暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、滅びの二尾

山の麓に来た。

 

旅人の靴を使ったからあっという間だ。

 

この山は、周辺地図で×印を着けられている地域。つまり危険すぎるので立ち入り禁止にされている場所だ。

 

理由は一つ。

 

得体が知れない建物があるのだ。

 

まるで、上から落ちて潰れたような建物。

 

周囲には文字通りぺんぺん草も生えておらず。

 

獣さえ近寄らない。

 

匪賊の類が、金目のものを探して中に入ることが多いらしいが。一人も生きて戻ってくる事がない。

 

少し前から、時間が出来たら調べに行こうと思っていたのだが。

 

丁度良い機会だ。

 

ドラゴンどもを処理したら。

 

あの建物も調べておくとしよう。

 

だがドラゴンどもの様子がおかしい。

 

確かに青いのと赤いのがいるが。

 

手をかざしているプラフタが、妙だと言うのである。

 

「見た事がない種類のドラゴンです。 シルヴァリアでもゴルドネアでもない。 亜種とも違うようです」

 

「まさか上位のドラゴン?」

 

「いえ、それにしては感じる力が小さい。 上位のドラゴンになると、中位の邪神に匹敵する力を持つ個体がいますが、どちらも精々中位のドラゴン程度の力しか感じませんし、それも大した力では……」

 

つまり下位の邪神以下、という事か。

 

更に言うとおかしな点は他にもある。

 

二頭のドラゴンは、じっと何かを見つめ続けている。

 

その視線はキルヘン=ベルの方向に向いているが。

 

微妙にずれているようにも思える。

 

東の街か。

 

いや、コンパスと地図で調べて見るが違う。

 

ナーセリーか。

 

それも違う。

 

だとしたら、一体何だ。

 

「相手の体勢が整う前に奇襲を仕掛けたいけれどなあ」

 

「いや待て」

 

フリッツさんに止められる。

 

ドラゴンの戦闘力は、以前のドラゴネア戦で充分に見ている。

 

この人でも慎重になるのだ。

 

光のエレメンタルを下し。装備も著しく強化しているとは言え。ドラゴン二匹を同時に相手にするのは避けたい。

 

出来れば分断して各個撃破したい。

 

そうフリッツさんは言う。

 

妥当な判断だ。

 

だが、二匹はずっとくっついたまま。じっと同じ方向を見ている。

 

あれでは奇襲も何も無い。

 

攻撃を仕掛ければ、同時に襲いかかってくるだろう。

 

姿がとてもよく似ているが。

 

あれは双子か何かなのだろうか。

 

顔の形などがドラゴネアとかなり違うが。

 

その割りには、プラフタはそれほどの力は感じないと言うし、上級のドラゴンではないと言う。

 

では一体、あれは何だ。

 

いずれにしても、仕掛ける隙はなく。しばらく膠着状態が続く。

 

状況は。

 

妙な形で動いた。

 

人影が数名、現れたのである。

 

率いているのは明らかに他とは違う赤い魔族。背丈も老衰死する寸前の、巨人族には及ばないにしても魔族としては最大級のものだ。

 

他にはヒト族が数名。獣人族も同じ程度。

 

敵意はない様子だが。

 

錬金術の装備で身を固めていること。

 

更に尋常ならざる手練れが集まっていることなどからも。

 

此奴らがただ者では無い事は明らかだ。

 

「ほう。 もう出向いていたか。 或いはアダレットからの書状を運ぶ使者が目撃して、キルヘン=ベルに急を伝えたか」

 

「何者か」

 

「我が名はイフリータ。 深淵の者の幹部といえば分かるかな」

 

「!」

 

イフリータは少なくとも此方のことを知っている様子だ。

 

まあそれも不思議では無いか。

 

ルアードがあたしの顔を知っているのだ。

 

魔術で顔を再現したりとか。

 

映像を映し出すくらい、朝飯前だろう。

 

「あれは太陽の竜と月の竜。 他のドラゴンとは少し違う存在だ。 他のドラゴンは基本的に世界に同数が常に存在する災厄の権化だが、あれらは少々特殊な個体でな。 我等も500年前から動向を監視している。 人間を襲う可能性は無いので、もしも仕掛けるようなら止めるべくここに来た」

 

「ドラゴンを守るというのか」

 

