暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、摂理の外

キルヘン=ベルで解散はしたが。

 

モニカとオスカーは、その後もつきあってくれた。

 

まず素材類をアトリエの氷室に入れる。

 

プラフタは本を読みながら待ってくれていたが。全員戦闘の跡が激しいのを見て、呆れていた。

 

「どれだけ強力な相手と戦ったのですか」

 

「普通の倍はあるキメラビースト。 しかもまだ幼体みたいだった」

 

「それは、良く無事でしたね」

 

「おかげさまで、何とか死者を出さずに仕留められたよ」

 

ハクレイ石も見せる。

 

良い感じだと、プラフタは喜んでくれた。

 

あたしも嬉しい。

 

此処からは。

 

本格的に摂理の外にある錬金術を行っていくことになるのだから。

 

続いて、ホルストさんの所に。

 

キメラビーストの頭を納品しておく。

 

まあこれならば。

 

流石にこれ以上もない、仕留めた証拠になるだろう。

 

ホルストさんは喜んでくれた。

 

「素晴らしい。 ただ、流石にこのサイズは異常ですね……」

 

「少し前に、異常に強い赤ぷにぷにに襲われた事もあったし、何か起きていると考えるべきでは、ホルストさん」

 

「そうですね。 少し調査してみましょう」

 

報奨金を貰う。

 

使った爆弾とお薬の分。

 

更に重傷者であるコルちゃんの治療費。

 

それにこれだけのサイズのキメラビーストの撃破料。

 

かなりの収入になった。

 

これで一段落か。

 

肩を叩くと。

 

カフェの外で、モニカとオスカーと解散。そういえば、モニカは眼鏡割らなかったか心配だったのだが。

 

そんなへまはしないと、苦笑されてしまった。

 

コルちゃんの様子も見に行くが。

 

早速、今回の遠出で集めた素材を売っていて、逞しいと思うばかりである。まだ左腕は吊っているのに。

 

「コルちゃん、腕は痛む?」

 

「いえ、おかげさまで。 ソフィーさんのお薬、此方で扱いたいくらいです」

 

「あはは、ごめんね。 ホルストさんにまず納品しないといけないから」

 

「それならば、私の方でホルストさんと交渉します」

 

おや、これはマジか。

 

だが、薬はある程度備蓄がないとまずい。

 

錬金術師がいるということで。

 

この街では。格安で治療を受けられる、という事が強みになっているのだ。

 

ジュリオさんにも聞いたが、あたしの薬と同程度の薬は、都会に行くと目玉が飛び出すような値段がつくという。

 

公認錬金術師がいる街なら兎も角。

 

それ以外の場所だと、それが当たり前だという。

 

コルちゃんが扱うようになると。

 

そういう事になるのでは無いのか。

 

だが、見越したように。

 

口元を抑えながら、コルちゃんは言う。わずかに、目元に狡猾な光が宿っていた。

 

「大丈夫ですよ。 商売のやり方は色々とあるのです。 少なくとも、キルヘン=ベルの人々が、薬代に困るようなことはないと、断言するのです」

 

「そう。 それなら良いんだけれど」

 

「いずれにしても、ホルストさんは手強そうですね。 ……それと、ソフィーさんには、その内ちょっとした難しいお仕事を頼むかもしれないのです」

 

「うん、出来る事ならやるよ。 その代わり、戦いの手伝いはお願いね」

 

コルちゃんは身軽さを利用して、充分に戦える。

 

今後の事も考えると、コネは作っておいて損は無い。

 

だが、巨大キメラビーストとの戦いで実感したが。

 

まだ戦力が足りない。

 

あたし自身が強くなるのは必要だとして。

 

もう何人か。

 

戦闘が出来る人を、街から連れ出したい。

 

それが本音だ。

 

アトリエに戻る。

 

風呂に入って、さっぱりした後。

 

プラフタに様子を聞く。

 

ハクレイ石はかなり品質が良いらしい。これならば、強力な氷結爆弾が作れるだろうと、プラフタは言った。

 

それだけではない。

 

「幾つかの鉱石を見ましたが、かなり品質が良いですね。 ひょっとするとこの辺りには、良質な鉱石の鉱脈があるのかも知れません」

 

「それを更に錬金術で強化するんだね」

 

「分かってきましたね。 そういう事です。 しかし、それはあくまで、世界の未来のためでなければなりません」

 

「分かっているよ」

 

キルヘン=ベルが安全になり。人口が増え。

 

街道の整備も進めたら。

 

