暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、黒の手

ホルストが爆弾の在庫を確認しているところに、ヴァルガードが入ってくる。夕方を少し過ぎたから、ヴァルガードはいつもと少し雰囲気が変わっていた。分かり易く言うと荒々しい。

 

魔族は夜になると、どうしてもその血を抑えられなくなる。

 

戦闘に対して積極的になるし。

 

攻撃的にもなる。

 

どれだけ年を重ねてもそれは同じだ。

 

一方で、魔族は食事に関しては極めてドライだ。

 

これは、彼らが基本的に大気中のマナをそのまま食べる事が出来るから、である。

 

魔術を使うのに必要なマナは、大気中に無尽蔵に満ちている。

 

これだけのマナがあるのに。

 

どうして世界が荒野に覆われているのかは。

 

よく分かっていないらしいのだが。

 

「どうしました、ヴァルガード」

 

「ソフィーの周囲に妙な影があることに気付いたか」

 

「そうですね。 どうにもおかしいですね」

 

「深淵の者は、何処にでもいる」

 

それでわざわざここに来たのか。

 

村の生命線でもある此処は、限られた人間しか入れないようにしてある。ソフィーの祖母が作り上げた場所で。爆弾が全部一片に爆発しても平気な作りになっている。何でも、空間の位相をずらしているとかで。

 

広さに関しても、村の面積と同じほどもあるのだ。

 

当然音も外には漏れない。

 

だから、内緒話をするのには、此処は絶好の場所なのである。

 

「ソフィーはキルヘン=ベルに留まる器じゃ無い。 恐らく世界を積極的に変えていくほどの錬金術師に成長するはずだ。 だから、今のうちに、妙なことになる事だけは避けたい」

 

「気持ちは分かります。 彼女も恐らく同じ気持ちでしょう」

 

「具体的にはどうやって守る。 モニカとオスカーだけは信用できるが、他は誰が深淵の者か分からんぞ。 深淵の者は世界の安定に向けて動いている集団のようだが、その底で何を考えているか知れない」

 

「そうですね……」

 

腕組み。

 

実のところ。

 

ホルストも、何人かを疑っている。

 

一番怪しいのはパメラだ。

 

あの怪人物、確かに子供達には優しいし、多くの人が頭が上がらない強さも持ってはいる。

 

しかし得体が知れなさすぎる。

 

ホルストの祖父さえもが。

 

パメラがずっとあの姿だったと証言していたのだ。

 

何者なのか。

 

まったく誰も分からないのである。

 

深淵の者は、噂によると数百年も活動しているという。

 

そうなると。

 

パメラは関係していてもおかしくない。

 

それだけではない。

 

どうも様子がおかしい人間と言えばテスだ。

 

あれはキルヘン=ベルに逃げ込んできてから、よく働いてくれてはいるが。

 

その一方で、弱みが多すぎる。

 

その辺りを握られていたら、何をするか分からない。

 

実際問題、あれだけの数の弟と妹を養っているのだ。

 

都会だったら、体を売る以外の選択肢が無かっただろう。

 

ジュリオについても正直な所まだ信用できない。

 

アダレットが派遣してきたという事は相当な精鋭と見て良いだろうが。

 

しかしながら、そのアダレットの重役、重臣にさえ、深淵の者が複数人潜り込んでいるという噂がある。

 

そしてこの噂は高確率で真実だ。

 

ならば、間近にもう一人か二人。

 

信用できる者がいないとまずいだろう。

 

「一人、宛てがあります」

 

「ふむ。 傭兵か」

 

「ええ。 貴方も知っているあの男ですよ」

 

「まさか……」

 

苦虫を噛み潰すような顔をするヴァルガード。

 

気持ちは分からないでも無い。

 

この世でも、傭兵という仕事は常に必要とされる。

 

ある時は国境紛争に出向き。

 

ある時は街道で商人を警備し。

 

またある時は暴れるドラゴンや、場合によっては邪神とも戦う。

 

国境紛争は、ここ数十年殆どないが。

 

他の仕事にしても、基本命がけ。

 

つまり長生きしている傭兵は。

 

単に自分だけが生き残る傭兵としての役立たずか、仕事を確実に果たして生き延びてきた超凄腕かの、どちらかに分けられる。

 

今回声を掛けようと思っているのは。

 

