暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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キメラビーストは原作の強敵で、元々戦闘難易度が高めのソフィーのアトリエで、苦杯を呑まされた人も多いかと思います。

本作ではキメラビーストはなんぼでも湧き、放置すればどんどん強くなるので、定期的に犠牲を出しても狩らなければならない危険な相手です。


2、強襲の爪

敵を先に発見する。

 

それが戦いにおいて、重要な要素になる。

 

獣が相手になる場合、風上から接近するのは悪手だ。風向きを把握して、風下から接近する。

 

今回来てくれたのは、モニカとオスカー。ジュリオさんとコルちゃん。それに、面倒くさそうにはしていたが、ハロルさんも来てくれている。

 

風を読みながら。

 

予定の地点まで街道を行く。

 

とはいっても、街道もただ「草が生えていない」だけの場所。そもそも荒野が拡がっている世界だ。枯れた草が生えているだけでも御の字、という次元で。雨だって降っても、すぐに土に吸われてしまうし。

 

水はけが悪い場所だと。

 

その度に洪水を起こす。

 

今回、幸いにも風向きが良いので、街道を移動しながら近くまで行き。

 

そして、目的の洞窟の近くで。

 

視線を遮るために街道からずれる。

 

目的の洞窟は、街道から逸れて、崖の上にあるのだけれども。

 

この近くに、この間皆殺しにした匪賊が住み着いていた洞窟があった。

 

要するにこの近くの崖。

 

何かしらの理由で、穴が開きやすいのか。

 

それとも、この辺りに昔にあった村か何かで、採掘をしていたのか。

 

いずれにしても、自然現象によって、洞窟が出来たというわけでは無さそうだ。

 

既にハンドサインに切り替えて、じっくり時間を掛けながら距離を詰める。

 

コルちゃんとツーマンセルで偵察に行っていたモニカさんが。

 

戻ってきて。

 

皆で情報を共有した。

 

「大型の足跡発見。 並のキメラビーストの二倍はあるわ」

 

「それは恐ろしいね」

 

くつくつと笑うあたしだけれども。

 

モニカは笑わない。

 

ジュリオさんは、見張りを続けてくれている。

 

「そこまでデカイと、目でも狙わない限り銃弾だと通らないな」

 

「ソフィーの爆弾が頼りだな」

 

ハロルさんとオスカーが口々に言うが。

 

皆の戦力だって頼りにしたい。

 

というか、皆だって充分に強いのだから。

 

あたしは其処まで悲観していない。

 

「マーキングや糞は?」

 

「マーキングならこの位置にあったわよ」

 

モニカが、この辺りの地図を拡げて、指を走らせる。

 

なるほど。

 

自分が強い事を把握して。

 

普通のキメラビーストよりかなり広めのテリトリーを確保している様子だ。

 

しかも、一部は街道に掛かっていると見て良い。

 

早めに排除しないと危ないだろう。

 

ただでさえ危険が大きい街道だが。

 

このままだと、死者が出ても不思議では無い。

 

腕利きの傭兵がついていても。

 

大型の猛獣に奇襲されると、一瞬で殺される事もある。

 

そういうものだ。

 

「まずは敵を発見する事だな」

 

「オスカー。 植物たちは何て言ってる?」

 

「うーん、おいらとは話してくれはするけれど、どうもなあ。 要領を得ないんだよさっきから」

 

「どういうこと?」

 

オスカーは咳払いすると。

 

少し悩んだ後、話してくれた。

 

どうもこのキメラビースト。

 

ごく最近姿を見せたらしい。

 

普通のキメラビーストなら、植物たちも気にしないのだが。

 

どうも妙なことに。この辺りに生えているわずかな植物を、敢えて傷つけるような真似ばかりするという。

 

肉食動物も、栄養が偏ると植物を口にしたりするが。

 

ざっと見たところ、この辺りには、木もまばら。

 

草さえ少ない。

 

つまり植物を大事にしていない、という事で。

 

植物たちは単純に怖がっているようだった。

 

「なあ、ソフィー。 出来るだけ早くやっつけようぜ」

 

「相手を確認してからね」

 

「それは分かってるけれど」

 

