暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、準備の時

魔界に深淵の者幹部が集まる。

 

定期報告の時期が来たからである。

 

今回は、キルヘン=ベルに常駐させているメンバーの一人。普段は滅多に定期報告に姿を見せないパメラが来ている。

 

それだけ重大なことがあった、という事だ。

 

イフリータが不安になったのは、まだアトミナとメクレットが来ていないことだが。

 

程なく二人も姿を現した。

 

普通は遅れることもないのだが。

 

何かあったのかも知れない。

 

魔王の膝元にいつものように二人が座ると。

 

会議が始まる。

 

「それでは、報告を開始してくれ」

 

「それでは私から」

 

パメラが挙手。

 

実は、パメラの素性はイフリータも良く知らない。

 

深淵の者の創設メンバーの一人で。

 

主である二人が、錬金術師プラフタと決別したあの時には、その場を外していたことだけしか分からない。

 

通称「幽霊」。

 

実際問題、肉体が無いのでは、と言われている不可思議な存在で。

 

外法を使わずリッチやそれに近い存在になった、規格外の者である、という噂もあるのだが。

 

その場合、聖歌を聞いても平然としているわ。

 

神聖魔術を自分で教えているわで。

 

文字通り規格外にも程がありすぎる。

 

善良だろうが何だろうが、ターンアンデットを受ければひとたまりも無いのが霊の特徴であり。

 

もしも本当に霊かそれに類する存在なのだとしたら。

 

彼女は桁外れ過ぎるのである。

 

「ソフィーちゃん達が光のエレメンタルを倒し、更にヴェルベティスの開発に成功しました。 それと同時に、全身の潜在能力を全て引き出す道具の開発にも成功したようです」

 

「成長速度が凄まじいな」

 

「まだ十代半ばと聞くが……」

 

幹部達が驚きの声を上げる。

 

今まで、深淵の者は、錬金術師を多く組織に取り込んできたし。

 

接触を持ってもいる。

 

有望そうな錬金術師には、慎重に接触して声を掛けてきたし。

 

何よりもこの世界を変えるには錬金術が必要不可欠だ。

 

それもあって、誰もが錬金術には強い興味を持っているし。

 

古参幹部は、錬金術師がどれくらい凄いのかを、話を聞けばすぐに理解する事が出来る程である。

 

「不完全状態とは言え光のエレメンタルを沈めるとはやるね。 それで、例の二体は?」

 

「まだ斥候が補足する位置までは到達していないようですよ」

 

「そうか。 いずれにしても、その実力にまで達しているなら、遅れを取る事はなさそうね。 もっとも、戦う意味もないけれど。 状況に応じて牽制しておきなさい」

 

アトミナが次、と言う。

 

イフリータが立ち上がると。

 

アダレットでの一件を報告する。

 

勿論報告には感情を入れない。

 

アンネローゼに勧誘を掛けたが、拒否されたことも報告するが。

 

アトミナはそうでしょうねと、一刀両断だった。

 

「アルファとシャドウロードによって綺麗に浄化作戦は完了しましたが、やはりあれほどの錬金術師が邪悪の跋扈を見逃していたことだけが解せません。 彼女にはこれからも深淵の者へのスカウトを続けようと考えております」

 

「無駄だと思うわよ」

 

「理由をお聞かせ願いたく」

 

「どんなに相手が鬼畜外道であっても、話が出来ると考える人間は一定数いるの。 アンネローゼはね、命を賭けてきれい事をするタイプで、モロにそれに当てはまるのよ」

 

勿論アンネローゼは、自分なりのやり方で、ずっと説得を続けていたはずだと、アトミナは言う。

 

それに対して、アルファが報告書を出してきた。

 

どうやらアダレットが首都に送ったものの写しであるらしい。

 

仕事が早い。

 

というか、アダレットの首脳部の奥深くまで、深淵の者の手が伸びている、というだけだが。

 

「アンネローゼ殿と粛正した領主は、何度も対談の場を設けて、税の負担軽減と、街の状態改善について話しあっていたようなのです。 領主はそもそもアンネローゼ殿の提案を理解せず、その腰巾着は鼻で笑うばかりであったようなのですが。 それでも根気よく説得と、街の整備についての案を出し続けていたとか」

 

「無駄な努力をするものだ……相手は荒野に住まう匪賊や獣以下の畜生ぞ」

 

「それでも人間、と考えていたのよ、あの子は。 尊敬には値するけれど、私達とは相容れない」

 

「……」

 

そうか。

 

何となく理解出来た。

 

相容れないのは、思想と言うよりも。

 

