暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
以前、プラフタに拡張肉体の話をされた事がある。
簡単に説明すると、自分を補うための擬似的な肉体で。錬金術で作成し。特に不意を突かれたときなどに、オートで反応してくれるという。
確かに、戦闘中。
不意を突かれると、どうしてもどんな達人でも、不覚を取る事はある。
ましてや、普段から研究に力を注いでいる錬金術師ならなおさら。
あたしだって、相応に戦える自信はあるけれど。
獣にいきなり不意打ちされたら。
其処でやられる可能性は当然ある。
そんなときのための拡張肉体だ。
とはいっても、昔のプラフタが使っていたような高度なものは、まだ早すぎると、はっきり言われる。
それはそうだろう。
あたしはまだまだひよっこだ。
錬金術だって、基本をこなしている所だし。
応用はまだ先が長い。
その基本でさえ、レヘルンの破壊力を見て、驚かされる事ばかり。
要するに。
基本さえ、まだしっかり身につけられていない、という事を意味しているのである。
それではまだ早いと言われるのも当然である。
「それで、今日はどんな風なものを作るの?」
「魔術を応用した錬金術の場合、ものに悪霊などを宿らせて、それで動かす事があるのですが、今回はもの自体に擬似的な意識を宿らせるやり方を試します」
「その方が難しくないの!?」
「簡単に説明すると、ものにやどった意思を、自分で動きやすくする、というのが今回の錬金術の要点です。 意思にそって、自主的にものを変質させるのです」
やっぱり悪霊か何か宿らせた方が簡単な気がするが。
プラフタはマスタークラスの錬金術師だ。
彼女がそういうのなら、そうなのだろう。
あたしはあくまで魔術師としても腕前があるから、錬金術には疑問を感じているのだろうし。
それならば、本職の言う通りまず動いてみるのが良いはずだ。
「それで、どういう風に役に立つの?」
「簡単に言うと、感覚を拡張して、背後が見えるようになります。 簡単な防御術も展開してくれるので、抜群に戦闘の安定性が増しますよ」
「興味深いわ」
髪の毛を拭いていたモニカが、話に加わってくる。
彼女も錬金術の講義には興味があるようだし。
何より実戦でダイレクトに使えるとなると。
確かに面白そうだと感じるだろう。
あたしだってそう思っているのだ。
「では作って見ましょう」
「はーい」
まず木材を削る。
今回作るのは、友愛のペルソナと呼ばれる仮面。
とはいっても顔には被らない。
背中に引っかけるようにして使うという。
背負う感じ、と言うわけだ。
それならば、背後が見えるというのも分かる。
ただしその場合、戦闘時何かを背負って動くのは難しくなる。
鎧を着ている場合、その上から友愛のペルソナを引っかける事になるだろう。
激しく動き回るときには、当然ぶらんぶらん揺れるわけで。
固定する仕組みも必要だ。
だが、見越したかのように。
プラフタは言う。
「大丈夫。 吸着機能も付けます」
「へえ。 凄いね」
「まだまだ初歩ですよ」
そう言われると言葉も無い。
それにしても、此方の心を読んでいるかのような言動だが。
コレは恐らく。
プラフタが、もの凄く苦労しながら。
独学で、錬金術を身につけていったから、ではないのだろうか。
それ故に、詰まった所などでは、すっと記憶が出てくる。
錬金術の事以外は、極めて記憶が曖昧なようだけれども。
しかしながら、それでも錬金術をがっちりと覚えているという事は。
それだけ、人生と錬金術が、一つだったという事だ。
錬金術に生き。
錬金術に死んだ。
きっとそんな人生だったのだろう。
だからこそ、これだけ丁寧に教えられる。
採点も厳しいけれど。
今までの時点では、不平等は一切感じない。
あたしはぶきっちょなので、木材加工はちょっと苦手なのだけれど。
先にモニカが、少し薄めの板にスライスしてくれたので。
それを彫刻刀で削って行けば良かった。
一刻ほど掛けて。
何とか仮面らしきものが出来る。
事前に何種類か用意していた中和剤だが。
意外な使い方をするという。
まず、水を使って作った中和剤に。
塗料を混ぜる。
この塗料、色々なものがあるのだが。
今回は顔料を用いる。
塗料の中には、動物の糞尿などを用いるケースもあり、衛生面で問題があったりするのだけれども。
今回は鉱石の一種を使うので。
その辺りは大丈夫だ。
念入りに、混ぜていく。
その過程で変質を感じるが。
雑音を感じたら、即座に手を止める。
モニカが不思議そうにその様子を見ていたが。
特に口出しはしてこなかった。
この雑音。
前よりもクリアに聞こえるようになって来た。
これが兎に角煩わしい。
爆発の実験をするとき。
非常にすかっとするのだが。
