暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
キルヘン=ベルで解散はしたが。
モニカとオスカーは、その後もつきあってくれた。
まず素材類をアトリエの氷室に入れる。
プラフタは本を読みながら待ってくれていたが。全員戦闘の跡が激しいのを見て、呆れていた。
「どれだけ強力な相手と戦ったのですか」
「普通の倍はあるキメラビースト。 しかもまだ幼体みたいだった」
「それは、良く無事でしたね」
「おかげさまで、何とか死者を出さずに仕留められたよ」
ハクレイ石も見せる。
良い感じだと、プラフタは喜んでくれた。
あたしも嬉しい。
此処からは。
本格的に摂理の外にある錬金術を行っていくことになるのだから。
続いて、ホルストさんの所に。
キメラビーストの頭を納品しておく。
まあこれならば。
流石にこれ以上もない、仕留めた証拠になるだろう。
ホルストさんは喜んでくれた。
「素晴らしい。 ただ、流石にこのサイズは異常ですね……」
「少し前に、異常に強い赤ぷにぷにに襲われた事もあったし、何か起きていると考えるべきでは、ホルストさん」
「そうですね。 少し調査してみましょう」
報奨金を貰う。
使った爆弾とお薬の分。
更に重傷者であるコルちゃんの治療費。
それにこれだけのサイズのキメラビーストの撃破料。
かなりの収入になった。
これで一段落か。
肩を叩くと。
カフェの外で、モニカとオスカーと解散。そういえば、モニカは眼鏡割らなかったか心配だったのだが。
そんなへまはしないと、苦笑されてしまった。
コルちゃんの様子も見に行くが。
早速、今回の遠出で集めた素材を売っていて、逞しいと思うばかりである。まだ左腕は吊っているのに。
「コルちゃん、腕は痛む?」
「いえ、おかげさまで。 ソフィーさんのお薬、此方で扱いたいくらいです」
「あはは、ごめんね。 ホルストさんにまず納品しないといけないから」
「それならば、私の方でホルストさんと交渉します」
おや、これはマジか。
だが、薬はある程度備蓄がないとまずい。
錬金術師がいるということで。
この街では。格安で治療を受けられる、という事が強みになっているのだ。
ジュリオさんにも聞いたが、あたしの薬と同程度の薬は、都会に行くと目玉が飛び出すような値段がつくという。
公認錬金術師がいる街なら兎も角。
それ以外の場所だと、それが当たり前だという。
コルちゃんが扱うようになると。
そういう事になるのでは無いのか。
だが、見越したように。
口元を抑えながら、コルちゃんは言う。わずかに、目元に狡猾な光が宿っていた。
「大丈夫ですよ。 商売のやり方は色々とあるのです。 少なくとも、キルヘン=ベルの人々が、薬代に困るようなことはないと、断言するのです」
「そう。 それなら良いんだけれど」
「いずれにしても、ホルストさんは手強そうですね。 ……それと、ソフィーさんには、その内ちょっとした難しいお仕事を頼むかもしれないのです」
「うん、出来る事ならやるよ。 その代わり、戦いの手伝いはお願いね」
コルちゃんは身軽さを利用して、充分に戦える。
今後の事も考えると、コネは作っておいて損は無い。
だが、巨大キメラビーストとの戦いで実感したが。
まだ戦力が足りない。
あたし自身が強くなるのは必要だとして。
もう何人か。
戦闘が出来る人を、街から連れ出したい。
それが本音だ。
アトリエに戻る。
風呂に入って、さっぱりした後。
プラフタに様子を聞く。
ハクレイ石はかなり品質が良いらしい。これならば、強力な氷結爆弾が作れるだろうと、プラフタは言った。
それだけではない。
「幾つかの鉱石を見ましたが、かなり品質が良いですね。 ひょっとするとこの辺りには、良質な鉱石の鉱脈があるのかも知れません」
「それを更に錬金術で強化するんだね」
「分かってきましたね。 そういう事です。 しかし、それはあくまで、世界の未来のためでなければなりません」
