暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
カフェに顔を出すと。
自警団の面々と協力して、仕留めた猪や獣を、一緒に処置する。
獲物の大半は譲渡するが。
一番美味しい部分は分けて貰った。
これはソフィーが今回の遠征の主役であるし。
今後のキルヘン=ベル発展の鍵となる錬金術師としての成長を期待してのことだと、カフェの主人であるホルストさんは言ってくれた。
いずれにしても、荷車に満載していた肉と皮と内臓は綺麗に整理され。
納品した内の幾らかは、早速荒くれ達が食べるようだった。
モニカも此処で別れ。
オスカーも。
オスカーは植物の友達がまた出来た、と喜んでいたが。
その一方で頼まれる。
「あの森、栄養が足りていないみたいなんだ。 確かあの森作ったの、ソフィーのおばあさんだよな」
「うん、そう聞いているけれど」
「それなら、森を元気にしてくれないか。 おいらからも頼む」
「分かったよ。 プラフタと相談してみるね」
家の前でオスカーとも別れる。
そして家に入ると。
プラフタが、四苦八苦しながら、家の中を整理していた。
「戻りましたか、ソフィー」
「プラフタ、掃除してたの?」
「中を把握するついでです」
元々浮いて移動出来る程なのだ。
その力を周囲に向ければ、浮かせることくらいは出来る、という事か。
確かに本などは綺麗に片付いているし。
ベットのシーツも丁寧になでつけられている。
苦労したのだろうなと。
あたしは苦笑いした。
「流石に洗濯の類は出来ません。 それは貴方がしてください」
「分かってるよ。 その前に、収穫を整理しないと」
「確認します」
プラフタと一緒に。
収穫してきた木の実を全て地下の氷室に。
この氷室、まだおばあちゃんが作った仕組みが生きていて。非常に冷える。中にいると、凍えてしまうほどだ。
だからこそ、ものが痛む恐れも無いのだが。
プラフタによると、錬金術師としてある程度のレベルになると、この氷室を必ず作るそうで。
此処も、そういった錬金術師に必須のものだという。
基本に忠実だとプラフタが言っていたので。
おばあちゃんは基本通りに造り。それ以上の事はしなかったのだろう。
案外手間が掛かるから、面倒だと思ったのかも知れない。
「ひー、寒いなあ。 プラフタは平気?」
「触覚はあるのですが、温度は殆ど感じません」
「触覚はあるんだ」
「触られるのは嫌です」
ああ、道理で。
前にエリーゼさんの所に出向いたとき、無意識に距離を取ったわけだ。
筋金入りの本好きであるエリーゼさんに掴まったら、何をされるか分からないと判断したのだろう。
プラフタが女性だと言う事は分かっているが。
まあそれならば。
知らない人に触られるのは、嫌に決まっている。
たまに娯楽本で、頭を撫でられてそれだけで惚れる、なんてシーンがあるが。
あれは殺意すら覚える嘘八百だ。
好意を持っている相手なら兎も角。
知らない相手に触られたりしたら、その場で拒否反応を示すのが普通だ。
「これといって良い品質の木の実はありませんね……」
「これでも虫食いは全部避けたんだよ。 オスカーも、森に元気が無いって話はしていたよ」
「それでも獣は多くいる」
「? どういうこと」
プラフタによると。
本当なら、おかしいのだという。
森が痩せているのなら。
其処から得られる恵みは少ない。
獣だって、そんなに多くの数が繁殖できる道理は無い、というのだ。
言われて見れば。
食べるものにも苦労すると、人間はやせこけてしまう。
貧しい村だと、皮と骨だけの人達が。
毎日死ぬのを待つような状態、という悲惨な地獄絵図が、今でも見られると聞いている。
ところがだ。
邪神にしてもドラゴンにしても。
この世に平然と居座り。
多くの獣もいる。
此奴らがどうして生きていられるのか、よく分からないとプラフタは言うのだ。