「先も言ったが、ドラゴンは常に世界に同数が存在する。 あれらを殺せば即時に補充されるが、それが同じ月の竜と太陽の竜、つまり人を襲わない個体である保証は無い。 何度も実験しているが、同数が存在するだけであって、必ずしも同じ個体が即時復活する訳では無いのだ。 それならば無害なドラゴンを殺す理由は無かろう」

 

「ふむ、道理だな。 だがその言葉を信用しろと?」

 

イフリータが顎をしゃくると。

 

顔を隠しているヒト族の戦士が、ドラゴンの方に近づいていく。

 

月の竜と太陽の竜とやらは、その戦士には気付いたが。威嚇もせず、放置している。鬱陶しそうに唸り声を上げたが。しかしすぐ側まで寄っても、攻撃する様子は無い。

 

なるほど、これ以上も無い証拠か。

 

あたしも同じようにしてみる。

 

ヴェルベティスによる防御の自信があるからだが。

 

やはりドラゴンは、間近に近寄っても、攻撃はしてこなかった。五月蠅そうに唸りはしたが。

 

観察してみるが。

 

生きているドラゴンは、何だか不思議だ。

 

全身に凄まじい魔力を纏っていて。

 

他の猛獣、ネームドでさえ追従を許さない風格がある。

 

それなのに、どうして知能を持たない。

 

此奴らは、装置なのか。

 

だとしたら、何故これほど威厳のある姿をしているのだろう。

 

流石に攻撃すれば反撃してくるだろう。

 

皆の元に戻る。

 

無害だと言う事は確認できたが。

 

この後どうするかは、しっかり見ておかなければならない。

 

戻ると、イフリータに対し、ジュリオさんが話をしていた。

 

まあそれはそうだろう。

 

やっと使命を果たせるときが来たのだ。

 

「貴方は深淵の者の幹部なのか」

 

「幹部だ。 最古参のな」

 

「! では、話を聞いていただきたい」

 

「ほう」

 

最古参幹部。

 

なるほど、身につけている高品質の錬金術装備。それに纏っている凄まじい魔力からしても。

 

この赤い魔族が、ただ者では無い事は一目瞭然だが。

 

プラフタに視線を送るが、首を横に振る。

 

面識がないか、それともそれほど親しくは無かった、と言う所だろうか。

 

「書状を受け取って欲しい。 アダレット王家は、貴方方と直接話をしたいと言っている」

 

「これは王家の公式文書か。 何故に我等と話をしたいと」

 

「貴方方が潜在的に危険すぎるからだ。 貴方方が世界の安定のために動いている事や、法で裁けぬ悪を裁いていることは分かっている。 ドラゴンや邪神も多数倒してくれていることも調査が出来ている。 だが貴方たちはあまりにも大きな力持ちすぎていて、いざ暴走したときの被害が計り知れない。 我々と共同して、世界の安寧のために動いて貰えないだろうか。 アダレット王家から、ラスティンにも同じ提案を出来るように仲介もしよう」

 

「ほう。 殊勝な心がけだ。 だが、残念ながら対等な関係での交渉は恐らく出来ないだろう」

 

イフリータは別に驕っている様子も無い。

 

ただ、淡々と事実を返しているだけだ。

 

それを見て、プラフタはむしろ驚いているようだった。

 

耳打ちしてみる。

 

「知り合い?」

 

「少しだけ知っていますが、以前はそれこそ話さずとも分かるほどに火のような気性の激しい魔族でした。 それがこうも理性的になっている事に驚いています」

 

「そうか……」

 

だが、あたしには。

 

このイフリータという豪傑と呼んで良いだろう魔族が、とても穏やかで理性的だとは思えない。

 

噴火寸前の火山というか。

 

あたしの同類の臭いがする。

 

ジュリオさんは頭を下げてまで、王家の印が押された蜜蝋で封をされた書状を差し出すのだが。

 

イフリータは対応が少し冷ややかだ。

 

「分かった。 アダレットの正式な騎士であり、騎士団長にも目を掛けられている程の騎士に其処まで謙られては、此方としても受け取らざるを得ない。 ただし、確実に返事があるかは分からない、とだけ断っておく」

 

「有り難い。 我等としても、貴方方と事を構えたいとは思っていない」

 

「それは此方も同じ事だ。 そもそも我等の敵は、この世界の理不尽であって、アダレット王家でもラスティンでもない」

 