「場合によっては戦力を整える必要があるんじゃないのかな」

 

冷酷な判断だが。

 

それも事実だ。

 

下手に仕掛けて、大事な人材を失っては意味がない。

 

相手がホンモノの猛獣。

 

いや、どうも様子がおかしい事を考えると。

 

下手に仕掛けると、致命的な事態を招きかねない。

 

しばし身を潜めていると。

 

まずいと、ジュリオさんが口にした。

 

「風向きが変わり始めた」

 

「!」

 

「位置を変える方が良いだろうね」

 

「いや、もう遅いみたい」

 

ソフィーも、さっきから、いつも聞こえる雑音が乱れているのは感じていた。

 

そいつは、よっぽど自分の実力に自信があるのだろう。

 

堂々と姿を見せた。

 

瞬時に皆が戦闘態勢に入るのを嘲笑うようにして。

 

モニカが言っていた通り、通常の倍はあるキメラビーストは。

 

凄まじい雄叫びを上げていた。

 

 

 

キメラビーストは、荒野に蔓延する猛獣の中でもかなり大型で、しかもありふれている。小さな村などでは、コレに対する対処が肝になるほどで。撃退出来ない場合、村が壊滅するケースもある。

 

戦闘力は高く。

 

大型食肉目らしい鋭い動きとパワー。

 

それに貪欲に敵を追い詰める執念。

 

何よりも、尻尾が蛇になっている事で、死角を補っていることから。

 

かなり近づきにくく。

 

しかもものによっては、尻尾がブレスを吐いて、周囲を薙ぎ払うことさえある。

 

今回のは、灰色の毛皮を持つ通常のキメラビーストだが。

 

肩までの高さはあたしの背丈と同じくらい。

 

体長は三歩半という所か。

 

傲然と突貫してくるキメラビーストから皆を庇うように、ジュリオさんが前に出て、剣を構える。

 

降り下ろされる太い腕。

 

まて。

 

少し体型がアンバランスだ。

 

これ、まさかまだ幼体なのか。

 

このサイズで。

 

ジュリオさんが剣を盾に、激しい一撃を受け止めるが、数歩分吹っ飛ばされ、体勢を立て直す。

 

同時にキメラビーストの蛇が此方を向き。

 

瞬時に辺りを漂白するほどの、熱ブレスを放ってきた。

 

飛び出したモニカが神聖魔術で壁を作るが。

 

それでも、じりじりと押されるほどだ。

 

まずい。

 

此奴の戦力。

 

想定以上だ。

 

ブレスがとぎれる。

 

その瞬間には、奴が上に出ていたが。

 

サイドステップしたオスカーが、土手っ腹にスコップを叩き込む。

 

空中で回転しながらの一撃だから、かなり重いはずだが、少し態勢を崩しただけである。体重が重いと、こういう点でも有利になる。毛皮も分厚く、ハロルさんが速射したが、目の付近に当たったにもかかわらずまったく気にもしていない。

 

あたしは冷静に。

 

クラフトを投擲。

 

奴がかみ砕くと同時に。

 

起爆した。

 

全員が跳び離れる。

 

あたしのクラフトの火力は、皆知っているからだ。

 

更にフラムを投げつけ。

 

起爆。

 

爆炎の中に消えたキメラビーストだが。

 

これで倒せれば、そんな楽な話もないだろう。

 

煙を斬り破り。

 

顔を血だらけにしたキメラビーストが突貫してくる。

 

だがその時には。

 

モニカもあたしも。

 

詠唱を終えていた。

 

大口を開けて飛びかかってくるキメラビーストが、壁に激突。空中で、見えない壁をモニカが展開。

 

更にそれを力尽くでこじ開けたキメラビーストに。

 

あたしが魔術砲をぶち込む。

 

空中だ。

 

避けようがない。

 

流石に態勢を崩すキメラビーストだが。

 

尻尾を振るって、ブレスを辺りにぶちまけようとする。

 

その時だった。

 

コルちゃんが奴の背中に降り立つ。

 

そして、オリフラムを置くと。

 

飛び退こうとした。

 

だが、流石は獣。

 

反応速度が凄まじい。

 