それは、雑音によるストレスが大きくなってきているから、なのだろう。
いずれコレが、きちんとした声に聞こえるようになるのだろうか。
だとすれば良いのだが。
一旦常温を保ったまま、放置するように指示されたので。
魔術でドームを作って。
その中に、塗料と混ぜた中和剤を置く。
同時に。
先ほど削った仮面を、水の中和剤に付ける。
そして、馴染ませる。
「この作業には、丸一日かかります」
「中和剤同士で悪さをしたりとかはないの?」
「良い質問ですね。 それを起こさないために、同じ水から作り出した中和剤を用いるのです」
「なるほど」
基本的に、中和剤は一つしか使わない。
これは絶対だと、プラフタは断言した。
或いは、複雑な調合になると、その過程で複数種類の中和剤を使うケースもあるらしいのだけれども。
それも、一つ一つの「調合」が終わるまでは、絶対に混ぜてはいけないという。
極限までの悪しき変化が起こるから、だそうだ。
「根絶という言葉は聞いたことがありますか?」
「うん。 魔術でも禁忌中の禁忌のあれでしょ? 自分の未来を捧げることによって、超強力な死霊になったりする」
「出来れば、その言葉は聞きたくなかったわ」
モニカが目を伏せる。
それはそうだろう。
この辺で、最悪のアンタッチャブルモンスター、ノーライフキング。
出身はキルヘン=ベルではないらしいのだが。
自分の力を高めるために、自ら命を放り出した究極のサイコ野郎で。
その結果、死霊として次元違いの実力を獲得。
北東にある巨大な洞窟に住んでいるのだが。
其処に獣でも何でも引きずり込んでは。
強制的に己の眷属に変えているという。
不死の力を手にいれた匪賊。
そういう存在だ。
今までに何度か討伐が試みられているが。
そもそも洞窟周辺に、奴が呼び寄せたらしい強大な猛獣が多数集まっており。近づくことさえ出来ない。
おばあちゃんが封印を施し。
周囲に害悪をまき散らすことさえなくなったが。
今でも、彼処には近づかない事が、この近辺の人間にとっては、絶対の掟になっている程だ。
「魔術でも根絶の力を利用するものがあります。 錬金術でもそれは同じです」
「まさか」
「直接根絶につながるわけではありませんが、複数種類の「ものの意思」を強引に混ぜることは、それすなわち禁忌です。 とてつもない負の結果が待っている可能性が高い上に、周囲にある「未来」をねじ曲げてしまうケースが多く、絶対にやってはいけないことなのです」
「分かった。 気を付けるよ」
なるほど。
プラフタが念を押すわけだ。
それは確かにまずい。
魔術をやっているあたしだからこそ分かるとも言えるが。
正直な話。
洒落になっていない、というのが本音だ。
ノーライフキングと同じ事をするようになったら、流石におしまいだ。
匪賊は容赦なく殺すあたしだけれども。
それでも世界そのものを殺すつもりにはなれない。
世界には不満がたっぷりあるけれど。
それを無理矢理ねじ曲げたら。
匪賊以下だ。
やるならば、そんなせせこましいことでは無くて。
創造神を引っ張り出して。
根底から変えさせる。
それくらいはしないと駄目だろう。
いずれにしても、そんな些細な事で、世界のルールに抵触する事をするわけにはいかない。
モニカは此処で帰宅。
雨も止んでいたし。
何より夜も遅い。
ただ、帰る前に片付けはしてくれたので。
それは随分と助かった。
プラフタに小言を言われる事も増えていたし。
何よりも、掃除が錬金術にはまり込めばはまり込むほど、億劫になってきていたからである。
時間が掛かるし。
この隙に休んでおくとする。
フトンに入ってぼんやりしていると。
パチパチと、泡がはじけるような音がした。
「何だろう……」
「木材と中和剤が反応している音です」
「……」
そうか。
ならば、順調だと言う事か。
それならば、文句も無いし、言う事も無い。
あたしはあくびをすると。
眠ることにした。
夢を見た。
錬金術師として腕を上げたあたしは。
ノーライフキングを叩き潰し。
そして奴の命乞いを聞いていた。
助けてくれ。
何でもする。
あたしは、うっすら笑いを浮かべる。
だったらあたしの父親を、死んだときの姿のまま、永遠に死なないようにして此処に呼びだしてくれるかな。
物理的に干渉できる状態で。
ノーライフキングは、もう殴られるのは嫌だと顔に書きながら(とはいっても、どんな顔なのかよく分からなかったが)、必死にその作業をし。
バラバラになって死んだ父親が、その場に実体化する。
さっそくあたしは。
彼奴の頭を、その場で踏みつぶした。
即時再生。
悲鳴を上げるクズ野郎の睾丸を今度は踏みつぶす。
あたしは暗い笑みを浮かべていた。
あらゆる人体急所に攻撃を叩き込み。
クズ野郎が悲鳴を上げる度に。
あたしは歓喜の笑みを抑えられなかった。
死ね。
死ね。
死ね!
