暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ナーセリーから持ち帰った石材を置く。
その側に、新型フラムを配置。
まだ名前は付けていないが。
まあこれについては、試作フラムでも何でも良い。オリフラムあたりが良いだろうか。
石材はたっぷり一抱えもあるもので。
地面に置くと、どすんと大きな音がするほどだ。
荷車に入れるとちょっと問題がありそうだったから、帰り道にジュリオさんに担いで貰ったのである。
ジュリオさんは笑顔で。
しかも余裕で引き受けてくれた。
この辺り、アダレットの騎士の実力がよく分かる。
どうせ砕いて使うつもりだったのだ。
目を閉じて黙祷すると。
皆に向き直り。
そして頷いた。
「モニカ」
「ええ、いつでも大丈夫よ」
「うん。 起爆!」
起爆する。
同時に。
灼熱が。
石材を貫いていた。
石材が吹っ飛ばされ、そして転がる。
皆が、おおと声を上げた。
なんと石材が赤熱し。そして、大穴が開いていたからである。
熱量を完全ピンポイント収束した事で。
これほど巨大な石材を、一撃貫通。しかも吹っ飛ばすほど、指向性のある衝撃も与えることに成功した。
額を拭う。
実は失敗したときは。空に向けてこの熱量が噴出されたり。
そのまま爆発したりで。
散々苦労したのだ。
あたしは残念ながら万能神でも全能神でもない。
ただの錬金術師だ。
素質はあるらしいけれど。
それでも、一歩ずつ成長していかなければならない。勉強しても、力を付けても。いきなり驚天の技は使えない。
だが、今回の思いつきは。
我ながら結構良かったと想う。
ホルストさんが、十歩分は軽く吹っ飛んだ石材を見に行き、唸る。
銃などの比では無い。
上級魔術師の、全力での攻撃に匹敵する火力。
それも、相当な魔力制御が必要なものと同等。
そう、判断したようだった。
「コレは凄い。 ヴァルガード、これを防げるかい?」
「何とかやれそうだが、不意を突かれると厳しいな」
「そうか。 ならば大概の相手には確殺で使えると言う事だ」
「使うときには向きを注意してください」
完成品を見せる。
三角錐になっているそのフラム。まあオリフラムとしておこう。
その三角錐の頂点部分が柔らかく。
他を非常に強度強化している。
今後、力がついてきたら。
プラフタに、魔術を使っての更なる強度強化をやっても良いかと聞いてみるつもりだ。
そして、矢印を、四本。
どれも三角錐の頂点に向けて書いてある。
つまり此処から。
敵を貫く熱線が出る、という事だ。
要するに投げたりするのは難しく。
何処かに仕掛けて。
そして敵が通ったときに、使う。
そういう使い方が主体になるだろう。
トラップとして使ったり。
或いは城壁などに仕掛けて。
複数を同時に発射、
仕掛けてくる敵の頭をまとめて吹き飛ばすとか。
そういう使い方が主になる筈だ。
「これはどれくらい作れそうだい」
「品質を維持するなら、フラム20を作る間に1を作るのが精一杯です」
「それならば、フラム20個分の値段で買い取ろう。 どんどん作って持ってきてくれるかい」
「分かりました」
ホルストさんは上機嫌だ。
分かる。
あたしの成長が目に見えるからだ。
早速ヴァルガードさんと、どう使うか、戦術的な話をしているようだが。あたしとしては別にそれに加わるつもりは無い。
すぐにアトリエに戻る。
プラフタも感心していた。
「劣化版ともいえる状態ですが、面白いレシピですね。 貴方には天賦の才能があるようです」
「……プラフタ、それがないと錬金術師にはなれないんだよね」
「特に優れているようです」
「そう。 正直、その事は……あまり嬉しくないかな」
プラフタも。
あたしの地雷については分かっている筈だ。
だから、それ以上は褒めなかった。
ただ実績だけを認めてくれればそれでいい。
それ以上は求めない。
あたしは、そういう奴だ。
プラフタにレシピを書き込む。
しばしして。
何か変化があったか聞いてみるが。
思い出したのは、どうやら自分の容姿について、のようだった。
「星の瞳」
「うん?」
「私は、星の瞳を持っていた記憶があります」
「星の瞳……」
何処かで聞いた事がある。
ああそうだ、思い出した。
確か瞳孔が星形になる非常に珍しい体質だ。
確か万に一人もいないとかいう話で。