「当時は資料も少なくて、その辺りは謎が多かったのです。 或いは創世神が、その辺りにだけ手を加えているのでは無いか、という噂もありましたが……」
「プラフタにも分からない事が多いんだね」
「正確には、こういう話は切っ掛けがあると思い出せます。 一度思い出せば、忘れる事はありません」
「そういうものなんだね」
とりあえず、荷物の整理完了。
荷車の油紙の交換をした後。
プラフタが言う。
「力がついてきたら、この荷車も改良しましょう」
「分かってる。 大きくしたり、自動で動くようにしたり、だっけ」
「そうです。 そうすれば、貴方は更に戦闘に集中できるでしょう?」
「うん!」
嬉しそうにするあたしを見て。
プラフタはどうしてか一瞬だけ悲しそうにしたが。
理由はよく分からない。
既に外は真っ暗。
ランプに火を入れると。
座学に入る。
爆弾のざっとした理論については、この間聞いてみた。
おばあちゃんの本に何種類か載っているが。
プラフタが言うには、どれも初心者向けのものではないという。
「いずれも世界の理に干渉する爆弾です。 錬金術師の御技は世界の理に干渉するものではありますが、最初から難しすぎるものを扱うと、事故を起こすだけです」
「やはり圧力がどうのこうの、でやるの?」
「それが基本です。 応用はまず基本が出来ていないと話にならないことは、魔術をたしなんでいる貴方なら知っている筈です」
「うーん、それもそうか」
確かにその通りだ。
座学も、本を読むだけだと色々抵抗があったが。
プラフタに説明して貰うと、非常にわかりやすくて助かる。
順番に話を聞いて。
理屈を組み立てて行く。
ほどなく、夜半近くなったので。
休むと言う話になった。
適当に寝間着に着替えながら聞く。
前から興味があったのだ。
「そうだ、プラフタは寝るときどうするの?」
「その辺でじっとしているときは、寝ていると思ってください。 ただ人であった時に比べて、眠る必要性は薄れていますが」
「元々人だったんでしょ? 人に戻りたいと思わない?」
「恐らく私は死んだ身です」
いきなり。
ずばりと言われる。
何かの理由で、本に魂を移すなんて、余程のことがないとあり得ないと、プラフタは言う。
その余程とは。
例えば、超格上の相手に、決死の相打ちを挑んだ場合とか。
そして死んで。
その何か危険な相手が蘇ったときのことを想定して。
未来に自分を残さなければならなかった場合など。
何だかそれが正解だと思う。
プラフタは、根拠はありませんがと付け加えていうのだが。
そも彼女の記憶は歯っ欠け状態で。
こういった話は、どうも何も根拠が無いところから沸いて出てきたようには思えないのである。
「私が人に戻るとしたら、クリアしなければならない関門は幾つもあります。 まずは魂をこの本から移動させること。 そしてそもそも体を用意すること」
「ふんふん」
「体を用意するとしても、他の人間の体に入るのは嫌ですし、恐らくは魂が馴染むことも無いでしょう。 何より生きた人間を作り出すことは、流石に当時の私でも出来ませんでした」
「そうなると、最低でも当時のプラフタ以上の力は必要になる、ということだね」
プラフタは答えない。
つまりそういう事だ。
それはそうとして。
触覚がある以上、そのままその辺で横になったり、ましてや本棚で寝るのも気の毒だろう。
「バスケットに枕を入れるよ。 良かったらそれを使って」
「ソフィー、貴方は妙なところで気が利きますね」
「ふふ、そう?」
「いえ、なんでもありません。 有り難く使わせていただきます。 気分だけでも、使うのは悪くありません」
プラフタはそう言うと。
ソフィーが用意した、バスケットと枕の上にふんわりと着地して。
其処で休みはじめた。
動かなくなる。
要するに眠った、という事だ。
それを見て確信する。
やはりプラフタは元人間だ。
自分を元人間だと錯覚している本の魔物か何かの可能性も、今までは少し疑っていたのである。
だが、こういった人間らしい仕草や行動を見ると。
