暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
アトリエシリーズでは重要な局面で登場する事が多いドラゴンですが。本作シリーズではドラゴンに関して独自の設定を採用しています(原作で
ドラゴンが簡単にリポップする事からの設定です)。
本作におけるドラゴンは、基本的には人間に対して高い敵意を持ち、とくに人間が多く集まる都市などを一定周期で攻撃する習性を持っています。ドラゴンの強さは凄まじく、人間が束になっても勝てません。錬金術師がいて。錬金術師の作る装備で身を固めた者達と錬金術師が連携して、どうにか撃退出来るくらいの実力です。魔術では出力が足りなくて、例え魔族だろうが魔族のレア種族である巨人族だろうが、単騎では勝てないのです。
なおこのドラゴン、厄介な事に「世界に必ず同数が存在する」という性質を持っています。
要するに、仮に殺す事が出来ても、即座に何処かしらに湧くのです……。
このドラゴンに本作品中で現在対応できているのは。ごく一部の錬金術師と。
深淵の者だけです。
序、歪みの獣
ドラゴン。
空を舞い、世界中に傷跡を刻んで回る獣の王者。邪神達によると、どうやら世界のバランスを保つために常に産み出されているらしく、ドラゴン同士で争うことはないらしい。高い知能を持つ者はいないのだが、その一方で魔術や天変地異も使う。
文字通り生きた抑止装置なのだ。
この壊れた世界の何をどう守るのか分からないが。
邪神の中でも、あまりにも暴れすぎたものは、高位のドラゴンにおそわれる事があるらしいし。
一方で、何も特に自然を害していない集落が、いきなりドラゴンに襲われて焼き尽くされることもある。
半分壊れているが。
厄介なことに本能は忘れていない。
それがドラゴンという存在なのである。
錬金術師や人間の凄腕傭兵の中には、ドラゴンキラーとして知られる者もいるが。流石に高位の者を単独で倒した者はあまり多くは無い。遙か昔には、そういう伝説的な錬金術師がいたらしいが。
少なくとも、現在公認錬金術師でも、ドラゴンキラーとして知られていても。それでも精々十体二十体、下位のものを倒した程度。
故に。
この実験には、大いに意味がある。
魔族イフリータは、主と共に既に五百年を超える時を生きてきた。
赤い肌を持つ長身の魔族である彼は、巨人族ほどの強靱さはないが。それでも、寿命にしても魔力にしても、既に通常の努力で到達できる限界を超えてしまっている。
魔族の寿命はどれだけ頑張っても二百年。
それを超えたのは。
主と共に世界を変革するためだ。
深淵の者幹部達と共に、展開。
丘の下には。
既に三つの街を壊滅させ。
民千五百人以上を殺し。
討伐に駆けつけたアダレットの軍を蹴散らして。
腕利きで知られる傭兵や錬金術師十数人を含む軍属五百人以上を葬った。
高位のドラゴン。
「月の欠片」が、体を丸めて眠っていた。
ドラゴンは高位になっても大型化しない。獣とその辺りが違っている。
このため、相手の色や纏っている魔力で実力を見定めなければならないのだ。
実力がつけば、相手が放つ気迫などで、ある程度はドラゴンの戦闘力が分かるのだけれども。
それでも、大きさが変わらないのに実力が桁外れ、というのはある意味理不尽とも言える。
ただこれは邪神についても同様ではある。
この手の高位ドラゴンは、基本的に余程の歪みが生じない限り本来は姿を見せない。今回の襲撃も、明らかに理不尽なものだった。
故に排除しなければならない。
創造神が仕事をしていないから。
こういう悲劇が起きる。
そしてその悲劇は。
可能な限り、自分達で止めなければならないのだ。
創造神がやる気を出さないのなら。
この荒野を。
自分達で切り開くしかない。
まだ若い人間の女性戦士が敬礼する。
彼女はドラゴンに焼き払われた村の生き残りで。
深淵の者になし崩しで参加したが。
結果として、現在は。
水を得た魚のように活躍している。
戦士としての適正もあったし。
何よりこの狂った世界の理不尽さに怒りを覚えている一人だから、なのだろう。
同じようにして、国家の救貧院に入るよりも。
よりストレートに深淵の者に所属し。
支援を受けながら公認錬金術師にまでなり。
赴任地で潜伏しながら、協力を続けている者もいる。
500年活動を続ければ。
そういう者も増える。
それだけのことだ。
「準備整いました」
「よし。 目的地点に展開せよ」
「分かりました」
後はハンドサインで動く。
既にドラゴンも此方に気付いているだろう。
これだけの数。
使い手。
相手が今まで蹴散らした相手とは訳が違うことも。
だから寝たふりをして。
逆に不意を突くつもりなのだ。
だが、それが命取りである。
周囲を囲むようにして展開した後。
指を弾いた。
瞬時に、それが発動した。
ドラゴンの周囲に、歪んだ空間が、無数の黒い霧のようになって出現し、辺りを滅茶苦茶に切り裂く。
空間転移を攻撃に応用する技術である。これには、流石にドラゴンも対応出来ない。
高位次元に干渉するのは錬金術師や邪神の領域。
そして、此処まで自由自在に干渉することは。
普通は出来ないのだ。
絶叫するドラゴン。
空間ごと切り裂かれるのだ。
どれだけ強力な魔術で武装しようが関係無い。
如何に堅い鱗を身に纏っていようがどうにもならない。
上位のドラゴンになると、邪神と同等以上の実力を持っていることがあるが。