超凄腕の方だ。

 

だが、超凄腕だけに癖が強い男で。

 

嫌っている者は徹底的に嫌っている。

 

ヴァルガードもそうだ。

 

どうやら馬が合わないらしい。

 

まあ無理も無い。

 

相当な変人であり。

 

何より、カネにあまり興味を見せない。

 

人形にしか興味を見せない変人一家の一人であり。

 

一家の全員が人形に異常な執着を持っているという、筋金入りなのである。

 

「あれがこの村に来るのか……」

 

「そう毛嫌いすることもないでしょう。 あの男が優秀なのは、貴方も知っている筈ですよ」

 

「それはそうだがな……」

 

「まだ以前喧嘩した事を根に持っているのですか?」

 

口をつぐむヴァルガード。

 

前にソフィーの祖母と旅をしていたときに。

 

ある理由で一時期今話題になった男とは、対立したことがある。

 

その時ヴァルガードは。

 

顔に向かい傷を付けられたのだ。

 

勿論戦いはそこまで激しいものには発展せず。

 

結局和解に至ったのだが。

 

歴戦のヴァルガードの防御と攻撃をかいくぐり。

 

一太刀を浴びせてきた。

 

その事を、今でも不愉快に思っているらしい。

 

武人は誰しもが。

 

優れた相手を認められる訳では無い。

 

勿論、戦いの場のことだと、素直に流せる者もいる。

 

ヴァルガードはそうではない。

 

それだけのことだ。

 

「分かった。 確かにアレならば、実力的に信用できる。 ただ、交渉はお前がしてくれよ」

 

「分かっています。 丁度そろそろこの辺りを通り過ぎる頃です。 ソフィーに指示して、接触させるとしましょう。 書状については、私が書いておきますよ」

 

「頼む」

 

武器庫をヴァルガードが出て行く。

 

やれやれだ。

 

この世界。

 

匪賊になる人間はいるが。

 

人間の亜種。つまりヒト族や魔族、獣人族やホムがそれぞれ亜種単位で結託して、それぞれ争うと言う事は無い。

 

使う言語はみな共通。

 

文化についてもほぼ変わらない。

 

考え方はそれぞれ違うのに、だ。

 

神話によると、色々な世界から、迫害されたり駆逐された者がこの世界に助け上げられた、という事だが。

 

それにしては妙なことも多すぎる。

 

ホルストも、たまに教会に顔を出して、そういった話を聞くのだが。

 

神話には矛盾が多いな。

 

そう思うばかりだ。

 

武器庫の点検を終える。

 

しばらく前は、寂しい状態だったのだが。

 

ソフィーが水を得た魚のように爆弾を作ってくれるので、少しずつ戦力が充実して来ている。

 

コルネリアがこの機に乗じてと、色々な商売を画策しているようだが。

 

少しばかり目を光らせておかないと危ないだろう。

 

過剰な経済が、村をズタズタにするケースはあると聞いている。

 

コルネリアはかなり腕利きの商人のようだし。

 

下手な事をしないように、見張る必要があるだろう。

 

もっとも、ヒト族でないのが幸いだ。

 

ホムはヒト族に比べて誠実で、数字にも強い。

 

ヒト族の商人ほど。

 

意地汚くないだろう。

 

武器庫を出て、カフェに戻る。

 

何人かの自警団の者が、酒を飲みに来ていた。

 

ちょっと暇そうだったので、ピアノをひくことにする。

 

これも珍しい楽器で。

 

ソフィーの祖母が持ち込んだものだ。

 

調律のやり方は教わっているので。

 

今も綺麗な音を出す。

 

しばし無言でひく。

 

戦闘しか知らない者達が。

 

心を和まされたように、しばし耳を傾けてくれる。

 

このピアノも。

 

ソフィーの祖母は、それこそ音楽の神のようにひきこなしていた。

 

どうして息子はあんなに不出来だったのか。

 

それが惜しくてならない。

 

男性の錬金術師でも、凄腕は幾らでもいる。

 

だが錬金術には才能が大前提となる。

 

才能が無ければ、どうにもならない不完全な学問。しかしながら、絶大な力を持つ学問でもある。

 

ソフィーの祖母は。

 

錬金術は、神の御技であると同時に。

 

不完全な世界そのものだと時々口にしていた。

 

