暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
最初にやったのは。
光のエレメンタルを殺した影響で出現したネームドの全駆除。
あたしが出られない間、自警団が苦労していたネームドどもを、片っ端から見つけ次第処理。今の実力と装備なら、文字通りの駆除という作業に過ぎなかった。
素材を剥ぎ取り。
回収していった。
色々なネームドがいた。
普通だったら、ただの小さな弱々しい生物の筈が。ネームドになっているケースもあった。
深淵の者は手を貸してくれない。
契約外だからまあ当然だ。
ジュリオさんは既に帰還したが。
まだフリッツさんはいる。
いつものメンバーだけで充分である。
6倍砲撃ふたつ、自身での砲撃をおまけに追加で、クロスファイヤも試してみたが。
火力は充分。
これならば、はっきりいって単純な一方向13倍砲撃よりもいい。
一発外しても他は当たるし。
何よりも、クロスファイヤにすることで、事実上の火力を更に引き上げることが出来る。
充分な成果だ。
やはり拡張肉体を12個まで増やしておいて良かった。
ネームドを狩りつくした後は。
プラフタとルアードのアトリエに出向く。
他の皆にもついてきて貰う。
現時点では、異世界アトリエの一つに、貰った扉を設置している。其処からすぐに出向ける。
流石の本の在庫で。
プラフタと一緒に、空間操作や、高度な錬金術についての本を見繕い、借りる。
勿論ルアードは二つ返事で許可してくれた。
中には絵本などもあったので。
モニカがそれを借り受けていった。
モニカはまだ深淵の者を警戒していたが。
シャドウロードが、あの時の出来事が故か、とても物腰が柔らかくなっていたこともあり。
更にイフリータが少し前に教会に来て、子供達をかまってくれたらしく。
少しだけ躊躇してから、本を何冊か借りていった。
これだけの膨大な書籍。
多分ラスティンの大図書館にも存在しない。
今度、エリーゼさんも連れてきて良いかと聞くと。
ルアードは二つ返事で承知してくれた。
それから座学で勉強する。
というか、プラフタも、自分が勉強するつもりで、あたしに座学をしている様子である。それだけ高度な錬金術と言うことだ。
今あたしが作っているのは。
持ち運べる家だ。
簡単に言うと、異世界アトリエへの扉、つまり旅人の道しるべと同じ仕組みなのだけれども。
それを極限まで圧縮するものである。
なお四次元空間に干渉して、小型化する予定だ。
既に作ってある内部は、数部屋あるかなり大きなアトリエになっている。素材を格納するコンテナも存在し、前にあたしが使っていた錬金釜も此処に設置した。
現在レシピを練っているのだが。
プラフタもかなり考え込んでから、意見を出してくる。
それだけ複雑で。
奇蹟に近い代物だという事である。
「貴方はどんどん複雑なレシピを創造するようになってきましたね、ソフィー」
「まだまだ。 今度は時間を巻き戻すレシピを作って見たいと思っているんだ。 後ね、因果を逆転させるレシピ」
「どのように使うつもりです」
「壊れてしまったものを戻す時とか、調合を失敗した時とか。 少しだけ時間を局所的に戻したい時に使うんだよ」
実際、ちょっとだけ時間を戻したい、という時はある。
世界そのものの時間を戻す事は恐らく無理だろうが。
局所的な時間を止めたり。
戻したり。
そういった事は、理論的には出来る。
というか、あの創造神は世界レベルでやっていたのだ。
強制的に理解させられたが。
この世界における、あたし達が使っている錬金術は、文字通りの神の御技。彼奴の力のごくごく一部。
であれば、同じ事が出来るはず。
更に言えば、彼奴はあの時点でデータを取ったと言っていた。
恐らくだが。
あたしは死ぬ事さえ許されない身になったはずだ。
上手く行かないようなら巻き戻され。
あの時点からまた再開。
この世界が上手く行くまで。
ヒト族。魔族。獣人族。ホム。
皆が手を取り合って。
自立できるようになるまで。
あたしは永遠に、こき使われ続ける事になるだろう。
それは地獄。
文字通りの。
だが、それでも別に構わない。
あたしは最初から狂っているし。