ナーセリーや。

 

あの洞窟があった周辺に、それぞれ街を造り。

 

多くの人が暮らせるようにして。

 

そして荒野も豊かにし。

 

猛獣と無意味に殺し合わなくても済むようにしていけばいい。

 

森などに入り。

 

豊かな自然の中にいると。

 

猛獣は荒野にいるときよりも、だいぶ性質が大人しくなる。

 

ガツガツしなくても良くなるからで。

 

それは恐らく人間も同じ筈だ。

 

さっぱりしたところで。

 

座学を開始。

 

プラフタの授業を受ける。

 

まず、ゼッテルから。

 

いわゆる「紙」であるゼッテルだが。紙であるが故に、魔術を込める事が簡単で、これが非常に役に立つ。

 

魔法陣を描いて。

 

そのまま何かを包み込む事によって。

 

保存も容易になるのだ。

 

氷結爆弾も。

 

この原理を最大限利用するという。

 

とはいっても、魔術と錬金術はあくまで別々に使う。混合するのは高度な応用らしいので、まだ触るのは先になるそうだ。

 

まずハクレイ石を取り出す。

 

ひんやりしていて、机に置くと周囲に霜が生えそうな程だ。

 

「品質が非常に高いハクレイ石は、触ると手の皮がくっつくこともあります。 当然怪我をする事になるので、気を付けなさい」

 

「うん。 それで、これをどうするの?」

 

「まずは砕いて、不純物を取り除きます」

 

「やっぱり」

 

最初はそれからか。

 

鉱石を扱う場合、まずはそれが絶対になりそうだ。

 

ハクレイ石は、叩くと爆発する、というほど危険な代物ではないらしく。カーエン石に比べると、扱いがだいぶ簡単な様子だ。

 

まず砕いて、すりつぶし。

 

砂や石。

 

中には虫の死骸などもあったが。

 

それらを除去。

 

その後、水を使って作った中和剤を入れるのだが。

 

注意事項として。

 

この中和剤は。

 

可能な限り、先に冷やしておくことだ。

 

氷室に入れていたので問題ないが。

 

温かいと、「熱」という属性が相反して、ハクレイ石が台無しになってしまうと言う。

 

まあそうでなくても、ハクレイ石は熱に弱いようなので、確かに常温の水を流し込んだりしたら、すぐに痛んでしまいそうだが。

 

完全にすりつぶし、不純物を取り除いたハクレイ石。

 

更に中和剤を入れ。

 

ゆっくりと混ぜ合わせる。

 

この時。中和剤を何回か、段階を分けて入れるのだが。

 

注意として。

 

やはり抵抗を感じたらすぐにストップ。

 

今の時点で、聞こえている雑音はスムーズで。むしろ聞き苦しくなく優しいほどなので、普段ほどあたしも不機嫌では無い。

 

四回に分けてハクレイ石と中和剤を混ぜ。

 

その後氷室に入れる。

 

そして温度が更に下がったところで。

 

ゆっくりゆっくりと、混ぜ合わせる。

 

「手間が掛かるね」

 

「こうやって変化を促します」

 

「そっか」

 

「そろそろ、ですね」

 

シャーレから、粘性の高いハクレイ石だったもの、を取り出すと。

 

ゼッテルにて包む。

 

意外にも、ゼッテルから水がしみ出すことは殆ど無かった。

 

油紙を内側に貼っているということもあるのだが。

 

そして、芯を入れる。

 

この芯は。

 

先ほどから練り練りしていたハクレイ石の中でも。特に念入りに練り練りして。そして棒状にしたものだ。

 

この棒状の芯は、ちょっとやそっとでは溶けない。

 

触ると、さっき話題に上がった、皮膚がくっつく程だ。

 

要するにそれだけ強烈に変質しているわけで。

 

その変質を。

 

一気に他のハクレイ石にも広げる事が出来るのである。

 

「なるほど、つまり、元々冷気を放つハクレイ石の要素を、爆発的に広げる事によって、周囲を一気に凍結させるんだね」

 

「そういう事です。 この出来でも、周囲二十歩ほどを瞬間凍結させる事が可能でしょうね。 非常に危険ですので、実験は外で行います」

 

「はーい」

 

いずれにしても、手間暇掛かった爆弾だ。

 

氷が出ようが火が出ようが。

 

破壊力が申し分なければ、あたしとしては文句は無い。

 

芯を入れた後。

 

二つの要素が混ざらないように、念入りにチェック。

 