着地する寸前に、尻尾を振るって、コルちゃんを吹き飛ばし。地面に叩き付けられたコルちゃんは、受け身も取れず、そのままバウンドして、岩に叩き付けられた。

 

悲鳴も上がらない。

 

更に、とどめを刺そうと飛びかかるキメラビーストの前に、ハロルさんとジュリオさんが立ちふさがり。

 

ハロルさんが銃を乱射。

 

左目に命中させる。

 

そして、前足の一撃を。

 

ジュリオさんが受け止めた。

 

下がるが。

 

それでもコルちゃんの手前で、何とか食い止め。

 

敵の動きが止まった。

 

「起爆!」

 

オリフラムが奴の背中に食い込んでいるのを確認後。

 

あたしは容赦なく起爆。

 

巨大な石材を吹き飛ばした火力が。

 

ピンポイントで巨獣の背中に叩き付けられる。

 

流石にコレにはひとたまりもない。

 

絶叫したキメラビーストが、即応して、直撃を避けようとしたが、それでも体を深々熱線が抉った。

 

爆裂。

 

コルちゃんを抱えて、ハロルさんが飛び退き。

 

ジュリオさんは、多分剣か鎧に掛かっている防御魔術でしのぎながら、飛び退く。

 

悲鳴を上げながらのたうち廻るキメラビースト。

 

流石にハラワタをぶら下げているが。

 

それでも死なないか。

 

蛇が此方を向くと。

 

無差別にブレスを乱射してくる。

 

オスカーが吹っ飛ばされ。

 

それを庇おうとしたモニカの防御魔術も貫通された。

 

あたしは冷静に、杖を構え直すと突貫。

 

手負いの獣だ。

 

とどめを刺す。

 

キメラビーストが気付く。

 

魔術で加速したあたしが、もう至近にいる事に。キメラビーストが、前足を振り上げようとして、顔を歪める。

 

既に足が動かないことを悟ったのだ。

 

残念だったね。

 

半笑いを浮かべたまま、あたしはクラフトを放り。

 

そのまま、噛みついてきた蛇を、杖で受け止め。

 

そして、跳び離れた。

 

杖を手放すとは思っていなかったのだろう。

 

キメラビーストが唖然とする中。

 

クラフトを起爆。

 

もろに抉られた奴の腹の至近で。

 

爆弾が炸裂。

 

悲鳴を上げたキメラビーストは、大量の鮮血をぶちまけながら、横倒しになった。

 

着地したあたしは。

 

杖を取り戻すと。

 

蛇を踏み砕いた。

 

頭を踏みつぶされた蛇は。

 

しばしして動かなくなった。

 

そのまま掌を向け。

 

魔術砲、オーラキャノンをキメラビーストの傷口に連射。一撃ごとに内臓が吹き飛び。毛皮が内側から爆ぜた。

 

獣が舌を出したまま完全に動かなくなるまで。

 

そうしてあたしは攻撃を続けた。

 

 

 

強襲を受けたこともあり。

 

全員が手傷を負っていた。

 

あたしだって例外では無い。

 

最後の突貫の際、クラフトがかなり至近で爆裂したのである。勿論魔術で防いだけれども。

 

それでもある程度の手傷は避けられなかった。

 

薬を配って、治療。

 

その間に、手傷が軽かったジュリオさんが。

 

剣を振るって、キメラビーストを解体していた。

 

ざくり、どすりと、重い音がする。

 

それだけ、重厚な肉体を持つ猛獣だった、という事だ。

 

「コルちゃん、大丈夫?」

 

「なんとか。 このくらいなら……平気なのです」

 

「そう。 良かった」

 

モニカが手当をしているが。

 

蛇に一撃を受けたとき、更に地面に叩き付けられたときに。骨を何本かやったらしい。山師の薬で急速に回復しているが。それでも変な回復をすると危ない。骨の折れ方次第では、逆に体に悪影響も出る。

 

モニカが黙々淡々と手当をしているが。

 

その度に、コルちゃんは苦しそうにしていた。

 

あれを避けられれば。

 

もう少し被害は減ったのだが。

 

「ソフィー。 終わったよ」

 

「ありがとう、ジュリオさん」

 