「分かっているよ」
キルヘン=ベルが安全になり。人口が増え。
街道の整備も進めたら。
ナーセリーや。
あの洞窟があった周辺に、それぞれ街を造り。
多くの人が暮らせるようにして。
そして荒野も豊かにし。
猛獣と無意味に殺し合わなくても済むようにしていけばいい。
森などに入り。
豊かな自然の中にいると。
猛獣は荒野にいるときよりも、だいぶ性質が大人しくなる。
ガツガツしなくても良くなるからで。
それは恐らく人間も同じ筈だ。
さっぱりしたところで。
座学を開始。
プラフタの授業を受ける。
まず、ゼッテルから。
いわゆる「紙」であるゼッテルだが。紙であるが故に、魔術を込める事が簡単で、これが非常に役に立つ。
魔法陣を描いて。
そのまま何かを包み込む事によって。
保存も容易になるのだ。
氷結爆弾も。
この原理を最大限利用するという。
とはいっても、魔術と錬金術はあくまで別々に使う。混合するのは高度な応用らしいので、まだ触るのは先になるそうだ。
まずハクレイ石を取り出す。
ひんやりしていて、机に置くと周囲に霜が生えそうな程だ。
「品質が非常に高いハクレイ石は、触ると手の皮がくっつくこともあります。 当然怪我をする事になるので、気を付けなさい」
「うん。 それで、これをどうするの?」
「まずは砕いて、不純物を取り除きます」
「やっぱり」
最初はそれからか。
鉱石を扱う場合、まずはそれが絶対になりそうだ。
ハクレイ石は、叩くと爆発する、というほど危険な代物ではないらしく。カーエン石に比べると、扱いがだいぶ簡単な様子だ。
まず砕いて、すりつぶし。
砂や石。
中には虫の死骸などもあったが。
それらを除去。
その後、水を使って作った中和剤を入れるのだが。
注意事項として。
この中和剤は。
可能な限り、先に冷やしておくことだ。
氷室に入れていたので問題ないが。
温かいと、「熱」という属性が相反して、ハクレイ石が台無しになってしまうと言う。
まあそうでなくても、ハクレイ石は熱に弱いようなので、確かに常温の水を流し込んだりしたら、すぐに痛んでしまいそうだが。
完全にすりつぶし、不純物を取り除いたハクレイ石。
更に中和剤を入れ。
ゆっくりと混ぜ合わせる。
この時。中和剤を何回か、段階を分けて入れるのだが。
注意として。
やはり抵抗を感じたらすぐにストップ。
今の時点で、聞こえている雑音はスムーズで。むしろ聞き苦しくなく優しいほどなので、普段ほどあたしも不機嫌では無い。
四回に分けてハクレイ石と中和剤を混ぜ。
その後氷室に入れる。
そして温度が更に下がったところで。
ゆっくりゆっくりと、混ぜ合わせる。
「手間が掛かるね」
「こうやって変化を促します」
「そっか」
「そろそろ、ですね」
シャーレから、粘性の高いハクレイ石だったもの、を取り出すと。
ゼッテルにて包む。
意外にも、ゼッテルから水がしみ出すことは殆ど無かった。
油紙を内側に貼っているということもあるのだが。
そして、芯を入れる。
この芯は。
先ほどから練り練りしていたハクレイ石の中でも。特に念入りに練り練りして。そして棒状にしたものだ。
この棒状の芯は、ちょっとやそっとでは溶けない。
触ると、さっき話題に上がった、皮膚がくっつく程だ。
要するにそれだけ強烈に変質しているわけで。
その変質を。
一気に他のハクレイ石にも広げる事が出来るのである。
「なるほど、つまり、元々冷気を放つハクレイ石の要素を、爆発的に広げる事によって、周囲を一気に凍結させるんだね」
「そういう事です。 この出来でも、周囲二十歩ほどを瞬間凍結させる事が可能でしょうね。 非常に危険ですので、実験は外で行います」
「はーい」
いずれにしても、手間暇掛かった爆弾だ。
氷が出ようが火が出ようが。
破壊力が申し分なければ、あたしとしては文句は無い。
芯を入れた後。
