暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
反論の数だけそれを粉砕していきます。
この理不尽すぎる世界には。
相応の意味があったのです。
「最初から、おかしいとは誰も思わなかった?」
あたしも、頭がくらくらしていたが。
他の者達の中には、吐いている者も珍しくなかった。
此処にいるのは世界でもトップクラスの猛者ばかりだ。
それなのに、耐えられなかった、ということだ。
特にパルミラの面倒くさそうな声には。
強烈に来るものがあった。
「ヒト族って、そこのルアードって子が味わったように、そもそも見かけで全てを判断する種族なんだよ。 これは偏見でも何でも無くて、2700京年ほど実時間で客観的に観察した結果なんだから、どうしようもない動かしがたい事実なの。 それなのに、どうしてヒト族は魔族や獣人族、ましてやホムを差別しないで、互いに力を生かして生きていこう、何て思えていると思った?」
「そ、それは……」
「キミ達魔族もそうだよ。 キミ達は造物主に対してあまりにも盲目的に忠誠を捧げすぎた。 今では少し調整したけれど、その前は造物主に対する忠誠のあまり、どのような汚れ仕事でも平気でやる存在だったし、それ故に神に舐められた。 悪役を買って出て、それを疑問にも思わない時点で、問題があったんだよ。 だから用済みになったら捨てられてしまったの」
イフリータが。
あれほどの豪傑が、最強クラスの魔族の戦士が。頭を抱えて悲鳴を上げているのが見えた。
あたしも戻しそうだが。
必死に耐える。
これは精神攻撃などではない。
単に事実を淡々と告げられているだけだ。
そう、これこそ真相。
「獣人族のみんなは、戦いに価値観を置きすぎなんだよ。 確かに生物が熾烈な淘汰の果てに力を獲得してきたというのは客観的な事実かも知れない。 でもね、文明を構築した後もそれではまずかったんだ。 実際問題、キミ達はあまりにも戦いを好みすぎる性格だった。 完全な楽園にでも置かない限り、キミ達は殺し合いを止められない性質をもてあましすぎていたんだよ」
「う、嘘だ……!」
「嘘じゃない事は、もう分かっているでしょうに」
あくびをするパルミラ。
責める気にもなれない。
こいつは。
本当に、気が遠くなるどころでは無い年月働き続け。
ありとあらゆるパターンを試し続け。
その結果、力尽きて寝たのである。
昼寝ばっかりしている。
そう言って怒っている者もいたらしい。
それについては、事前に情報は得ていた。
だが、それも当然だったのだろう。
数日働き続けただけでも人は倒れる。
此奴に至っては、その一体何倍の年月、働き続けたというのか。それを責める資格など、誰にも無いだろう。
その上、此奴は独善的に自分が考える至善を押しつけたわけでも何でも無い。
基本的に助けた者達が、何も助力しなくてもやっていけるように下準備をしていっただけだ。
それでもどうにもならなかったから、問題点を取り除いた。
それ以外はしていない。
「ホム達。 キミ達はあまりにも優しすぎるし、身を守らなすぎる。 奉仕種族として作り上げられたのだから仕方が無いとは言え、自分を悪意から守る工夫はしなければならないんだよ。 だから、そのために知恵と、失われていた力を授けたの」
「そ、そんな。 こ、この怒りは」
「私があげた感情の一つだよ。 キミ達は、此処に連れてきた時には、それさえも無かったんだから」
義手で義眼のホムが、頭を抱えて地面でのたうち廻っているのが見えた。
何もかも、価値観を完全破壊されたのが明白だった。
何となく分かる。
世界に対する怒りと理不尽が、生の原動力だったのだろう。
それを何もかも暴露されれば。
ああなってしまうのも無理は無い。
あたしは。
必死に立ち上がる。
まだ、聞かなければならないことがある。
「ドラゴンと邪神、アレは何」
「ああ、よほど気に入らないみたいだね」
「当たり前でしょう……!?」
「キミ達の敵として用意したのがドラゴン」
さらりと言われる。
そして、膨大な試行錯誤の過程も見せられた。
猛獣などは、それぞれの種族が元々住んでいた世界に、生息していた生物をベースに作った。
そもそもこれらが荒野で生きて行けていたのは。
この世界そのものから、力を供給されていたから。
本来だったらエサが足りずに、とても生きていける筈も無い。
これらの猛獣を撃ち倒し。
そして食べられる程度でなければ。
人間は堕落を続けてしまう。
そして、人間の技術力が上がりすぎないようにするためにも。
身を守るための技術を総動員しても勝てず。
時々文明を徹底的に破壊していく存在が必要になった。
それがドラゴンだ。
だが、それは絶望的理不尽ではいけない。
本当にそれぞれの種族が力を合わせて立ち向かえば、勝つことができる。そういう敵で無ければ、どの種族も生きる事にやる気を無くしてしまう。
故にそう調整もした。
団結のためには敵がいる。
