暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、生存圏

クラフトを作る。

 

また森に出かけて、うにの実を収穫。今回はちょっと珍しいうにの実も取ることが出来たので。

 

自分がいざという時使うために残しておく。

 

オスカーによると、突然変異で出来たものらしい。

 

いずれ、この森を豊かにするという条件で譲ってくれるそうだ。

 

勿論受けない理由は無い。

 

それからは、数日掛けて。

 

50セットのクラフトを用意。

 

最終的に評価は31点まで上がったが。

 

それは所詮、まだまだという事だ。

 

最初27点を貰ったのだから、殆ど向上していないことも意味している。

 

先は長い。

 

分かりきってはいるが、錬金術は難しい。

 

今まで本を読んで、独学でやろうとしていたのが間違いだったのかも知れない。プラフタに座学で教わりながら勉強を進めていくと。理解度が、まるで違ってくるのが、自分でも分かる。

 

山師の薬も、出来た分だけ納品していく。

 

これはまず目標を40点に設定し。

 

それを超えられたら、次は50点を目指す。

 

なおプラフタの話では。

 

自分が作ったものを100点として採点するそうなので。

 

このまま頑張れば。

 

100点を超える薬も作る事が出来るそうだ。

 

クラフトの乾燥を開始。

 

その間に、プラフタに聞く。

 

「ねえプラフタ。 その本の仕組み、どうなっているの?」

 

「どう、とは」

 

「例えば魂が宿るとして。 本には影響を受けていないの?」

 

「それは……分かりません」

 

プラフタが宿っている本は。

 

歯っ欠けだらけだ。

 

少し前から思っていたのだが。

 

ひょっとして錬金術のレシピでも書き込んでみれば。

 

少しは記憶も戻るのでは無いのか。

 

そう提案すると。

 

プラフタは少し考え込んでから言う。

 

「今、書かれているレシピについて読んで貰えますか」

 

「うん」

 

言われたままにレシピを読むが。

 

今までソフィーがこなしてきたものだけしかない。

 

実は山師の薬やクラフトを作る過程で、他にもちまちまと錬金術に挑戦はしていたのだけれども。

 

いずれもが、実用にはほど遠いというか。

 

実戦で使えなかったり。

 

使い路が限られすぎていたりといった。

 

錬金術の勉強用のものばかりである。

 

「なるほど。 どうやら貴方の指摘は当たっているようです」

 

「そうなると、本にレシピを書き加えたら、或いは?」

 

「記憶を呼び起こす切っ掛けになるかも知れません。 元々私の魂は、極めて不安定な状態です。 思い出せることにも限りがあります。 私が人間だった事はどうやら間違いないようなのですが、側にいたはずの大事な人や、私自身の容姿は殆ど思い出す事が出来ません」

 

「容姿ねえ」

 

あたしは。

 

自分の容姿が大嫌いだが。

 

そんなものでも、無くしてしまえば。

 

思い出したいと思うものなのだろうか。

 

いずれにしても、レシピを考えろ、か。

 

確かにおばあちゃんも。

 

色々な独自レシピを産み出して、それで本を作っていた。中には、他人に売るために複製していた本まであったようだ。

 

腕利きの錬金術師であったおばあちゃんの書いた本だ。

 

さぞや高く売れただろう。

 

「いずれにしても、ソフィー。 貴方はまだ基礎をやっている最中です。 何か思いついたら、少しずつ書いてみてください」

 

「分かったよ。 でも、期待はしないでね」

 

「……期待は、したいです」

 

「そうかも知れないけれどね」

 

期待は、あまり嬉しくない。

 

あたしは、それで潰れたクズのせいで地獄を見たし。

 

今だって、本当は精神が完全に復旧したわけでは無い。

 

一度壊された心はどうにもならない。

 

クラフトを作り終えると。

 

少し考える。

 

これを応用して。

 

更に広域殲滅を出来ないだろうか、と。

 

 

 

