暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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深淵に触れ人間を超越したソフィーは。

世界そのものの運命を変えるべく動き始めます。

そのあり方は非常にダイナミックであり。

力を使うことを惜しみもしません。

全能にもっとも近い存在がなしえなかったことをなすには。

それだけの積極性が必要だったからです。


深淵の錬金術師
序、運命に抗え


誰も欠ける事は無くキルヘン=ベルに帰還した。

 

それだけでも良しとするべきなのだろう。

 

本来だったらまったく良くなどない。

 

何もかも解決などしていないのだから。

 

あたしだって、何かわき上がるような力は感じているが、これが都合が良いスーパーパワーの類では無い事も分かっている。

 

恐らくこれから努力して。

 

引きだしていかなければならない類の力だ。

 

事実、帰り道。

 

弱っている様子を見て、仕掛けて来た獣を返り討ちにした時。

 

全力で砲撃を叩き込んでやったのだが。

 

別段、いつもと威力が変わっているようには感じなかった。

 

変わっているとしたら。

 

恐らくは、あたしの中の才能。

 

奴は。

 

パルミラは上限値を引き上げたような事を言っていた。

 

そうなると、あたしは。

 

恐らく今まで以上に。

 

努力すれば、更なる高みに上がれるようになった、と見て良いだろう。

 

賢者の石を作った事で。

 

何か変わったか。

 

そういう点では変わっていない。

 

しかし、賢者の石を作った事で、接触したパルミラによって。

 

何か余計な事をされた。

 

それは事実のようだ。

 

アトリエにつくと、自由解散とする。フリッツさんだけは、腕組みしたまま、アトリエに残った。

 

この人だけは。

 

皆がのたうち廻っている中。

 

比較的平気な顔をしていた。

 

それどころか。真実を見た後。

 

ずっと厳しい顔をしている。

 

何か言いたい事があるのかも知れない。

 

皆、休むようにとフリッツさんはいつになく厳しい顔をして解散の音頭を取ったのだけれども。

 

やはり、あたしに言う事があるようで。

 

皆がいなくなるのを待ってから口を開く。

 

「すまぬが、茶を出してくれるか。 少しばかり長い話になる」

 

「分かりました」

 

「疲れている所済まないな。 プラフタ、君も同席して欲しい」

 

「はい」

 

あたしが茶を淹れて。

 

砂糖とか蜜とかも用意する。

 

これらはとても高級な品だ。

 

実際、貧民の子供は、甘いものなんて食べる機会さえ無い場所もあると聞いている。

 

この辺りは違う。

 

ただそれだけだ。

 

フリッツさんは、茶に少しだけ砂糖を入れると。

 

しばし黙り込んだまま茶を飲む。

 

あたしは蜂蜜を。

 

プラフタは砂糖とミルクを入れていたけれど。気分だけだ。飲めないのだから。

 

「フリッツさんだけは、平気な様子でしたね」

 

「私は……地獄を見てきたからな」

 

「地獄ですか」

 

「雇われて彼方此方で戦う人間は、基本的に使い捨てだ。 レオンもそういう意味では地獄は知っているだろうが、私と妻、それに娘は。 それとは比較にもならない地獄を見てきた」

 

フリッツさんは話してくれる。

 

ドラゴンに襲われた村を助けに行ったときのこと。

 

焼け焦げた死体の山。

 

親を求めて泣く子供の両足は炭になっていて。

 

両親だったらしい存在は、そばで焼け焦げていた。

 

必死に戦っただろう魔族の死体。

 

上半身が吹き飛ばされ。

 

ブレス一発で消し飛ばされたのは明白だった。

 

ドラゴンとは戦えない。

 

その魔族が、歴戦の勇者だった事を知っていたフリッツさんは。その時に悟ったそうである。

 

「情けない話だがな、実はドラゴネアと戦った時、私は死ぬ事を覚悟していた。 今の私と同等以上の実力を持っていた魔族の傭兵が、ドラゴンには手も足も出なかった事を知っていたからな。 ソフィーの錬金術による支援があると分かっていても怖かった。 私のように経験を積んだ傭兵でも、怖い時は怖い。 舐められたら終わりの商売だから本当に信頼出来る相手にしか口にはしないが、それは事実なんだよ」

 

寂しそうにいうフリッツさん。

 

他にも地獄はいくらでもあると、話をしてくれる。

 

まだ若い頃。自分と同じ傭兵である妻と一緒に向かった先は。

 

匪賊の襲撃を定期的に受ける村だった。

 

匪賊に一度落ちると、人間はまず立ち直れない。

 

人肉の味を覚えると最悪で。

 

その状態から社会復帰した例をフリッツさんは知らないそうだ。

 

ホムの首を落とそうと、満面の笑みで斧を振り上げる男。

 

だが一瞬此方が早かった。

 

賊の首を妻が刎ね飛ばし。

 

フリッツさんが匪賊の群れの中に乱入。

 

片っ端から斬り伏せ。

 