生き方なのだろう。

 

イフリータは愚直に、深淵の者で、武人として生きてきた。

 

邪神との戦いも経験したし、ドラゴンも討伐した。

 

社会に巣くう邪悪も、何度も容赦なく叩き潰してきた。

 

魔族として誇りある生き方をしてきたつもりだ。

 

だが、それでも、同族を殺してきたことには代わりは無い。

 

それについて、言い訳をするつもりもない。

 

アンネローゼは、その生き方そのものが違うと言う事なのだろう。悩ましい話だ。だが、諦めきれない。

 

いずれどうにかして。

 

深淵の者に協力して欲しいものだが。

 

次の報告に移る。

 

イフリータは席に戻り、今度はヒュペリオンが報告を開始した。

 

「ラスティンの首都近郊で、また村が一つ壊滅しました。 ドラゴンによるものです」

 

「またか。 活発化しているな」

 

「既に討伐隊は編成しております。 ティオグレン殿が率いる部隊で、被害を出さずに倒せるかと思いますが」

 

「俺も参加する」

 

イフリータが立ち上がると。アトミナとメクレットは許可してくれた。

 

どうももやもやが晴れない。

 

戦いに赴きたい。

 

次の報告。

 

アダレット王家についてだ。

 

アダレットの王家を監視に当たっている幹部が、報告をしてくれる。

 

「アダレットの現国王は、どうやら増税こそ諦めたものの、庭園趣味を更に加速させるつもりのようです。 何カ所かの部署から予算を削り、首都の庭園化を進めています」

 

「重臣達は?」

 

「既に現国王に関しては、増税と軍備の削減さえしないならと諦めている様子です。 暗愚ではありますが、有害ではありませんし、削減した予算に関しても目を瞑れる範囲だと考えているようです」

 

「ふむ……」

 

愚かな国王か。

 

アダレットの場合、次の世代が期待出来るから、重臣達は我慢している、という側面もあるのだろう。

 

国王の子供は正室との間の双子だけ。

 

この双子の姉が、まだ若いのに歴代アダレット王族の中でも屈指の切れ者と評判で。実際に非常に優秀である事は現在既に確認済みである。多分だが、深淵の者とのアクセスを騎士団に指示したのも彼女だろう。

 

神童も二十歳過ぎればただの人、等という言葉もあるが。

 

これに関しては、普通に二十歳を過ぎても能力を維持するだろうと、多くの人間を見てきた深淵の者の分析班も判断している。

 

一方双子の弟は、姉に全ての才能を吸い取られたようなボンクラだが。

 

次期国王になるのは姉だと既に暗黙の了解になっており。

 

更にこの弟には野心はなく。

 

此奴を担ぎ上げて国政を壟断しようというような輩は全て深淵の者で駆除済みなので。

 

当面アダレットに問題は起きない。

 

問題があるとすれば、復活が始まっている雷神ファルギオルだが。

 

此奴に関しても、その気になれば不思議な絵画を使って、今丁度アトミナとメクレットが膝元に座っている魔王をぶつければ良い。

 

前回とまったく同じ展開になるとは当然限らないが。

 

魔王は前回とは比較にならないほど強化している。

 

魔族や人間の魔術師の称号としての魔王ではなく、対神生物兵器としての魔王は。

 

改良に改良を重ね。

 

今や以前とは別物と言って良い。

 

不思議な絵画によって封じ込みさえすれば。

 

上位邪神であるファルギオルでさえ、それほど危険な相手にはならないだろう。

 

「国王については監視を続けてくれるかな」

 

「御意。 重臣達の制御が効かなくなるようなら、駆除の準備をします」

 

「そうして頂戴」

 

アトミナの言葉と共に、幹部が下がる。

 

今度はラスティンについてだ。

 

ラスティンの首都では、現在公認錬金術師試験の改訂が考えられているようだが。現時点で充分に難しい事もある。

 

無駄に難しくしても意味はないし、何よりこの世界には決定的に腕利きの錬金術師が足りていない。

 

公認錬金術師が、それぞれ千人規模の街に一人でもいれば。

 

ドラゴンやネームドによる被害は、三分の一以下に抑えられるという計算も出ている。

 

元々ラスティンは政治に関してはあまり有能では無く。

 

首都近郊のインフラすら寸断されている有様で。

 

何処に予算をつぎ込めば良いか。

 

どう人材を動かせば良いか。

 

理解出来ていない節がある。

 

「まあ即座に介入する必要はないだろうね。 それよりも、ラスティンにはドラゴンや邪神に対応する即応部隊の整備をするように圧力をかけ続けて」

 