二つの要素が混ざらないように、念入りにチェック。
なお芯にはゼッテルを巻いてあるが。
これは起爆時に除去する。
とはいっても、物理的には除去できないので。
起爆ワードと同時に、魔法陣が効力を失うようにするのだ。
魔術は得意だから。
とりあえず、それほど今回は難しくなかった。
プラフタはしばし完成品を見た後。
37点と点数を付けた。
まあ最初の方に比べれば、長足の進歩だ。
すぐにモニカに声を掛けて実験をしようと思ったのだが。そのモニカが見当たらない。面倒だが、教会に行くしかないか。
嘆息。
彼処には、出来るだけ足を運びたくないのだが。
こればかりは、仕方が無いだろう。
オスカーに声を掛けて、ホルストさんを呼んで貰う。
モニカを探しに行くと。
丁度外で日傘を差して、子供達と遊んでいるパメラさんと。一緒に何か話をしていた。
パメラさんには色々頭が上がらない。
向こうも、すぐに此方に気付く。
「あら、ソフィーちゃん」
「こんにちは、パメラさん。 モニカをちょっと貸して貰えますか」
「あら、どうしたの?」
「錬金術の実験です」
モニカが眼鏡をすりあげる。
子供達が、爆弾とか、見たいとか聞いてくるけれど。パメラさんが、笑顔で黙らせる。彼女は子供達の心を極めて上手に掌握している。
何しろ、彼女。
この街の古老でさえ、若い頃からこの姿だったと言っているのだ。
ただ者では無い。
ホルストさんも、若い頃から、パメラさんはこの姿だったと証言している。それどころか、百年以上生きている筈のヴァルガードさんでさえ、である。
何者なのか底が知れない。
「駄目よ。 まだ危ないからね」
「はーい……」
「もう少し大きくなったら、みんなで一緒に見ましょうねえ」
「はーい!」
子供達を教会に入れると、パメラさんは笑顔で頷く。
良かった。
すぐに解放して貰えたか。
モニカは大きく嘆息した。
「たまにこっちに来たと思ったら。 もう少しは教会によりなさい、ソフィー」
「こっちが先。 錬金術はキルヘン=ベルを大きく発展させるよ?」
「分かっているわ。 行きましょう。 今度もまた爆弾?」
「うん。 防御魔術よろしく」
他にも、エリーゼさんにも声を掛ける。
今回は今までともかなり毛色が違う爆弾だ。
熱を操る魔術のスペシャリストである彼女であれば、万が一の事態にも対応が可能だろう。
勿論プラフタというプロがいる安心感はあるのだけれど。
それでも万が一のために。
最善を尽くすのがプロの筈だ。
あたしはまだまだひよっこだけれども。
実戦は経験済みだし。
人は簡単に死ぬ事も知っている。
今、あたしが死ぬわけには行かないし。
錬金術で事故を起こすわけにもいかないのだ。
村の外れに出向く。
既に、先に声を掛けたオスカーが。ホルストさんと、村の重役達を集めていた。
この間の戦いでも活躍したあたしの爆弾。
更に今回は、かなり毛色が違うと説明してあるので、皆期待している。
レヘルンをセット。
そして、皆に離れるよう指示。
対熱変化の魔術を、エリーゼさんに最大出力で展開して貰う。普段は本だらけの自宅から殆ど出てこない彼女は、日光を鬱陶しそうに手で遮りながら、詠唱をよどみなく終え。そして光の壁を展開した。
確かにこの街で頼りにされるだけのことはある。
分厚い壁が展開され。
これなら、余程のことが無い限り事故は無いだろう、と判断する。
更にモニカが、壁を重ねがけ。
念のため、あたしも防御壁を重ね掛けして。
向こうに設置してあるレヘルンが、光に遮られて、うっすらとしか見えないほどになった。
反対側に回っていたオスカーが、手を振って来る。
最近爆弾の実験をしている事が、街の子供達の噂になっている。こっそり見に来たりすると危ないので、事前に確認しているのだ。
更に、タレントさんも手を振って来る。
安全確認完了。
退避を指示。
二人が退避したのを確認した後。
起爆した。
それは、凄まじい光景だった。
辺りがいきなり真っ白になったかのようだ。
