暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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匪賊に対するソフィーの感情は、死ね、以外にありません。

匪賊に人生を狂わされたからです。

なお、何処の集落でも匪賊は見敵必殺が基本です。

荒野で狂って人間を優先的に食いに来る人間ほど、危険な存在はないからです。


1、錬金鉄鋼

死骸の装備を剥がすと、焼く。

 

食べられる状態で残しておくと、スカベンジャーが大挙してくる。そして人間の味を覚えると。人間を襲うようになる。

 

匪賊処理の場合の鉄則。

 

あたしもそれは知っている。だから迷う事も無い。

 

装備が充分に整ったと言うことで。

 

近くの街道付近で発見された匪賊の巣窟に。あたしはキルヘン=ベルの自警団と一緒に、殴り込みを掛けたのだ。

 

今回ジュリオさんには留守番をしてもらう。

 

いきなりこういう作戦に参加して貰うのもなんだし。

 

なにより街にも防衛部隊を残さなければならないからだ。

 

匪賊だって馬鹿じゃ無い。

 

生活できなくなったから匪賊をしているのであって。

 

連中も人間だ。

 

駆除しなければならないのは当然だが。

 

より悪い環境で生きているわけで。

 

それだけ悪知恵だって働く。

 

今回発見された連中は、前から噂になってはいたのだが。つい数日前に、街に逃げ込んできた商人と護衛達の証言で存在が決定的になった。

 

そうなった以上、消さざるを得ない。

 

街道に沿って東に進み。

 

そして山岳地帯にさしかかったところで、道をずれる。

 

夜まで待ち。

 

夜目が利く魔族の伝令を複数出して。

 

火を発見。

 

丸一日掛けて偵察し。

 

街道から見えにくい位置に、十五人ほどの匪賊がいる事を確認。

 

全員が戦闘部隊で。

 

どうやら、要救出対象は存在しないようだった。

 

洞窟が側にある。

 

恐らく其処を本拠にしている、という事だ。

 

敵の見張りから距離を取りつつ、徹底的に調べる。敵は此方に気付いていない。戦いは情報を多く得た方が有利になる。

 

そしてこの辺りの地図は。

 

此方が持っている。

 

洞窟についても、ある程度の形状は分かっている。

 

この戦いは勝ちだ。

 

そして、匪賊は皆殺しにしなければならない。

 

この手の匪賊は、奴隷を買ったり、捕まえてきた子供や女性を性欲のはけ口にした後、解体して食べたりするのだが。

 

今の時点では、不幸にもというべきか。

 

敵の様子を見る限り、生きている救出対象さえいないと言うことだ。

 

作戦開始は夕方。

 

理由は簡単。

 

ヒト族も魔族も獣人族も。

 

皆フルにパワーを発揮できる時間だから、である。

 

あたしが紐を付けて、くるくると回していたフラムだが。

 

今回の作戦は重要な事もあって、ヴァルガードさんが総指揮を執っている。あたしは攻撃時に、初撃と、制圧射撃を担当する。

 

大まじめに戦闘などしない。

 

ドカン。

 

皆殺し。

 

おしまい。

 

以上である。

 

まともに戦闘して怪我などしても馬鹿馬鹿しいだけだ。

 

普段はそうではないにしても。

 

今回は一方的に蹂躙できる条件が揃っている。

 

そして味方にしても、戦力は貴重で、失う訳にもいかない。

 

ならば、やる事は一つ、というわけだ。

 

「GO」

 

ヴァルガードさんが合図を出すと同時に。あたしはフラムを匪賊どもの拠点になっている、街道からは見えにくい位置にある洞窟に放り込む。これは増援を防ぐため。

 

距離があるからロープをつけて振り回したが。

 

正確性を考えるなら、下手投げしたかった。

 

まあそれは仕方が無い。

 

いずれにしても、大爆発で、歩哨が吹っ飛び。

 

更に、立て続けにフラムを連中の頭上に降らせる。続けての攻撃は混乱させるためだ。

 

