暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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この作品世界における「傭兵」。

各地を巡って、匪賊や獣と戦う流れ者です。ただし使い捨て扱いの下っ端とは別に、指揮官級の仕事をする腕利きである「戦略級」と呼ばれる者達がいます。

今回登場するのはそんな腕利きの一人。

ただ相当な変わり者です……

時に変態呼ばわりされる事もある人です。腕は確かですが。


開花の時
序、スプーキー


荒れ果てた世界だ。

 

戦いを生業にする者はどうしても需要がある。

 

魔族だと、街を訪れるとむしろ声を掛けられるほどだ。うちの街の護衛として働かないか、などと。

 

数が少ないものの、夜には倍の力を発揮し、優れた魔術を生来備えている魔族は。用心棒としての需要が高い。

 

魔術は高位の錬金術には及ばないものの。

 

人間の中で、もっとも魔族が一番達者に使いこなす。

 

ヒト族の中にも魔術を使うものは珍しくないが。

 

魔族はどうしても、長い寿命と強靱な肉体もあり、用心棒として期待される。

 

一方で、傭兵として各地を渡り歩くものは。

 

獣人族やヒト族が多い。

 

これは、一度きりの関係で、カネを渡してそれでおしまい、という状況では。数が揃えられる上に、つぶしが利くヒト族や獣人族の方が便利だからだ。

 

とはいっても、傭兵として活躍するヒト族や獣人族の中にも、優れた使い手は存在しており。

 

ドラゴンスレイヤーとして名を馳せている者も。

 

魔族以上の魔術を使いこなして、各地で名を残している者もいる。

 

変わり種としては、錬金術師でありながら。

 

各地で傭兵をしている者までいるとか。

 

そんな傭兵の中に。

 

一家で傭兵をしていて。

 

そして人形にしか興味が無いという事で、変わり者として知られる者達がいる。

 

ワイスベルク一家。

 

かなり高齢の夫婦と娘から構成される三人で。

 

この三人は、各地でかなり高名な傭兵として名を馳せ。

 

邪神討伐や。

 

暴れる高位ドラゴンの討伐にも参加。

 

生き残っている強者である。

 

現在は、三人がそれぞれバラバラに生活しているという話だが。

 

その一人。

 

夫婦のうち、夫の方。

 

フリッツ=ワイズベルグが。この近くに来ている。

 

ソフィーはそれを聞かされて。

 

ホルストさんに書状をもたされ。

 

街道を歩いていた。

 

雨が降り続いている。

 

荒野からは、虹色の、見るからに有毒な水が流れ出ており。

 

辺りに散らばった獣骨を、かりかりと雨に濡れながら、小型のスカベンジャーが囓っていた。

 

そのスカベンジャーを、すっとさらっていくのは、翠色の巨大な鳥。

 

アードラである。

 

今見たのは人間をさらうほどのサイズでは無いが。

 

小さなスカベンジャーにとっては、音もなく接近してきて、一瞬で仕留めてくるために天敵だ。

 

なお、アードラは個体間のサイズ差が大きい。

 

高位のものになるとそれこそ家より巨大なものもいる。

 

魔術を使うケースも多く。

 

そういった連中は、猛獣の中でもかなり危険な部類に入ってくる。

 

言う間でも無く強力な猛獣だが。

 

幸いこの辺りでの高位アードラの目撃例は無い。

 

先に行っていたモニカが、コルちゃんと一緒に戻ってきた。

 

傘はさしていない。

 

魔術で頭上に障壁を作って、それで雨を防いでいたが。

 

「見当たらないわ」

 

「困ったね」

 

今回は、戦闘を想定していないため。

 

あたしとモニカ、コルちゃんとオスカーだけで来ている。

 

それに、最近気合いを入れて街道周辺の猛獣を始末したので、目立った奴はいないはず。いたとしても、逃げるための時間を稼ぐ程度の装備は持ってきている。今の時点では、戦力に不足は感じない。

 

だが、肝心の傭兵がいないのは困りものだ。

 