「は。 今まで以上に圧力を強めます」

 

後幾つかの報告がなされ。

 

会議終了。

 

だが、今回の会議は、それでは終わらなかった。

 

二人が。

 

アトミナとメクレットが立ち上がる。

 

「それでは、今回皆に集まって貰った理由を説明しようと思うんだけれど、良いかな」

 

「仰せのままに」

 

「実はね、そろそろ一度戻ろうと思っていて」

 

「!」

 

視野を広げ。

 

視点を増やすため。

 

ルアードだったこの二人は。今までずっと二人でいた。

 

しかし袂を別った錬金術師プラフタが記憶を取り戻し。

 

その弟子ソフィーが邪神を倒せる程にまで成長し。

 

そして今、此処に五百年ぶりの問答が再開されようとしている時に。

 

二人のままでいる意味はない。

 

全員が頭を下げる中。

 

二人は魔法陣の真ん中に歩いて行く。

 

何人かの錬金術師が、拡張肉体と、様々な道具を使い、魔法陣を起動。

 

二人の姿が。

 

瞬時にかき消え。

 

そして、光が収まると。

 

其処には、一つの影があった。

 

体をフードで隠し。

 

全身から無数の触手を生やし。

 

顔をマスクで覆い。目元だけを露わにしている者。

 

愚かな連中から「醜悪のルアード」と呼ばれ、忌み嫌われながらも。世界をよくするために尽力し続け。

 

それでも理解されず、迫害され続け。

 

暗殺未遂まで起こされ。

 

なおも人を信じ続け、裏切られた者。

 

竹馬の友でさえ、その側を去った。

 

それから500年。

 

あの時に失った力はとうに回復している。

 

そして、これから。また竹馬の友と再会し。その後は、問答の続きをしなければならない。

 

ならば二人に別れていた時間は一度終了だ、と言う訳か。

 

重々しく。威厳のある声。

 

周囲に響き渡るそれは。

 

嗚呼。

 

盟主として仰いだ時のままだ。

 

「皆、これからはこの姿として活動する。 ずっとこのままでいるかは分からない。 だが今までの皆の苦労を私は忘れたつもりは無い。 世界のために皆は身を粉にして働き続けてくれた。 それに私は、500年で得た結論と共に、プラフタと向き合い。 その後方針を決めようと思う」

 

「恐れながら」

 

アルファが顔を上げる。

 

普段基本的に自分から話を始めない彼が珍しい。

 

主であるルアードは当然許す。

 

この方は、世界を裏側から動かし続けてきたが。

 

決して暴君では無い。

 

感情にまかせて雑な粛正をした事は無い。

 

念入りに常に調査を行い。その結果必要と判断した分だけ血を流し、世界を良い方向に変え続けて来た。

 

だから此処の幹部全員が。

 

全幅の忠誠を捧げているのだ。

 

「500年に達する苦闘の末に、既に結論は出ているかと思うのです。 この世界に未来はありません。 ならば未来を消費してでも、新しい世界を作るべきなのです」

 

「アルファ。 確かに400年を共に過ごした君の意見は即決で破棄するべきではないだろう。 しかしプラフタは私が知る限りこの世界の真理に最も近づいた錬金術師の一人でもある。 そして根絶の力は、やはり外法である事に違いは無いのだ。 ならば、もう一度話し合いをきちんとして、その末に全てを決めたい」

 

「主らしくもないのです。 これまでの500年を、たった一度の話し合いだけで、覆せるとは思えないのです」

 

「諌言は実に耳に痛い。 しかしながらアルファ。 この世界は不平等なのだ」

 

むと、アルファが口をつぐむ。

 

イフリータもそれは別っている。

 

この世界がどれほどいい加減で不平等かは。

 

此処にいる誰もが知っている。

 

プラフタの側にはソフィーがいる。

 

調べれば調べるほど規格外の実力者だ。

 

才覚で言えば、恐らく史上最高だろうと、分析の結果も出ている。この世界に誕生した、究極の錬金術師になる存在だとも。

 

ならば、そのソフィーと過ごしたプラフタの言葉ならば。

 

500年の時を経た今でも。

 

聞く価値があるのではあるまいか。

 

アルファは少し考えた後。

 

なおも食い下がる。

 

珍しい。

 

普段は黙々淡々と従う真面目な彼だ。

 

こうも主に諌言すると言う事は。

 

余程過去の事が、色々と据えかねているのだろう。

 

「主。 そもそも分からないのです。 この世界最高の素質を持つ人間の元に、どうして主が認める最高の錬金術師が、魂の宿った本という形で流れ着いたのか」

 