三発目を放り込んだ時点で、奴らの追加は洞窟から出てこなくなったが。

 

洞窟の出口がもう一つある事も、既に分かっている。

 

生活臭はどうしても漏れる。

 

此方には獣人族の戦士もいるのだ。

 

そのもう一つの穴にも、既に見張りがついていて。

 

合図を送ってきた。

 

あたしは頷くと。

 

クラスタークラフトこと、うに袋を投擲、混乱している匪賊の頭上にて起爆。

 

単独にて面制圧が可能な爆弾が、広域を一瞬にして薙ぎ払うのが、あたしの位置からも見えた。

 

愉快痛快。

 

爽快である。

 

そして、敵主力が壊滅したところでとどめだ。

 

今まで監視をしていたメンバーが、数字をハンドサインで送ってくる。

 

今回、作戦にはコルちゃんが参加していたのだが。

 

彼女が即時にはじき出した。

 

「まだ最低でも三人以上が洞窟にいますです」

 

「よし、ソフィー。 とどめだ。 モニカ、オスカー、タレント、護衛。 ハロルは距離を取って奇襲に備えろ。 他の者達は、周囲を広めに包囲。 脱出をはかろうとする者がいたら、即座に消せ」

 

「ヤー!」

 

自警団の戦士達が、短く。

 

だが猛々しい声を上げた。

 

あたしは洞窟に入り口まで近づくと。

 

敢えて焦げた死体を踏み砕きながら。

 

洞窟入り口に、オリフラムをセットする。

 

「助けてくれ! 降伏する! もう目も見えない! 動けないんだよ!」

 

中からわめき声がするが、そんなものは聞こえない。聞こえたとしても知らない。

 

一緒に来たウサギと人間の相の子のような姿をした獣人族のタレントさんが、しばし耳を傾けていたが。

 

これは人質がいる可能性を考慮しての事だ。

 

「大丈夫。 コルネリアちゃんの言う通り、残りは三人。 全て匪賊よ」

 

「じゃ、やっちゃおうか。 みんな離れて」

 

さっと、洞窟の入り口から離れ。

 

そして、もう一つの出口も、先に塞いで貰う。

 

中から命乞いと絶叫。

 

それに恨み事が聞こえたが。

 

知るか。

 

起爆。

 

瞬時に、魔術で補強された鉄板も軽々貫く爆圧が、洞窟の中に叩き込まれた。

 

しばしして、煙が洞窟から溢れ。

 

生命の気配は消えた。

 

念入りに周囲を探り、魔術も使って敵の生き残りがいない事を確認すると、後始末。

 

黙々淡々と処置をしていく。

 

周囲は煙硝の臭いが立ちこめ。

 

文字通りの死屍累々。

 

死骸を全て片付け終えると。

 

戦利品を回収して、キルヘン=ベルに戻る。

 

匪賊の討伐報告は、ホルストさんから、ラスティンにしてもらう。これによって報奨金も出るのだ。

 

匪賊は殆ど全員がヒト族で。

 

一人だけ魔族もいたが。

 

いずれも大した奴らでは無かった。

 

そして、モニカが装備を見ながら言う。

 

「この様子だと、恐らく各地を転々としながら畜生働きをする連中ね」

 

「駆除が早く済んで良かったね」

 

「ええ……」

 

実際問題。

 

洞窟の中からは、此奴らのものではない人骨が複数見つかった。何が起きていたのかは、言うまでも無いことだった。

 

それらの人骨は丁重に葬る。匪賊の死骸は砕いて廃棄。

 

そして、引き上げる。

 

これで、また少しだけだが。

 

この世界を良くすることが出来た。

 

だが、根本的に良くしなければ、この手の連中は幾らでも沸いてくる。

 

凱旋を始めたときには。

 

もう朝日が昇り始めていた。

 

 

 

 

 

匪賊を片付けた翌日。

 

あたしは、コルちゃんから鉱石を受け取っていた。

 