イフリータが手を上げると、深淵の者達は撤退に移る。

 

監視は何かしらの方法で続けるのだろう。

 

だが、この場にいる必要はない、という事だ。

 

彼らが殆ど一瞬で、疾風のように引き上げてしまうのを見届けると。

 

ジュリオさんは嘆息した。

 

「これで、ようやく役割を果たせたか」

 

「まだ返事を受け取っていないですよ」

 

「いや、アダレット王家が敵意を無い事を示す。 それが僕の役割なんだよ。 相手がどう出るかまでは見届けるが、それに対してどう判断するかは、アダレット首脳部の仕事なんだ」

 

「役割分担は出来ている、という事か」

 

フリッツさんが、会話終了のハンドサインを出す。

 

ドラゴン二体から見て、死角になる位置に移動。

 

深淵の者達の言葉を疑うつもりは無いが。

 

あのドラゴンたちの監視は、続けなければならないのだ。

 

しばし移動して。

 

山陰に移る。

 

この位置なら、ドラゴンがブレスをぶっ放しても直撃は避けられるし。

 

更にキルヘン=ベルも常時確認できる。

 

ただし周囲に獣が多いので。

 

排除しなければならなかったが。

 

この辺りはネームドの調査も進んでおらず。

 

かなり強いのも混じっていた。

 

今の戦力なら敵ではないけれど。

 

それでも油断だけはしない。

 

処理の間に、ドラゴンが仕掛けてくる可能性もある。

 

数体の獣を仕留めて。

 

処理を開始。

 

コルちゃんがモニカと処理をする間に。ジュリオさんとフリッツさんは、話を進めて行く。

 

あたしとプラフタは側で話を聞き。

 

レオンさんとハロルさんは、警戒を続けてくれた。

 

オスカーは、周囲の植物を調べている。

 

この辺りにも、一応植物は少しだけある。何か有益なものがあるかも知れないからである。妙な建物の周囲には何も生えていないが、少し離れれば多少の草もある。

 

「深淵の者とアダレットは本当に交渉を持つつもりなのか」

 

「はい。 それが一番正しい路だとは僕も思います」

 

「いや。 あのイフリータという魔族と同様、私も厳しいと思う」

 

「同感」

 

あたしも同意だ。

 

ジュリオさんには悪いが、もしもあたしが深淵の者の立場であったら。

 

恐らく、首を縦には振らないだろう。

 

「彼らは影だ。 世界に恐れを撒き、それによって世界の悪を駆逐してきた。 だがそれが故に彼らは日の当たる所に出てはいけない。 彼らは自分達の手が血に染まっていることも知っているし、それによってこの世界を裏側から縛っている。 もしも表に出てしまったら、ただの暴力集団になってしまう。 それも、二大国でさえなしえない、邪神を倒せる程の、だ」

 

「それが故に交渉は不可能だと」

 

「いや、恐らくだけれども、国家との対等な交渉は無理、という事じゃ無いですか、フリッツさん」

 

「その通りだ」

 

あたしがフォローするとフリッツさんは頷く。

 

ジュリオさんは騎士だ。政治に通じる必要はない。

 

だが田舎で暮らしていると、嫌でも政治については通じなければいけなくなる。あたしの場合は、キルヘン=ベルの中核という事もある。何となく錬金術をやっていればいい、という立場でも無い。

 

幸いなことに、今いる場所では、政治と政治闘争は明確に区切られていて。あたしは其処を心配しなくても良い。

 

「簡単に言うと、彼らは義賊などといった曖昧な集団では無く、どちらかと言えば管理者に属する集団だ。 それも国家に対する第三者的な視点からの、だ。 本来は人間がそんな事をするのは傲慢の極みだが、彼らの場合はアンチエイジングも駆使して、500年以上も生きながら、最善策を選び続けているらしい。 それであるならば、限られた命の人間が作った国家の主導者とでは、文字通り立場が違ってくるだろう」

 

「それは分かっています。 実際彼らの活動で乱世がまとまり二大国が出来、ドラゴンや邪神の被害も以前とは比べものにならないほど減り、邪法外法に手を染める魔術師や錬金術師、汚職管理や腐敗坊主、それに悪徳商人も世界から排除されている。 しかし彼らも、如何にアンチエイジングを駆使しているとは言え人間です。 ならば、彼らが腐敗してしまったときの災禍は、想像を絶する!」

