暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
英語版だとフラムは「ボム」に翻訳されていたりして、直球だなと苦笑いする事もたまにあったり。
アトリエに戻る。
流石に少し疲れが溜まったので。汲んでおいた井戸水を沸かして、風呂に入る。
アトリエには風呂があるのだけれど。
これはおばあちゃんが錬金術師だったから、という事で。アトリエを作る時、街の人達が特別扱い的に作ってくれたものらしい。
街には浴場があって。
時間別に男女がそれぞれ使うシステムになっている。
実はあたしもそっちを使う事が多いのだけれど。
狭いので。
たまに、一人でゆっくり風呂に入りたいときは、たまにこうやって手間暇掛けてアトリエの風呂に入る。
しばらく湯の中でゆっくりしてから。
寝間着に着替えて、ベットで休み。
その後、プラフタの座学を受けることにした。
なお、カーエン石などの回収した品は、既に氷室に入れてあるし。
コルネリアさんがしっかりキルヘン=ベルに到着したことも、確認してある。
あの後猛獣の襲撃はあったらしいけれど。
傭兵が撃退してくれたそうで。
怪我の一つもないそうだ。
まあ見た感触からして、相当に旅慣れているし。
今更猛獣に襲われても、怖いとか、トラウマが残るとか、そんな事もないのだろう。
では、座学だ。
プラフタは、回収したカーエン石を確認。
品質は良くないと断言した。
「カーエン石は、実は乾燥した土中に埋まっているものを掘り出し、空気にさらさない状態で保存するのが基本となります。 今回回収してきたものは、最低限の品質しかありません」
「そっか。 でも、ナーセリー村の人達が残したものだから、大事に使わないとね」
「そうですね。 品質が低いとしても、爆弾に変化させる事は出来ます」
カーエン石に意思があれば。
匪賊どもに復讐したいと思うのだろうか。
いや、それは人間同士の問題だ。
石にそんな意思があるかは分からない。
ものに意思があるというのも、あたし自身はぴんと来ないのだ。植物と会話できるオスカーがいて。
いつも雑音が聞こえるとしてもだ。
とにかく、やれることはやるしかない。
「まず、カーエン石を乳鉢ですりつぶします」
「石を?」
「それほど堅いものではありません。 ただし、叩いてはいけませんよ。 火の気があると、爆発します」
「なるほど」
ぐっと押しつけるようにすると。
確かに潰れる。
「壊れる」というのが正しいか。
頷きながら、カーエン石を潰して、ゆっくりと細かくしていく。粒度が高いが。プラフタが指摘してくる。
「砂粒が混じっています。 それを取り除いてください」
「取り除くんだ」
「はい。 できる限り純度が高いカーエン石にすることで、「意思の統一」を行うのが基本です」
「なるほどね」
順番に、カーエン石を潰して。
赤い粉末に変えていく。
そしてそれらの作業が一段落したら。
今度は、気を付けながら水分を飛ばすという。
「火を使うのは厳禁です。 日当たりの良い場所に放置しても、水分は飛びません」
「そうなると、どうするの?」
「ぷにぷに玉を使います」
脱水剤としての効果があると聞いていたが。
なるほど。こういう所で使うのか。
小さめのぷにぷに玉をすりつぶし。
カーエン石に混ぜる。
最初は不安だったが。
やがて、カーエン石の色が移るように、ぷにぷに玉の残骸が、変色していく。
このまま一日。
氷室に置くという。
加工したカーエン石に同じ処置をした後。
一旦座学に戻った。
これからどうするか。
事前に確認をしておくのだ。
「この状態で、カーエン石は潜在能力の全てを発揮できます。 具体的には、火に対して爆発します」
「なるほど。 クラフトとは爆炎で焼き尽くす、という形で変わるんだよね」
「そうなります。 クラフトは圧力と、内部に込めた細かい鉱物片などで殺傷する武器ですが、フラムは火で焼き尽くすのです。 同じように、稲妻を周囲に放ったり、冷気で薙ぎ払ったり。 風で辺りを切り刻む爆弾も作れます」
「楽しみ」
単純に笑みを浮かべるあたしだけれど。
プラフタは釘を刺す。
それらはあくまで殺戮の力。
使いどころを間違えると。