コルちゃんは疲れている様子も無い。このくらいの「錬金術」ならば、それほどの問題もないという。

 

彼女はかなり黙々淡々としている。

 

話によると、ホムは元々感情が希薄な傾向が目立つらしいのだが。

 

コルちゃんもその例外では無い。

 

殆ど笑顔を浮かべるところも。

 

怒るところも。

 

悲しんだり、喜んだりするところも見た事がない。

 

ここしばらく、プラフタと一緒にコルちゃんの所に様子を見に行っていたのだけれども。それでも、彼女が感情を見せる所は、一度も見られなかった。

 

「ホム同士だと感情は分かるの?」

 

「実のところ、我々から見ると、他の人間種族の感情は大きすぎて、恐ろしすぎるくらいなのです。 私はホムの中では普通くらいなのです」

 

「なるほどね」

 

鉱石を確認。

 

確かに気味が悪いほどまったく同じだ。

 

プラフタによると、この世界には確認されているだけで最低でも三つの系統の錬金術が存在するらしいが。

 

その一つが。

 

コルちゃんの使うホムの錬金術だ。

 

ホムの中でもかなり珍しいらしいが。

 

これは、元々この世界に来る前からの技術で。

 

この世界に来て環境適応して、失われていったから、という説があるらしい。

 

コルちゃんの話によると。

 

長寿のホムの間でも諸説があり。

 

良くは分かっていないそうだ。

 

「ありがとう。 此方代金だよ」

 

「此方こそありがとうなのです。 これからもごひいきに」

 

口元を抑えて、コルちゃんが料金を受け取る。

 

小さな手だけれども。

 

お金に対する執着はホンモノ。

 

キルヘン=ベルに来てからも。

 

相応に既に稼いでいる様子だ。

 

稼ぐばかりでは無く。

 

しっかりと物資を街に供給もしているし。

 

足りない物資や。

 

何が欲しいかなどのリサーチも、欠かしてはいないらしい。

 

また、意外に彼女は戦闘慣れしている。

 

この間の匪賊狩りの際も、率先して名乗りを上げた。

 

ホム族の中でもコルちゃんは身軽な方らしく。

 

機動戦であれば出来ると言っていた。

 

実際かなりのスピードで動き回るのを、モニカとの模擬戦で目撃している。

 

だが残念な事に。

 

ホム族の宿命で、力が決定的に弱い。

 

恐らく、錬金術で足りないパワーを補うための装備を作ってあげれば。

 

彼女は相当に戦闘で化けるのでは無いかとあたしは思っているが。

 

いずれにしても、まだ先の話。

 

装備どころか。

 

金属さえまともに作れないのだから。

 

アトリエに戻ると。

 

プラフタが待っていた。

 

炉の様子を確認していたらしい。

 

「戻りましたか。 鉱石を見せてください」

 

「はい。 どう?」

 

「良い感じですね。 たまたま見つかった、とても品質が良い鉱石だったのでしょう」

 

しかも複数に増やす事が出来る。

 

大したものである。

 

では、さっそく。

 

これをインゴットにするという。

 

インゴットについては座学で教わった。

 

簡単に説明すると、延べ棒である。

 

金などをこうすることが有名だが。

 

それは加工するにも。

 

持ち運ぶにも。

 

便利だからだ。

 

このインゴットを多数作る事によって。

 

鍛冶屋でも、武器防具を作成する手間が省ける。

 

簡単に言うと。

 

現在ロジーさんの所の鍛冶屋が、キルヘン=ベルにおける武具供給の生命線になっているが。

 

それが更に楽になる。

 

原価が下がれば。

 

当然ながら、ロジーさんももっとお安く装備を自警団に供給できるわけで。

 

街の自警団の武装を、必然的に強化することが出来るのだ。

 

原価が下がることで一つずつの仕事の利益も下がってしまうが。

 

しかしながら、原価が下がると言う事は、それだけ価値が下がることを意味し。価値が下がるというのは、たくさん手に入ることも意味する。要するに仕事の量は増えるわけで、安定して稼げるようになる。何しろ武器はどれだけあっても足りない。実際、自警団の戦士達も、かなり古い装備で誤魔化している例が目立っているのだ。