「行き違ったのかな」

 

「おいらが聞いてみたけれど、植物たちはそれらしい人を見ていないって話だぜ」

 

「その能力、とても便利ですね」

 

「コルネリアさん、貴方ね……」

 

素直に信じているコルちゃんと、それに苦言を言うモニカ。

 

あたしは信じている方だが。

 

モニカはまだ信じていないのか。オスカーが植物談義をする度に、毎度呆れたように苦言を呈する。

 

コルちゃんは小首をかしげているが。

 

多分商人ならではの観察力で。

 

オスカーの言葉に嘘が無い事。

 

更に有用である事を。

 

見抜いている、という事だろう。

 

この辺りは流石に場数が違うのだから仕方が無いか。

 

いずれにしても、もう少し周囲を探してみる。キルヘン=ベルから離れ過ぎると、感知していない猛獣の縄張りにはいるかも知れないから、あまり遠出は出来ないが。

 

廃屋を見つける。

 

そういえば。

 

この廃屋は、まだ調べていなかったか。

 

街道にぽつんとある廃屋で。

 

昔この辺りにあった街の名残らしい。

 

とはいっても壊れかけ。

 

勿論誰も住んでいないし。

 

幽霊が出るという噂もある。

 

そもそも霊が襲ってくるケースもあるのに。

 

幽霊が出るというのも変な話だが。

 

それで怖がる人もいるのだから、面白いものである。

 

あたしはちなみに。平気だ。

 

雷が落ちた。

 

ふと、気付く。

 

物音が聞こえる。

 

それに、妙な声も。

 

何かいる。

 

誰か旅人が潜んでいるのなら良い。

 

だが猛獣の中には、相応の知能を持ち、待ち伏せをする奴がいる。ヒト族やホムの声真似をして誘き寄せ、相手を捕食するタイプもいるそうだ。

 

足跡を正確にたどって後退、途中でサイドステップし。

 

物陰などに隠れて追っ手をやり過ごし。

 

背後から奇襲する手を使う者もいる。

 

これは比較的多くの獣が使う手で、知能が格上の相手も容易くだませるため、普及している戦術だ。

 

比較的知能が低くても。

 

人間と獣は、荒野でずっとやりあってきた。

 

獣の側でも、人間に対する策は練ってきているのである。

 

或いは、対抗戦術を覚えた者が生き延びてきたか。

 

他の理由かも知れないが。

 

いずれにしても、家の中に獣が忍び込んでいる可能性は否定出来ない。その場合、非常に危険だ。

 

ハンドサインをかわし、周囲に展開。

 

声は人間のようだが。

 

人間の声真似をする獣もいる。

 

流石に人里近くだと、危険すぎて駆逐されているという話だが。

 

しかしながら、ドラゴンが街を襲撃することもある。

 

絶対は無い。

 

この間聞いたのだが、アダレットの北部で、街を三つも壊滅させたドラゴンが出て、討伐されたという。

 

当然多数の死者が出たという事で。

 

アダレットの派遣した討伐軍にも大きな被害が出て。

 

その中には、公認錬金術師も混ざっていた、という事だ。

 

そういうご時世なのである。

 

何が出てもおかしくない。

 

そう判断して、行動するしか無い。

 

モニカが頷くと。

 

あたしが支援のための詠唱開始。

 

踏み込むと同時に。

 

相手の正体を見極める。

 

その一瞬の間を作るために。

 

魔術による防壁を念入りに展開。

 

モニカがし損ねた場合は。

 

あたしが爆弾を。

 

この間作ったレヘルンを放り込み。

 

もろともに消し飛ばす。

 

これは、二次災害を防ぐため。

 

この荒野で生きてきているのだ。

 

モニカだって、それくらいの覚悟はしているし。あたしだって、その場合は仕方が無いと考える。

 

可能性としては、どうにも見つからない傭兵の場合もあるが。

 

それはそれ。

 

もしそうだったら、幸運だと言う事だ。

 