匪賊と同じになると。
すっとあたしが目を細めたことに気付いたか。
プラフタは咳払いした。
「とにかく。 使うところは気を付けるようにするのですよ」
「うん。 後は、山師の薬を少し作っておこうか」
「熱心ですね。 反復練習は大事ですよ」
「それもそうだけれど、街の収入になるみたいだからね」
帰ってからホルストさんに聞いたのだけれど。
どうやら、納品しておいたクラフトや山師の薬が、かなりの値打ちがついたという。商人は喜んで引き取っていったそうだ。
街にいる公認錬金術師は忙しいし。
彼らの作る薬は高い。
ソフィーの作る薬は、市販品として売れる、程度の品質だが。
つまり逆に言えば、公認錬金術師が手抜きして作った品と渡り合える、という事も意味している。
そも、その安物でさえ。
目に見えて分かるほどの速度で傷が回復するのだ。
庶民にとっては本当に有り難い品だろう。
ただ末端価格を聞くと、思わず口をつぐんでしまう。
キルヘン=ベルのような小さな街で、あたしのような錬金術師がいるケースはまだいいのだ。
実際問題、共同体の悪い所はあるにしても。
それでも、薬は行き渡るのだから。
だが、街はどうか。
貧しい人は、本当に救われないケースがある。
確か二大国は、どちらも「救貧院」というものを作っているらしいが。
それも大きめの街にしか無いだろう。
辺境の村では。
がりがりにやせこけた村人が。
明日をも知れない生活をしているわけで。
薬なんて、とても買えないだろう。
ナーセリーも。
金があれば、用心棒を雇って。
匪賊なんかにやられなかったかも知れないのだ。
「価格破壊が起きるほど、作る事は出来ないのかな」
「それはどういう意味です?」
「だってホルストさんの言っていた末端価格だと、普通の人は買えないでしょ。 あたしも匪賊が生まれる仕組みは知っているから。 そういうのを少しでも減らさないといけないし、それにはお薬を安くするのが最優先だろうし」
「……ソフィー。 貴方は残忍なところもありますが、錬金術師としてはきちんと考えてくれているのは嬉しいですよ」
本当に嬉しそうなプラフタの声。
ちょっと過大評価をされているかも知れない。
だが、それでも。
プラフタの事が、また少し分かった気がした。
プラフタも、色々面倒くさいあたしの事を少し理解してくれただろうか。
ともあれ、山師の薬を作る。
手慣れてきたからか。
前より三割ほど時間短縮できた。
点数に関しては。
34点と言われた。
50セットを造り。
10セットは自分用に残して、後はホルストさんの所に持っていって、納品してしまう。有り難いと、喜んで受け取ってくれた。
ホルストさんが、カフェの外に出て、見せてくれる。
一部の壁を崩し。
何だか難しい技術を作って、塔のようなものを作っている。
「前からお金は貯めていたのですが、クラフトと山師の薬を換金したことで、あれを作る事が出来そうです」
「何を作っているんですか?」
「見張り塔ですよ。 今までは教会の屋根や、丘などで周囲を監視していたのですが、今後は街の中から周辺を見張ることが可能になります」
見張り塔には、大型のクロスボウも設置するという。
ロジーさんが張り切って作っているそうだ。
クロスボウは攻城戦にも使われる、非常に強力なバネで引く弓で。
その破壊力は、文字通り地面や石壁を貫く。
大型の獣や、小型のドラゴンにも有効打を期待出来る上に。
半端な魔術で作った壁なんて、それこそ紙のように貫くことが出来る。
更に鏃には毒を塗る。
近場に住んでいる猛獣の毒袋から取り出したもので。
非力な戦士が、鏃に塗って、獣を倒すときに使う。
これがクロスボウに塗られるのだ。
ドラゴンでも、直撃が入れば無事では済まないだろう。
更にヴァルガードさんとエリーゼさんが、魔術によってクロスボウの射撃精度を上げ、自動命中機能を付けるという。
昔はオートエイムとか言ったそうだが。
多少腕が悪くても、敵に勝手に当たる、というわけである。
「今後もどんどん錬金術を使って、キルヘン=ベルを豊かにしてください。 このクロスボウに関しても、実際に使う事はあまり想定していません。 抑止力として重要なのですよ」