考えながら、荷車にクラフト50セットを入れて、カフェに納入しに行く。ちょっと時間が遅くなったから、アルコールの臭いがしていた。

 

アルコールは高級品だ。

 

基本的に現在の世界では、アルコールは18歳になるまでは飲んではいけない事になっている。

 

これは体の成長に悪影響を及ぼすことが原因らしいのだけれど。

 

どうにも良く理由は分からない。

 

本当だとは思えないのだ。

 

確かにその通りだと思うのだが。

 

二大国もはかったようにこの法を採用しているのは、どうしてなのだろう。

 

勿論、過酷な環境で暮らしている人々は、もっと若くして口にするケースもあるようだけれども。

 

そもそもアルコールが高級品なので。

 

そんな機会も少ない。

 

ちなみに、ソフィーも、作れるようなら作って、と頼まれてはいる。

 

いずれ着手する必要が生じるかも知れない。

 

「うむ、充分な出来だね。 納入受け付けたよ」

 

ホルストさんが受付を済ませてくれる。

 

半分ほどは自警団の備蓄物資にするらしいのだけれど、残りは売ってしまうそうだ。商人に対して、貴重な外貨や物資の交換材料になる。

 

金が無ければ何も買えない。

 

物資が無ければ交換だって出来ない。

 

まずしい村の実情を聞くと。

 

金が如何に大事で。

 

物資が無い事が如何に悲惨かは。

 

嫌でも分かる。

 

今、あたしが納入した物資のおかげで、キルヘン=ベルは少し潤う。

 

それだけで、あたしはこの街に貢献した。

 

まだまだ貢献の度合いは低いが。

 

ひよっこでも、錬金術師がいるだけで。

 

外貨獲得の手段になる。

 

これは、とても大きい事なのだ。

 

今日は夜遅いから、魔族のヴァルガードさんがいる。昼間と違って、目が赤く光っていて。魔力も倍増しである。

 

夜の魔族は性格も好戦的になる。

 

このため、敢えて周囲に合わせるために。

 

夜に眠る魔族もいるそうだ。

 

昼間のヴァルガードさんはむしろ温厚なので、子供達にも人気で、肩車したり高い高いしたりしているのだけれども(ソフィーも昔して貰った事がある)。

 

夜は、自分は別物になると公言していて。

 

実際怖いので、近づけなかった。

 

今でも結構怖い。

 

クラフトと、山師の薬を納入した後、ミルクを注文。

 

これは、情報料だ。

 

頷くと、席を指定されたので、其処に座る。

 

ウサギ耳のカチューシャを付けた給仕さんが、ミルクを手配してくれた。

 

彼女はテス。

 

この街には最近流れてきた若いヒト族の女性で。

 

此処の看板娘である。

 

大家族の長女であるそうだが。

 

しかしながら、大家族ならば大きな街から離れることもなく。危険を冒して街道を通ってくる事も無い。

 

要するに何かしらの事情があるらしく。

 

それについて何か聞く人はいない。

 

いわゆる対人格闘術の達人らしく、その内ホルストさんに業務の一部を委託される予定があるらしいが。

 

それはそれだけ真面目に働いている、という事だ。

 

自警団での活動もしているそうである。

 

「ソフィーちゃん、お薬もの凄く効いて助かるよ。 この間うちの腕白達が大けがしたんだけれどね、みんなすぐ治って、本当に助かったの」

 

「良かった。 今後はもっと効く薬にして行きますね」

 

「お願いね」

 

紙を渡される。

 

情報としては、ここ最近の匪賊の動向。

 

それに、深淵の者の噂だ。

 

匪賊に関しては、見つけ次第抹殺、というのがあたしの主義である。

 

連中は殺戮しなければならない。

 

生かしておいてはならない。

 

彼奴の仲間になって多くの破壊と殺戮をばらまいた連中だ。

 

勿論匪賊にならないと生きていけないケースがあるのも分かるが。

 

だが殺す。

 