やはり人間だった、と判断するのは間違っていないだろう。
そして少し話したのだが。
ホムの一部が使う系統が違う錬金術を除くと。
錬金術を使えるのは、ヒト族と。
それと神々だという。
そうなってくると、プラフタはヒト族だったという事になる。
美人だったのか、そうではなかったのか。
その辺りはよく分からない。
ただ、あまり年を取った人では無かったはずだ。
たまに妙に子供っぽい拗ね方をしたり。
自分の感情に正直な言動を見せたり。
そういった所があるからだ。
となると、相当な天才だったのだろう。
そして、プラフタは言っていた。
自分に比肩する存在がいたような気がすると。
そんな存在がいながら、命を落としたとすると。
ひょっとして。
まあいい。
あくまで推察は推察だ。
ソフィーも今日は、近くの森まで走って往復したのだ。
それほど疲労は感じていないが、寝ておいた方が良いだろう。何より、明日は多分錬金術で、相当に消耗することを覚悟しなければならない。
錬金術は集中力を使うし。
相当に消耗するのは、既に体験済みだ。
少しでも腕を上げて。
消耗を減らすには。
ベストコンディションを保つ。
コレが重要な事は。
あたしにも分かりきったことだった。
翌朝。
外で軽くストレッチ。
その後、棒を振るう。
あたしの場合、武術としての棒術はほぼ使っていない。あたしがやっているのは、魔術の威力を上乗せした棒術で。棒を自分にとっては軽く。相手にとっては鋼鉄の棒をフルスイングで叩き付けるのと同じにする。
要するに、魔術を使っての、「結果の変更」を行っている。
錬金術ほど驚天動地の御技では無いけれど、魔術でもこのくらいの事は出来る。
あたしは魔術の方は、魔力量の多さもあって、特大火力での打撃が可能で。モニカの剣術や、オスカーの打撃とさほど変わらないダメージを殴った相手に与える事が出来るのだけれども。
そもそも相手を近づけさせない。
この間森でやったように、放出した魔力で相手を文字通り「張り倒し」たり。
もしくは熱に変換して叩き付けたり。
遠距離で戦うのが本領だ。
接近された場合、魔術を使って「結果の変更」を行う事によって、棒の破壊力を上げるのであって。
それは最終手段である。
体術に関しても、同じように。
動く際には魔術を用いて、加速や減速を行ったりもするが。
これも最終手段。
基本的に固定砲台として立ち回り。
敵を撃つ。
それがあたしの戦闘スタイルだ。
当然それでも、自主的な努力で磨いていかなければならないわけで。
ましてやこのキルヘン=ベルは辺境。
高位のドラゴンやら。
邪神やらが攻めてきた場合。
大都市から軍隊が援軍としてくるまでの時間を稼ぐためにも、自分で戦わなければならない。
手練れもいるけれど、ソフィーだって遊んでいるわけにはいかない。
流石にもっと小さい子供達は戦わせられないし。
自分では近づきたくないといっても。
パメラさんが守ってきた教会や。
非戦闘員が暮らしている地区などを。
敵に蹂躙させるわけにはいかない。
いざという時は。
どうあっても自分で戦わなければならないのだ。
ましてやソフィーはどちらかといえば、戦闘向けの能力の持ち主。錬金術と言う基幹産業を求められてはいるが。
それはあくまでそれ。
身は自分で守り。
身を守れない者も、守らなければならない。
少なくとも彼奴と同じように。
なってはならないのだから。
今なら。
彼奴を殺せる。
彼奴は魔術も大して使えなかった。錬金術の才能がないと言う事で非行に走り、あげく魔術の鍛錬も怠った。才能についてはあったかどうか分からないが。いずれにしても、大した実力では無かった。
今なら殺せる。
薄笑いを浮かべながら。
的に向けて、威力を絞った圧縮魔力をぶち込む。
的が粉みじんに消し飛ぶ。
彼奴の頭が吹っ飛んだ所を想像して。
思わず満面の笑みを浮かべてしまう。
倒れた死体から。
大量の鮮血が地面に流れ出し。
飛び散った髪の毛と頭蓋骨と脳みそが、放射状に散らばっている光景は。