この錬金術そのものは好きでは無い。
世界の理不尽は許しがたいが。
それに対して、幾らでも挑戦できると分かったのだから、ある意味有り難くもあると言える。
「時にソフィー。 旅をして、どうするつもりですか」
「人材を探す」
「人材?」
「この世界の現状だと、本当に運が良くないと、声が聞こえる人間が錬金術師になれるケースはまれだと思うんだ。 そういった人材を探して、少しでも世界の可能性を探すための手伝いをして貰う」
プラフタは真顔になるが。
あたしは本気だ。
勿論深淵の者にも手伝って貰う。
深淵の者も恐らく似たような事はしているはずだが。
あたし自身は、世界全体を回り、理不尽を実力でねじ伏せつつ、それを行っていく。
創造神はあたしに余計な力を与えたようだが。
それでも、あたしだけでは無理だろう。
ルアードとプラフタが加わっても多分駄目だ。
現状を見る限り。
ラスティンの最上位クラスの錬金術師を全部抱き込んでも全然足りない。
最低でも後三人。出来れば四人。
あたしと同レベルの実力を持つ錬金術師がいる。
もう一つ、目的がある。
今のうちにデータを取得しておかなければならない。
創造神は言っていた。
文明のレベルが上がったと判断された場合。
ドラゴンも強くなると。
つまり、準備が整い。
一気に理不尽を解消する時には。
まとめてやらなければならない。
その時のために、貴重な素材は幾らでも必要になってくる。
今までは素材の複製はコルちゃんに頼んでいたが。
彼女だけではとても手が足りないし。
何より今後は、更に貴重な素材が必要になってくるだろう。
ネームドもドラゴンも、狩り倒してやる。勿論邪神も粉砕する。
そうして得られる強力な素材を手当たり次第に集め。
今後の世界の礎にしていくのだ。
いずれにしても、時々キルヘン=ベルに戻りながらも。今まで人間が足を運ぶことが出来なかった場所に。
あたしは出向いていくつもりだ。
孤立している集落などには。
公認錬金術師がいる集落への移動を手伝うか。
それとも大都市への人員移動を促す。
そうすることで、少しでも。
理不尽にあう人間を減らし。人材を確保し。
そして可能性を見つける時の準備をしていかなければならない。
そう。
今までとは違う。
あたしは、今後。
この世界のために。
嫌でも動かなければならないのだ。
それだったら、いっそのこと。
自分から動いて。
全てを打破する。
それだけである。
「いばらの道ですよ」
「言われなくても分かっているよ。 プラフタとルアードは、普通に人助けをしようとしただけでも大変だったでしょ。 元々狂ってるあたしが、世界規模でそれをやろうとすれば、大変なのは分かりきっているからね」
「ソフィー……」
「続き。 レシピを精査しよう」
二人でレシピを精査。
昔は散々手直しが入ったが。
今はもう、二人で建設的にレシピの良い部分を伸ばしていく作業になっているのが実情だ。
借りてきた参考資料も見ながら、レシピをくみ上げる。
膨大な石材がいる。
それはホルストさんに提供して貰うとして。
問題なのは、高度な素材だ。
コンテナを確認する。
手当たり次第にネームドを狩ったことにより、貴重な素材は溢れているが。
まだ少し足りないジャンルの素材がある。
オスカーに声を掛けて、ちょっと森を探りに行くか。
それも出来るだけ危険で、人間が足を踏み入れていない場所が良い。
深淵の者は、今まで人間社会の安定化と、危険なドラゴンと邪神の対処に尽力してきたから。
そういった場所の探索はほぼしていない。
今後はあたしがそれを担当すれば良いことだ。
レシピが出来て、一晩休んでから。
カフェに出向く。
そして、あたしは。
近隣で、最も危険とされる。絶対に近寄るなとされる場所を、ホルストさんに教えて貰った。
強力な猛獣が多数生息する森を出ると。
流石に皆がへとへとだった。
モニカが眼鏡を直す。
左手の傷がまだ完治していない。
ごっそり抉られたのだ。
特に、おぞましい奇襲を仕掛けてくる強力な人食い植物が多数生息していて。
森であるにも関わらず、絶対に行くなと言われているだけのことはあった。
オスカーの話によると、植生が極めて不自然だと言う事で。