キメラビーストの残骸を回収。なお、ジュリオさんは年上という事もあり、何よりエリートである騎士。呼び捨てにして良いと言ってあるので、向こうもそうしてくれている。

 

荷車に積み込む。

 

無事だった毛皮に関しては、かなり強力な皮防具の素材になる。皮は防具の素材としては強度が弱めだが、金属に対してとても軽いという強みがある。これだけのサイズのキメラビーストの皮となると、下手な金属鎧よりいいものが作れるだろう。

 

内臓類も悪くない。

 

特にブレスを放つために使うらしい内臓器官は、錬金術によって、かなり面白い改良が出来るかもしれない。

 

骨も良い感じだ。

 

巨大な骨格を支えるため、頑強極まりない。

 

肉に関しては、この場で食べてしまう。

 

使えそうにない部位は、焼いた後埋める。

 

少しでも土地の栄養を増やすためだ。

 

しばし黙々と、治療と食事に専念。

 

オスカーが、焼いた肉を、付近の植物のそばに埋めに行っていた。

 

モニカが、手当を終え。

 

血だらけの手を、用意しておいた水で洗いながら言う。

 

「おかしな話ね」

 

「うん。 この間の赤ぷにぷにもそうだったけれど、妙だね」

 

こんなサイズのキメラビースト。

 

見た事も聞いたこともない。

 

此処にいる面子は、コルちゃんはどれくらいかは分からないが、いずれにしても手練れと言って良い実戦経験者だ。コルちゃんだって、それなりに修羅場はくぐってきているだろう。キメラビーストくらいは、あたしだって自警団に加わっての狩りで仕留めたことがある。

 

だから今回は、戦闘前からスムーズに動けたのだが。

 

それにしても、今回のキメラビーストは異常だ。

 

まずサイズがでかすぎる。

 

亜種なら兎も角、特徴から考えてこれは普通のキメラビーストである。それなのに、此奴は幼体の特性を備えていた。

 

つまりこれ以上大きくなる可能性があった、という事だ。

 

今のうちに仕留められて良かったのだろう。

 

こんなのが更に巨大化して、街道を縄張りにしていたら。

 

通ろうとする商人は、護衛ごと皆腹の中に直行させられていたはずである。

 

一段落したところで、

 

スカベンジャーが此方を遠巻きに見守っているのを横目に。

 

奴が縄張りにしていたらしい洞窟に。

 

幸いと言うべきなのか。

 

中はひんやりしていて。

 

そして、奴のエジキになったらしい動物の残骸が散らばっていた。

 

流石に痛んでいるし放置。スカベンジャーが処理するだろうから、それに任せる。

 

むしろ、今回の目的は。

 

鉱石の採集だ。

 

プラフタが言っていた通りの特徴を持つハクレイ石を発見。魔術をかけたゼッテルで包む。

 

こうすることで、熱を逃がさないようにするのだ。

 

他にも、良さそうな鉱石がかなりある。

 

そして見ると、やはりそうだ。

 

周囲には足場の跡らしいものや。

 

つるはしの残骸らしいものも見受けられた。

 

此処は、キルヘン=ベルが発展する前に。

 

近くにあった街か村が。

 

鉱山として、掘っていた場所なのだろう。

 

だがそれも、何かしらの理由で潰れ。

 

そして放置され。

 

猛獣の住処になった。

 

或いは匪賊が住み着いた。

 

充分な鉱石を集めたので、皆を促してこの場を離れる。

 

振り向くと。

 

もう我慢できないとばかりに、スカベンジャー達が洞窟に飛び込んで行った。腐肉をこれから思う存分貪るのだろう。

 

キメラビーストの、いらない部位の残骸も。

 

既にスカベンジャー達が集まり、尻尾をふりふり貪り始めている。

 

死ねば此方がああなっていたのだ。

 

ならば、容赦も遠慮も必要ない。

 

荷車は、ずっしりと重くなっていた。

 

この辺りは、もう何回か掛けて、じっくり整備する必要があるな。

 

あたしは、洞窟と違い、もはや人が生きていた形跡が見受けられない周囲の街道を見回して。

 

そう思っていた。

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