暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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五百年経過しても、世界の裏側で動いている「深淵の者」。

その組織は隠蔽的ですが。そもそも組織だって悪事をする事が出来るほど、この世界は楽な場所ではないのです。

そもそも犯罪組織なんてものは、大規模に存在し得ない。

それくらいに、この世界は過酷なのです。

そんな世界に、秩序を作り出したのが。既に人を超越した主を抱く「深淵の者」なのです。


一掴みのつぼみ
序、深淵の席


何もなかった場所に。

 

誰もいなかった筈の場所に。

 

突然にして、数人の人影が現れる。

 

その内二人は子供。

 

アトミナ。

 

メクレット。

 

そう名乗る者。

 

しかしながら、昔は違ったとも言われている。

 

いずれにしても、はっきりしているのは。世界の裏側にて暗躍する者達、深淵の者の長にて。

 

数百年もこの姿を保ち。

 

世界の安定と平穏に尽力してきた、という事だ。

 

傅く深淵の者達。

 

魔族もいればヒト族もホムも獣人族も。人間と呼ばれる種族は全てが揃っている。特に珍しい魔族の亜種とされる巨人さえいる。

 

そして此処は。

 

高位の錬金術師ならば、自在に行う事が出来る空間操作によって作り出された場所。

 

とはいっても、高位の錬金術師であっても、媒介を用いて擬似的に作り出すのが精一杯の空間だが。

 

此処は桁外れの広さを誇る。

 

通称。

 

魔界である。

 

最深部に座するは、獣人族の中から強さを集めて作り上げた、深淵の者の最終兵器である魔王。

 

その戦闘力は、生半可な邪神を凌ぐ。

 

数百年前、もっとも世界にて人間を殺戮し、大地を焼き払ってきた大邪神、雷神ファルギオルが討伐されたが。

 

その時に尽力した錬金術師に。

 

影から協力したのがこの魔王である。

 

それ以降も、実に二桁後半に達する邪神を屠り去ってきた、深淵の者の対邪神兵器。その頂点こそが。

 

この摂理から外れた世界に君臨する魔王なのだ。

 

ただし、その実力は創世神には及ばないことも確認済みである。

 

故に深淵の者は魔界に集う。

 

そして世界を変えるため。

 

頂点にいる二人の指示を仰ぐのだ。

 

そうして、数百年掛け。

 

同志を増やし。

 

世界を少しずつ変えてきた。

 

大国に分裂の兆しあれば、余計な事をする者を粛正し。

 

匪賊が巨大組織を作るようならば抹殺し。

 

犯罪組織を懲罰し。

 

そして目に余る暴れ方をするドラゴンを殺した。

 

いずれもが、力なくして世界は変えられずと言う思想の元の行動。

 

その思想を体現する二人が。

 

無力な子供というのも面白い話だが。

 

しかしながら、この二人の徹底的な力に立脚する思想は、今まで間違った指示を出したことが無い。

 

いずれもが大局的に世界をよくし。

 

創世神が放置した荒野に少しずつ潤いを増してきた。

 

今回は会議であり。

 

魔界には、深淵の者の主要幹部が勢揃いしていた。

 

魔王はケンタウルス族をベースにしているが。

 

この二人にだけは傅く。

 

その魔王の膝元に座るようにして。

 

二人のうち。

 

アトミナが報告を促した。

 

「では報告を」

 

「ははっ」

 

錬金術師ヒュペリオンが前に出る。

 

ヒト族の錬金術師である彼は、ある街にて公認錬金術師をしている。少しばかり気むずかしそうな顔をした男だが、それも無理も無い。

 

彼は若い頃。

 

世界樹と呼ばれる、荒野にも珍しい緑がある土地に出向き。

 

其処で見てしまったのだ。

 

創世神の現実を。

 

それから彼は深淵の者に参加。

 

以降頭角を現し、現在では深淵の者の幹部をしている。

 

「最年少の公認錬金術師が出ました。 その調査報告になります」

 

「うむ。 あの難関試験を最年少で突破したとは、興味深い」

 

「それが、典型的な早熟型です。 才能は確かにありますが、これから大人になっても、大幅に伸びることは無いでしょう」

 

「……」

 

皆が顔を見合わす。

 

残念な話だ。

 

もしも使えるようなら、味方に引き込むべきだったのだが。

 

いずれにしても、あまりにも早熟な上に、才能が頭打ちになるタイプは、色々と後で問題を起こしやすい。

 

人材としては。

 

あまり期待は出来ないだろう。

 

