圧力で押し返される。
流石にそのまま棒立ちで、微動だにせず、とはいかないか。
素の状態なら兎も角、エリーゼさんも散々能力を強化している状態なのである。
炎の鳥はあたしを包み込みながら、一気に実験場の隅まで押し出したが。
やがて、静かに消えていった。
エリーゼさんは、肩で息をつきながら、残心している。
ゆらゆらと、凄まじいカゲロウが視界を覆う中。
それが何処か遠くの出来事のように見えた。
あたしも呼吸を整える。
炎に包まれている間、息は出来なかった。
まあそれはそうだろう。
炎は防げても。
息が出来るかは別の問題だからである。
これは何かしらの工夫が必要かも知れない。
「エリーゼさん、ありがとうございました」
「いいえ。 これでキルヘン=ベルは鉄壁と化したと思うし、それを実感も出来た」
頷く。
勿論まだまだあたしの実力から考えて、更に上を目指せる。
光のエレメンタルと今の状態でやりあって、楽勝かと言われればそれは否だ。
しかしながら、これならば。
もはや下位のドラゴンであれば、真正面から殴り合っても勝てる。
不完全状態の光闇以外の下位邪神なら。
叩き潰す事も難しくない。
プラフタは本を借りる関係上、エリーゼさんに声を掛けやすかったのだろう。あたしは実験のお礼に、この間コルちゃんから譲り受けた歴史書をアトリエから持ってきて渡す。レシピの参考になるかと思って購入したのだが、もう読んだしいらない。逆にエリーゼさんには欲しいものだろう。
満足げに頷くと。エリーゼさんは本を持ち帰っていった。
さて、後は。
お披露目会か。
モニカと一緒にカフェに出向く。
このアンブロシアの花冠、主力となる人員分は用意できる。しかしこれは匪賊に流出でもしたら、大変な事になるとみて良い。
文字通りのバランスブレイカーだ。
これを装備しただけで、並の剣士が、それこそ伝説に出てくるような戦士並みの実力を得る事になる。
あたしとホルストさんで、徹底的に丁寧に管理していかなければならないだろう。
光のエレメンタルは言った。
いずれあたしは、真実を知らなければ世界にとっての災いになると。
だからこそ、あたしは己の運命と向き合い。
真実を知らなければならない。
それには貪欲なまでの渇望が必要だ。
力を得て。
それで敵をねじ伏せる。
どうせこの様子では、まだまだ災厄は訪れるだろう。
カフェで、お披露目会の話をして、顔役を集めて貰う。
その間、テスさんの淹れてくれたお茶を口にしながら。
あたしは、今後更に力を付けるにはどうするべきか。
黙々と考えていた。
(続)
光のエレメンタルとの戦闘を制したソフィー。
既にその力は、高みへと……文字通り世界を変える所へと至ろうとしていました。
それはもはや、限定的ながら神の力と遜色ありません。
世界の法則に関与する神の力と。