どうやら大昔の錬金術師が、手当たり次第に栄養を与え。
無理矢理に森を作った結果。
異常な環境が出来上がったらしい。
そうプラフタは結論していた。
採集してきた素材は、いずれも貴重な薬草ばかりだが。
そのための労力は大変なものだった。
一度、キャンプを張って休む。
いっそ旅人の道しるべを使って戻るかとさえ思ったが。
回収が大変なので、これでいい。
素材の確認をしていると、ハロルさんが声を掛けてくる。
「ソフィー。 一撃貰っていただろう。 大丈夫か」
「大丈夫ですよ」
「本当だろうな」
「ええ。 既に治り始めています」
身につけているアンブロシアの花冠のおかげだ。
他にも、更に強力な装備を今後作ろうと思っているが。
コルちゃんが冷や汗を掻いて蹲っている様子を見ると。
あまり無理はさせられない。
協力してくれるホムをもっと増やして。
貴重な素材の量産体制を確立しないと。
今後は厳しいだろう。
更に、貴重な素材をつぎ込んだ道具類にしても。
増やしすぎると、ドラゴンが凶悪化するトリガーになりかねない。
それは今のうちから。
気を付けておかなければならないだろう。
森の地図を作るのは少し厳しい。
オスカーは、森の植物たちがもの凄く怒っている、と言っていた。
彼らは、人間が勝手な事をしたせいで、凄く苦しい思いをしているらしく。人間を憎み抜いているそうだ。
ならば、あれだけ攻撃が熾烈だったのも無理は無い。
レオンさんに至っては、致死レベルの毒まで受けていたほどだ。
あたしがすぐに処置したけれど。
下手すれば、腕を失っていただろう。
今は横になって貰って、静かにしている。
戦いはあまり長引かなかったが激しかった。
その分損耗も酷かったのだ。
焚き火を囲み。
比較的余裕があるフリッツさんに番をして貰いながら。
皆の手当を進める。
ジュリオさんがいたらもう少しはマシだったのだろうけれど。
こればかりは仕方が無い。
深淵の者から人員を回して貰おうかという話をフリッツさんにされたのだが。
あたしから断った。
向こうは向こうで、今も必死に活動をしている。
そもそも世界中に人員が散ってはいるが。
それでも、人員そのものが足りているわけではないのだ。
即応体制を整えるために、常に遊撃の人員は必要とされているし。
何よりも戦力そのものも、絶対というわけでは無い。
創造神と相対した時、あたし達を出迎えた幹部達にしても。
普段は集まることも無く。
それぞれの活動をしている、と言う話だ。
確かに上位のドラゴンや邪神も相手にするという事だし。
人員の損耗や。
スカウトでも、相当に忙しい事だろう。
一通り、薬を使っての応急手当は終える。
レオンさんが、手にしびれが残っているというので、モニカが見る。レオンさんの手は、商売道具だ。何かあったら洒落にならない。
「少し神経が傷ついているようですね。 神聖魔術で回復させておきます」
「ありがとう、助かるわ」
「いいえ」
「レオンさん。 少し良いですか?」
横になって回復魔術を受けているレオンさんの横に座り、意思確認をしておく。
今後、あたしはキルヘン=ベルに常駐は出来ないし。
コルちゃんもそれは同じだ。
コルネリア商会の支店はキルヘン=ベルに残るが、コルちゃん自身がいるわけではない。
フリッツさんは近々キルヘン=ベルを離れる。
オスカーもだ。
手練れは、少しでも欲しい。
「キルヘン=ベルで、貴方を腕利きの傭兵として雇いたいと考えています。 ホルストさんと話した上での結論です。 もしも負傷して戦闘が困難になった場合は、以降は指導役としての立場も用意します」
「あら、終身雇用? 私みたいな中途半端な人間に嬉しいわね」
「もう一つ、服についても一任したいと言う事です」
都会の人間は。
用途に合わせて多くの服を持つと言うが。
キルヘン=ベル程度の経済力の都市では。
そもそも一張羅をずっと着ていくしかない、という人間も多い。
今後は、悲惨な状況の村などに出向いて。
旅人の道しるべを用いて、根こそぎ移動して貰う、というケースも想定される。
そういうとき。
まともな服を作る人間がいる。
今も、糸繰りや機織りをしている者はいる。
流れて来た民の中に、そういった人員がいるのだ。