知ってか知らずか。

 

ソフィーもその考えを受け継いでいるようで。

 

何度かモニカと殺し合い寸前にまで行っていた。

 

二人の喧嘩は正直洒落にならないレベルで。

 

何度かホルストが介入を考えたほどだったが。

 

最近は互いの考えを尊重し。

 

もうその事は話題にしない、という事で落ち着いたようだ。

 

それでも冷や冷やする。

 

なお、ピアノの音は、カフェの外には漏れないようにしてある。

 

これもソフィーの祖母がやってくれた事だ。

 

ピアノをひき終えると。

 

拍手喝采。

 

新しく席に着いた者がいるので、ホルストが対応に出る。

 

ジュリオだった。

 

「この間の、氷爆弾、なんでしたっけ。 そうだ、レヘルンの実験見ました。 錬金術とは、凄まじいものですね」

 

「ええ。 ソフィーの祖母は、あれとも桁外れのものを使っていましたが」

 

「アダレットでは見られなかった光景です」

 

酒を頼まれたので、出す。

 

それも結構高い酒だ。

 

つまり相応の情報を要求されている、という事である。

 

琥珀色の酒をグラスに注ぐ。

 

実は、カフェにもソフィーの祖母が作った氷室があり。

 

酒は常に冷やしている。

 

この氷室は、貴重な肉などが手に入ったときなどにも使用している。

 

「よく冷えていますね」

 

「それで何を聞きたいのですか?」

 

「突き止めた情報が一つ。 信憑性について確認したく」

 

「伺いましょう」

 

頷くと、ジュリオは言う。

 

ノーライフキングという言葉を。

 

口をつぐむホルスト。

 

その名前は、出来れば聞きたくなかった。

 

「知っているようですね」

 

「知っているもなにも、この辺りではタブーですよ。 誰もが手に負えない、夜の世界の帝王です」

 

命無き王。

 

その名の通りそいつは、優れた魔術師「だった」存在だ。

 

錬金術師に嫉妬した魔術師は。

 

禁忌の中の禁忌に手を染めた。

 

その禁忌の名は根絶。

 

根絶とは、未来を断つ力。

 

色々な分野に、この「根絶」は応用できるらしいのだが。

 

ノーライフキングだった魔術師は、己に根絶の魔術を利用し。

 

そして究極の怪物と化した。

 

今では。キルヘン=ベルの遙か北東。

 

洞窟の奥にて。

 

そのおぞましい姿をさらし。

 

たまに迷い込んでしまった哀れな者を、容赦なく眷属に変えているという。

 

すなわち、人間に害なす霊にだ。

 

「周囲には街道も無く、普通だったら近寄ることもありません」

 

「倒してくると言ったら?」

 

「貴方がアダレットでも知られる精鋭でも、単独では不可能ですよ。 ソフィーの祖母が、近づけないように封印を施し、それを監視するのが今も精一杯、と言えば分かりますか?」

 

「……」

 

この封印。

 

根絶の力を中和するらしく。

 

時間が経てば、ノーライフキングは弱体化すると、ソフィーの祖母は言っていた。

 

つまり、今なら倒せるかも知れないが。

 

それでも総力戦になるだろう。

 

「それではこうしましょう。 ソフィーが貴方も認める実力を身につけたら、僕が同行します。 それで撃ち倒しましょう」

 

「どうして其処まで奴にこだわると」

 

「奴以上の怪物が潜伏しているからです。 僕は深淵の者を探ると同時に、それを倒すためにこの地方に来ました」

 

何だと。

 

ホルストもそれは知らない。

 

となると、外部から流れてきたという事か。

 

思わず絶句するホルストに。

 

ジュリオは咳払いした。

 

「あまり時間はありません。 少し無理をしても、ソフィーは力を付けなければなりませんよ」

 

しばし、言葉を失う。

 

ノーライフキング以上の怪物が近くにいる。

 

これは、確かに。

 

少しばかり。

 

いや、それどころではない次元で。

 

まずい事態なのかも知れなかった。

 

 

 

(続)




深淵の者はどこにでもいます。

誰もがその存在に感謝しているわけではありません。

畏怖の方が、皆には強いのです。

そして怖れられる事を武器にして、深淵の者は動いています。

彼等の目的は、この世界に「現在」を作る事なのですから。
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