今の時点では、目につく匪賊はいない様子である。

 

深淵の者については、実はプラフタに頼まれた。

 

何か因縁があるのだろうか。

 

何だか非常に世界の深い裏側で動いている連中だと言う事は知っている。匪賊も怖れていて、ドラゴンですら戦闘は避けるとか。ドラゴンを従えているとか。邪神が協力しているとか。そんな噂も聞く。

 

いずれにしても、深淵の者の目撃情報はないようだ。

 

とはいっても、彼らは一般人に紛れていると聞くし。

 

下手をすると、今話していたテスさんだって。

 

深淵の者なのかも知れない。

 

実際問題、バケモノが人間のフリをして、深淵の者と呼ばれている訳でも無いのである。彼らは人間であるケースも多く。それが故に、得体が知れない。

 

情報が無いのなら仕方が無い。

 

一度戻るとしよう。

 

歩きながら、考える。

 

魔術の応用で、広域展開した爆発物を、一斉に炸裂させるというのはどうだろう。

 

広範囲に展開した火力で。

 

敵の大半を一瞬で焼き尽くすことが出来る。

 

もしくは薙ぎ払うことが出来る。

 

構造としては難しくはない。

 

というのも、クラフトの仕組みは理解した。

 

質を上げるにはまだまだ研鑽がいるが。

 

それの応用だ。

 

もっと簡単な発想で、それを巨大化すれば良い。

 

爆破も二段階にして見よう。

 

一度爆破して広域展開し。

 

それを更に二段階爆破。

 

そうすることで、広範囲の敵を、問答無用で血の海に沈めることが出来る。

 

クラスター(群れ)弾とでも言うべきだろうか。

 

良いかもしれない。

 

勿論、プラフタもとっくに知っているかも知れないから。

 

一応相談がいるが。

 

書き込むなら。

 

まずはこれを、かな。

 

そう思いながら。

 

ソフィーはアトリエに歩く。

 

ふと振り返ったのは。

 

誰かに見られている。

 

そんな気がしたからだったが。

 

今のソフィーの力量では。

 

その誰かを、特定出来なかった。

 

 

 

呼吸を整えると、そのまま姿を消す。

 

テスは教会に赴くと。

 

パメラに接触。

 

そして、情報の交換をした。

 

「ソフィーちゃんは順調に力を伸ばしているようで、ホルストさんも喜んでいます。 私の隠行にも気づき掛けました」

 

「それはすごいわあ」

 

「今後、あの子は伸びますよ。 監視は堂々とやるしかなくなるでしょうね」

 

「そうねえ。 まあ最悪の場合、私がやるから大丈夫よ」

 

そういって、パメラから報酬を受け取る。

 

カフェの仕事だけでは。

 

大家族を喰わせてはいけない。

 

それは、自警団の仕事も同じだ。

 

テスはこうして、パメラに協力する事で、金を受け取り、それで糊口を凌いでいる。一応自身も対人格闘戦術、いわゆるCQCについては相応の覚えがあるから、生半可な匪賊程度には遅れを取らないけれど。それでも、喰ってはいけないのだ。

 

パメラの正体は知らない。

 

分かっているのは、金をくれることだけ。

 

詮索は無用。

 

金づるを失いたくはない。

 

この街は、体を売って金を作れるほど共同体が大きくない。

 

むしろ、下手な事をすると、あっという間に街から追い出される。

 

街道を来た時の悲惨な経験は、テスの頭にもこびりついている。

 

昔は大きな街で暮らしていた。

 

だが、父が事業に失敗。

 

母は会計と一緒に逃げた。

 

父は首をくくり。

 

使用人達は財産を退職金代わりに持ち逃げした。

 

テスは残ったわずかな資産をまとめて、大勢いる弟と妹(全員腹違いである)をつれて、必死に街を離れた。

 

もたついていたら。

 

それこそ全員、匪賊にでも売り飛ばされて、オモチャにされた後殺されるか。

 