それでもどうにもならない。
魔術とは、また一つ次元が違う力なのだ。
この空間操作鞭は。
まだ試作段階だが。
少なくとも、ドラゴンに対しては究極的な対処法になる。
それがよく分かった。
手を上げ、そして降り下ろす。
後は身動き取れなくなったドラゴンをなぶり殺しである。
その代わり、近づくなとも告げてある。
まだ試作段階の拘束兵器だ。
どんな不具合が生じるか、分からないからである。
それに、空間を切り裂く攻撃である。
対象は無差別。
下手に触れば、文字通り存在が消滅してしまう。
いずれにしても、狂ったドラゴンへの攻撃は情け容赦なく行われた。恨み重なる者だって多いのだから、当然だろう。今回作戦に参加した者の中には、滅ぼされた街の出身者もいたのだ。
徹底的に叩き潰されたドラゴンは。間もなく首を胴体から叩き落とされ。血まみれになって地に横たわった。
それでも驚くべき生命力で生きていて。
顎をがちがちとかみ合わせていたが。
それもやがて動かなくなる。
装置を解除。
念入りに殺したが。
それでも上位のドラゴンだ。まだ油断することは出来ない。
魔術で重武装した者達が、接近して、体をバラバラに解体していく。
ドラゴンはこの世界における抑止装置。
つまるところ、世界そのものが作り出した存在。
その体の隅々にいたるまで。
無駄にならない。
内臓を取り出し。
肉を切り分け。
鱗を剥がし。
骨を砕いて、軟骨を出す。
大量に持ってきている荷車に、血すらも無駄にせず、回収して詰め込んでいき。そして撤収した。
もたついているとアダレットの軍に気付かれるかも知れない。
別に気付かれたところでどうでもいいが、無駄に死人は出すなと主の指示も出ている。ただでさえ、今回はこの荒野の世界における貴重な人口が、自然災害も同然の状況で失われたのである。
これ以上無駄な殺戮は避けなければならない。
匪賊か何かなら殺しても別に良いが。
正規兵となると貴重な存在だ。
世界のバランスを保つためにも。
無為に消すのは好ましくない。
作業が終わって、戻る。
深淵の者の本拠である魔界に到着すると。
既に二人の主が待っていた。
イフリータが、討伐部隊と一緒に傅き。そして被害と戦果について説明。二人は頷くと、早速素材を確認した。
「巨大な竜核だ。 素晴らしい」
「傷も最小限に抑えてあります」
「ああ、よくやってくれたね。 これだったら、何の文句も無いどころか、大きな力に変えられるよ」
「珍しくべた褒めね」
主は、見かけ子供にしか見えない。
だが一族を理不尽に奪われ。
昼寝と遊ぶことしか興味がない創造神を見てしまい。
悲嘆に暮れ、荒れ狂っていたイフリータを救ってくれた存在だ。救ってくれたときには、また別の姿をしていたが。
「疲れただろう。 休憩をして、次の任務に備えて欲しい」
「ははっ……」
部下達や、幹部達を促し退出する。
今回も成果は大きかった。
それにしても素晴らしい装置だ。
考案した二人には感謝しかない。
二人が直接錬金術を行えないのは不便だが。それはもう、仕方が無い事なので、周囲で補っていくしかない。
「それでは各自解散。 伝達があるまで休むように。 ゆっくり休む事も仕事のうちだ」
「了解。 世界のために」
「世界のために」
ぐっと拳を固めると、どんと胸の中央に当てる。
深淵の者式の敬礼だ。
そして皆と解散すると。
イフリータも、自身が任されている場所に向かう。
魔界は、名前の通り非常に複雑な経路が連なる空間で、侵入者が入り込んでもまず生きては出られない。
古参の幹部でも、たまに迷子になるくらいである。
そういった迷子を助けるためだけに、重宝されている幹部がいるくらいだ。
彼女はホム族だが、奴隷として使われていた時代に陰惨極まる肉体的暴力を受け続け、あらゆる欲望のはけ口にされていた。
深淵の者に参加し、数百年がかりで幹部になったが。
ホム族に伝わる錬金術を使えるわけでもない彼女がどうして幹部になったかというと。
数字を管理し。
真面目に働き。
何よりこの複雑極まりない魔界の構造を覚え。古参幹部でさえ閉口する状態でも、すぐに助けに来てくれて、出口に連れて行ってくれるからである。
そんな彼女とすれ違う。
ホム族は傾向として、ゆっくり喋るのだが。
それは彼女、クラレンスも同じだ。
「イフリータさん、迷子ですか?」
「いや、クラレンス殿は?」
「私は迷子の救助中です。 新参の方が迷子になったようなので、迎えに行く所です」
「いつもすまないな」
敬礼をかわすと、その場を去る。
クラレンスの顔には、火傷の跡と、十字傷が残っている。彼女は戦士では無い。全てが虐待の痕だ。彼女はそんな境遇でも実直に働き、深淵の者達の中でも後方支援任務を着実にこなしてきた。それは敬意を払うに充分に値する。
奴隷制度はまだ残っている。
辺境ほど多い。
匪賊などが奴隷にしているケースもある。
そんな連中は片っ端から潰してきたが。まだまだこの世界は良くならないのが現状だ。
頭を振ると、その場を離れる。
クラレンスが何をしたのか。この組織に入ってからも、ずっと真面目に働いているし。入る前もそうだった。
それなのに、創造神は彼女に何か報いたか。
自室に到着。
寝ることにする。
大立ち回りの後だったが、疲れは感じていない。
むしろ、怒りと高揚で。
またすぐにでも、仕事に出たいほどだった。