 

「恐らく腐敗が起きるとしたら、それは二大国と公式に癒着したとき、ではないのかなあとあたしは思いますが」

 

「君までそのような事を」

 

咳払いする。

 

あたしも、深淵の者と敵対するつもりは無いが。

 

肩を持つつもりもない。

 

実際問題、連中の首領は、一度やってはいけない事をしているのだ。

 

この世界に更なる荒廃をもたらすことは。

 

絶対に許されない。

 

こういった過酷な世界で、一番許されない事。

 

それは、「生きるために何をしても良い」という理屈で。あらゆる悪逆を肯定することだとあたしは考えている。

 

身に掛かる火の粉は払わなければならないだろう。

 

だが、「荒野で」「生きるために何をしても良い」から、「常習性のある薬物を販売して弱者を事実上殺戮しながら金銭を巻き上げる」といった行動や、「小集落を襲撃して人間の肉を喰らう」などを正当化するような事は絶対に許されない。

 

あたしが匪賊を消毒するのはそれが故。

 

勿論この原点には、あのクズへの恨みが関わっているが。

 

それでも今は。

 

この許されない事に対する怒りが、あたしを悪鬼に変えている。

 

故に、だ。

 

深淵の者の首領ルアードには、相応の償いはして貰うつもりだ。

 

だが、深淵の者そのものは有用だ。

 

この世界は実際問題。

 

これだけの脅威に満ちながら。

 

深淵の者が暗躍を開始するまでは。

 

二大国さえ存在せず。

 

匪賊さえ討伐できず。

 

邪悪が自由に跋扈する地獄そのものだったのだから。

 

それで文明が、文化が、技術が少しでも進歩したか。

 

それも違う。

 

あらゆる情報が、500年前より前と今で、何一つ文明など進歩していない事を証明している。

 

そんな程度の生物なのだ。

 

人間は。

 

「ジュリオさん。 もしも人間という「生物」、魔族、ヒト族、獣人族、ホムが、もうちょっとましな生き物だったら、この荒野を少しは良く出来ていた、と思いますよ。 錬金術師という存在がいなくてもね。 しかし現実はどうです。 時々現れる超級の錬金術師がバランスが壊れたものを作る以外、何一つ人間は進歩していない。 教会にしても、実態が変わったのはこの500年です。 それまでは、彼らは世界の富の大半を収奪し、孤児を売りさばき、酒池肉林の退廃の宴に浸り、政治に介入する、世界にとっての邪魔者でしか無かった」

 

「それは分かっている。 だが僕は、その上で敢えて言う。 例え人の枠組みを超えた存在が運営しているとは言え、それはあくまで形あるものだ。 いずれ何かしらの形で査察を入れなければ、それもおかしくなるだろう。 どれだけ高い志を持っていても、有能であっても、暴君になってしまう君主は存在するんだ」

 

「……平行線だな」

 

「一つ、提案を」

 

あたしが挙手する。

 

話を切り替えるべきだ。

 

あたしとフリッツさんは、思想が似ているようで似ていない。

 

ジュリオさんとは真逆。

 

これで話がまとまるわけがない。

 

そしてあたしも、自分の思想が世界の真理などとは思っていない。

 

あくまで客観的事実をあたしなりに分析しているだけだし。ジュリオさんの言う事にも一理あると考えている。

 

それならば。

 

「今、賢者の石を作成しています。 正確にはその下準備ですが」

 

「賢者の石とは?」

 

「錬金術の究極に位置する存在です。 あたしはこれを用いて、この世界を意図的に無茶苦茶にしている創造神にアクセスするつもりです」

 

「!」

 

そして、それは。

 

恐らくあたしだけでは無理だ。

 

深淵の者が今抑えている、始原の錬金釜。

 

プラフタがいうそれを用いる必要もある。

 

何も戦って奪うこともあるまい。

 

賢者の石を作成すれば。

 

これをエサにして、彼らをつり出せる。正確には、平等な利害関係を構築することが出来る。

 

そう説明すると。

 

ジュリオさんは、ふむと考え込む。

 

この人は清廉な騎士だが。

 

世の中が清廉なだけでは回らないことだって分かっている筈だ。

 

人だって散々斬っている。

 

世界に害なす匪賊は、常に駆除しなければならない。

 

騎士ならなおさらだ。

 