「今後は監視のみに止めます。 公認錬金術師として赴任した街を守るくらいのことは出来るでしょう」

 

「そうか」

 

「続いての報告です。 ケーニヒス地方に襲来した大型ドラゴンですが、現地の街を既に二つ滅ぼしています。 討伐隊は苦戦。 どうやら、本能によって、増えすぎた人間の駆除を行っている様子です」

 

「愚かしい。 ドラゴン族は自分達の役割を常に勘違いする」

 

苛立った声を上げたのは、獣人族の幹部。

 

メクレットは咳払いすると。

 

続きを促した。

 

「現在アダレットが増援の討伐隊を編成しているようですが、とてもではないですが倒せないでしょう。 魔王を動員しますか?」

 

「いや、例のものを試してみたい」

 

「……まさかあの例の?」

 

「そうだ」

 

世界を変革する力。

 

それが錬金術だ。

 

中には空間や時間を操作するものもある。

 

様々な邪神を捕らえ。

 

そして知識を吐き出させて。

 

分かってきたことがある。

 

ドラゴンは、世界の抑止力。

 

本来は、特定種族が増えすぎたり、あまりにも環境を荒廃させたときに駆除を行う、免疫細胞のような存在だ。

 

創世神によって作られた、この世界の監視役と言っても良い。

 

だが、その抑止力の定義が、創世神が世界の構築を投げ出した結果、完全に行き場を失っている。

 

結果凶暴化したドラゴンは。

 

各地で狂気の刃を振るっている、と言うわけだ。

 

しかもこの抑止力は、世界の存在そのものから産み出されるために、決して減ることが無いのである。

 

ある意味上位邪神よりも厄介な世界の箍だ。

 

「作戦は貴殿に任せる、イフリータ。 例のものは自由に使え。 必ずや世界に害なす悪竜を消し去れ」

 

「お任せを」

 

一礼すると。

 

最古参の幹部である魔族イフリータが、数名の幹部を連れて魔界を離れた。

 

続いて、ヒュペリオンが報告に入る。

 

「アダレットの王ですが、どうやら庭園趣味を始めた様子です。 かなりの金が動いている模様です」

 

「国政を圧迫するほどか」

 

「いえ、それほどでは。 ただ街の造形が、それにともなって「実戦」を意識したものから、「統治」を意識したものへ変わり始めているようです」

 

「ふむ……」

 

アダレット王は、武王と呼ばれた先祖に比べると、どうしても柔和な面が目立つ。

 

実は双子の王女と王子がいるのだが。

 

この王女の方が相当な切れ者で。

 

不出来で知られる王子の才能を吸い尽くしたのでは無いかと言うほど、非凡な才を見せているという。

 

実は既に王女が国政を牛耳っているのでは無いかと言う噂もあるが。

 

深淵の者は当然アダレットの王宮にも複数がおり。

 

彼らからも、悪い噂は聞いていない。

 

だが気を付けなければならない。

 

名君を志し。

 

挫折することは危険だ。

 

挫折を知らない人間は。

 

一度折れると立ち直れない傾向がある。

 

「アダレットは決して平和にはなっていないわよねえ」

 

「ご明察です。 統計でも、人間は増えても減ってもいません。 辺境では未だに匪賊の横行が激しく、世界最大の都市である王都を離れると、一日もしない内に匪賊の襲撃で廃墟になった村に行き着くほどでして」

 

「それで戦争よりも政治を主体にした都市へ作り替えるのは少しばかり気が早いね」

 

アトミナとメクレットは顔を見合わせると。

 

様子見、と判断。

 

今の時点では不安要素もあるが。

 

介入するほどでも無いだろう。

 

もしも血税を浪費したり。

 

ただでさえ過酷な民の負担を増やすようなら。

 

ばっさりと大なたを入れるだけだ。

 

アダレットは既にそうやって。

 

深淵の者が何度も介入し。

 

腐敗官吏を粛正した回数など、数も知れない。

 

勿論アダレット王室も深淵の者については知っている筈で、下手な動きを見せれば即座に消される事くらいは理解している筈だ。

 

後は細かい報告が続き。

 

それらが終わった所で解散とする。

 

魔界を出ると。

 

其処は寂れた工房だ。

 

此処には昔、それなりに優れた錬金術師がいたのだが。

 

匪賊の襲撃にあい、殺された。

 

その時、錬金術の価値を理解しない匪賊によって工房は徹底的に破壊されたのだが。それを再利用し、魔界につなぐゲートにしたのだ。

 

匪賊にとって錬金術師は敵だ。

 

世界が乱れていた方が、匪賊にとってはやりやすい。

 

