暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
悲鳴を上げて逃げる双頭の邪神。
一つの胴体から頭が二つ。腕が四本。足が二本。人間に似た姿をしていて。そして背中にはいやみったらしい翼。
あたしが大股で追うそいつは。
既に翼をあたしにもぎ取られ。
再生もままならず。
悲鳴を上げながら、折られた足を引きずっていた。
「どうしたの神さまぁ。 さっきまでの威勢はどこへ置き忘れたのぉ?」
「ふ、ふふ、ふざけるなあああっ!」
振り返った双頭の神が、あたしに向けて最大火力らしい火球をぶっ放す。熱量が高すぎて、炎の上。
専門用語というか、確か前の世界からあたし達の先祖が持ち込んだ言葉によると、プラズマとかいうそうだが。
その状態になっている。
だが、あたしは素手で。
それを上空にはじき飛ばした。
上空で爆発が起きる。
愕然とする神の首の一つが。
吹っ飛んでいた。
火球を上空に吹っ飛ばした直後。
後ろに回ったプラフタが、豪腕を一閃させていたのだ。
周囲は、深淵の者達が結界で固めている。
此奴を逃がさないための処置である。
アダレットが登録していた、討伐不能な三十柱の一体。双頭神ヤヌス。中級邪神だが、その実力は光のエレメントを凌ぐ。
自我も持ち、人間が近づくと容赦なく攻撃することで知られ。此奴の生存範囲は人間が立ち入れなくなっていた。
しかもその結果、インフラの整備が遅れに遅れ。
此奴は気分次第で移動するため。
蹂躙された街や村が幾つも存在していた。
今後人口爆発を抑える工夫はするとしても。
此奴のような不確定要素は必要ない。
故に消滅させる。
そう決めたのである。
そして今。
実施中だ。
今のあたしが身に纏っている錬金術装備は、創造神と初めて邂逅したときとは比べものにならない。
いずれも邪神から奪い取った材料を贅沢に使い。
その能力をフルに引きだしている。
だから、今のようなことだって出来る。
プラフタが、鮮血が噴き出す邪神の体を押さえ込み。
あたしが歩み寄る。
邪神は、命乞いをしてきた。
「ま、まて! 貴様からは我が主の力を感じる! そしてその意思さえも! ならば知っている筈だ! 我等の仕事を!」
「知っているけれど?」
「だったら何故このような事をする!」
「不確定要素を潰すためかな」
足を踏み降ろす。
邪神の残った足を。腕を。
容赦なく潰して行く。
悲鳴を上げる邪神。
その体が、光の粒子に変わり始めていた。
勿論ただ踏んでいるのでは無い。
一撃ごとに、邪神に致命打になる一撃を、追加で与えているのである。故に、物理攻撃で、これだけの打撃を与えることが可能になっている。
創造神に出会ってから一年。
あたしは此処まで腕を上げていた。
「ふ、不確定要素だと! そんな理由で、神に手を掛けるというのか!」
「はっきり言って、ただでさえ機械的に人間を殺すことしかしないドラゴンがいるだけで邪魔なの。 貴方が気まぐれに動き回って、手当たり次第に人間を殺していることは調べがとっくについていてね。 この詰んだ世界を打開するには世界の徹底的な整備が必要な訳で、貴方のようないい加減な管理者は必要ない。 その無駄に二つあった……ああもう一つしか残ってないか。 無意味な頭で理解出来た?」
「こ、この私に、そのような無礼を!」
「創造神の力を受けた相手に無礼を働いているのはどちらだよ」
あたしの声が冷えるのを悟って、邪神が黙り込むのと同時に、足を上げ。
クズの肋骨を踏み砕く。
情けない悲鳴を上げる邪神を。
プラフタが蒼白な顔で押さえ込み続けていた。
勿論邪神は再生しない。
再生出来ないようにしているのだ。
此奴が今まで、面白半分に殺してきた人間の痛みが。此奴に今、その何千分の一かは分からないか、還元されて行っている。
あたしは舌なめずりすると。
杖を振り上げ。
そして躊躇無く、残っていた頭を砕く。
邪神はそれで死んだ。
粒子になって消えていく邪神。貴重な薬草がその場に残されていた。考えられない品質の品だ。きっと良い道具になるだろう。
後は、しばらくこの辺に出現するネームドに注意すれば良い。周囲に合図。深淵の者が、この邪神が復活する事を防ぐために、空間の書き換えを始めた。最近開発された技術で、不思議な絵画と呼ばれる道具を使い、世界を塗り替える。その時に、絵画に邪神も封じ込んでしまうのだ。
不思議な絵画を描ける錬金術師は限られているのだが。
今、一人アダレットに該当者がいる。
その人物は不幸な事故にあって絵筆を折ってしまっているが。
それでも買い取り済みの在庫がある。
要するに在庫分。
邪神は封じ込められる。
まだ在庫はかなりあるので。
まあ人間に無意味な殺戮を繰り返している邪神を全部殺戮して処分する位のことは出来るだろう。
ハンドサイン。
作戦終了の合図だ。
空に大爆発が起きた事については、別に放って置いて構わない。そもそもこの辺りは山奥で、近くに小さな集落しか無い。そこそこ大きめな街もあるが、其処からはちょっとした光くらいにしか見えないだろうし。
何より爆発音も届くまい。
あたしが雇った傭兵の一人が来る。
以前キルヘン=ベル近辺で何度か見かけたティアナという女の子だ。
まだ十代前半だが、剣の腕は確か。
というか、少し頭が単純すぎて。