アダレットの首都はそれこそ十万とかいうとんでもない人間が暮らしているらしいのだけれど。そこにさえいるかどうか、という次元だそうである。
古い時代は。
それを目当てに、奴隷にされるケースもあったとか。
今でも匪賊なんかは、奴隷にするのを目当てで、人をさらったりするらしいのだけれども。
星の瞳なんて持っていたら。
それは大変だったのではあるまいか。
「そうですね。 恐らくソフィー、貴方が考えているとおりです。 どうにも細かい部分はまだもやが掛かっていますが、私は容姿で苦労した記憶があります。 それも、良い思い出が無いようです」
「そう。 あたしとそれは同じか」
「……実は、その事で、もう一つ思い出したことが」
何だろう。
聞いてみると。
プラフタは言う。
自分よりも。
自分と一緒に仕事をしていた、大事な人が。
もっと容姿で苦労していたような気がする、というのだ。
どちらかというと美しさの象徴として語られる星の瞳よりも、もっと凄い美的な要素を持っていたのだろうか。それともその逆か。
考え込んだ後。
プラフタは、どうしたのか。
凄く悲しそうにした。
「詳しくはやはり思い出せません。 しかし、私より楽をしていたようには思えません」
「そうなると、恐らくは……」
「世間一般で、「醜い」とされていたのではないでしょうか。 しかし私が思い出せる限り、その一緒に働いていた者の能力は確かで、とても苦労は理不尽なものだったとしか思えません
「そっか……」
ソフィーは表向きは同情した。
だが、裏では何となく理解した。
プラフタは美しいから、恐らくそれでろくでもない輩が寄ってきた。
そしてプラフタが同格とまで認めていたその人は。
逆に醜すぎた(世間的な基準で)故に、そもそも人間扱いされず。
今でも後悔するほどに。
プラフタは心を痛めていたのだろう。
人間は九割方見た目で相手を判断する生物だ。
しかも、判断した基準に沿って相手を扱って良いとまで考える。
そういうカスなのだ。
ヒト族も魔族も、獣人族もホムも。
恐らくそれに代わりは無いだろう。
プラフタは平均的な人間とはかなり価値観が外れていたか。
それとも相手の苦労を知っていて。
そして見かけで相手を判断しない事を、心がけていたのかも知れない。
きっと苦しかったことだろう。
それについては、素直に同情できる。
あたしだって。
あのカスの娘だと言うだけで。
本当だったら、此処で生きていられなかった可能性もあった。
たまたまおばあちゃんの孫だったから許されただけだ。
そうでなかったら。
今頃、その辺の荒野に骸を晒していただろう。
「ソフィー」
「なあに」
「このレシピは、自分に取り込んでみて分かりましたが、画期的ながらまだまだ力量が不足しすぎています。 今後のためにも、様々なものを作っていきましょう」
「はーい」
それについては。
吝かでは無い。
続いてハクレイ石と呼ばれる素材が欲しいと、プラフタは言う。
だが、それは。
かなり入手が難しい。
図鑑で調べて見たのだが。
冷気を常に発する石で。
噂によると、創造神が世界を作ったときに。
一緒に作った、世界の構成要素の一つであるらしい。
おばあちゃんの図鑑には。
少なくともその説が乗せられていた。
常に冷気を放つ反面。
放置しておくとその内無くなってしまうため。
採りに行くには、常に寒い鉱山の中に赴くか。
それとも寒冷地に行くしかない。
この辺りで、鉱山は存在しない。
洞窟はあるにはあるが。
其処は有名な凶悪な猛獣の住処で。
キメラビーストやその亜種が。
わんさと住み着いていることで有名だ。
ジュリオさんに同行を願っても。
とてもでは無いが死者無しに乗り切ることは不可能だろう。
まだまだ戦力がいる。
もう少し手練れが増えれば、或いは。
「分かりました。 爆弾については、少しばかり素材の入手が難しそうですね。 ならば金属を利用した他の道具にシフトしましょう」
「具体的には何をするの?」
「金属そのものを作ります」
「へえ」
プラフタが指したのは。
炉である。
使った事は無い。
火力が大きすぎて、パンでも焼こうものなら一瞬で消し炭になってしまうからである。前にモニカが使おうと提案して、やってみて。パンを無駄にしてしまって、二人でいたく後悔した。
炉の後ろに回る。
そして、説明を受けた。
「この炉は、熱変換炉と言います。 薪から熱を極限まで吸収して、更に収束して炉の中を満たします」