突入。

 

扉を蹴破り、踊り込むモニカ。

 

あたしも、杖を向け。

 

魔術を叩き込む姿勢に入るが。

 

どうやら、運が良かったらしい。

 

中には。おっさんが一人いた。

 

ただ、明らかに商人では無い。

 

腰には上物の剣をぶら下げたヒト族の男性で。

 

顔中ヒゲだらけ。

 

そして、軽装なのだが。

 

近づいて見て、分かった。

 

唸るような強さが身に満ちている。

 

「何かね」

 

相手は驚いている様子も無い。多分此方の動きを、既に気配で察していたのだろう。

 

モニカが咳払いする。

 

「フリッツさんでよろしいですか」

 

「いかにも」

 

「迎えに来ました。 キルヘン=ベルの自警団に所属するモニカです。 廃屋から妙な気配がしたので、強硬手段を採ったところでした」

 

「ああ、そういえば此処は廃屋だったか。 少しばかり静かな場所で、個人的に気に入ったので、ついつい長居をして、趣味に没頭してしまっていたよ」

 

からからと笑うフリッツさん。

 

オスカーとコルちゃんにも目配せして、来て貰う。

 

まだフリッツ氏を装った匪賊の可能性もあるが。

 

この人、実力的にも多分アダレットの騎士であるジュリオさんに負けていない。今のあたしやモニカが、普通に戦ってもとても勝てないだろう。爆弾を使えば相打ちくらいに持ち込めるかも知れないが。

 

そんな腕利きが、匪賊なんかやる理由が無い。

 

まあ、サイコキラーでどうしても普通にはやっていけないという極小の可能性もあるのだけれど。

 

実際問題、匪賊はやるにはリスクが高すぎる。

 

まずフリッツさんと見て良いだろう。

 

剣を鞘に収めると、モニカは非礼をわび。

 

あたしも頭を下げる。

 

フリッツさんはというと。

 

非常にリアルな、等身大の人形を。

 

満面の笑みで此方に見せた。

 

「ところでどうかね。 この美しさは」

 

「えっ!? に、人形……ですか?」

 

「そうだとも」

 

確かに美しいが。

 

肌のリアルすぎる質感。

 

恐らくホンモノを使っている髪の毛。

 

ガラス玉であろう瞳も、非常に丁寧に作っていて、とても造りものには見えない。

 

これは、確かに凄いが。

 

ある意味非常に不気味でもあった。

 

だが、話に聞いている。

 

迎えに行く傭兵であるフリッツさんは。

 

スプーキーと呼ばれる筋金入りの変人。

 

一家揃って人形にしか興味がなく。

 

腕利きの傭兵として知られると同時に。

 

人形劇を行って各地を回っていることでも知られているとか。

 

「今度彼女を使った劇をやってみようと思っているんだが、どうかね。 君達から見ても美しいかね」

 

「は……はあ。 確かに良く出来ていると思いますが」

 

「すごい手間暇かかってそうだなー」

 

オスカーが不用意な発言。

 

目を子供のように輝かせたフリッツさんが、もの凄い勢いで反応した。

 

「そうだろう! この肌の質感、美しい髪、何を取っても、何処に出しても恥ずかしくない美しさだ! 感情も表現が容易で、私が操作することによって彼女は魂を得るのだ!」

 

ふははははと、フリッツさんが、目の色を変えて高笑い。

 

モニカは真っ青になって硬直している。

 

半笑いのまま身動きできずにいるのは、余程の恐怖を感じているから、だろうか。

 

人間は得てして、種族に関係無く、理解出来ないものを見ると恐怖にすくみ上がると聞いている。

 

モニカは多分。

 

今丁度その状態なのだろう。

 

「では、長話も何だ。 さっそくキルヘン=ベルに向かおう。 実はあの街の重役とは、良くも悪くも因縁があってね。 家も用意して貰っているから、続きの作業はそこでやることにするよ」

 

大きなトランクを取り出すと。

 

ささっと人形を手際よくしまうフリッツさん。

 

