暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
それこそ賢者の石です。
歴代アトリエシリーズでもそれは同じ。近年のシリーズだと究極の中和剤や媒介として登場する事が多いですね。
ソフィーがそれの作成に手を掛けると言うことは。
既に人知を超越していることを意味していました。
序、究極のそれ
今でもそうだが、あたしは本を読むよりも座学の方があっている。これはどうしようもないものなのだろう。
一人で本を読んでいたときには、ロクに勉強が進まなかったし、錬金術の腕も上がらなかった。
それがプラフタが現れてからは、文字通り天を駆けるようにして、錬金術の腕を向上させていった。
座学による結果だ。
勿論人によって向き不向きはある。
座学が嫌いという人も多いだろうし。
一人で学ぶ方が効率が上がる人もいるだろう。
だが、あたしは違った。
それだけだ。
そして今も。
あたしは座学を受けている。
賢者の石を作るに当たって。
まずは理論を復習するのだ。
「賢者の石は、世界の要素の根元です。 故にもしも完成品が出来た場合は、あらゆる事に応用可能となります」
「それでもそもそも、賢者の石というのは、結局何なの? 世界の要素の根元と言われてもね」
「諸説ありますが……ものには意思が存在しますが、その原初では無いかと言う説もあります」
「ものの意思の発生源、か」
腕組みする。
確かに今も、周囲から雑音が聞こえてきている。
錬金術師としての腕を上げれば上げるほど、この雑音はクリアになってはいった。最近では明確な意思として聞き取れもする。
オスカーのように、植物特化で意思疎通が出来る者もいるし。
プラフタの話では、色々なものに特化して声が聞こえる者は、そのものに特に愛されているのだという。
「オスカーは植物を材料にする錬金術師になれば、恐らく歴史に名を残す逸材になれるでしょう。 もったいない話ですが」
「オスカーにはその気が無さそうだからね」
既に、オスカーは。
緑化計画の引き継ぎをしている。
あたしが作った土地活性剤と栄養剤の使い方を、後続の人間複数に教え始めているのだ。
これは間違いなく、旅に出る準備だろう。
勿論、今起きている深淵の者との接触が終わった後になるだろうけれど。
世界中の植物と友達になりたい、などとオスカーは大まじめに言っているし。
その意思は堅い、という事だ。
あたしは頷くと。
座学の続きを求めた。
賢者の石を作るには、それぞれの世界の要素。
地水火風に主に別たれるが。
それらの究極を調合する必要があるという。
その前に、「深紅の石」と呼ばれる前段階のものを作る必要があり。
これが中和剤の代わりとして機能するのだとか。
この深紅の石にしても、超級の産物で。
出来ればコルちゃんに増やして貰え、という事をプラフタは言っていたが。
最近コルちゃんは、何かを増やす度に色々失っているので。
ちょっと頼みづらい。
一応増やす錬金術に体が慣れてきて、多少前より負担は減っているようだけれども。あたしの成長がそれを追い越しているのだ。
故に体を壊してしまうし。
毎回貴重な素材を増やして貰うと、コルちゃんは泣きそうになる。
いずれにしても、だ。
深紅の石もまた超級の素材。
これを使って、色々な強化が出来ると言う。
素材としても極めて優秀で。
賢者の石ほどではないにしても。
中和剤としては、ほぼ究極と言って良いレベルの活躍を見せるのだとか。
頷く。
そしてあたしは、言われるままに、幾つかの理論を座学で確認していく。
まず賢者の石を作る前に深紅の石を作る。
深紅の石は、主に竜の血晶を素材にする。
これは以前ドラゴンを殺して入手しているので問題ない。
品質も申し分ない。
これに、最高品質の中和剤と、その他を調合する。
調合の過程が極めて複雑だが。
あたしなら行けるはずだ。
この調合を終えた後。
賢者の石に移行する。
ドンケルハイトを一とする、最高品質の素材を全て混ぜ合わせることによって。賢者の石は出来るのだが。
これらの入手が極めて難しい事。