瞬時に地面が凍結し。
真冬のような冷気が吹き付けてくる。
エリーゼさんが眉をひそめた。彼女の展開していた対熱魔術防御壁に、相当な負担があった、ということだ。
流石に今はもう大丈夫だが。あたしも、自分で展開した防御壁に、かなりの負担を感じていた。
防壁を解除。
どっと、凄まじい冷気が来る。
これは、予想以上にヤバイブツかも知れない。
こんなに強烈な冷気を発生させるとは思わなかった。
思えば、あの炉や。氷室を見ても。
錬金術による熱操作は、次元違いのものだという事を分かってはいた。だが、これは想像以上だ。
慌てて声を掛ける。
「オスカー! タレントさん! 無事!?」
「おいらは無事だ!」
「此方も無事よ!」
二人の返事があるが。
しかし、地面が真っ白になり。
爆心地付近には、等身大以上の山のような氷の塊が出来ている。
これは直撃させたら魔族でも死ぬな。
あたしは、薄く笑う。
ある意味、フラムやクラフトよりも、かなり危険な爆弾だ。
周囲がぐんと冷え込んでいるが。
その冷気も、間もなく収まってくる。
荒野だったから良かったが。
これは使う場所を考えないと、貴重な植物などにも深刻なダメージを与えてしまう。
考え込んでいたコルちゃんが話しかけてくる。
「これは、威力を調整すれば、色々と使えませんか?」
「戦闘用以外の用途で?」
「そうです。 例えば、全ての家に氷室を設置すれば、食料の保存などがかなりはかどるのでは」
なるほど。面白い発想だ。
出来そうかとホルストさんが視線を向けてくるが、流石に今は難しい。
だが、これは色々と利用できる。
プラフタは側で見ていたが。
彼女は納得したようだった。
「これなら40点をあげられます」
「凄い火力だね……」
「高位の錬金術師が使う爆弾になると、空間や次元にさえ干渉します。 この程度はまだまだ初歩ですよ」
周囲の皆が、青ざめている。
錬金術は神の御技だ。
それは知っていても。
その恐ろしさは、こうして形にして見ると、やはり凄まじい、という事である。
いずれにしても、これは相当に高値で引き取って貰えるだろう。
ホルストさんも、納得していた。
「これはむしろ抑止兵器ですね。 ソフィー、フラムの五倍の価格で引き取ります。 ただ、むしろ護身用に使いなさい」
「分かりました。 そうします」
「……」
ヴァルガードさんが少し考え込んでいた。
何か思うところがあるのか聞いてみたが。
少しだけ、悩んだ末に。
ずっとソフィーの頭上にある頭を、空に向けて。そして此方に向き直った。
「神の御技には未だ遠いにしても、錬金術の凄まじさはよく分かる。 魔術師としてお前は優れた使い手なのに、これは防げないだろう」
「そうですね、至近で爆発したら死ぬと思います」
「世の中には、錬金術師を狙う暗殺者もいると聞いている。 匪賊を殺していけば、いずれぶつかるかも知れない。 気を付けろよ」
「はい」
のしのしと、ヴァルガードさんがいく。
この街をずっと守ってきた守護神のような魔族は。
何か思うところがあるのか。また、空を見上げていた。
ひょっとしたら、おばあちゃんの事を思いだしていたのかも知れない。
だとしたら、嬉しい事だ。
モニカとオスカーを誘って、墓参りに行く事にする。
プラフタも誘うが。
彼女は少し悩んだ後、三人水入らずで行ってらっしゃいと言って。一人帰って行った。
何かあるのだろうか。
あるのかも知れない。
いずれにしても、今日はまた、錬金術で大きな一歩を踏み出した。
あたしはまだひよっこだが。
どんどんこの調子で、腕を上げていきたい所だった。
色々とソフィーの環境が厳しい事もあって、モニカもオスカーもソフィーとのつきあいは良いです。
決定的に本作のソフィーとモニカはわかり合えない所も多いのですが……
それでも、キルヘン=ベルの守りの要であるソフィーとモニカは、仲良くしなければならないのです。街のためにも。