その作業の手慣れた有様は。

 

もう何というか。

 

愛情に満ちあふれすぎていた。

 

また、トランクも、明らかに容量以上の人形が無理なく入っている。

 

何処かで錬金術師に作ってもらったものなのかも知れない。

 

それにしても。

 

まるで本当に人間のような人形だった。

 

口を出すと、またさっきみたいな勢いで迫られるかも知れないので、迂闊には言えないけれど。

 

げんなりしているモニカ。

 

側を歩きながら。

 

コルちゃんが小首をかしげた。

 

「ソフィーさん。 モニカさんはどうしたのです」

 

「ああ、ちょっと未知との遭遇がショッキングすぎたんだと思うよ」

 

「あの人形、すご……」

 

すごく良く出来ていた、と言おうとしたのだろうが。

 

あたしはさっとコルちゃんの口を塞ぐ。

 

フリッツさんが、こっちに反応する所だったからだ。

 

多分コルちゃんは商売のことを考えたのだろうが。

 

相手が悪すぎる。

 

フリッツさんにとって、あの人形は商売とかそういうのを考える相手ではないとみて良いだろう。

 

それに、下手をすると。

 

帰り道、ずっとあの人形のすばらしさについて、語られるかも知れない。

 

オスカーもげっそりしていた。

 

あたしは魔術をちょっと強化して、雨に濡れないように壁を広くする。

 

フリッツさんはそれを見て。

 

素晴らしい手際だと褒めてくれた。

 

「まだ若いのに、魔術の腕はいっぱしだな。 どこの傭兵団でも歓迎してくれると思うぞ」

 

「有難うございます。 でもあたしは錬金術師ですから」

 

「ほう。 キルヘン=ベルに錬金術師が。 しばらくいなかったと聞いているが」

 

「まだひよっこですけれど、頑張っています」

 

若いのに努力を欠かさないのは良いことだ。

 

そうフリッツさんは言う。

 

二本の剣を腰に差しているが。

 

余程腕に自信もあるのだろう。

 

まあ確かに、隙もまったく見当たらないし、相当な凄腕なのは一目で分かる。この人くらいなら、ドラゴン狩りにも声が掛かるレベルではあるまいか。

 

キルヘン=ベルに到着。

 

カフェに案内して、後はホルストさんに引き継ぐ。

 

ホルストさんはいつも通り笑顔で応対していたが。

 

ヴァルガードさんはあまり機嫌が良く無さそうだった。

 

雨が激しくなってきた。

 

そろそろ、用事も終わったし、引き上げるのが良さそうだ。

 

カフェの前で皆と解散。

 

モニカが、ため息をついた。

 

「苦手だわ、あの人」

 

「確かに変わってるね」

 

「それもそうだけれど、ちょっと怖い」

 

「ああ、そういう理由」

 

だが、個人的には。別に嫌いじゃあ無い。

 

人形談義を聞かされるのはちょっと困るが。

 

それはそれだ。

 

自警団の人が来たので、フリッツさんの出迎えを終えた事を告げると。

 

からからと笑われた。

 

ベテランの戦士だから、知っているのかも知れない。

 

「あの人なあ。 実力は確かなんだが、一家揃ってあんな調子だから、怖がる奴も多いんだよ」

 

「他人事じゃありませんよ」

 

「悪い奴じゃないから、そう怖がらなくても大丈夫だよ。 ただ、傭兵としてはホンモノだ。 敵に回ったら一瞬で首を飛ばされるぞ」

 

さらりと言われる。

 

確かにそれは事実だろう。

 

廃屋に踏み込んだとき。

 

一瞬だけ感じた殺気は。

 

今のあたしやモニカでは、手に負える気がしなかった。

 

アトリエに戻ると、プラフタが待っていた。

 

錬金術をするという。

 

頷くと、気持ちを切り替える。

 

モニカは、一人でいるのが気が滅入るのか。

 

今日は、錬金術を見学すると、言い出すのだった。

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