更に言うと、調合そのものも桁外れに難しい事が原因となって。
今まで、高品質の賢者の石は、完成に至っていないという。
なるほど。
過去の錬金術師の中には、要塞を空に浮かべるような奴もいたというのに。
それらでも無理だったのか。
聞いてみると。
条件が整っても、どうしても運が左右してしまうと言う。
更に、だ。
「多くの錬金術師は、不思議な傾向があります」
「不思議な傾向?」
「人間に対して圧倒的な力を持った瞬間、満足してしまうケースが多いのです。 世界を変えようとか、この理不尽に立ち向かおうとか考える貴方は例外中の例外です」
「ふうん……」
そんなものか。
或いは、何かにのめり込んで。研究だけを続けてしまうケースも多いとか。
それらの研究成果は、本として残されていれば良いが。
そもそもアンチエイジングをしているような錬金術師は、邪神に狙われるケースも多いらしく。
更に自分の力を過信して、邪神に挑んで返り討ちにされる事もあるとか。
プラフタは七柱の邪神を生前倒したと言っていたが。
それも中位止まりだったはず。
上位の邪神となると、多分錬金術師でも、簡単に葬ることができる相手ではないのだろう。
「世界の深淵に達しようと、ただひたすら研究を進めるケースもありますが。 それは最終的には、自己満足に到達してしまう事が多いのも知っておくべきでしょう」
「自己満足?」
「知っただけで満足してしまうのです。 ひょっとすると過去には、創造神にアクセスする条件を整えた錬金術師がいたのかも知れません。 しかしながらそれは恐らく起きていない、と判断しても構わないでしょう」
何しろ。
世界は何一つ変わっていない。
分かる限り、三千年くらい前からはそうだと、プラフタは言う。
こんなに長い時間、文明がロクに進歩もせず。
世界のあり方がほぼ変わっていないのも変な話だ。
500年前くらいから、ルアードが深淵の者を組織化して、本格的に世界の改革を目指したようだが。
それも結局の所、小手先止まり。
二大国も。
公認錬金術師制度も。
各地のインフラが猛獣やネームドにずたずたにされ。
ドラゴンが村や街を焼き尽くし。
倒せない邪神が、いまだに三十柱もいる。
その状況が変わっていない以上。結局世界を変えるのには成功した、とは言い難いだろう。
「賢者の石は、世界の深淵に到達することにも使えます。 しかし、それで満足してしまってはいけませんよ」
「するわけないでしょう」
「そうですね、貴方ならそうだと分かっています」
「……ルアードは、どうなんだろうね」
プラフタは首を横に振る。
彼女も調べているのだ。
この間パメラさんから、深淵の者の幹部だと明かされたのも、調査の一環だろう。他にもテスさんが深淵の者に所属していることも、あたしは既にプラフタに告げている。深淵の者には、当然だが錬金術師もいるはず。
何より、ルアードがプラフタに匹敵する超級の錬金術師なのだ。
賢者の石を。
造る事は出来ないでいるのか。
「それほどに、此処に材料が揃っているのは、運が良いことなのです。 或いは、何かしらの改良が行われて、簡単に賢者の石が作れるようになれば……話は変わるのかも知れませんが」
「ふうん、なるほどね」
それもそうだ。
そもそも、錬金術だけでは無い。
プラフタの話によると、分かる限り三千年くらい、か。
人間の文明は、ロクに進歩していないのだ。
未だに猛獣もネームドも、訓練を受けた者達が、命を落とす覚悟をしないと駆逐する事が出来ない。
歴戦の猛者と錬金術が合わさって。
ドラゴンはやっと相手に出来る。
邪神に至ってはアンタッチャブル状態。
倒せるとしてもそれは極めて幸運な状況。
ならば、人間の安全圏を更に大きくして。
文明を発展させていくしか路は無いのではあるまいか。
そもそも、錬金術にしても。
先人の技術が、極めて限られた形でしか継承されないことに問題がある。それをどうにかしなければ。
確かにルアードが言うように。
この世界には現在さえ無い。
だが、プラフタは、それでも人間の可能性を信じたいのだろう。
あたしはそういう考えは嫌いでは無い。