とても心温まるものだった。
これでいい。
深呼吸。
そして、残心。
家に戻ると。
プラフタが起きだしていた。
というか、人間では無いのだから。
バスケットから浮き上がる、というべきか。
「どうしたのです。 外が騒がしいようでしたが」
「ああ、朝の訓練だよ。 魔術の方も鍛錬を欠かさないようにしないといけないからね」
「それは感心ですね」
「そう? ありがとう」
プラフタは恐らく、前にモニカからあたしの事は聞いているはずだ。地雷を踏まれた場合、ちょっと自制心に自信が持てない。だからモニカが先に布石を打ってくれたことは嬉しい。
いずれにしても、魔術の鍛錬はストレス発散にもなる。
毎日毎日訳が分からない雑音を聞かされ。
錬金術師として大成しろと急かされ。
此方としても、不快感が溜まっているのだ。
あのクソ野郎を粉々に殺す想像を堂々と出来るだけでも充分に嬉しい。
もっとも本人はもう死んでいるので。
本当に殺せないのは残念だが。
噂に聞く死者を操る魔術とかをあたしが使えたら。
墓場からバラバラ死体のまま蘇らせて。
毎日ズタズタのグチャグチャに殺して。
また蘇らせる、と言う風にするのだが。
まあ出来ないものは仕方が無い。
まて。
錬金術を極めれば、ひょっとすれば出来るようになるのか。
これは楽しみになって来た。
「機嫌が良さそうですね」
「うん。 この間のお薬、25点から30点に上がったでしょう。 少しずつ力がついてくれば、それは嬉しいよ」
「……そうですね。 でもまだまだ満足していてはいけませんよ。 更に上を目指していきましょう」
「分かってる」
さて、実践だ。
いつものように、まずは釜を綺麗にする。
その後、うにの身を加工する。
トゲトゲだらけのこのうにだが。
今回は、何種類かある品種の中から、通称「茶うに」と呼ばれているものを使用する。食用としてはあまり適していない種類だが、実はうにのなかでは食べられる方だ。他の品種にはもっとまずいものもある。
サイズは拳大。
まずトゲトゲを全て鋏で刈り取り。
丸くする。
この時点で、いびつながら、そのまま手に持てる代物になる。
その後は、固定した後。
一気に左右に両断。
中身は、オスカーが言ったとおり。
確かに虫食いにはなっていなかった。
この実、虫に食われやすく。
中にはたっぷり掌ほどもある虫が巣くっている事もある。
そういった虫は、潰した後焼いて、灰を肥料に使うのだけれど。当然木の実も役には立たない。
とりあえず、果肉を取りだし。
それをすりつぶす。
そして、プラフタが言う通り。
じっくり過熱しつつ。
氷室にて、放置していた水を。
少しずつ加えていく。
「この作業は何をしているの?」
「何種類かあるのですが、中和剤というものがあります。 錬金術において、媒介の役割をするものです。 水の場合は魔力を単純に蓄えると作る事が出来ます。 この媒介を用いて、果肉を変質させます」
「変質させるんだ」
「はい。 恐らくは、腐敗させてガスにすることも出来るでしょうが、ものの性質を変化させる事によって、より強力なガスに生まれ変わらせることが可能です。 適当なタイミングで、元の果実に戻しますよ」
なるほど。
ドロドロになった果肉を。
プラフタのいうタイミングで二つに割った果実に戻し。
そして閉じる。
閉じる際に、中に小石や、切り取ったトゲトゲを入れる。
そして接着。
とはいっても、接着剤で閉じても、ガスの圧力に耐えきれずに爆発してしまうらしいので。
此処で錬金術による変質を利用する。
事前に用意しておいた紙。ゼッテルと言う。少し前に作成に成功した。
これを同じく中和剤で浸し。
乾かした後。
貼り付け。
そして、抵抗が感じず。
スムーズに動くようになるまで。
なめす。
後は乾かしておしまいだ。
「魔術で固定した方が良くない?」
「錬金術と魔術の混成は応用です。 今は基本からやります」
「はーい」