邪神に協力する輩まで出るのも、それが故。

 

協力と言うよりも、正確には支配下に入る、だが。

 

故に殺す事は厭ってはいけない。

 

あれらは害虫と同じ。

 

駆除しなければならないのだ。

 

更に複雑な行程を経て。

 

外に出る。

 

其処で皆とは解散。

 

深淵の者は基本的に単独行動をする事が多い。幹部クラスは特にそうだ。

 

普通の子供程度の身体能力しか無いアトミナとメクレットは、基本的に影から護衛がついているが。

 

それ以外の者は、生半可な使い手では討ち取れる存在では無い。

 

なお、此処まで一緒にいた者の中に。

 

今、キルヘン=ベルで。

 

深淵の者による最重要監視対象である。

 

プラフタとソフィーを監視する任務を統括しているパメラもいた。

 

「パメラ、プラフタはどんな様子かしら?」

 

「気むずかしいところもあるけれど、ソフィーちゃんの良いお師匠様をしているわよー」

 

「そう。 少しは視野を広げようという気にもなったのかしら」

 

「さあ、それは分からないけれど」

 

性別が同じだから。

 

アトミナは基本的にプラフタに容赦ない。

 

一方メクレットは其処まできつい物言いはしない。

 

視野を増やすために増えたのだが。

 

こういう所では、増えた故の弊害が出る、と言う訳か。

 

「ソフィーはどうだい」

 

「水を得た魚のようねえ。 昔は下手に触ると大爆発する爆弾みたいな子だったのに、熱中できるものが出来て大喜び。 毎日何か実験してるみたいよー」

 

「それは何よりだ。 未知への興味こそ、力の源泉になる」

 

自分もそうだった。

 

メクレットがそう言うと。

 

パメラはうふふと笑い。

 

そして姿を消した。

 

あれは摂理から外れた存在だ。

 

今は深淵の者の幹部をしているが。

 

ひょっとすると、いずれは。

 

まあそれは良い。

 

その時はその時。

 

対処は、難しくは無い。

 

「ヒュペリオン。 それでアダレットが騎士を派遣したという話については?」

 

「騎士団長候補の青年が、キルヘン=ベル近くで活動しているようですが、どうも目的はソフィーの監視では無い様子でして」

 

「ふむ……」

 

「放っておきなさいよ」

 

アトミナは余裕を崩さないが。

 

メクレットは腕組みして、調査しろとだけ一言。

 

それで護衛を残して。

 

周囲には誰もいなくなった。

 

闇夜。

 

小さな寺院の側。

 

バケモノが出ると言う噂が流れ。

 

匪賊も近寄らない。

 

辺りには点々と散らばる骨。

 

いずれも人骨だ。

 

不思議な話で、獣骨は基本的に軟骨まで平らげられ、地に帰るのだが。

 

人骨はスカベンジャーが避ける。

 

理由については不思議だと言われて来たのだけれども。

 

一応、自説はある。

 

どうもこの世界の創世神が関与しているらしく。

 

そもそも数がおかしいこの世界の猛獣ともつながっているらしいのだが。

 

今の体では、それを解明できないのも事実。

 

まあ配下にしている錬金術師に研究させるのも手だが。

 

それよりも先にやる事がいくらでもある。

 

まず、少し前から問題になっている事がある。

 

それを片付ける。

 

ある洞窟に巣くった匪賊が、少しずつ数を増している。

 

今の時点では、会議の議題にするほどでもないのだが。

 

そうなる前に消しておく。

 

それだけだ。

 

手練れが相応の数いるらしいので、一応道具類などは準備しておくが。二人の護衛は筋金入りの達人だ。

 

生半可な匪賊など、彼らの一人で充分だろう。

 

そう思ったが。

 

しかしながら、現地に到着し。

 

洞窟を覗いて、二人は同時にほう、と感嘆の声を漏らしていた。

 

血の臭い。

 

既に全員が殺された後だ。

 

しかも殺した後、丁寧に埋葬された形跡がある。

 

この手口。

 

恐らくはアダレットの騎士だろう。

 

丁度近場で活躍しているという、例の騎士団長候補か。

 

可能性は否定出来ないが。

 

死体を魔術で確認していた護衛の一人が言う。

 

「太刀筋からして、一人に殺されていますね。 我々ほどではないにしても、相当な達人とみて良いでしょう」

 

「どうやらこれは、思ったより面白い事になりそうだわ」

 

くすくすと。

 

意地悪げにアトミナが笑ったので。

 

メクレットは呆れて、肩をすくめていた。

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