ただ、現実的では無いな、とも思うだけだ。
もしもこの非現実的な状況をひっくり返すには。
やはり世界の深奥に到達し。
そして真実を知った上で。
それを利用していくしかあるまい。
光のエレメンタルは言っていた。
この世界に、真実を知る人間はいないと。
それならば、あたしがその最初の一人になる必要がある。そして、世界を変えるしかないだろう。
座学を続ける。
賢者の石に関する話は、非常に難しい。
プラフタは可能な限り分かり易く説明してくれるが。
今のあたしでも、時々理解出来ない話が出てくる。
それくらい厳しい調合なのだ。
茶を淹れて、一休み。
モニカが来たので、掃除も頼む。
あたしはちょっとクールダウンしようと、果実から取り出した甘味を使ったクッキーを口に入れる。
頭を使いすぎた。
甘いものを取り入れて、脳に力を補給するのだ。
「ソフィー。 賢者の石はどう」
「今勉強の最中。 多分一ヶ月以内に造る事は出来ると思う」
「そう」
モニカによると。
ネームドが少し前に出現したが。
既に現在の武装で充分対応可能で。
倒したという。
「手強かったけれど、貴方がいなくても、多少のネームド程度なら撃退はもはや難しくも無いわ」
「物資の補給は必要?」
「備蓄で充分」
「そう、それは良かった」
あたしの所に声が掛からなかったという事は、大した事のないネームドだったのだろう。
ただ、そういったネームド撃破の報告が、既に三件来ている。
そして、モニカは。
もう一つ気になる事をいった。
「あのドラゴン。 赤いのと青いの。 覚えているかしら?」
「勿論」
「偵察の人員が見つけたわよ。 前に存在していなかった、不可思議な建物を」
「!」
なるほど。
あのドラゴンども、その建物を警戒していたのか。
視線の直線上に存在しているという事で、ほぼ間違いない、という事だが。
特徴を聞いて、プラフタが顔色を変えた。
「それは……!」
「どうしたの」
「間違いありません。 ルアードと私のアトリエです」
そうか。
これはどうやら、わざわざ探す手間が省けたらしい。
というよりも、そもそも都合良くあのイフリータという魔族が現れたのもおかしかったのだ。
彼奴は、恐らく。
あのドラゴンどもの監視対象を知っていて。
それに気付いているか、確認しに来た、と言う所だったのだろう。
或いは、ドラゴンどもが、アトリエに仕掛けるつもりだったら。葬るつもりだったのかも知れない。
今まで人間を襲わず。
実際害を為していないドラゴンだとしても。
潜在的な危険はある。
中位以上のドラゴンが、下位の邪神並みの実力を持つとなると。
あたしとしても油断は出来ない。
彼奴らにとっても、それは同じだったのだろう。
「一気に話が進展してきたわね」
「モニカ、お願いがあるんだけれど」
「何かしら」
「しばらくは徹底的に賢者の石に集中したいから、余程の相手で無い限り、あたしを呼ばないでくれるかな」
モニカは頷く。
今、キルヘン=ベルは岐路にいる。
モニカは今後の人生をどうするかで悩んでいるようだが。
そもそも、世界を裏側から動かしている深淵の者とのいざこざが一段落しない限り、それどころではない。
幸い連中は話が通じる。
戦いにはなるかも知れない。
だが、プラフタとルアードは、結局喧嘩別れこそしても。その思想はそれぞれ間違っている訳では無かったのだ。
それならば、利害が一致すれば。
この問題も、一段落する。
それから全てを考えれば良い。
それだけのことだ。
そのためには。
あたしが、今。
賢者の石を。
歴史上無い品質で。
作らなければならないのである。
「任せておきなさい。 それと、ジュリオさんには知らせておく?」
「やめてくれる? アダレットが妙な動きをすると、面倒な事になるかも知れないから」
「分かったわ。 真面目なジュリオさんには悪いけれど、今深淵の者の本部の位置を知ったら、立場的に動かなければならないものね」
「そういう事だよ」
モニカは掃除を終えて、アトリエを出ていく。
さて、複雑な利害が絡んではいるが。
これからだ。
後は、あたしがやるだけ。
調合を、これより開始する。