奴隷にされるか。

 

二択だったからだ。

 

匪賊の中には、殺した人間を喰う奴も多い。

 

人間でありながら、人間を喰うことを何とも思わないのだ。

 

生きたまま食い殺される弟や妹たちを見るか。

 

奴隷として、永久に地獄を彷徨うか。

 

どちらも絶対に嫌だった。

 

逃げるしか無かった。

 

大都市の周辺の街道には、特にそういう危険な奴が出没するケースが多く。

 

脱出は命がけだった。

 

そして街道で見た。

 

この世の地獄を。

 

幸い、各地を回っている腕利きの傭兵団が一緒にいた。

 

彼らに、残った資産の殆ど全てを渡して、一緒に行動する事を許して貰い。

 

そして、どうにか着の身着のままで。

 

キルヘン=ベルに辿り着いた。

 

カフェを訪れたとき。ホルストに言われた。

 

若いのだから、武術を身につけて戦って貰う。

 

それが出来ないのなら、農作業をして貰うと。

 

テスは農作業をしながら、武術の勉強をし。

 

そして自警団に混じって働きながら、労働と金銭を稼ぐことの大変さを思い知らされた。

 

毎晩毎晩父が浪費したあげく、女をとっかえひっかえして、適当にいい加減に子供を作りまくっていたのを思うと。

 

正直反吐が出る。

 

それはそれとして、弟も妹も皆テスがいなければ生きていけないし。

 

そもそもテスは子供が好きだった。

 

皆のために頑張って来たが。

 

結果は、闇宵の住民として。

 

今こうして夜道を歩いている。

 

自警団のメンバーに会った。

 

夜だから魔族が中心だ。

 

軽く話をした後、別れる。

 

彼らも、ソフィーを褒めていた。

 

「ソフィーは伸びるぜ。 あの薬も爆弾も役に立つ。 今後はもっと凄いのを作ってくれる筈だ」

 

「テスよ、お前の得意なCQC、仕込んでやってくれねえか。 ソフィーはどうも格闘戦が得意じゃないみたいだし、隙を埋めるのに良いだろうしな」

 

「分かりました。 みなさんも見回りお疲れ様です」

 

さて、帰るか。

 

生活は、今日もあまり楽では無い。

 

だが、子供もいつまでも子供では無い。

 

一番年上の弟は、最近率先して家事をするようになって来たし。

 

一番年上の妹は、一番年下の子供達の面倒を見てくれるようになってきている。

 

前は仕事を小刻みにして、家の様子をちょくちょく見に戻らなければならなかったのだけれども。

 

子供達も、テスの苦労を理解してくれているようで。

 

少しずつ、皆で協力してくれるようになっていた。

 

それでも流石に遅くまでは起きていない。

 

家に戻る。

 

町外れの掘っ立て小屋。

 

昔住んでいた豪邸とは比べものにならない。

 

だが、あそこから離れて。

 

今は良かったとさえ想う。

 

皆、無事だ。

 

それを確認して、胸をなで下ろす。

 

戸締まりをしっかりすると、テスももう眠ることにする。

 

明日も仕事は忙しい。

 

そして、その後も。

 

テスが連れ合いを作るのは、ずっと後になるだろう。

 

まだこの子らの面倒を見るので精一杯で。

 

それ以外の事は、するどころではないからだ。

 

ソフィーはどうなのだろう。

 

パメラの事は詮索できない。正直な話、この子らを危険にさらすわけにはいかないからだ。

 

パメラが尋常ならざる存在である事など分かりきっている。

 

それでも。

 

生活するためには。

 

金がいるのだ。

 

ごめんね、ソフィーちゃん。

 

影から探るような真似をして。

 

呟くと、眠る。

 

まだ、眠ることは出来る。

 

仕事で体を壊すと、思うように眠れなくなると聞いている。

 

眠ることが出来るだけ。

 

テスはマシなのかもしれなかった。

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