なお芯にはゼッテルを巻いてあるが。

 

これは起爆時に除去する。

 

とはいっても、物理的には除去できないので。

 

起爆ワードと同時に、魔法陣が効力を失うようにするのだ。

 

魔術は得意だから。

 

とりあえず、それほど今回は難しくなかった。

 

プラフタはしばし完成品を見た後。

 

37点と点数を付けた。

 

まあ最初の方に比べれば、長足の進歩だ。

 

すぐにモニカに声を掛けて実験をしようと思ったのだが。そのモニカが見当たらない。面倒だが、教会に行くしかないか。

 

嘆息。

 

彼処には、出来るだけ足を運びたくないのだが。

 

こればかりは、仕方が無いだろう。

 

オスカーに声を掛けて、ホルストさんを呼んで貰う。

 

モニカを探しに行くと。

 

丁度外で日傘を差して、子供達と遊んでいるパメラさんと。一緒に何か話をしていた。

 

パメラさんには色々頭が上がらない。

 

向こうも、すぐに此方に気付く。

 

「あら、ソフィーちゃん」

 

「こんにちは、パメラさん。 モニカをちょっと貸して貰えますか」

 

「あら、どうしたの?」

 

「錬金術の実験です」

 

モニカが眼鏡をすりあげる。

 

子供達が、爆弾とか、見たいとか聞いてくるけれど。パメラさんが、笑顔で黙らせる。彼女は子供達の心を極めて上手に掌握している。

 

何しろ、彼女。

 

この街の古老でさえ、若い頃からこの姿だったと言っているのだ。

 

ただ者では無い。

 

ホルストさんも、若い頃から、パメラさんはこの姿だったと証言している。それどころか、百年以上生きている筈のヴァルガードさんでさえ、である。

 

何者なのか底が知れない。

 

「駄目よ。 まだ危ないからね」

 

「はーい……」

 

「もう少し大きくなったら、みんなで一緒に見ましょうねえ」

 

「はーい!」

 

子供達を教会に入れると、パメラさんは笑顔で頷く。

 

良かった。

 

すぐに解放して貰えたか。

 

モニカは大きく嘆息した。

 

「たまにこっちに来たと思ったら。 もう少しは教会によりなさい、ソフィー」

 

「こっちが先。 錬金術はキルヘン=ベルを大きく発展させるよ?」

 

「分かっているわ。 行きましょう。 今度もまた爆弾?」

 

「うん。 防御魔術よろしく」

 

他にも、エリーゼさんにも声を掛ける。

 

今回は今までともかなり毛色が違う爆弾だ。

 

熱を操る魔術のスペシャリストである彼女であれば、万が一の事態にも対応が可能だろう。

 

勿論プラフタというプロがいる安心感はあるのだけれど。

 

それでも万が一のために。

 

最善を尽くすのがプロの筈だ。

 

あたしはまだまだひよっこだけれども。

 

実戦は経験済みだし。

 

人は簡単に死ぬ事も知っている。

 

今、あたしが死ぬわけには行かないし。

 

錬金術で事故を起こすわけにもいかないのだ。

 

村の外れに出向く。

 

既に、先に声を掛けたオスカーが。ホルストさんと、村の重役達を集めていた。

 

この間の戦いでも活躍したあたしの爆弾。

 

更に今回は、かなり毛色が違うと説明してあるので、皆期待している。

 

レヘルンをセット。

 

そして、皆に離れるよう指示。

 

対熱変化の魔術を、エリーゼさんに最大出力で展開して貰う。普段は本だらけの自宅から殆ど出てこない彼女は、日光を鬱陶しそうに手で遮りながら、詠唱をよどみなく終え。そして光の壁を展開した。

 

確かにこの街で頼りにされるだけのことはある。

 

分厚い壁が展開され。

 

これなら、余程のことが無い限り事故は無いだろう、と判断する。

 

更にモニカが、壁を重ねがけ。

 

念のため、あたしも防御壁を重ね掛けして。

 

向こうに設置してあるレヘルンが、光に遮られて、うっすらとしか見えないほどになった。

 

反対側に回っていたオスカーが、手を振って来る。

 

最近爆弾の実験をしている事が、街の子供達の噂になっている。こっそり見に来たりすると危ないので、事前に確認しているのだ。

 

更に、タレントさんも手を振って来る。

 

安全確認完了。

 

退避を指示。

 

二人が退避したのを確認した後。

 

起爆した。

 

それは、凄まじい光景だった。

 