あたしも何度か世話になった。
だが、彼らは「糸を作る」「布を作る」止まりまでしか出来ない。
服を作るのは、更に難しい技術なのだ。
「二足のわらじが大変な事は分かっています。 しかし貴方にしか頼めません。 それと、弟子の育成もお願いします」
「……そうね、分かったわ」
レオンさんは。
少しだけ悩んでから。
引き受けてくれた。
彼女も既に知っている。
彼女の実家は既に滅亡。親は死亡。兄弟姉妹は離散していることを。
元々虚名に等しかったブランドは存在しない。
逆に言うと。
彼女はもはや、軛から完全に解放されている、という事だ。
なお、深淵の者についても恨んでいないそうだ。
レオンさんの両親は、典型的な汚職官吏で。多くの弱者の生き血を啜って好き勝手をしてきた連中だ。
むしろそれが当然の結末だったのだろうと、静かすぎるほどの反応が返ってきたほどである。
彼女も、あたしと同じように。
血縁上の家族を、憎んでいた。
それが何処かで気が合った理由なのだろう。
魔術による手当が終わる。
後は帰った後、本格的に手当をすれば完治するだろう。
コルちゃんの手当もする。
腕を横一文字に切り裂くように、鋭い傷が走っていたが。傷そのものはもうあたしの薬で消えている。
問題は骨や神経、筋肉などにダメージが変な風に残っていないかで。
モニカが丁寧に診察する。
魔術で念入りに調べて。
問題が無いことも確認。
モニカは嘆息すると。
流石に疲れ切ったらしく、横になって眠り始めた。
「後は私とフリッツで見張りをします。 ソフィー、貴方も休みなさい」
「そうする」
目を閉じると、すぐに眠れる。
訓練の賜だ。
何度か朝までに獣がキャンプに近づいたようだけれど。
フリッツさんとプラフタが追い払ったようで。
あたし達まで、出る必要はなかった。
キルヘン=ベルに戻る。
素材はどうにか揃った。ちょっと品質が低いけれど、まあ充分だろう。
収納式テントの作成を始める。
調合そのものは難しくは無い。
問題は上位次元である四次元に干渉することで。
何かしらのダメージで、大変な事にならないように、安全装置をがっつり付けておかなければならない、という事だ。
このテント、実は自分で使う事は想定していない。
あたし自身は野宿に慣れているし。
何より、旅人の道しるべを利用して、いつでもキルヘン=ベルに戻るつもりでいるから、である。
キルヘン=ベルではまだまだ多くの戦略物資を必要としており。
錬金術師が離れられない。
あたしもこれから仕事をするとしても。
しばらくはキルヘン=ベルのケアをしながら、になる。
調合の一番難しい所は。
賢者の石を造る時に使った、異世界の空気が無いアトリエにて行う。
それが一段落すると。
オスカーが訪ねてきた。
オスカー自身が訪ねてくるのは、実はあまり多くない。
思い詰めた表情だったので。
茶を出して話を聞くことにする。
「ソフィーさ。 おいらもあの時に話を聞いて、ちょっと考えが変わった」
「世界中の植物と友達になるのは止めるの?」
「いや、それは止めない。 つい先日行った森でも、人間に強い敵意を持つ植物がたくさんいることは思い知ったし、いずれ植物と人間が仲良くやっていける世界にしたいとは今も思っている。 だけどな。 それだけじゃあ駄目だって分かったんだ」
オスカーは、こう見えて観察力に優れているし。
何よりとても冷静だ。
本気で怒るのは、植物を無体に傷つけた時くらい。
あたしも、オスカーが本気で怒ったところは、あまり見た事がない。
モニカの方が沸点が低いくらいである。
「それで、どうしたいの?」
「二つ、用意して欲しいものがあるんだ」
「伺いましょうか?」
「他人行儀なしゃべり方は止せよ。 客扱いって意味かも知れないけどさ」
くつくつと二人で笑う。
そして、咳払いすると、オスカーは話し始めた。
「一つは旅人の道しるべ。 おいら、一人で出ることにしたんだ。 危険地帯に行く時は傭兵を雇うつもりだけれどもな。 それでも、おいらのために死人を出すわけにはいかないし、旅人の道しるべを使って、いざという時はいつでも撤退できる状況を確保しておきたい」
「いいよ、それで」
