暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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最大のシナジーを得られる錬金術と出会ったソフィー。

元々歪んでいた彼女は、それを切っ掛けに箍が外れたように才能を開花させていくこととなります。


黒き森の中
序、魔女


匪賊。

 

主に定住する土地を持たないか、もしくは持っているとしても他者から奪い。そして他の人間。すなわちヒト族、魔族、獣人族、ホムから略奪を行い、生計を立てる者達を指す。

 

この荒野に満ちた世界では。そもそも定住することが難しい事や。作物が育ちにくい事もあり。

 

どうしても、匪賊化する人間は出てくる。

 

現在、いわゆる二大国がある程度治安を安定させているが。それまでは、国家ぐるみで収奪行為をしていたような連中さえ存在し。

 

そういった者達は、周辺の人間に対して大きな脅威になったばかりか。

 

時には邪神の走狗となり。

 

更に効率的に殺戮と略奪を繰り返していた。

 

そういう歴史があるため。

 

匪賊と言って良い印象を持つ者はいない。

 

しかしながら、匪賊にならないと生きていけない人間が多く出るほどこの世界は荒廃しているのも事実で。

 

匪賊にならない人間を増やすためにも。

 

土地を豊かにし。

 

多くの人間が暮らせる安全な場所を造り。

 

食糧を増やし。

 

治安を安定させなければならないのだ。

 

錬金術師は、神々の殆どがやる気を出さない今、それが出来る非常に貴重な存在である。二大国が、どちらも形こそ違えど、優秀な錬金術師の育成に力を入れているのは、ある意味当たり前の事で。

 

神の御技を人間の手で実現できる錬金術師の手を持って。

 

ようやくこの世界は。

 

荒野を少しずつ切り開くことが出来。

 

ある意味邪神よりも世界の禍になっているドラゴンから民を守る事も出来るのだ。

 

あたしもその辺りの話は聞きながら育った。

 

だから早く立派な錬金術師になれ、という言葉と一緒に。

 

だがあたしは、こうも思う。

 

皆に錬金術師になれる「素質」がそもそも備わっていれば。

 

この世界は、此処まで荒れ果てることは無かったのでは無いかと。

 

確かに人外の者達が跋扈する世界にはなったかも知れないが。

 

その代わり、奪う必要がないほどに豊かになり。

 

そして人が増えすぎないようにする事だって出来たはずだ。

 

モニカとオスカーと、一緒に今日は採集でお出かけだ。

 

今までは街のごくごく近くにまでしかいかなかったけれど。

 

今回はちょっと遠出をしてみる。

 

プラフタに言われて、植物の素材。

 

爆弾の材料などになる、破裂するガスを発生させる木の実などを入手したいと考えたからである。

 

近くに森がある。

 

おばあちゃんが実験的に作り上げた森で。

 

それほどの規模はないのだけれど。

 

日中には獣の類。

 

夜になると、世界の理から外れた邪神の最下等の下僕である「霊」が出現する。

 

この霊は、人の魂と同一という説もあるらしいが。どうにも正体がよく分かっておらず。そういう意味ではプラフタも霊なのかも知れない。

 

いずれにしても物理攻撃もきちんと通用するし。

 

魔術は更に良く効く。

 

ただし、音もなく浮遊して背後から奇襲をしてくるケースもあるため。

 

決して油断は出来ない相手だ。

 

ちなみにモニカはこの霊達の天敵に等しい。

 

神聖魔術は霊にとって猛毒に等しいようで。

 

多分今回は、そもそも夜になっても姿を見せないだろう。ただし、あくまで「多分」。多人数がいる場合、獲物に出来るかもしれないと考えて、襲ってくる可能性は否定出来ない。モニカも一人なら兎も角、今回はあたし達がいるから、神聖魔術がどこまで抑止力になるかは自信を持てないだろう。

 

幸いこの辺りは、巡回もしっかりしているから、強めの猛獣もいない。

 

少し強めのが出てくるのは。

 

此処から歩いて一日以上掛かるような場所からだ。

 

隣の街まで、歩いて行くと一週間以上掛かるキルヘン=ベルだが。

 