辺りがいきなり真っ白になったかのようだ。

 

瞬時に地面が凍結し。

 

真冬のような冷気が吹き付けてくる。

 

エリーゼさんが眉をひそめた。彼女の展開していた対熱魔術防御壁に、相当な負担があった、ということだ。

 

流石に今はもう大丈夫だが。あたしも、自分で展開した防御壁に、かなりの負担を感じていた。

 

防壁を解除。

 

どっと、凄まじい冷気が来る。

 

これは、予想以上にヤバイブツかも知れない。

 

こんなに強烈な冷気を発生させるとは思わなかった。

 

思えば、あの炉や。氷室を見ても。

 

錬金術による熱操作は、次元違いのものだという事を分かってはいた。だが、これは想像以上だ。

 

慌てて声を掛ける。

 

「オスカー! タレントさん! 無事!?」

 

「おいらは無事だ!」

 

「此方も無事よ!」

 

二人の返事があるが。

 

しかし、地面が真っ白になり。

 

爆心地付近には、等身大以上の山のような氷の塊が出来ている。

 

これは直撃させたら魔族でも死ぬな。

 

あたしは、薄く笑う。

 

ある意味、フラムやクラフトよりも、かなり危険な爆弾だ。

 

周囲がぐんと冷え込んでいるが。

 

その冷気も、間もなく収まってくる。

 

荒野だったから良かったが。

 

これは使う場所を考えないと、貴重な植物などにも深刻なダメージを与えてしまう。

 

考え込んでいたコルちゃんが話しかけてくる。

 

「これは、威力を調整すれば、色々と使えませんか?」

 

「戦闘用以外の用途で?」

 

「そうです。 例えば、全ての家に氷室を設置すれば、食料の保存などがかなりはかどるのでは」

 

なるほど。面白い発想だ。

 

出来そうかとホルストさんが視線を向けてくるが、流石に今は難しい。

 

だが、これは色々と利用できる。

 

プラフタは側で見ていたが。

 

彼女は納得したようだった。

 

「これなら40点をあげられます」

 

「凄い火力だね……」

 

「高位の錬金術師が使う爆弾になると、空間や次元にさえ干渉します。 この程度はまだまだ初歩ですよ」

 

周囲の皆が、青ざめている。

 

錬金術は神の御技だ。

 

それは知っていても。

 

その恐ろしさは、こうして形にして見ると、やはり凄まじい、という事である。

 

いずれにしても、これは相当に高値で引き取って貰えるだろう。

 

ホルストさんも、納得していた。

 

「これはむしろ抑止兵器ですね。 ソフィー、フラムの五倍の価格で引き取ります。 ただ、むしろ護身用に使いなさい」

 

「分かりました。 そうします」

 

「……」

 

ヴァルガードさんが少し考え込んでいた。

 

何か思うところがあるのか聞いてみたが。

 

少しだけ、悩んだ末に。

 

ずっとソフィーの頭上にある頭を、空に向けて。そして此方に向き直った。

 

「神の御技には未だ遠いにしても、錬金術の凄まじさはよく分かる。 魔術師としてお前は優れた使い手なのに、これは防げないだろう」

 

「そうですね、至近で爆発したら死ぬと思います」

 

「世の中には、錬金術師を狙う暗殺者もいると聞いている。 匪賊を殺していけば、いずれぶつかるかも知れない。 気を付けろよ」

 

「はい」

 

のしのしと、ヴァルガードさんがいく。

 

この街をずっと守ってきた守護神のような魔族は。

 

何か思うところがあるのか。また、空を見上げていた。

 

ひょっとしたら、おばあちゃんの事を思いだしていたのかも知れない。

 

だとしたら、嬉しい事だ。

 

モニカとオスカーを誘って、墓参りに行く事にする。

 

プラフタも誘うが。

 

彼女は少し悩んだ後、三人水入らずで行ってらっしゃいと言って。一人帰って行った。

 

何かあるのだろうか。

 

あるのかも知れない。

 

いずれにしても、今日はまた、錬金術で大きな一歩を踏み出した。

 

あたしはまだひよっこだが。

 

どんどんこの調子で、腕を上げていきたい所だった。




色々とソフィーの環境が厳しい事もあって、モニカもオスカーもソフィーとのつきあいは良いです。

決定的に本作のソフィーとモニカはわかり合えない所も多いのですが……

それでも、キルヘン=ベルの守りの要であるソフィーとモニカは、仲良くしなければならないのです。街のためにも。
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