 

公認錬金術師がいる街だと。

 

こういう形で、安く品質が良い金属が手に入るため。

 

非常に自衛力が強化されるらしい。

 

他の街を見た事がないあたしが言うのも何だが。

 

理屈は確かに通っている。

 

まずは、鉱石を砕く。

 

カーエン石の時のように、爆発に気を付けなくても良いのは嬉しいのだけれども。

 

問題は、今度は逆にもの凄くパワーがいると言うことだ。

 

腕力だけだと無理だな。

 

そう判断したあたしは外に出ると。

 

鉱石を砕くためのハンマーに魔術を掛けた。

 

杖と同じだ。

 

殴るとき。

 

自分にとっては羽のように軽く。

 

相手にとっては鋼鉄よりも重くする。

 

魔術としては簡単だが。

 

錬金術に魔術を応用するのはまだ先だとも言われているが。

 

こういう使用法なら構わないだろう。

 

プラフタが見ている前で。

 

ハンマーをうなりを上げて降り下ろす。

 

鉱石が砕ける。

 

砕けた鉱石を集めて、更に砕く。

 

何度か砕いて、粉々になったところで。

 

今度は、炉に直接入れるという。

 

受け皿に砕いた鉱石を入れ。

 

満遍なく並べるようにして。

 

炉に入れ。

 

火を入れる。

 

薪をそのまま熱に変換するという、錬金術における非常に重要な道具、熱変換炉。難しく別の名前で呼ぶ地方もあるらしいけれど。兎に角炉だと、プラフタは言う。或いは呼び方が複数あって、覚えていても意味がない、と言うことなのかも知れない。

 

炉で三刻ほど熱を通し。

 

そして炉を止める。

 

しばらくは余熱で冷ますという。

 

外に出るように促されたので。

 

言うままに外に出ると。

 

煙突から煙が上がっていた。

 

なるほど。

 

こうやって、余熱を逃がしているのか。

 

よく見ると何かが燃えた煙では無く。

 

多分熱による揺らめきだ。

 

それだけの膨大な熱量が放出されているという事は。確かにこれでパンを作るのは無理だ。

 

「分かりましたか。 金属加工とは、かくも大変なものなのです」

 

「うん。 それで、これからどうするの?」

 

「まずは、金属の純度を上げます」

 

なるほど。

 

熱を放出し続けて三刻。

 

充分に冷えたところで炉を開ける。

 

この炉、熱を放出する能力もあるらしく、その辺りは氷室と同じ仕組みを利用しているらしい。

 

炉を開けると、熱どころか。

 

ひやっとした。

 

そして、マーブル模様になった、何か良く分からないものが、トレーの上に載せられていた。

 

これが。

 

砕いた金属の末路か。

 

言われるまま、外に持ち出す。

 

触るとひんやりするくらいで。

 

ミトンも必要なかった。

 

外に出てから、マーブル模様の部分を叩いて外す。

 

あっさり外れるので驚いたが。

 

プラフタはもっと驚くことを言った。

 

「いいですか、この模様の部分が、それぞれ別の金属です。 もっと良い鉱石だと、更に純度が高い金属が取れます」

 

「へえ、すごいね……」

 

「これは鉄が殆どですね。 残りは銀とニッケル、それとただの砂利です。 砂利以外はいずれも分けて、氷室に保管しましょう。 いずれ使い路が出てきます。 銀は単純に換金できるでしょう」

 

「はーい」

 

鉄だけは、その場に残し。

 

そしてまた炉に入れる。

 

炉から出してみると。

 

今度はマーブル模様にならず。

 

隅っこだけ、不純物が出ていた。

 

これで鉄として、大体純粋なものができた事になる。

 

あれだけの鉱石で、これだけの量の純粋な鉄が出来ると言うのは、色々と凄い事だ。

 