「ああ、それでパンが」
「パンなど焼こうとしたのですか」
「ああ、うん。 炉だから出来るかなと思って……」
プラフタは呆れていた。
とにかく、とても危険なものらしい。
まず、いずれにしても。
掃除からだ。
後ろにある蓋は、ロックできるようになっているらしい。
掃除の前には絶対にロック。
悪戯などで起動されると。
中に入って掃除している人は、秒で炭にされてしまうそうだ。
それは恐ろしい。
ロックをして、厳重に確認した後。
炉の中に、プラフタが言う通りに器具を突っ込んで、掃除する。水洗いをすると、モップは真っ黒になった。
染みついているのだ。
長年の生活で出た埃が。
おばあちゃんが死んでからは、使わなくなった、という事もある。
だが幸いなことに。
炉が眠っていたのは数年。
それならば、この炉を作り直す必要はないだろうと、プラフタは言ってくれた。
「金属を作るってのも凄い話だね」
「実のところ、それほど難しくはありません。 鉱物の中には、大なり小なり金属が含まれているものなのです」
「そうなんだ」
「それを取り出して、純粋な形で固める作業をします」
なるほど。
今までの話を総合してみて、色々と分かった。
プラフタがすんなりオリフラムのピンポイントフレアについて理解するわけだ。
この炉のようなものを知っていたから。
原理を理解していたし。
武器として利用する意味も。
分かっていた、という事だろう。
そして、それこそが。
プラフタの記憶を掘り返すことにもつながった、という事になる。
鉱石については、今まで何度か周辺地域に採集に行って、回収は済ませてある。プラフタも回収についてきてくれたことがあったが。その時、コレは良さそう、それは駄目そうと、色々言われながら、拾ったのだ。
今になって、その時の事が生きてくる。
錬金術は面白い学問だ。
きっとプラフタも。
あたしと同じように。
楽しみながら錬金術をやった時期があったのか。
いや、どうだろう。
プラフタから、錬金術に対して、楽しいという姿勢はあまり感じ取ることが出来ない。
むしろ、プラフタにレシピを書き込んで。
思い出す事は。
どうも悲しい思い出ばかりのように思える。
数百年前は、今よりも更に酷い時代だったと聞いているし。
それこそ手段など選んでおれず。
錬金術師として、プラフタは。
もう一人の凄腕と一緒に。
世界のために必死だったのではあるまいか。
その過程で地獄も見たし。
そして、業も見た。
鉱石を揃え終える。
確認をして行くと。
プラフタは途中で手を止めた。手は無いが。
「この鉱石……少し品質が図抜けています。 良い金属を取る事が出来るでしょうが、今の貴方に使わせるのはもったいないですね」
「ああこれ。 確かナーセリーで回収してきた鉱石の一つだよ。 カーエン石に混じってて、回収したあと気付いたの」
「恐らく、鉱石を売る人間には価値が分かっていたのでしょう。 残っていたのは、何とも言葉にしづらいことですが」
「使われずに終わるより良いと思うよ」
少し考え込んだ後。
プラフタは、この間会ったホム、コルネリアさんの所に行きたいと言う。
何故だろうと思ったが、まあ良いか。
ともかく、一段落はしたのだ。
街に定住するというのなら。
良い関係は構築しておきたいし。
話ももう少ししておくべきだろう。
言われるまま、よそ行きの準備をして、外に。
色々髪が乱れているとか文句をプラフタに言われた。
今まではほぼ気にしなかったが。
プラフタが本気で苦労したのだろう事を考えると。
流石に、笑い飛ばしてばかりはいられなくもなった。
ホム族は、この世界では少数派に所属する人間で。神話においては、他の人間と同じように、異世界から迫害されたり追い立てられたりして、この世界に来たのでは無いか、という事である。
魔族からもヒト族からも獣人族からも見分けが付けづらく。
みんな殆ど同じ顔をしている。
本人達は流石に見分けがつくようだが。
そのため、皆が敢えて意図的に格好を変えているケースが多く。
裕福なホム族は、絢爛豪華な格好をしている事があるそうだ。
真面目な性格を評価され、国政に抜擢されることもあるらしく。
この間一緒にキルヘン=ベルに帰る途中にジュリオさんに聞いたが、アダレットでもホム族の重役がいるそうである。
コルネリアさんは。
大通りにいた。