「賢者の石を、彼らが一方的に奪う可能性については」

 

「今のあたし達が、其処までヤワだと思いますか?」

 

「いや、そうは思わない。 先ほど彼らの精鋭と思われる部隊と相対したが、届かぬ程までとは感じなかった」

 

「それならば大丈夫ですよ。 交渉を行うにはある程度の力がいりますが、その力が我々には備わっています」

 

フリッツさんは頷く。

 

そしてパメラさんが深淵の者幹部である事が確定した今。

 

アクセスは何時でも可能だ。

 

むしろ、彼らがあたしを泳がせ続け、コンタクトもロクに取らず、監視に留まっていたのは。

 

この時を待っていたため、なのではあるまいか。

 

不意にプラフタが咳払いをする。

 

「交渉に関しては私が行いましょう」

 

「昔の同志だから?」

 

「それもあります。 しかし恐らくですが、ルアードが唯一捕らわれているものがあるとしたら、私との決別であると思いますので」

 

「決着を付けたいと」

 

プラフタは頷く。

 

まあ、それならば大丈夫だろう。

 

プラフタはどちらかと言えば政治家に向いていない。

 

むしろ研究者一筋というタイプで。

 

政治なんかに関われば不幸を巻き起こすタイプだ。

 

だが、それが故に。

 

誠実な交渉が出来る。

 

幸い、今此処には、海千山千のフリッツさんもいるし。あたしも現役の錬金術師として出られる。

 

ジュリオさんも。

 

異存はない様子だった。

 

ただ、ジュリオさんは言う。

 

「いずれにしても、何かしらの成果は上げたい。 歴代アダレット王家の人間の中には、深淵の者に恐怖するあまり、暴政に走ろうとして処分された者もいるんだ。 もしも過剰な恐怖が無ければ、そのような事は起きなかっただろう。 平等でなくとも、裏でつながるだけでもいい。 彼らとのアクセスは、直接持ちたいのがアダレットの意向だし、ラスティンもそれは同じだろう」

 

「気持ちは分からぬでも無い」

 

「おい、ちょっと!」

 

オスカーが慌てた声で割り込んでくる。

 

見ると、ドラゴン二匹が、天に向けて吠えている。

 

狼が遠吠えしているようだなと思ったが、殆ど本能的にあたしは戦闘態勢をとっていた。

 

仕掛けてくるようならブッ殺す。

 

だが、ドラゴンどもは、舞い上がると。

 

ゆっくりと、西の方へと消えていく。

 

キルヘン=ベルから離れていくのだ。

 

やがて、その姿は見えなくなった。

 

嘆息すると、額の汗を拭う。

 

勝てるという自信はあったが。

 

流石にドラゴン二体同時。

 

そこまで簡単な戦いにはならなかっただろう。

 

「行ったか」

 

「丁度良い。 其処の遺跡を探索して戻りましょう」

 

「……分かった」

 

何か、上から落ちてきたような遺跡。

 

錬金術の産物である事はほぼ間違いないとみて良いだろう。

 

この謎の遺跡の周辺は、立ち入り禁止区域になっていたが。それも今日で終わりだ。そして、もう一つ。

 

戻り次第、ドラゴンの視線が向いていた方を調べる。

 

何があるかを確認し。

 

そして場合によっては処理する。

 

あのイフリータという魔族の言葉が正しいのなら。

 

アレは珍しく、人間に害を為さないドラゴンだ。

 

そしてドラゴンを殺せば、また別のドラゴンが即時に沸く。同じ個体とは限らない、という話は聞いた事もあるし。

 

害を為さないドラゴンがいるのなら。

 

殺すのは悪手だろう。

 

正直色々納得いかないが。

 

世界に対する害は、少しでも小さい方が良いのである。

 

遺跡に入り込む。

 

完全に崩れるべき所は崩れてしまっている。

 

それよりも、なんだこれは。

 

彼方此方にグラビ石がはめ込まれていたらしい痕跡がある。グラビ石そのものは無いが、空に飛んで行ってしまったのだろう。

 

これは、宮殿か。

 

内部は華美な装飾の残骸に満ちている。

 

回収出来そうなものは回収。

 

相応に珍しいもの。

 

プラティーン製のツボや。

 

強力な錬金術製のニスでコーティングされた絵画などもある。

 