今の時代でも、建物は木と石で作る。石で作るケースが多いし、貧しい地域だと洞窟に住むことだってある。

 

あの匪賊どもだって。

 

ある意味洞窟暮らしをしていたようなものだ。

 

鉄を何度か炉に入れて抽出作業を繰り返し。

 

不純物を取り去る。

 

時間がもったいないので。

 

その間に薬やフラム、クラフト、うに袋と、今まで作ったものを順に作っていき、復習作業。

 

更には、ジュリオさんやコルちゃんにも声を掛けて。

 

近場で採集を実施した。

 

素材は幾らあっても困らない。

 

炉はプラフタが見てくれると言うことなので。

 

頼んでそのまま近場に出かける。

 

ジュリオさんの出番が来ることは殆ど無かったが。

 

コルちゃんは、意外に勇敢で。

 

無言のまま獣の中に飛び込むと、すばしっこい動きで相手を翻弄。

 

モニカの間合いに誘導したり。

 

あたしの魔術とハロルさんの銃のクロスファイヤーポイントに誘い混んだり。

 

オスカーが跳躍したのを見て、さっと敵の前から離れたり。

 

結果獣どもは。

 

モニカにスライスされ。

 

あたしとハロルさんの砲撃に木っ端みじんにされ。

 

オスカーに頭をかち割られ。

 

後は解体されて。

 

自らも素材になるのだった。

 

その過程で、動物の内臓や、毛皮、肉、骨などを、かなりの量キルヘン=ベルに持ち帰る事が出来たし。

 

それらは自分で持っていても仕方ないので、必要な分はホルストさんに渡してしまう。

 

ホルストさんは充分に満足。

 

この間の匪賊討伐で、あたしの作った道具類が無双の活躍を見せたこともあって、機嫌が目に見えて良くなっていた。

 

コルちゃんに関しては、モニカが自警団に入らないかと誘っていたが。

 

やんわりと断られた。

 

この間の匪賊討伐は、あくまで街に溶け込むため。そして今回はあたしの採集に同行すると、自分でも売り物になる素材などが手に入るから、という理由で来てくれたのだ。

 

流石に自警団に参加して。

 

定期的に義務として猛獣駆除、と言うリスクを冒す気にはなれないのだろう。

 

何より彼女は本質的に商人だ。

 

給金目当ての戦いは本分では無い、と思っているのかも知れない。

 

強いのに惜しいなあ。

 

そう思うが。

 

本人には言わない。

 

コルちゃんはあくまでそうしたいからそうしているのだから。

 

その意思を尊重するのが大事なのである。

 

数日が過ぎて。

 

鉄を純粋に抽出することが出来た。

 

これで売るのかと思ったが。プラフタは違うと言う。

 

「此処までで、ようやくフラムに使うカーエン石と同じ「ものの意思の統一をしやすい状態」に仕上がった所です」

 

「これからどうするの?」

 

「金属としての強度を跳ね上げます」

 

なるほど。

 

ものの意思に沿ってものを変化させる、錬金術の本領発揮というわけだ。

 

中和剤を用いるが。

 

今回は水だ。

 

そして炉で中途半端に熱した鉄を。

 

中和剤に漬ける。

 

じゅっと、凄まじい音がして、湯気が出る。

 

これは魔術で体をガードしないと、火傷するかも知れない。

 

「錬金術師の中にも、中途半端な力量の者は、金属加工を嫌がる場合が目立ちました」

 

「それは、そうだろうね」

 

汗を拭う。

 

魔術でガードしていても、なおも熱いと感じるほどだ。

 

更に、中和剤に蜜を投入する。

 

これは金属強化の一端で。

 

中和剤に対する蜜の量は厳密にはかり。

 

温度も調整し。

 

じっくり丹念に混ぜ合わせた上で。

 

鉄のインゴットを投入する。

 

そして叩いて伸ばす。

 

赤熱したインゴットは。

 

それ自体が、一打ごとに強くなるようで。

 

聞こえてくる雑音も凄まじい。

 