「もう一つは連絡手段だ。 おいらでもソフィー、それと深淵の者に協力したい。 今後世界を回ろうと思っているけれど、多分酷い場所や凶暴な獣は散々見る事になると思うからな。 そういう場合は、即座に連絡できるようにしたいんだ」
少し考え込む。
別に旅人の道しるべについては構わない。
今後どうせ更に異世界アトリエは拡張するつもりだ。
勿論二大国関係者に場所は明かさず。
深淵の者と連携して使って行くつもりだが。
主要都市には旅人の道しるべを配置しようとも考えている。
つまり量産するつもりなので。
オスカーに一つあげるくらいは構わないだろう。
問題は連絡手段だ。
オスカーもこの荒野で生きてきて。
あたしと一緒にネームドやドラゴン、邪神とも戦って来た強者だ。
匪賊如きに遅れを取る事は無いだろうが。
人質を取られたり。
或いは隙を突かれたり。
弱っている所を襲われたりといった。
何かしらのミスによる失敗はしてもおかしくない。
そういうとき、あたしのように。人質が死ぬ事を覚悟の上で敵を焼き払ったりと言う事は、オスカーには出来ないだろう。
それがあたしとオスカーの差。
あたしとしても、オスカーを羨ましいとも。
残念だけれど、戦士としては超一流にはなれないとも。
思うが所以だ。
通信装置はブザーの類が良いだろう。
鳴らして貰えれば、居場所が分かる仕組み。
それ以上は必要ないはずだ。
「分かった。 ちょっと考えて見るよ」
「実はアトリエに来る前に、かあちゃんと喧嘩してな」
「家を出るから?」
「それもあるけれど、お前には無理だって言われたんだよ。 深淵の者関連の事は話さずに、今後何をしたいかは話したんだ。 そうしたら、きっぱり言われた」
まあそうだろうな。
あたしも、オスカーの親だったら、そう言ったと思う。
実際問題、オスカーは現時点で、生半可な傭兵なんぞよりも遙かに強いのだが。それでも戦士には向いていない。
一人で生きて行くには。
優しすぎるのだ。
「最悪の場合、おいらよりも、周囲を優先してくれるか」
「其処まで覚悟を決めているんだね」
「ああ。 おいらはこの街では実績があるから受け入れられたけれど、よそではどうせ変な奴扱いだ。 実際移り住んできた人達からも、変な者を見る目で見られたことが何度かあるしな」
そうだったのか。
オスカーは、キルヘン=ベルでは緑化作業の実績で、今や欠かせぬ人材となっている。
今後も、ずっと旅に出ている訳では無く。
時々戻ってきては、緑化作業を指導して貰わないと困る。
旅に出るのも。
恐らく許可は条件付きで、だろう。
ホルストさんならそうするはずだ。
「とりあえず、依頼は受けるよ。 ただし、ホルストさんに言われているだろうけれど、きちんと定期的に戻ってくるんだよ。 そのために旅人の道しるべは使って。 ……一応、隠蔽用の結界を展開できる道具も作っておくかな」
「ありがとう。 助かるよ」
「ね、オスカー。 あたしはもうそもそも死ぬ事が許されないけれど、オスカーも命を無駄にしないでね」
「分かってる。 勝手に死んだりはしないよ」
頷く。
あたし達三人は、距離が近すぎて、結局恋人とかそういうのにはなれないだろう。
だが、故に家族ではある。
あたしにとっては、血縁上の親がどうしようもないカスだった事もあって。更に唯一家族と呼べたおばあちゃんがもういない事もあって。オスカーもモニカも大事な家族だ。
だからこそに、死に急ぐような事だけは看過できない。
旅に出る前に。
やる事が増えたな。
オスカーをアトリエから見送ると。
タスクを増やす。
もう一つ、やる事があるが。
それはまた、考えなければならないだろう。
持ち運び式テントの試運転を開始する。
畳む事は出来たが。
内部が少し不安定だ。
流石にまだあたしも、錬金術師として超一流とまではいかないか。
歪んでいる空間をチェックし。
どう調整すれば良いかを考えてから。
再調整を行う。
プラフタは。
頼まれるまでは、助けるつもりは無いらしく。
じっとあたしがやる事を。
静かに見守っていた。
持ち運び式テントは、後にフィリスという女の子に譲渡されることになります。
なお原作だとDLC(PS3時代はとても分かりづらくて探しづらかった……)にて、これを作る話が配布されています。