「二日ほどで完成します。 試作品を、二十ほど作っておきましょうか」
二十か。
予想していた通り、かなり作る事になる。
クラフトというこの爆弾。
火力に関しては、今のソフィーが作ったものだと、小型の獣を爆殺するのが精一杯らしいのだけれども。
まあそれでも、あるだけマシだろう。
それに、それでも、自衛用の爆弾としては需要がある。非力な子供にも扱えるし。非戦闘員に持たせたら、敵に対して奇襲を仕掛ける事だって可能だ。
今の時代、敵は非戦闘員だって容赦なく襲う。
身を守るためには。
あらゆる備えが必要なのだ。
続けて、二十セットの作成に入る。
クラフトというこの爆弾も。
もっとも簡単だという割りに、この難易度である。
時々抵抗を感じると。
プラフタがそれを敏感に察知して、止めるように言う。
実際無理にやると上手く行かないのが目に見えて分かるので。
手を一旦止めて。
どうしたら上手く行くのかを、話し合い。
それから作業に掛かる。
一通り作り上げ。
後はガスが効率よく発生しやすくなる場所に置く。
日当たりが良い場所が望ましい。
そしてもう一つ重要なのは。
外側が適切に乾燥することだ。
適切に乾燥しないと、割れたりする事があり。
亀裂が入ると、その瞬間炸裂したりする。
このため、あたしは魔術によって防壁も張っておく。こうすることで、事故が起きても被害を最小限に抑えられる。
作業が終わったら。
反省会をする。
完成品を爆発させてみてから点数をつけるとプラフタは言うが。
現時点では17点くらいだという。
かなり低いなと思ったが。
爆発の規模次第では点数を上げるとも言う話なので。
まあそれは実際にやってみないと分からないか。
街に出る。
モニカにあったので、軽く挨拶。昨日はちょっと遅くまで巡回をしていたらしく、少し疲れが残っていた。
「はい、栄養剤」
「ありがとう。 オスカー印の奴かしら?」
「そうだよ」
オスカーは錬金術師では無いが、自分で野菜をブレンドして、栄養剤を作って配っている。
これがおいしくないことこの上ないのだが。
その代わり栄養はばっちり。
何も食べる事が出来ないような、時間が無い日には。
これだけ飲んでおけば大丈夫、という位だ。
モニカも恐らく朝食の暇も無かったのだろう。ぐびぐびと翠色の栄養剤を飲み干して、そしてハンカチで口を拭った。
「まずいわね、相変わらず」
「でも良く効くんだよね、これ」
「本当にそれなのよ。 少しは美味しく出来ないのかしら」
「オスカーは植物に関しては専門家だからね。 ちょっと相談をして見たら?」
モニカが咳払いする。
プラフタに意見を求めているのだろう。
だが、プラフタは。
思った以上に過酷な意見を返してきた。
「味に文句を言えるのだとしたら、それは幸せなことですよ。 私が錬金術師だった時代には、味など考えている余裕はありませんでした」
「そっか、数百年前だもんね」
「それもありますが、今でも恐らく各地に点々としている小さな村などでは同じ状況の筈ですよ。 小さな村などでは商人が嗜好品など持ち込まないでしょうから。 糖分などの味を調えるものを手に入れられるだけ良しと思わないと」
「言葉が無いわ。 ごめんなさい」
モニカがわびるが。
プラフタも、怒っているようではなかった。
いずれにしても、この街が大きくなったのは、お婆ちゃんのおかげだ。モニカは忙しいようなので、その場で離れ。
街の様子を見に行くのだが。
今日は時計屋が珍しく開いていた。
入ってみると。
目の下に隈を作った、やる気の無さそうな長身痩躯の青年が。銃を弄っていた。
銃は言うまでも無く機械に属するもので。
多くの場合、魔術を利用して弾丸を撃ち出し。
相手を打ち抜く。
火力は武器としては小さい方で、遠距離から不確実な攻撃しか出来ない反面。上手く使えば子供でも大人にある程度のダメージを与えられる。
魔術を使って防御されるとほぼ無力なのが痛いが。その辺りは、弾丸に魔術を込めたりする事で、補う事が出来る。