此処にあっても、いずれ風雨にさらされて消えていくだけだ。

 

或いは匪賊が持っていくかも知れない。

 

回収していく。

 

油断なく周囲を確認していくが。

 

プラフタが、手を横に。

 

これ以上進むな、と言うのである。

 

全員が止まる。

 

モニカも、眉をひそめると、魔術で壁を展開。

 

もの凄く嫌な気配は、あたしも感じた。

 

生物ではないな。

 

プラフタは、前に出ると、本を開きながら、魔術を発動する。本人が魔術を使えなくても、元々自分が宿っていた本を媒介に魔術を展開できるのは便利だ。ましてや今のプラフタの体は、錬金術の技術の粋が詰まっている。

 

生半可な魔術師よりも。

 

遙かに凄い魔術を使いこなせるだろう。

 

しばしして。

 

プラフタは嘆息した。

 

「ソフィー、これを」

 

「どれどれ」

 

映像が出される。

 

それを見ると、どうやらこの遺跡の下に。

 

根絶の力を展開するために使われたらしい、外法の道具が埋まっているようだった。

 

これは、使い路が無い。

 

壊してしまうべきだろう。

 

頷くと、あたしは座標を特定。

 

砲撃をぶっ放す。

 

今は殆ど根絶の力を放っていないようだが。

 

昔此処に誰も立ち入れなかったのは。

 

根絶の力によるものが大きかったと、これでほぼ確定した。

 

威力は最小限。

 

地盤が緩んでいるのだ。

 

これ以上地盤をおかしくしても仕方が無い。

 

砲撃は地面を抉り。

 

根絶の外法に使われた何かを消し飛ばした。

 

それでいい。

 

これによって、時間は掛かるだろうが。

 

此処の周辺環境は再生を始めるはず。

 

とはいっても、荒野である事には代わりは無い。

 

いずれキルヘン=ベルが更に発展したら、本格的な緑化を行い。

 

この周辺を、整えていけば良い。

 

仕事は終わった。後は中に残っていた、使えそうなものだけ回収して出る。警戒はしていたが。結局内部に生物はいなかった。存在を歪められた生物の成れの果てのようなものはいたが。

 

それも既に干涸らびて死んでいた。

 

ふと、気付く。

 

この宮殿の構造。

 

もしかして。

 

「プラフタ、これって、何だか……」

 

「気がつきましたね。 これは恐らく、古代の要塞です。 突出した才能を持った錬金術師が、根絶の力を用いて空中に浮かんで移動する要塞を作り、それで悪逆の限りを尽くしたのでしょう」

 

「空を飛ぶ要塞だと」

 

「ええ。 そして見てください」

 

プラフタが案内してくれるので、其方へ。

 

巨大な穴が開けられている。

 

凄まじい火力で、一撃で要塞は致命傷を受けたようだった。

 

これは人間の手によるものではないな。

 

あたしはそう結論した。

 

「邪神によるものだね」

 

「ほぼ間違いなく。 調子に乗って各地で暴虐を繰り返している内に、邪神によって叩き落とされたのでしょう。 あの光のエレメンタルかもしれませんね。 今となっては、知る事さえ出来ませんが」

 

「待って、乗っていたのは錬金術師だけ?」

 

「……遺跡の中に、石灰状のものがたくさんあったかと思います」

 

レオンさんの不安そうな声に。

 

プラフタが務めて声を落とす。

 

あたしは正体に気付いていたから言わなかったが。

 

まあ世界には知らぬ方が良いことも多い。

 

「錬金術師は各地で略奪の限りを尽くし、奴隷や手下を多数要塞に乗せていたでしょう」

 

「まさか」

 

「そのまさかです。 撃墜されたとき彼らが無事だったはずもありません。 叩き落とされた後、根絶の力によって生命が立ち寄ることさえ出来ない環境が作られたのです。 その後巻き込まれた者達の遺体がどうなったか。 ああなったのです」

 

人間は。

 

根絶の力で。

 

彼処まで変わってしまう。

 

思わず口を押さえたレオンさん。

 

この間吹っ切れてからか。飄々とした部分よりも、人間らしさがずっと強く表に出てきている。

 

モニカは祈りの言葉を捧げ始める。

 

フリッツさんが黙祷と声を掛け。

 

そして、皆それに従った。

 

此処は墓所だ。

 

戻ったら、地図にそう記そう。

 