むしろ辺境としては此処はマシな方。

 

他の街になってくると、歩いて二週間、酷い場合は一月以上掛かる事もあり。

 

喰っていけない人間が、匪賊になるのも仕方が無い、というのも実情として理解は出来る。

 

許せるかはまた話が別だが。

 

今回は三人だけでの遠出だ。

 

プラフタは家でお留守番。

 

家の様子をもう少し確認しておきたいらしい。

 

それもあるが。

 

いずれにしても、幼なじみ三人での遠出である。

 

プラフタには話せない事も話せる。

 

錬金術師として。

 

正直私が今の世界を良く想っていないことは、二人も知っている。

 

モニカとは何度も口論になったし。

 

それを止めてくれたのはいつもオスカーだ。

 

オスカーはこういう容姿だから女子にはあまりもてないが。

 

それでも本当に良い奴なのだ。

 

実際、モニカとあたしが殺し合い寸前までに行ったときも、体を張って止めてくれた事があるし。

 

普通だったら、其処まではしてくれない。

 

互いの事情も知っているからこそ。

 

出来る事であって。

 

血縁なんてものよりも。

 

実際に互いを知る事が大事なのだと。

 

この二人はあたしに教えてくれたようなものだ。

 

森が見えてきた。

 

大した規模じゃ無い。

 

オスカーが持ち歩いているのはスコップ。

 

言う間でも無く打撃武器として非常に優秀で、人間の頭くらいなら簡単にかち割ることができる。

 

オスカーは体型とは裏腹に非常に身軽なので。

 

空中で大回転しながら、猛獣の頭にスコップを叩き落として、粉砕することを得意としている。

 

モニカは自警団で期待されていることもあり、かなり良い剣を渡されていて。

 

大体の相手は、それでスパスパとスライスしてしまう。

 

当然あたし含めて三人とも実戦経験者。

 

それでも。

 

この世界では。

 

油断が出来ないのが実情なのだが。

 

街道でさえ、匪賊の襲撃があるのだ。

 

大都市の近くでさえ、匪賊を根絶できていない。

 

腕利きの用心棒がいるキルヘン=ベルでも、安全なのはごくごく近場だけくらいで。

 

其処を離れれば、ドラゴンだって出るし。

 

邪神だっている。

 

箍が外れてしまった世界なのだから。

 

皆、いずれにしても。

 

キルヘン=ベルが遙か遠くになった頃には。

 

口数も減っていた。

 

からからと音を立てているのは。

 

おばあちゃん譲りの荷車。

 

実のところ、これをいっぱいにするほどの事は、まだ無いだろうとは思っているのだけれど。

 

バックパックだけだと、多分しばらくの遠出が必要なくなるほどの素材は集められないだろうし。

 

自分達用に作ってきた薬だって、入れられる量が限られる。

 

プラフタに、遠出するときには必ず荷車か、大容量の容器を持ち運べと言われている。

 

荷車は当面必須。

 

プラフタが言うには、高位の錬金術師になると、空間を操作したり。

 

上位次元に接触したりして。

 

そういった場所に、ものを格納できるようになるらしい。

 

まだソフィーにはそんな事は出来ない。

 

荒事の際にも、重いバックパックを背負っていたら、それだけで戦闘が不利になる。魔術師としての火力は出せるソフィーだが。

 

他の二人が思う存分戦える環境は整えてあげたい。

 

それに、である。

 

この間プラフタに聞いた、拡張肉体というのもいずれ試してみたい。

 

戦闘時に、自分が反応しきれなかった攻撃に対応出来る装備。

 

確かにそんなものがあれば、被弾を相当に減らせるし。

 

護衛役が気を遣う事も減る。

 

何よりも、敵は当然呪文詠唱中のあたしを優先的に狙って来るわけで。

 

上手くやれば、それを逆手に取ることさえ出来る。

 

勿論、今の時点でも、モニカが簡単には攻撃なんて通さないだろうが。

 

それでも、周囲の負担を減らせれば、それに越したことは無い。

 

森の辺縁に到着。

 