「分かりました。 頑張ります」
「ええ」
目を細めるホルストさん。
頭を下げると、アトリエに戻る。
塔が出来るのは一週間後くらい。
クロスボウを設置するのに、同じくらい掛かると言う。
前にあたしが納品したクラスタークラフトこと、うに袋も、あの塔から投擲して使えば、それこそ攻め寄せる匪賊なんて一網打尽に出来るだろう。
勿論塔を増やせば、更に守りを堅くできる。
今回、コルネリアさんだけではなくて、数人がキルヘン=ベルに新しく加わった事もあり。
明らかに。
風は向き始めているとも言えた。
丁度カーエン石が乾燥したという事なので。
プラフタがいうまま加工を続ける。
まず脱水剤であるぷにぷに玉の残骸を取り除く。
取り除いた後は、焼却して、これも変質させる。
あまり質は良くないが。
肥料にはなるそうだ。
そしてカーエン石。
こちらは中和剤を加える。
とはいっても、水に魔力を含ませたものではない。
充分に乾燥させた砂に。
魔力を含ませたものだ。
練り上げて行く。
いやがるような、抵抗はない。
じんわりと馴染んでいく。
ちょっと熱い。
プラフタは、上手く行っていると言ってくれた。
「良い感じですよ」
「このまま練り続けるの?」
「いえ、まだ行程があります」
唾などが入らないように。
出来るだけ作業中は喋らないようにとも言われた。
マスクを付けているのに。
神経質な話である。
まあそればかりは仕方が無い。
ちょっと埃が入っただけで、お薬は減点される位なのだ。爆弾となると、更に扱いが難しくなるのも、当然だろう。
練り上げた後。
今度はまた乾燥させたゼッテルの上に開け。
何度も叩く。
それもゆっくり優しく。
そして成形していく。
このたたくと言う過程で。
練るのとは別の刺激を与えて、更に燃え上がりやすく変質させるのだという。
頷きながら、最終的には。
長細い筒状の形に、叩いて成形。
更に、それに使ったゼッテルで包み。
そして念入りにと言うべきか。
ぷにぷに玉をすりつぶし。
その粘性を利用して、ゼッテルを綴じ込んで。
完成である。
ゼッテルには、発火する簡単な魔術を仕込んでいる。
クラフト同様。
起爆ワードで、ドカンといく仕組みだ。
一つ作ってしまえば量産は簡単だが。
まずは試してみるとしよう。
プラフタと一緒に外に出て。
クラフトを実験した場所に出向く。
モニカに立ち会って貰うが。
ジュリオさんも来ていた。
「どうしたんですか、ジュリオさん」
「僕の国には、錬金術師が少なくてね。 いるにはいるんだが、騎士団とは対立があるんだ」
「えっ、どうしてですか」
「何となく理由は分かるわ」
モニカさんが説明してくれる。
アダレットは武王と呼ばれる人が造り、拡大した国だ。
多くの手練れの魔族や獣人族、ヒト族が剣によって匪賊を討伐し、ドラゴンを倒し、邪神を退け、勢力を拡大した。
勿論錬金術師もそれに協力したが。
直接武力を振るった事でも「武王」と呼ばれた英雄の部下達。
その子孫。
やはり、武に対して誇りを持っているのだろう。
アダレットとの国境は無いに等しいし。
実際、ジュリオさんについても、匪賊を討伐してくれたという事で、キルヘン=ベルでは滞在を問題視していないが。
こういう所で国柄の違いは出る、という事だ。
ジュリオさんが頷く。
その通りだと言う。
「そういうわけで、薬などの効果は見た事があるが、爆弾などについてはあまり見た事がないんだ。 是非実物を見てみたい」
「わかりました。 ただしあたしはまだひよっこですよ」
「それでも構わない」
頷く。
それでは充分に距離を取り。
更に周囲に人がいないことを確認。
起爆ワードを呟く。
同時に。
炸裂した。
クラフトの時は、文字通り爆発というのが正しかった。
しかし今度の奴は。
カーエン石から作り出したフラムは。
文字通り、瞬時に周囲を焼き尽くす、というのが正しかった。
プラフタも立ち会ってくれたのだが。
モニカが作った魔術の防壁の内側から。
結構厳しい駄目出しをした。
「29点」
「わ、厳しいね」
「爆発をもう少し上手に制御しましょう。 見てください。 正円系に拡がっていません」
確かに。
一気に燃焼させた範囲内での焼け方にムラがある。