プラフタを見ても、無感動な様子だった青年。
通称、芸のない二代目。
ハロル=ジーメンスである。
前はソフィーと幼なじみ二人を連れて、彼方此方で遊んでくれたこともあったのだけれども。
天才と名高かったお父さんが亡くなってから。
すっかりひねくれてしまい。
今ではその遺産を食い潰しながら。
開店休業状態のお店を、気が向いたら開いている。
「おはよう、ハロルさん」
「おはよう。 それが例の本か」
「姿は本だけれど錬金術師だよ。 現に色々凄く詳しいんだよ」
「そうか、それは済まなかった。 俺はハロル。 そこにいるソフィー達悪ガキ三人の兄貴分みたいなことをしていた時期もあった」
プラフタは意外そうにするが。
あたしとモニカ、オスカーは。
問題児三人衆だったのだ。
あたしはいうまでもなく、精神に大きなダメージを受けていたし。
落ち着いている今とは裏腹に、モニカは昔はおてんばすぎた。高い身体能力は、幼い頃に培ったものである。一方、勉強や信仰に目覚めてからは、今度は本を読みすぎて、眼鏡が必須になってしまったが。
オスカーは兎に角変わり者で、あたし達二人以外からはあまり良く想われず、植物バカとか散々陰口をたたかれていた。
まあ植物に話しかけていたりすればそうなるのも自明の理で。
だがオスカーが植物に関する目利きに関してはホンモノである事が分かってくると。
少しずつ状態は変わっていった。
もっとも、今でもオスカーは、立場があまり良くない。
スキルを持っていても。
「見かけが気持ち悪い」「行動がずれている」といった要素を持っていると、人格から全否定するのが人間だ。
これはヒト族に特に顕著で。
あたしとしても、反吐が出ると思うのだが。
いずれにしても。
こんな三人組を。
ハロルさんは差別もせず。
ただ面倒くさそうに、彼方此方に連れて行ってくれては。
遊び相手になってくれた。
今ではすっかり評判が悪い時計屋になっているハロルさんだけれども。一応射撃の腕は相応で。
魔術も使える。
弾丸に魔術を乗せて撃ち放つことで、敵に確定で命中させたり。
魔術の防御を、相手の力量次第だが、貫通することも出来る。
自警団の手が足りないときは声が掛かることもあるのだが。
しかしながら、やはり評判はあまり良くない。
態度が悪い。
そうベテラン達からの不平不満が、ソフィーの所まで届くほどだ。
一方で、ハロルさんにしても、散々芸のない二代目呼ばわりしてくれたことに関しては、思うところもあるのだろう。
反発することはあっても。
頭を下げる気は無さそうだ。
「機械に関しては、やがて錬金術と合成することで、高い効果を上げる事が出来るかも知れません。 その点では魔術と同じです」
「随分と流ちょうだな。 あいにくだが、俺にはそんな腕は無いぞ」
「無ければソフィーが補うだけです」
「えっ? ああ、まあ……そのうち力がついたらね」
いきなり話を振られてあたしも困ったが。
そうか。
プラフタも、ハロルさんにはあまり悪い印象はないのか。それだけは、何というか、良い事だ。
これで、現時点で親しくしているヒトとは、一通り顔を合わせた。
そういえば、ハロルさんは店もあまり忙しくないし。ああやって拗ねていても、モニカやオスカーとは口を利いてもくれる。
それならば、護衛として参加してくれるかも知れない。
もしそうなってくれれば。
多少は有り難いかも知れないと、あたしは思った。
※獣について
本作シリーズでは、獣について独自の概念を採用しています。
これは後に理由がわかるのですが、本作シリーズにおいて獣は荒野に幾らでも湧きます。無から湧きます。そして弱い者でも人間より強いのが普通です。強力な魔族でも、荒野の獣……特に大物には単独で対処するのは難しいのです。
これらは例外なく草食だろうと人間に敵意を持ち、放置すれば際限なく大きく凶暴になります。
非常に強くなった獣はネームドと呼ばれ、その戦闘力は時にドラゴンに迫る事があります。