「実は、仮説は出ている」

 

「お聞かせ願いたいのです」

 

「実は、本に最初から魂が宿っていたのでは無い、と私は判断している」

 

皆が注目する中。

 

主は、魔術で無数のデータを空中に展開する。

 

それらの中には、膨大な数字に混じって。

 

あるデータが、推移していく様子が書かれていた。

 

その数字は。

 

一定のパターンを示す波。

 

それがずっと移動をし続けて。

 

やがてある場所に定着した。

 

キルヘン=ベルである。

 

「プラフタは恐らく、悟っていたのだろう。 実際問題として、この世界には未来がないことを。 ならば、未来が作れる人間を探して、ずっと魂のまま彷徨っていたのだ。 そして見つけた……」

 

「それがソフィー=ノイエンミュラーなのです?」

 

「そう判断して良いだろう」

 

「なるほど。 それならば、納得できるのです」

 

そんな分析も進めていたのか。

 

流石は主だ。

 

イフリータは、更に説明を受ける。

 

「ソフィーは今、アトリエに籠もって何かの作業を始めていると聞いている。 恐らくは賢者の石の作成だろう」

 

「賢者の石!」

 

「そうだ。 低品質のものは作成例があるが、高品質のものになると作成例がない。 もしもこの始原の錬金釜と、錬金術の奥義である賢者の石が合わされば……」

 

おおと、イフリータは思わず声を上げてしまった。

 

創造神を引きずり出すことが出来る。

 

奴を面罵できるかと思うだけで。

 

高揚に身が震えた。

 

アルファが代表して、不満を口にしてくれたので。他の誰も、もう文句を言うつもりは無い様子だった。

 

それでいい。

 

イフリータも、充分に満足した。

 

会議が終わる。

 

主に一礼すると、ドラゴン退治部隊に加わる。

 

ラスティンは優れた錬金術師を有しているが、どうしても即応体制にある機動部隊というのを編成するのが苦手らしく。公認錬金術師に街を任せてそれっきり、という事態が目立つ。

 

そうなってくると、公認錬金術師がいない街や。

 

公認錬金術師でも手に負えないドラゴンやネームド、更に邪神が出た場合は。

 

想像を絶する被害を出してしまう。

 

故に深淵の者が尻ぬぐいをしてきた。

 

今回もそれは同じだ。

 

現地で、ドラゴンに相対。

 

中位ドラゴンのゴルドネアである。

 

黄金に輝く鱗を持ち。

 

圧倒的な防御力で力押ししてくる強力なドラゴンだが。

 

しかしながら、此方は上位次元からの干渉を可能にしている。

 

瞬く間に上位次元からの干渉ネットでゴルドネアを押さえ込み。

 

そのまま情け容赦なく攻撃を叩き込み。

 

反撃さえ許さずミンチにする。

 

解体するのは専門の班に任せ。

 

イフリータは討伐部隊の残りを率いて、生き残りを探す。生き残った者は、近くの安全な街や、此処からだと近いラスティンの首都に送り届けるのだ。

 

だがドラゴンの火力に晒された村の場合。

 

ほぼ生き残りが出る事は無い。

 

村は悲惨な有様で。

 

殆ど消し炭になっていた。

 

ラスティン首都近郊は、複数のネームドが跋扈もしており。

 

街道にまで匪賊が出る。

 

此処に辿り着く過程だけで、公認錬金術師を目指している者が、何人も命を落とすほどであり。

 

一部では白骨街道とまで呼ばれているほどだ。

 

「生存反応無し」

 

「そうか。 黙祷」

 

「……」

 

皆で死者に黙祷を捧げた後。

 

解体したドラゴンの素材を回収し、帰投する。

 

誰にも見られてはいない。

 

恐らくラスティンのドラゴン討伐部隊はまだ編成に手間取っているか。

 

下手をすると、村が襲われ、壊滅した事さえ知らないのだろう。

 

理不尽な世界。

 

だが、それも間もなく終わる。

 

主があのルアードの姿に戻ったという事は。

 

500年の苦闘が報われるという事だ。

 

勿論、プラフタが自分の間違いを認めるとは思えない。

 

だが即決で否定もしないはずだし。

 

何より、これだけの年月を掛けて安定させた世界を否定する事は、誰にだって許されることでは無い。

 

仮に意見が対立したとしても。

 

必ずや主ならどうにかしてくれる。

 

そうイフリータは確信していた。

 

魔界へと戻る。

 

さあ、もうすぐだ。

 

もうすぐ、世界は。

 

変わる。

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