「どう、オスカー」

 

「うーん、みんな元気が今一ないなあ。 これだと、良い木の実は採れないかもしれないぜ」

 

「そうなの?」

 

「栄養が足りないってみんな言ってる」

 

モニカが、またそんな事を言って、と目で告げているが。

 

ソフィーは信じる。

 

ちなみにソフィーには。

 

何かのうめき声らしきものにしか聞こえない。

 

事実その通りなのだから。

 

オスカーが翻訳してくる、と思えば。

 

それはそれで安いものだ。

 

いずれにしても、グダグダ喋れるのは此処まで。

 

モニカがハンドサインのチェック。

 

あたしとオスカーが頷くと。

 

それぞれ視界をカバーできるようにしながら、森に入る。

 

先頭を歩くのはオスカーだ。

 

森の木々を傷つけず。

 

植物を痛めないように。

 

気を付けて歩いている様子だ。

 

すぐ側をモニカが歩き、周辺をカバー。

 

あたしは殿軍だけれど。

 

これは荷車を引いているため。

 

荷車はそれなりに大きいため。

 

そのまま盾としても機能する。

 

まして今は殆ど何も積み込んでいない状態だ。その気になったらフルスイングで振り回して、敵を張り倒すことも可能だ。荷車は傷んでしまうが、それはそれで仕方が無い事である。

 

無音のまま歩く。

 

周囲から視線。

 

モニカが剣に手を掛けている事からも。あまり好意的な視線だとは考えない方が良さそうだ。

 

鋭い悲鳴が上がる。

 

動物のものだ。

 

見ると、軟体の猛獣ぷにぷにが。触手を伸ばして、大型のリスを補食しているところだった。

 

ぷにぷには種類によってサイズがまったく変わってくるのだけれども。

 

いずれもが非常に凶暴で。

 

体内に毒素をため込んで、虹色に輝く品種がいるくらい、この荒野世界に溶け込んでいる種族である。

 

いない場所はない、といって良いほどであり。

 

実は此奴らも、人間と同じように、他の世界から追い立てられてこの世界に辿り着いたのではないか、と言われている。

 

流石に大物の猛獣にはかなわないが。

 

それでも生物界のニッチを色々な点から占める重要な生物で。

 

中には大人しく品種改良され、ペットになっているものや。

 

非常に頑強に改良されて。

 

錬金術の実験材料にされているものもいるとか。

 

いずれもプラフタに聞いたので、本当かは知らない。

 

プラフタが生きていた時代には、そういうのがいたのかも知れない。ただし、超お金持ち専用のオモチャだったのだろうが。

 

悲鳴はすぐに聞こえなくなり。

 

軟体状の体から生えている無数の牙が、リスをかみ砕き、食い千切り、鮮血をまき散らしながら貪る音がそれに取って代わる。

 

モニカが促して。

 

森の奥に。

 

獣は、食事を邪魔されると最も激しい怒りを見せ、攻撃をしてくるし。

 

ぷにぷにの方にしても、此方には気付いていて警戒もしている。

 

無駄な戦いは避けた方が良い。

 

向こうが襲ってくるなら殺すが。

 

そうでないなら殺す必要もない。

 

街に近づいてこなければ、である。

 

街に近づいてくるそぶりがあれば、その時は容赦なく斬る。

 

それだけで充分である。

 

音を立てずに歩きながら。

 

オスカーが手招きする。

 

ぬっと立っている木には。

 

トゲトゲの実がたくさんなっていた。

 

どうやらこれか。

 

プラフタによると、「うに」と呼ばれる植物であるらしい。品種は複数種類あって、それぞれ爆弾にすると性質が変わるそうだ。

 

今回は薬草に加えて、このうにを出来るだけたくさん取ってくること。

 

それがプラフタの指示だった。

 

モニカが警戒に当たる中。

 

あたしは荷車をうにの木に寄せる。

 

オスカーが、ハンドサインで、一つずつ木の実を見ながら、指示を出してくる。音が無い中、簡単な言葉を組み合わせての会話が続く。

 

「これは?」

 