ただ、抵抗する感触は無い。

 

ものの意思とやらが、強くなることを望んでいる、という事なのだろう。

 

額の汗を拭いながら、作業を続け。

 

最終的には、四日ほどで。

 

インゴットが完成した。

 

金色に近いが。

 

元の鉄色とはかなり違っている。

 

しかしながら軽く。

 

そして、堅い。

 

あたしが魔術で強化した杖で、結構本気で殴ってみたのだけれど。ものすごい堅さにはじき返された。

 

勿論これは、インゴットという分厚い状態にしているからだろう。

 

「あたしの知ってる鉄と違う」

 

「錬金術によって、鉄とは別物というほどに堅くしています。 これは、点数でいうならば、41点ですね」

 

「意外に高得点だね」

 

「ただし此処から伸ばすのは大変ですよ。 いずれも、中途に腕がついた状態が、一番危ないのです」

 

プラフタの発言にも一理ある。

 

ただ、これは流石に手を入れようが無さそうだ。

 

もしもレシピを作れるのなら、と思ったのだが。

 

作業そのものは単純。

 

後は加工のタイミングや。

 

元になる鉱石の質そのものがものを言う事になるだろう。

 

いずれにしても、今回の作業は想像以上に時間が掛かったし、並行で別の調合も出来るほどだった。

 

金属加工は手間が掛かる。

 

それについては、教訓としてあたしの中に染みついた。

 

すぐに完成品をロジーさんに見せる。

 

隣と違って、毎日真面目に仕事をしているロジーさんは。

 

持ち込んだインゴットを見て、驚いていた。

 

「鉄の潜在能力を極限まで引き出している。 流石は錬金術だ」

 

「ロジー。 ソフィーを甘やかすことになるような発言は禁止します。 この子はまだまだ上が目指せる状態ですよ。 そんな発言はソフィーをスポイルしてしまいます」

 

「そうか、ならば俺が見てきた錬金術師達の作ったインゴットは、三流以下だった、という事になるな」

 

使えるかと聞くと。

 

使えるという。

 

少なくとも、剣一本くらいはこれで作れるそうだ。それもかなり良いものが。鎧になると、流石にインゴット二つは欲しい、という。

 

さて、どうするか。

 

コルちゃんに複製を頼むか。

 

更に上を目指すか。

 

咳払いされる。

 

どうやっているか分からないが、プラフタは咳払いが出来るのだ。

 

「ソフィー。 これはまだ量産できる品ではありません。 鉱石の力も引き出しきっていませんし、ただホルストに納品するだけにしておきなさい」

 

「あ、そう。 それなら、仕方ないかな……」

 

基本ロジーさんは素朴な青年で。

 

イケメンの割りには基本的に女子にがっついている様子も無く。

 

その辺りから、「草食」とか言われているのだが。

 

そのロジーさんが珍しく。

 

インゴットが持って行かれた時に、本当に残念そうな顔をしているのを、あたしは逃さず見ていた。

 

なるほど。

 

ロジーさん、女子より仕事の方が好きなタイプか。

 

あの容姿で女の噂がないと思ったら。

 

ただ、それに関しては分からないでもない。

 

この過酷な世界だ。

 

親から子供を作れと散々詰られて、結果異性が大嫌いになるようなケースもあるらしいし。

 

娼館なんかで育った結果、異性がバケモノにしか思えなくなる場合もあるという。

 

貧しい場合は、そういう状態でも、異性を見つけて子供を作らなければならないだろうが。

 

ある程度生活に余裕がある場合は。そもそも性を毛嫌いするようになるケースもあるらしい。

 

繁殖力が低い(性欲も薄いらしい)魔族は、この辺りを呆れてみているらしく。

 

そもそも繁殖方法が違うホム達は、ヒト族は面倒だなと思っているとかいないとか。

 

唯一これらの事情を理解してくれるのは獣人族だが。

 

彼らは彼らで独自の繁殖に関する思想を持っているので、色々と差は大きい。

 