店を持つほどお金は無いが。
露天で店をやって良いスペースがある。
屋根もついていて、雨の日にも大丈夫な場所だ。
そこでコルネリアさんは。
ござを敷いて。
色々なものを売っていた。
宝飾品もあるが。
生活必需品が目立つ。
それも、品質は悪くないようで。売り上げについてもそれなりの様子だった。格好を見ればその辺りは分かる。かなり身繕いをしっかりしているのだ。
「これはソフィーさん。 お客様としてきてくれてありがとうなのです」
コルネリアさんはゆっくりゆっくり喋る。
この間はモニカとやりとりをしていたが、あたしの顔も覚えていてくれたようだ。
ホム族は性別どころか年齢も分かりづらいのだが。
それについては、向こうから先に説明してくれる。
商人をやっていくには、観察力の錬磨は必要不可避というわけだ。
「私は貴方と同じ女性。 年齢は貴方の一つ下です」
「丁寧に有難う。 ちょっとプラフタが話したいらしいけれど、良い?」
「何でしょうか、プラフタさん。 商売があるので、あまり長話は出来ませんが」
「分かりました。 それでは単刀直入に済ませましょう。 貴方は錬金術を使う事が出来ますか?」
コルネリアは目を細める。
もともとしらけたような目。
への字に結んだ口。
これらから、表情が読みづらいホム族だ。
そして手先が器用な反面、力が弱い種族でもある。
このため匪賊などにターゲットにされやすく。
人攫いなどにエジキにされるケースもあるという。
きっとコルネリアも。
他の人間種族に、色々と良くない思い出を与えられているだろう事は、容易に想像がつく。
ホム族は独自の錬金術を使うともいうが。
それはレアケースで。
多くの場合は、使えないそうである。
これはダメ元。
プラフタは最初からそう言っていたのだが。
どうやら、そのダメ元が。
意味を成したようだった。
「使えます」
「そうですか。 均一した品質の商品からして、ひょっとしてとは思っていましたが」
「お金さえいただければ、使う事も構いません」
「ソフィー。 あの鉱石を増やして貰ってください」
頷いて、手渡す。
コルネリアは、説明をしてくれた。
ホム族が使う錬金術は、ヒト族が使うものとは、根本的に違う代物なのだという。
具体的には、ものの意思に沿ってものを作り替えるヒト族の錬金術に対し。
ホム族の錬金術は、ものをコピーするそうである。
ただし、ホム族の錬金術は危険なもので。
コピーの代償に、本人の体積を消耗するそうだ。
「それって、大丈夫なの!?」
「我々ホム族は長寿で、私はほんの小娘なのです。 年々厳しくはなりますが、私くらいの若さであるならば、ミルクで補給できるのです。 ただ一度に錬金術を使いすぎると、あまりにも小さくなりすぎて、回復に時間が掛かってしまいます」
コルネリアの家族も。
錬金術使いだったらしい。
受け継いだものだそうだ。
ホム族の中にも、錬金術を使えるものとそうで無いものがいるらしく。
使えるものは、この世界に来た頃の力を、色濃く残しているらしい。
そういうものなのか。
あたしは理解したというか。
なるほどと感心した。
鉱石を手渡して。
お金も渡す。
この程度のお金なら今は余っているし。使って行くのは悪い事じゃない。
暴虐を尽くすためにお金を搾り取るのは悪逆だ。
だが、適切な税金を取り。
それで国を動かすのは正しい事だし。
お金を流通させ。
皆が使って、豊かな生活をしていくのはもっと正しい事だ。
あたしがお金を使うことで。
コルネリアは生活できる。
それは正しい事だ。
「毎度あり、なのです。 数日で増やしておくので、取りに来て欲しいのです」
「うん。 ありがとう、コルネリアさん」
「貴方の方が年上なので、呼び捨てで構わないのですよ」
「そう、じゃあコルちゃんって呼んでも良い?」
少し悩んだ後。
コルネリアは頷く。
同年代の友達がいなかったから、だろうか。
ちょっとだけ嬉しそうにしているように。
ソフィーには感じ取れた。
余談ですが、ホムであるコルネリアは、かなり珍しい身体能力が高いホムです。
商人をする事が多いホムはあまり自分では戦うことがないのですが、コルネリアは自分で戦える変わり種ですね。
なお本作に登場する匪賊にとってホムはごちそうで、捕まったらまず間違いなく残虐な方法で殺されて食べられてしまいます。
過酷な荒野世界では、簡単に人間は狂うのです。