全滅させた。

 

許すものか。生かすものか。

 

お前達は、弱者を思うままに踏みにじろうとした。正義の鉄槌を下してやる。

 

鬼神のような暴れぶりは、怒りから来たものだった。妻も、フリッツさんと並んで、同じくらいに荒れ狂った。

 

傭兵の仲間達も、それを見て怖れた。

 

だがフリッツさんは。

 

全てが終わり。

 

興奮が収まってくると。

 

むしろあまりの事態に冷や汗を掻き。

 

言葉を無くしてしまっていた。

 

気付いてしまったのだ。

 

殺した匪賊の中には。

 

まだ子供も混じっていた。

 

そう。

 

自分から率先して匪賊になる子供だっている。

 

暮らしていけない。だから匪賊になる。子供だって、それは関係無い。勿論、そうなると社会復帰は無理だ。殺すしかない。

 

分かりきってはいた。

 

殺さなければ、もっと多くの弱い人間が殺される。そればかりか、生きたまま喰われてしまう。斧で首を叩き落とされ掛けたホムのように。

 

その時、フリッツさんは、何かが失われた気がしたという。

 

おかしな話で。

 

娘が出来たのは、その戦いの直後だったそうだ。

 

他にも地獄はたくさん見てきた。

 

腐りきった貴族に、貧民街にいる犯罪組織を皆殺しにしてこいと依頼された時のこと。

 

犯罪組織を構成しているのは、子供達だった。

 

それも、邪悪な薬物を売りさばく、悪鬼のような組織で。ボスはまだ十三歳だった。

 

天才的な犯罪の才能があったのだろう。

 

薬物は常習性があり。

 

一度口に入れるともはや逃れる事は出来ず。

 

心身をめちゃめちゃに蝕みながら。

 

金も生活も全てをむしり取っていく。

 

一人だけ贅沢をするために。

 

周囲の全てを地獄にする。

 

したり顔で、この世は強い者のもので弱い奴には何をしても良いとご高説を垂れる犯罪組織の長を。子供と分かっていながら、首を刎ねなければならなかった。

 

そして、薬物は全て燃やした。

 

すがりついてくる中毒患者。

 

それを奪わないでくれ。

 

この世界で生きて行くには、それが必要なんだ。

 

せめて夢くらい見させてくれ。

 

飢え衰えた者達がすがりついてくる。痩せこけて、死にかけている彼らの目に光などなかった。

 

それは、本物の地獄だった。

 

悪行を働く傭兵もいた。

 

匪賊に荷担する者まで。

 

傭兵に互助組織のようなものはない。正確には、そんなものは作る余裕が無い。

 

ただ仕事をすると、給金を貰える。良い仕事をすると、雇い主から紹介状のようなものを書いてもらえる。

 

大きな街の主などの紹介状は、魔術で強力な防御が施されていて。

 

場合によっては錬金術が使われている事もあり。

 

チンピラ程度には偽造できない。

 

フリッツさんはそれを何枚も持っていて。

 

だがその全てに血が染みついていると言った。

 

「妻はやがて限界が来て、神の下に帰依した。 私はそれを止められなかった。 私に匹敵する凄腕だったし、戦場ではこれ以上も無いほど頼りになる相棒だったが、どうしてそれを止められただろうか。 娘を連れて傭兵をしながら、私は血しぶきを浴び、戦場を駆け回った」

 

勿論猛獣やネームドを相手にすることもあった。

 

自警団を率いて戦う事もあった。

 

だが、汚れ仕事も散々やった。

 

そんな中、唯一の癒やしとなったのが。

 

家族共通の趣味である人形劇だった、という事だった。妻の所に行く時も、人形劇が共通の話題になったという。

 

なるほど、そういうことだったのか。

 

あたしには分かった。この人が、どうしてあの場所で、平然としていられたのか。勿論精神にダメージは受けていただろう。

 

だがそれでもある程度耐え抜けたのは。

 

世界が最初から。

 

想像を絶する地獄で。

 

神がいたとしても。

 

いきなり良くなることなど、絶対にあり得ないと、知っていたからでは無いのだろうかと。

 

「ソフィー。 君は可能性を見いだされたようだな。 私からも頼みたい。 この世界を、地獄では無い場所にしてくれないだろうか」

 

「パルミラの記憶は見たと思います。 あたしもこれから全力は尽くしますが、小手先の行動でどうにか出来る事ではありませんよ」

 

「分かっているさ」

 

「ですが、貴方ほどの傭兵が協力してくれるのであれば心強いです。 これからも連携して動きましょう」

 

握手を交わす。

 

フリッツさんは、奥さんと娘さん相手の書状を書いてくれた。

 

娘さんは方向音痴だとかで、好き勝手に彼方此方を旅しているそうだが。

 

実力の方は折り紙付き。

 

特にパワーに関しては、生半可な魔族では真正面から叩き潰されるほど、だそうである。しかも夜の二倍状態で、だ。

 

奥さんの方は、アダレットの首都にいると言う。

 

