暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、深淵との火花

教会で礼拝を済ませたジュリオは、キルヘン=ベルを見て回る。

 

先代の公認錬金術師が、良い仕事をしていたと言うだけあって、落ち着いた良い街だ。今の錬金術師であるソフィーはまだまだひよっこのようだが、それでも街の人々は感心している。

 

凄い伸びだ。

 

今後が期待出来ると。

 

逆に言うと。

 

それだけ空白の期間が不安だったのだろう。

 

ライゼンベルグでの公認錬金術師試験では、年に何人も合格者が出ないと聞いている。そのわずかな合格者は、小さな街や村に赴き。世界を少しでも良くしようと尽力する。公認錬金術師がいると言う安心感は桁外れで。

 

公認錬金術師になるのが、相当な力量を要求されることもあり。

 

一気に人口も増えるという。

 

ジュリオは、国に言われて。

 

ここに来ている。

 

器量はあまり優れていないと言われている国王だが。

 

それでも色々考えてはいるのだ。

 

アダレットだけでは無い。

 

もう一つの大国、ラスティンにも暗い影を落とし続ける組織、深淵の者。

 

どうやらこの近くに。

 

その本拠があるらしいと言う噂がある。

 

アダレットでも多くのスパイを使い。

 

その命を散らしながら。

 

やっと掴んだ情報だ。

 

ただ、アダレットは、深淵の者と事を構える気は無い。

 

実際問題、深淵の者は匪賊を退治したり、

 

汚職官吏を排除したり。

 

暴れ狂う人食いドラゴンを葬り。

 

時には邪神さえ倒す。

 

明らかに世界を良くする方向で動いている組織だ。

 

問題なのは、力尽くでそれらをしていることで。

 

アダレットとしては、相手を対等の立場に持ち込みたいのである。

 

確かに汚職官吏を排除し。

 

世界を正常な方向に持ち込んでくれるのは嬉しい。

 

だが、それをまったく関与されないところでやられると困るし。

 

何よりも、目的がもしとんでもない事だった場合。

 

対処できなくなる可能性がある。

 

ただでさえ、深淵の者には、錬金術師も参画しているという話があるくらいで。

 

放置しておくのは危険すぎる。

 

かといって、事を構えるのは更に危険だ。

 

今まで、深淵の者とコミュニケーションを取ることは、悉く失敗している。二大国とも、深淵の者に裏から好き勝手にされているという説もあり。排除に動いた国家元首が消された例も一度や二度では無い。

 

しかも確認できる限り。

 

ここ数百年、ずっと深淵の者は組織として維持され。

 

活動しているらしいのだ。

 

放置はまずい。

 

恐らくラスティンもそれは考えているだろう。

 

国書も持ってきている。

 

もしも深淵の者の首脳部に接触できたら、渡せ。

 

そう言われているものだ。

 

今の時点で、ジュリオは周辺を見回っているが、それらしき者は発見できていない。深淵の者は、匪賊を特に憎んでおり、徹底的に処理するとも聞いている。排除していれば、或いは接触してくるかとも思っていたのだが。

 

カフェに顔を出す。

 

丁寧に礼をして、この街の顔役であるホルストと話す。

 

深淵の者について聞くと。

 

流石にホルストも周囲を見回した。

 

「アダレットからわざわざ貴方ほどの精鋭が来たと思ったら、それが理由だったのですか」

 

「そういう事です。 此方としても、深淵の者と対立しようとは考えていません。 まずはコミュニケーションを図りたいと考えているのですが」

 

「難しいでしょうね」

 

即答される。

 

予想通りだが。

 

知っている事があるなら、一つでも聞いておきたい。

 

肉料理を注文。

 

夜限定で仕事に来ているテスという名前の給仕が、料理を置いていった。一瞬だけ、殺気を感じた気がするが。

 

ひょっとすると、深淵の者の手先か。

 

だが、すぐに殺気は消えた。

 

テスが放ったのか。

 

そうではないのかさえ分からなかった。

 

今までも、深淵の者に所属する末端の者はとらえた事がある。だが、忠誠心が異常に高く、即座に自害されてしまうか、或いは凄まじい戦力の敵に奪回されるか、そのどちらかの結果に終わっている。

 

強攻策は無益。

 

それは分かっているから。

 

敢えて国書まで持ってきている。

 

何とか、穏便に接触は出来ないものか。

 

情報量代わりの肉料理を食べていると。

 

ホルストはぼそりという。

 

「噂に過ぎませんが、深淵の者ほどの組織が、数百年も続いているのは異常です。 それによって、貴方の国もラスティンも、相当に新陳代謝が促進され、国として終わるのを防がれている。 そう聞いています」

 

「それは事実でしょうね。 普通だったら腐敗して瓦解するところです」

 

「それが、深淵の者はそうならない。 下手をすると、ただの匪賊化するか、世界の敵になってもおかしくないのに。 つまり結論としては、ずっと首領が変わっておらず、しかも頭脳を明晰に保っている」

 

「!」

 

なるほど。

 

その可能性は確かにある。

 

だが、魔族ですら寿命は限界で二百年。長寿のホム族でさえ二百五十年と聞いた事がある。それも、魔術やら何やらで誤魔化した上での話で、脳が衰えるのは止められないともいう。

 

ならばどうやって。

 

深淵の者の首領は。

 

衰えもせず。

 

組織を維持している。

 

組織構成員の内、幹部クラスも同様の可能性が高い。

 

想像以上に手強い相手かも知れない。

 

「ソフィーの伸び幅についてどう見ました?」

 

「かなり優れているようですね。 我が国にも錬金術師はいますが、発想がとにかく独創的で、驚かされました」

 

「あの子は伸びますよ。 貴方が護衛して一緒に行動すれば、いずれ深淵の者中枢と接触する機会も生まれるのではありませんか?」

 

「……なるほど。 ありがとうございます」

 

礼をして、カフェを出る。

 

実は、ここに来たのには、もう一つ理由がある。

 

切実な理由だ。

 

だがそれについては、まだいい。

 

今は、国家存亡にも関わる深淵の者を優先しなければならない。

 

ふと、気付く。

 

虫のかぶりものをした子供が二人。

 

音もなく側を通り過ぎた。

 

何だか分からないが。

 

その時、恐れを知らぬ歴戦の勇士である筈のジュリオが。

 

全身に恐怖を感じていた。

 

振り返ると誰もいない。

 

一体何が起きたのか。

 

だが。

 

それでも足を止めるわけにはいかない。

 

ジュリオは神に対しての祈りの言葉を呟くと。

 

宿に向けて歩き始めたのだった。

 

 

 

(続)




生真面目なジュリオさんですが。

彼の祈りに答えてくれるほど、この世界の創造神は優しくはありません。

正確には、その答えを聞く余裕がないのですが……

それもまた、おいおい判明します。
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