こういう光景を見ても、特に何も思わないらしい。
その辺が逆に重宝して。
今後目をつけた人材を、影から守る役目に就けようと思っていた。
ティアナ自身も、色々な剣術の師匠を紹介してくれるあたしに感謝しているようで。
何より毎日が刺激に満ちていて楽しいので。
あたしのことは好きだそうである。
「ソフィーさま! お仕事お疲れ様でした!」
「いいえ。 それよりも、此方の損害は?」
「特に怪我をした人はいません!」
「そっか。 それは重畳」
暖かいタオルで顔を拭くと。
一度アトリエに戻る事にする。
ティアナには、駄剣に見えるが、刀身はハルモニウムで出来ている逸品を与えている。いわゆる人斬り包丁。単純に相手を殺す事だけを考えて作った剣だ。それだけ、この子に期待しているという事である。
今後錬金術師として使えそうな人材が見つかったら。
この子には、遊撃として。
その可能性を潰しそうな相手を、片っ端から消して回る仕事をして貰う。
あたしは忙しくて、其処までケアが出来ない。
人材を探し出すだけでも一苦労なのだ。
深淵の者が用意している扉から、ルアードとプラフタのアトリエに。其処を経由して、あたしのアトリエに戻る。
プラフタは最近口数が減って。
もう休むと言うので。先に休んで貰い。
あたしはティアナを連れてカフェに。
知り合いは随分減ってしまったが。
それでも此処は。キルヘン=ベルは、あたしの故郷だ。
ホルストさんも少し白髪が多くなってきたが。
今日も出迎えてくれる。
「一仕事終えたようですね、ソフィー」
「ええ。 此方には代わりはありませんか?」
「今の時点では、貴方に登場を頼むほどの事件は起きていませんよ。 モニカと自警団が全て片付けてくれています」
幾つかの質問をするが。
近辺は至って平和。匪賊さえ出ない。
そういえば、目立ってしゃれた服を着ている人間が最近は増えてきた。
かといって贅沢品というわけでは無い。
デザインを工夫しているのだ。
当然レオンさんの手によるものである。
レオンさんの服は飛ぶように売れるらしいが。
コルちゃんが目を光らせて、この街の人が手に入れられないような事態は絶対に避けている。
人間が本当に怒るのは。
理不尽だ。
不平等だ。
あたしがそれを一番良く知っている。
レオンさんが作っている服を、レオンさんが住んでいるこの街の人間が着られない。そんな不平等が、人を狂わせるし怒らせる。
だからあたしがやらせない。
そして人はいつまでも性能が同じでは無い。
だからあたしが目を光らせる。
ホルストさんは信頼しているけれど。
呆けると駄目になる人間は幾らでもいる。
ホルストさんが呆けて駄目になった時は。
交代して貰う。
それだけのことだ。
ティアナは蜂蜜入りの紅茶を嬉しそうに飲んでいるが。
彼女はあたしとホルストさんの会話には興味が無いらしい。
ただ戦う事。腕を磨くこと。
それしか興味が無いようだ。
一度二十人ほどの匪賊の集団にけしかけたことがあるのだが。
あたしが助ける必要もなかった。
瞬く間に二十人の匪賊をなで切りにし、人斬り包丁の性能を試せて、大喜びで血を浴びて笑っていた。
壊れている。
だがそれでいい。
そういう人材こそが必要なのだから。
いずれ肉体の最盛期で、アンチエイジングで年齢固定もしてもらうかもしれない。まあ本人の意思次第だが。
多分永遠に最盛期の肉体を保ち。
更に強さを追求できると聞けば。
喜んで飛びつくことだろう。
ふと、側にテスさんが。
耳打ちされる。
どうやら、適切な人材が見つかったらしい。
あたしが目をつけていた集落に、面白そうな子がいるそうだ。
鉱石の声が聞こえるのだとか。
数年間観察して、良さそうだったらスカウトするのが良いだろう。まあ観察自体は簡単にできる。
テスさんに礼を言って、茶を飲み干す。
そしてティアナにも声を掛けて、カフェを出た。
アトリエに戻りながら、振り返る。
丁度陽が落ちる。
真っ赤で。
あたしの心の狂気を示しているかのよう。
プラフタと出会ってから。
燻っていたあたしの心の炎は、一気に燃え上がった。
そして今。
世界を焼き尽くす、燎原の炎となろうとしている。
創造神の言葉が事実なら。
あの太陽は恐らくにせもの。この世界を照らすための装置に過ぎない。
だがあたしの心の中にある炎の狂気は。
本物だ。
くつくつと笑うと、アトリエに入る。
人材は、少しずつ。
揃えていけば良い。
そして全てが揃ったとき。
この詰んだ世界を、あたしの拳で。
粉々に打ち砕いてやる。
後の世に、不思議な時代と呼ばれる世界を。
あたしが作り上げてやるのだ。
太陽が沈んでいく。
あたしは、アトリエに入ると。
次に何をするか。
何を殺すか。
考え始めていた。
(ソフィーのアトリエ二次創作、暗黒!ソフィーのアトリエ 完)
かくして人間を超越した錬金術師ソフィー=ノイエンミュラーが今歩き始めました。
彼女はこれより圧倒的な暴力を持って世界に関与し始めます。
それは彼女が覗き込んだ深淵の主であるパルミラのように。
何度歴史を繰り返してでも最適解を求めるというものへとなっていくのです。
全能にもっとも近い者ですら苦労を重ねてなしえなかったこと。
簡単にはなしえませんが。
それでもソフィーが諦める事はありません。
それが故の、特異点なのです。
話は、暗黒!フィリスのアトリエに続きます……