暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
へたり込んだあたしは。
それでも意識を保っていた。
気を失っている者。
吐いている者。
頭を抱えたままのたうち廻っている者。
周囲は惨状と言って良い。
比較的平気そうなのがフリッツさんだ。
フリッツさんは、呆然としているジュリオさんの肩を掴むと、気合いを入れて、正気に戻していた。
プラフタは、ルアードを立たせる。
これでは、正直な所。
戦うどころではないだろう。
真実は誰もが見た。
この現実に対して。
頭を整理する時間が必要だ。
「モニカ、起きて」
「……」
モニカは泣いていた。
眼鏡を外して、ずっと涙を拭っていた。
彼女は教会にずっと信仰を捧げていたし。
あたしと何度も殺し合いになるような喧嘩もしてきた仲だ。
本当のところはどうかは分からないけれど。
それでも、彼女が世界をというか。神を信じていたのは事実だった、と断言しても良いだろう。
それなのに、現実はこれだ。
精神にダメージを受けない訳が無い。
あたしはオスカーも起こす。
オスカーは、ぼんやりとしていた。
「そっか。 植物達が苦しい思いをしているのも、全部おいら達のせいだったんだな……」
「気を確かに持って」
「……」
オスカーもだめか。
レオンさんは、頭を振りながら、しきりに何かを呟いているが。
多分相当に辛いだろう。
ただ自死に走るようなことは無いはずだ。
ハロルさんは、ずっと吐き戻していたが。
手を貸そうとすると、自分で立ち上がるから、時間を寄越せと言った。
それが、強がりなのだと分かって。
無言で頷いて、視線を外す。
こんな姿、見られたくは無いのだろう。
コルちゃんは。
一番ショックを受けていた。
瞳孔が開ききっている。
意識はあるようだが。
完全にショックで、頭が働いていないようだった。
仕方がない。
戻るまで、背負っていくか。
元々戦闘向きでは無いコルちゃんには、この現実はあまりにもきつすぎたのだろう。分からないでも無い。
あたしは。
耐え抜いたし。
何か妙な力が湧いてきているのも分かる。
神が何か力をくれるとか言っていたが。
はっきり言っていらない。
しかし、この力が無ければ、どのみち破滅の運命からは逃れられないのも事実だと考えて良いだろう。
2700京年。
9兆回。
あいつが。
パルミラが嘘をついていたとは思えない。
実際問題、全てが腑に落ちる内容だった。
この世界の異常な過酷さ。
それに何故か、あからさまに違う種族達が仲良く出来ているという現象。
これらも、試行錯誤の末の工夫だったのだとすれば。
全てが納得できる。
そもそもだ。
言われて見れば、本来これだけ違う種族が、仲良くなんぞ出来るわけが無い。
今まで平然と魔族や獣人族、ホムと接してきたが。
それはそうできるように、無理矢理調整されたから、というのが正しかったのだろう。
プラフタが、此方に来る。
ルアードも、かなり辛そうだったが。一緒に来た。
他の深淵の者幹部は、正直意識を保っているだけで精一杯の様子で。
これでは襲われる心配はしなくても良いだろう。
発狂した奴が暴れ出さなければ大丈夫だ。
「ルアード、無事ですか」
「……しばらく時間が欲しい」
「いや、プラフタ、此処ではっきりさせておかないと行けない事が一つあるでしょう」
「しかし、こんな状態では」
プラフタでさえ、困惑しきっている。
彼女は、ひょっとすると。
ある程度は、この世界の現実と理不尽について、理解をしていたのかも知れない。
こういう事もありうると、考えていたのかも知れない。
あらゆる情報が、確かにヒントになってはいた。
しかしながら、想像を絶する超常的な理由から、この世界が構築されていた。
だが、ある程度予測していれば。
あたしのように、耐えることが出来た、のかも知れない。
ルアードは予測が出来なかった。
他の誰もが、そうだった。
というよりも、このような状況。
予測できる方が異常とも言えたのだが。
「どうするの。 現在すらないというのも、未来を奪うべきでは無いと言うのも、どっちも正しいと分かってしまったけれど。 まだ喧嘩をするの?」
「……」
「ルアードさん。 あたしはこの世界が嫌い。 あのパルミラってやつもやっぱり気にくわない。 でも、此処でまだ我々が争う理由はもう無いと思う。 未来を奪って現在を作っても、この状況だとどうにもならないよ。 また、闇雲に未来を求めても、どうにもならないのも、同じじゃ無いのかな」
あの神は、公平だった。
少なくとも、あからさまな不公正な行動はしていなかった。
故に絶望は深い。
この世界は、本当に始まってさえいないのだと、思い知らされてしまう。
だからこそ。
此処で、話をしっかりつけておかなければならない。
「分かった。 どうやら、戦っている場合ではなさそうだ」
「ルアード!」
プラフタの声が。
あらゆる感情を内包していた。
ルアードは俯いていた。
青ざめたその顔には。
絶望以上の絶望があった。
そして現実は、更にそれ以上の絶望と理不尽で満ちている。
そもそも我々は。
人間は。
助けて貰った存在であった。
これは本当に神話の通り。
それも、結局自業自得で絶滅するところだったのを、助けて貰ったのだ。ホムにしても、逃げ出すなりなんなりするべきだったのだろう。
パルミラの苦労としてくれた事を考えると、如何に嫌いであっても、面罵するつもりにはとてもなれない。
其処までの恥知らずにはあたしはなれない。
むしろ極めて好意的かつ、自立を促すように尽力までしてくれたのだ。嫌いな事に代わりは無いが、それは人間として認めなければいけない。
つまり。どうにかして、我々が。
この世界を立て直さなければならないのだ。
「どうやらあたしはパルミラお墨付きの才覚持ちらしい。 此処にいる面子が協力してくれれば、きっとこの世界に未来の可能性を作れるかも知れない」
「ソフィー、貴方」
「彼奴はこの状況を保存するって言ってた。 それだったら、多分色々試せる。 彼奴はあたしを認めた。 力も何だかわき上がってる。 彼奴が考えなかったようなことを、あたしが考えつくかも知れない。 そう思ったんだよ」
どのみち彼奴は手詰まりだと考えていた。
そうでなければ、長期睡眠になど入らなかったのだろう。
そしてあたしに可能性の萌芽を見た。
だからこそに、色々と見せた。
あたしはそれを元に、考えなければならない。
だがあたしだけでは無理だろう。
手を伸ばす。
少し躊躇った後、ルアードは手をとった。
あたしは釘を刺す。
「根絶の力を使ったことは許してはいないからね。 それだけは覚えておいて」
「……分かっている。 どうやら根絶の力では、何一つ改善はしないようだ」
「プラフタ」
「分かっています」
プラフタも、ルアードの手を取る。
ある意味、血しぶきをまき散らし。
血反吐をブチ撒け。
内臓を飛び散らせる戦いよりも。
遙かに激しく。
そして過酷な戦いは。
此処に終わった。
後は、この戦いの結末を。
良い方向に持っていくだけ。
それだけだ。
(続)
あらゆる価値観が微塵に砕かれた結果。
魔人が世界に降臨します。
創造の神は善意でしか行動しておらず。
可能性なんて素のままでは存在などしていませんでした。
九兆回にも達する試行を創造の神のスペックで行って精査してどうにもならなかったのです。
それでもなお。
人を越えた存在となったソフィーは、微塵も見えない光に向けて歩き出すのです。