これは火力はクラフトよりも大きいが。
まだ修正に余地があるだろう。
ジュリオさんは頷いていた。
「造りさえすれば、これを誰でも使えるんだね」
「危ないので、起爆ワードは二段階にしてあります。 それと、ゼッテルは丈夫なので、ちょっと火を近づけたくらいでは爆発しません」
「考えているね。 これならば、確かに生半可な魔術師よりも、遙かに強力な破壊力を出せそうだ」
納得した様子で、ジュリオさんは丁寧に礼をして、戻っていく。
ある意味敵国の人間なのだが。
まあ良いか。
錬金術師はアダレットにもいるのだし。
匪賊を討伐してくれた人だ。
それに、今、アダレットとラスティンはどちらも戦争どころではない。交流も行われているし、対立も裏で少ししているくらいだ、とも聞いている。
二つ目のフラムも此処で実験するが。
それも似たような出来だった。
プラフタが言うには。
成形に問題があるという。
更に完璧な形にしないと。
爆破にむらが出る、という事だった。
いずれにしても、このまま駄目出しをされて、黙っている訳にもいかない。
すぐに調整しようと思ったが。
プラフタが言う。
「その前に、またレシピを作って見ませんか?」
「別に良いけれど、記憶を早く戻したいの?」
「それもあります。 何より、今の時代と、私が生きていた時代で、何がどう変わったのか、どれくらい変わったのか、しっかり把握しておきたいのです」
「うーん、フラムの改良レシピでいい?」
「構いません。 貴方のオリジナルのレシピという事が重要なのです」
そう言われると、仕方も無いか。
前と同じような広域殲滅型の制圧爆弾は、今の時点では必要ないだろう。匪賊の群れを制圧するには、あのうに袋で充分だ。
今必要なものがあるとすれば。
ピンポイントで敵を貫く爆弾、だろうか。
今回のフラム。
失敗の要因としては、爆発にむらがある、という事だったし。
逆に爆発の火力が、一点に徹底的に集中するようにすればどうだろう。
いうなれば、ピンポイントフレアフラムとでも言うべきか。
ちょっと面白そうだ。
アトリエに到着すると。
今度はまず、フラムを丁寧に造り。
何度か実験をして。
プラフタに売り物になる、という太鼓判を貰った。
プラフタはいぶかしんでいたが。
あたしにしてみれば。
まずは基本であるフラムをしっかり仕上げてから、応用はやりたかったのだ。プラフタに言われずとも、である。
一応35点という評価は貰ったので。
一旦コレで良しとする。
その後。
成形を工夫し。
フラムを、敢えて非常にいびつな形にした。
プラフタが、驚く。
「何ですかその形は」
「ゼッテルの強度も変えてあるんだよ。 見て」
「確かに」
プラフタは小首をかしげるが。
これでいい。
うに袋を作ったとき。
内部で小爆発を起こし。
小型クラフトをばらまく仕組みを作ったが。
その時に、爆発の性質については理解した。
爆発は、基本的に弱い部分に向けて殺到する傾向がある。
勿論強化していると言っても所詮ゼッテル。
最終的には爆発するが。
それでもこれで、火力に指向性を持たせることが出来るはずだ。
プラフタに理論を話した後。
何度か修正をして。
火力が小さい小型版をまず作成。
モニカ立ち会いの下、実験をする。
これが思った以上に出来が良く。
かなり面白い仕上がりになった。
空中で魔術に寄って向きなどを固定する事によって。
敵に対して、思わぬ奇襲を仕掛けられる。
大物のドラゴンなどにも、痛打を浴びせられるかも知れない。
魔術に対する抵抗力を持つドラゴンは多いらしいが。
それでも、物理的な炎を防ぐとなると。火竜などの、火属性のドラゴンでないと無理だろう。
ドラゴンは必ずしも火属性では無い。
場合によってはかなりの打撃を与えられるはずだ。
出来上がったのは二週間後。
その合間に作った山師の薬は、念願の40点を達成。
これも地味に嬉しかった。
だが、散々作って40点だ。
次に50点を目指すとしても。
まだまだ先は長い。
いずれにしても、新作については、ホルストさんを一とする街の人達には見てもらうつもりだ。
あたしの錬金術師としての成長を見せると同時に。
安心して貰うためにも。