ハロルさんが、黙祷を終えた後、提案してくる。

 

「現実問題として、此処は悪用される可能性がある。 構造物は徹底的に破壊しておくべきではないのか」

 

「死者を鞭打つの?」

 

「そうではない。 根絶の力がもう発揮されなくなった現状、残しておけば恐らくは匪賊や何かが入り込む。 そうなれば、此処にある錬金術の道具の残骸や何かが、奴らの資金源になる」

 

レオンさんの抗議に、ハロルさんは冷静に応じる。

 

確かにその通りだ。

 

コルちゃんが挙手。

 

「安全を確保できたというのなら、もう此処は片付けと埋葬をしてしまうべきなのです」

 

「ふむ、そうだな」

 

此処からキルヘン=ベルなら、安全の確保は難しくないか。

 

旅人の道しるべを設置。

 

自警団のメンバーを何名か呼ぶ。

 

後は、石材などを全て崩し、キルヘン=ベルに輸送。話については、フリッツさんからホルストさんにして貰う。

 

石材はいずれにしても幾らでもいる。

 

石灰状のものには触らないように指示。

 

石材を崩す前に此方で集めて、葬るためだ。

 

それを見て、勘が良い人間は、それが何か、悟ったようだが。教える事は別にしなくても良いだろう。

 

三日ほど掛けて、此処に拠点を造り。

 

労働出来る人も呼んで、全自動荷車でピストン輸送を開始。

 

物資は全てキルヘン=ベルに移動させた。

 

ジュリオさんは先にキルヘン=ベルに戻った。深淵の者のアクセスがあるかも知れない、と考えたからだろう。

 

気持ちは分かるが。

 

ある筈も無い。

 

初日で地上に見えていた部分は片付け。

 

二日目で掘り返して残った構造物を回収し。

 

その過程で、複雑な形状をした、ぐしゃぐしゃになった機械を多数見た。錬金術だけでは無く、機械技術も使って、この元要塞は浮かんでいたらしい。

 

砲台らしいものも見えた。

 

これによって、多くの街や集落を、灰燼に変えたのだろうか。

 

今は魔力も失われ、使う事も出来ない、ただの拉げた金属片だが。

 

それらも掘り返した後。

 

パメラさんと神父を呼び。

 

事情を説明して、鎮魂をして貰う。

 

あたしはそれには興味は無いが。一応少し離れた所から様子を見守る。事情を聞いたパメラさんは、そうとだけ言ってまつげを伏せた。彼女は基本的にいつも笑顔だが。流石に葬式の時や、悲しい時にはこういう表情も見せる。

 

喜怒哀楽はきちんと備えているのだ。

 

鎮魂の儀が終わると。

 

石灰状の死体の残骸は、全て回収。

 

キルヘン=ベルの墓地に葬るという。

 

その中には根絶の力を使ったクズがいるのだが、とあたしは思ったが。

 

プラフタは首を横に振った。

 

「直接根絶の力を使うと、最も強く汚染されます。 もはや死体は残っていないでしょう」

 

「それもまた、ムシが良い話だね」

 

「或いは、ルアードのように、存在が根本的に変わってしまいます。 いずれにしても、他の人々と同じように亡骸は残っていないはずです」

 

見ている前で。

 

要塞の残骸は、間もなく残らず消えた。

 

後は、土を埋め戻すだけ。

 

あたしが砲撃で崖の一部を崩し。

 

土砂で大穴を埋め戻し。そして何人かの天候魔術を使える魔族が、雨を降らせ。その後乾燥させ。地ならしした。

 

もう、何も残っていない。

 

此処は、悲劇の歴史から解放された。

 

プラフタに促され、その場を後にする。

 

ひょっとしてあのドラゴン。

 

此処を監視するために時々来ていたのではないのか。

 

北の谷に、ドラゴンがずっと居座っていたように。

 

だとすると。

 

知能が無いドラゴンは。

 

一体誰が操っている。

 

邪神か。

 

それとも。創造神か。

 

いずれにしても、疑惑は膨らむばかりだ。創造神の顔を殴る前に。確かめておかなければならないことは、まだいくらでもある。そう考えて良さそうだった。




※ドラゴンについて2

基本的にこの世界のドラゴンは、余程の例外でもない限り知能はありません。

全て本能で動いています。

ただたまに異物が出るのです。
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