そのために作られたのが、常に世界に同数が存在し。時々適度に人間を間引いていく存在。
ドラゴンなのである。
「今の文明レベルをみたけれど、丁度同じまま保たれているね。 人口も丁度私が眠り始めた頃と同じ。 ドラゴンたちの活動が完璧だという証拠だね」
「ふ、ふざけ……」
「そうしないと、あっという間にキミ達は爆発的に増殖して、資源も何も食い尽くしてしまうんだから。 その後に始まるのは互いの殺し合いだよ?」
必死に抗おうとしたケンタウルス族の女性戦士が、一瞬で黙らせられる。
更にパルミラは追撃を入れる。
ドラゴンは、もしも文明レベルが上がったと判断した場合。
強さが底上げされる仕組みになっていると言う。
そして過剰な文明が蔓延しようとした時。
それらが大挙して訪れ。廃墟に変えてしまうのだとか。
そうか。
そういうことだったのか。
合点がいった。
ドラゴンがどうして人間ばかり執拗に襲うのか。
全て納得がいった。
当然である。
最初からそういう生物として設計されていたのだから。
生物でさえない。
生きた道具。
環境調整装置。
それ以上でも以下でもない。
そして倒す事が出来れば、それが希望につながるという事さえも、計算された上だったというのか。
知能が存在しないのも納得である。
以前見た太陽と月の奴は、恐らく何かの特殊事例だったのだろう。
「な、ならば邪神は……!」
「アレは単なる私の端末だよ。 世界を監視して、バランスが崩れていないか調整するためだけのもの。 会話も出来るようにはしておいたけれど、そうしないとドラゴンと見分けつかないでしょ。 ちなみにアレも、倒しても無駄だから。 力は一時的に拡散して、猛獣たちを更に強くするだけだからね。 それもその内復活するし」
「邪神が執拗に人を襲うのもそのためか!」
「その通りだよ。 キミ達が言う邪神は人間を憎んでいるのでも怒っているのでもなんでもないの。 単に管理を黙々としているだけ。 意思も与えているけれど。 もしも規格外の力を持つ存在が現れた場合は、私の所に導く機会を与えるようにしておいたのが、生きたみたいだね」
私をパルミラが見た。
やはり光のエレメンタルを潰した時に見たのは、夢では無かったか。
立っているだけでやっとの状態。
パルミラは、あくびを一つした。
「さて、これで大体は分かったね。 で、どうしたい? 私を倒したいというのならどうぞどうぞ。 遊んであげるよ。 もっとも殺されるつもりは無いし、私を殺したら多分この世界ごとドカンといっちゃうけど」
「世界を人質に取るつもりか!」
「そうじゃなくて、私そのものがこの世界なの」
絶句する錬金術師。
相当に頭が切れそうな錬金術師だというのに。
その言葉だけで心がへし折れたようだった。
あたしは、踏みとどまる。
ここまで来た意味を思い出せ。
荒野で戦い続けてきた意味を思い出せ。
精神で負ける訳にはいかない。
此奴に、言葉だけで。見せられた現実だけで屈する訳にはいかない。
相手はそれこそ、力の一つも振るっていない。
此奴の顔面に拳を叩き込むのが目的だったはずだ。
此奴を叩き潰すのが目的だったはずだ。
顔を上げろ。
歩け。
あたしは自分に叱咤する。そして、声を絞り出させた。
「他の可能性は……!」
「客観的に見て、もっと試行を重ねていくしかないだろうけれども。 ふむ。 偶然の結果出来た規格外才能の持ち主が此処にいるし、少しだけこっちとしても譲歩してみようかな」
「どういう意味だ!」
「ソフィー=ノイエンミュラー。 キミの才覚に関しては此方でも確認したけれど、遺伝子の悪戯とは言え私が見た中でも最も才覚ある人間だよ。 だから、キミに関しては、ある程度特権を与えてみようと思う」
特権。
どういう意味だ。
パルミラが指を弾く。
よく分からないが。何だか、体が熱い。力が流れ込んでくる。
それが、ダイレクトに感じ取れる。
「才覚を本来の限界よりもう少し伸ばしてみた。 上手く行けば、キミだけでこの世界に、新しい可能性を造り出せるかも知れない。 正直な話、私だけでやっていても色々手詰まりを感じていたからね。 丁度良いし、この状態を一度記録しておくかな」
何だか分からないが。
いきなり一瞬だけ空気が重くなった気がしたが。
それもすぐに収まった。
パルミラは、死屍累々の有様をもう一度見ると。
念を押すように言った。
「いい、警告はしておくよ。 それぞれの種族が力を合わせてやっていかなければ、どうにもならないようにこの世界はなっている。 この世界をそうしてしまったのはキミ達自身だと言う事を忘れてはならないよ。 私を憎むのは自由だし勝手だけれども、自分達で世界に攻撃しても、自分達を傷つけるだけだと言う事は忘れてはならないからね」
「……」
あたしも限界だ。
力は、正体がよく分からない。
だが、それでも。
これ以上、立っているのは無理そうだった。
いつのまにか。
其処には元から誰もいなかったように。
パルミラの姿は、消えていた。