不思議と、これらの差で争いが起きることはないのだが。何故かはあたしにも分からない。

 

まあコルちゃんに後でもっと仲良くなったら本当のところを聞いておくとして。

 

インゴットはホルストさんに納品。オリフラム並の値段で買い取って貰えた。

 

「コレは素晴らしい」

 

ホルストさんは大喜びしたが。

 

すぐにプラフタが同じ説教をしたので。

 

あたしは呆れた。プラフタは、子供がいたら、かなり厳しかっただろう。

 

 

 

結局の所、鉱石が足りない。

 

それについては、インゴットを作って見てよく分かった。

 

少し東に行った、この間匪賊を皆殺しにした辺りに、ちょっとした洞窟がある。ジュリオさんだけではなく、コルちゃんも加えれば、内部の探索が可能になるかも知れない。

 

流石にまだちょっと戦力が足りないので、深入りは流石に危ないが。

 

それでも、入り口くらいなら大丈夫だろう。

 

また、この洞窟では、前にプラフタが言っていたハクレイ石も取れるという話だ。冷気爆弾というのは、想像もつかない代物である。是非作ってみたい。

 

薬や爆弾を造りながら、プラフタに教わって、簡単なものを色々作り置きしていく。

 

中和剤も様々な種類、用途のものを作成。

 

薬についても、ただの傷薬だけではなく。材料を変えて、熱冷ましや化膿止めも作った。

 

確実に腕が上がっていくのが分かるが。

 

次にプラフタが指定したものは。

 

今までのものとは訳が違う。

 

魔術で冷やしたりするのと同じ。

 

摂理に反するタイプの爆弾だ。

 

今後錬金術を極めると。

 

更にこういった、本来起こりえない現象を引き起こすものへと手を出していくことになる。

 

当然のことながら難易度も上がるし。

 

そして興味深くもある。

 

準備があらかた終わり。

 

新しく作ったものをホルストさんに納入すると。

 

東への遠征を提案。

 

受け入れられた。

 

ただ、その過程で。

 

一つ依頼を受ける。

 

ホルストさんは、いつもの淡々とした笑顔のまま。

 

言うのだった。

 

「今ソフィーが行こうとしている洞窟の側で、大型のキメラビーストの存在が確認されています。 亜種かも知れません」

 

「!」

 

「今回はモニカも含めた精鋭が出る事もありますし、錬金術の素材を回収するだけでは無く、今後街道を脅かしかねない猛獣の戦力をはかり、出来れば倒してしまってください」

 

「分かりました」

 

この間の匪賊殲滅で、自分の爆弾が充分な破壊力を持っていることは証明できた。

 

それならば、今回は丁度良い実験だ。

 

可能な限りの戦力を整えて。

 

そして現状の実力を試すのと同時に。

 

キルヘン=ベルの安全も確保する。

 

だが、あまりにも欲張りすぎると、良い事にはならないだろう。

 

勿論引き際の見極めも重要だ。

 

すぐに準備に取りかかる。

 

皆に声を掛ける。

 

コルちゃんも、最初は渋るかと思ったのだけれども。意外にもすんなり引き受けてくれた。

 

話を聞いてみると。

 

したたかなものである。

 

「この街は流通が閉じてしまっていますし、商品になりそうなものは足で稼ぐ必要があるのです。 ソフィーさんが錬金術師として大成すれば、この街への街道も安全になるでしょうし、その手伝いならいくらでもするのです。 それに……この街を離れることも、現時点では難しいですし」

 

「いずれ行っちゃうの?」

 

「それはそうです。 私の目的は、家族を探すことなのです」

 

ああ、これは。

 

モニカに入れ知恵されたな。

 

まあいい。

 

コルちゃんが強かなこともわかった。そしてこの間の戦いで、頭が切れる事も、である。ならばよし。

 

準備が出次第、出られる全員で出る。

 

ジュリオさんも、今回は喜んでついてきてくれるそうだ。

 

この戦力なら。

 

何とかなる可能性も高かった。

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