今では恵まれない生まれの孤児達を引き取って。

 

彼ら彼女らを守りながら、決して楽園とは言えないアダレットで、隠遁生活をしているそうだが。

 

ただし剣術の腕は衰えていないし。

 

魔術も今のモニカと同等かそれ以上に使えるという。

 

以前錬金術師に軽いアンチエイジングを掛けて貰っているそうで。

 

かなりの高齢になっている今でも、若々しさを保っているのだとか。

 

フリッツさんもそうなのかと聞くと。

 

寂しげに微笑まれる。

 

そうなのだろう。

 

まあ、確かに年齢にしては凄腕だと思っていた。衰えを、ある程度誤魔化していた、と言う訳だ。

 

「フリッツさん。 あたしは、これから可能性を探すのと、錬金術の腕を上げるのを、並行で行おうと思っています。 そのためには、まずはこの街の安全を完全確保しなければなりません」

 

「匪賊は良いとして、ドラゴンとネームド、それに邪神に対する備えだな」

 

「はい。 出来るだけ早く、東の街とも直接つながるように発展を急ぎます。 防衛体制が整い次第、旅に出るつもりです」

 

旅か。

 

フリッツさんは呟く。

 

決して良いものでは無いぞとも、付け加えられた。

 

分かっている。

 

だが、やらなければならない。

 

「深淵の者とも協力します。 「世界を発展させる」のではなく、「世界の可能性を作る」ために、多数の視点が必要になります。 それには、色々な出自や、違う感覚を持った錬金術師が必要になります。 勿論錬金術師以外の存在も必要になります」

 

パルミラのスペックは桁外れだった。桁外れという言葉が生ぬるく思える程の存在だった。

 

彼奴は、恐らく人間がどれだけ背伸びしたって勝てる相手では無いだろう。

 

だが、世界に配置されている端末に関しては。今のあたしなら、何とか出来る。

 

人間が増えすぎると、ドラゴンがパワーアップするという話だから。

 

慎重にやらなければならないが。

 

しかし、それでも。

 

少なくとも、ある程度主導権は此方で抑えなければならない。

 

まずは、各地の孤立している村などを、統合し。

 

大きめの街に人間をまとめる。

 

更に爆発的な人間の増加と。

 

技術の発展は抑える。

 

新しい技術は作る。

 

インフラは整備する。

 

だが、人間が増えすぎると、この世界の抑止機構であるドラゴンによる攻撃は避けられなくなる。

 

ならば、技術についてはある程度独占しつつ。

 

人々の生活水準は引き上げ。

 

なおかつ人間の増加を抑えなければならない。

 

この辺りをまず課題とし。

 

その後に、どうにかして、人間の可能性を引き出す必要が生じてくる。

 

それがあたしの結論だ。

 

じっと黙って聞いていたプラフタが頷く。

 

「恐らく、その結論が正しいでしょう。 何も考えずに技術だけ発達させても、恐らくは破滅の未来しかありません」

 

「簡単な路では無いぞ」

 

「ええ。 ですから、お願いします」

 

「分かった。 厳しい話だが、しかし賭けて見る価値はありそうだ。」

 

あたしはフリッツさんに頭を下げる。

 

フリッツさんは、少し考えてから。

 

更に自分が知る、腕利きの傭兵への紹介状を、書けるだけ書いてくれた。

 

大事に使わなければならないだろう。

 

いずれにしても。

 

この街。

 

キルヘン=ベルの防衛体制の強化と。

 

世界を平穏にするための準備は。

 

進めていかなければならない。

 

フリッツさんが帰った後、プラフタは嘆息した。

 

「あまりにも言動に問題がある人ではありますが、今後も頼らなければなりませんね」

 

「そうだね。 言動さえ問題が無ければね」

 

「ですが、正直な話、あれだけ人形劇に執着する理由も分かった気がします。 あれは恐らく、現実にあまりにも過酷な運命を見た者が。 せめて他人に夢を見せられるように、始めたことだったのでしょう」

 

「夢、か」

 

9兆回繰り返した世界。

 

それは泡沫の夢どころの話じゃあ無い。

 

どれだけの哀しみと絶望が其処にあったのだろう。

 

2700京年働いたパルミラ。

 

頭には来るが。

 

だがもう面罵する事は出来ない。

 

人間が思いつくようなことは、あらかた試したのだ。それに、可哀想だから助けたとしても、その後責任を持って自立も促せるようにし。あらゆる試行錯誤も繰り返した存在である。

 

いい加減な奴だったら。

 

何回か繰り返して駄目だったら放り出していただろうし。

 

或いは途中で飽きてしまっただろう。

 

人間とは比べものにもならないスペックを持ち。

 

しかも責任感と、それに相応しい行動力を持つ神。それでもどうにもならなかったこの世界。

 

どうにかすることを、考えなければならない。

 

あたしは、プラフタに、今日はもう休もうと促した。

 

明日から、また。

 

忙しくなる。

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