「駄目だ。 虫が食べてる」

 

「そっか。 じゃあこっちは」

 

「うーん、使えるには使えるけれど、あまり元気は無いな。 ただ根付きそうにもないから、持っていって良いって木は言ってくれているよ」

 

そうか。

 

ならば、持っていくのがいいだろう。

 

オスカーが、これは良いという品は結局一つも見つからなかったけれど。

 

それでも、他にも薬草を何種類か手に入れる事も出来たし。

 

途中、いきなり襲いかかってきたぷにぷにを、モニカが一刀両断。

 

体内に入っていた脱水効果がある器官、ぷにぷに玉も手に入れる事が出来た。

 

他にも何回か小型の猛獣が襲ってきたので。

 

いずれも迎撃。

 

オスカーが頭をかち割り。

 

あたしが近づいたところを引きつけて、魔力を放出。圧力でぺしゃんこにし。

 

殺したところを皮を剥ぎ、肉を採り。内臓を取り出して。

 

肉や内臓は森を出たところで燻製にし。

 

皮はその場でなめす。

 

やはりこういう小さな森でも。

 

人間をエサと見なして襲いかかってくる猛獣はいる。

 

モニカが戻ってくる。

 

結構大きな猪を仕留めていた。

 

なお、首を一刀両断で叩き落としたらしく。

 

二回に分けて、泣き別れになった首と胴体を分けて運んできた。

 

「ごめんな。 ちょっと重いよ」

 

オスカーが声を掛けて、木に猪をぶら下げると。

 

腹を割いて、内臓を出し。

 

肉を切り分け。

 

骨を割って軟骨を出し。

 

その場で処理を進めていく。

 

気がつくと。

 

今回の戦利品で。

 

荷車はいっぱいになっていた。

 

モニカが注意を促す。

 

「そろそろ夕方よ。 霊が出現し始めるわ」

 

「おっと。 じゃあ街道を急いだ方が良さそうだね」

 

「何だよ、もう少し森の様子見て回りたいのに」

 

「猛獣なら兎も角、空間転移しながら四方八方から攻めてくる相手には、私も守りきれないわよ」

 

オスカーに、モニカがぴしゃりという。

 

確かに、霊が現れると言うなら。

 

そういう攻め方をしてくるのは自明の理で。

 

そしてやはり予想通り、モニカは安全策を採ることを提案した。此方もそれでいい。危険を冒す意味がないからだ。

 

燻製をさっさと終わらせると。

 

急いで皮もなめしてしまう。

 

ちょっと出来が中途半端だが。

 

それはキルヘン=ベルに戻ってから、また多少手を入れれば良いだけだ。別に燻製なんかは、その場ですぐに仕上げなくてもいい。まあちょっと質は落ちてしまうが、そもそも時間を掛けてやるものなのだから。

 

頃合いを見て、引き上げる。

 

帰り道は急ぐ。

 

暗くなると、猛獣は大胆になる。

 

霊も同じく。

 

モニカはいつも手練れとこの辺りを巡回するが、それでも巡回の度に必ず攻撃を受けるという。

 

要するにそれだけ猛獣は数がいて。

 

しかも飢えているという事だ。

 

悲鳴は聞かない日が無いらしい。

 

それだけ、苛烈な食物連鎖が行われているという事で。

 

過酷な殺し合いに生き延びた猛獣たちが強くなるのも当然。

 

そしてそれらから見れば。

 

無抵抗な人間の子供なんて。

 

小粋なおやつに過ぎないだろう。

 

更に言えば、そんな猛獣たちでさえ、ドラゴンを前にしてしまうと、哀れなおやつに過ぎない。

 

この世界は過酷だ。

 

それを考え。

 

思った以上に満杯になった荷車を三人で囲んで走る。

 

今回はモニカが殿軍である。

 

これは、夜道の場合、追撃への対応が一番難しくなるからだ。

 

しばしして、キルヘン=ベルに到着。

 

久々の遠出だ。

 

何よりも、あたしとしては。

 

至近距離で、敵を圧殺出来たのが。

 

何よりも嬉しかった。

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