何度も何度も、魔術で焼き尽くす。徹底的に破壊し尽くす。それでも復活するクズ野郎は、泣き始めた。
もう死なせてくれ。
一度死んだんだから良いじゃないか。
許してくれ。
巫山戯るなこのクズが。
更に攻撃は苛烈さをまし。
震えあがりながら、ノーライフキングがそれを見ていた。
目が覚める。
プラフタが、側に浮かんでいた。
「どうしたのですか、ソフィー。 ごちそうを食べる夢でも見ていましたか? とても無邪気な笑顔を浮かべていましたが」
「ううん、もっと良い夢を見ていたの」
「そうですか」
プラフタが促す。
塗料の方はもう大丈夫だそうだ。
見てみると。
塗料は非常に強い粘性を帯びていた。
なるほど。
作るにしても、かなり派手な配色になりそうだ。
なおあたしは絵心がほぼ無い。
ピアノの方は、練習すれば何とかなると言われた事があるのだけれど。絵そのものはほぼ駄目だ。
それは素直にプラフタに告げたのだけれど。
しかし厳しい反応が返ってきた。
「それでも何でも良いから書きなさい」
「出来に影響しない?」
「します」
「困ったね」
本当に困った。
さっきまで良い夢を見ていたというのに。
かといって、この絵も錬金術師が直接書かないと意味がないという。それでは、他の人にやってもらうわけにはいかないか。
少し頭を捻った後。
仮面には別に絵を描く必要はない、と判断し無理矢理納得したが。
しかしながら、更に追撃を貰う。
「この道具では、「顔」を認識させる事が大事なのです」
「顔」
「そうです。 少なくとも、誰が見ても顔と分かるものにしなければなりません」
「……」
困った。
とりあえず、そうこうしているうちに、木材の方も中和剤と馴染んだ。
これは一旦中和剤から上げてから、一日ほど乾燥させるという。急速に乾燥させると痛んでしまうそうだ。
その乾燥作業はじっくり行うとして。
その間に、顔と認識出来るものを描くにはどうするべきか考える。絵で無くても、顔に見えるデザインを作らないといけなくはなってしまった。
絵が得意な人はいたっけ。
一瞬エリーゼさんを思い浮かべたが。
あの人は、文字専門だった。
確か小説は書いているはずだが。
絵の方はからっきしだと聞いた事がある。
絵本を以前書いてみたらしいのだが。
その絵を見て、子供達がギャーギャー泣き出したらしく。
それ以降、絵本を書くことは試みていないらしい。
ちなみにあたしも見たけれど。
教会で言っている地獄みたいな光景が広がっている絵で、おぞましいほどリアルだったので。
確かに子供が泣くのも仕方が無いかとは思った。
要するにエリーゼさんは、意図したものと全く違う絵を無意識に描いてしまうタイプらしい。
故に、絵はからっきしだと、自己申告しているそうだ。
そうなると、だめか。
モニカは絵なんて書いているところを見た事がないし。
オスカーだって同じだろう。
フリッツさんは。
いや、いきなり頼みに行くのも失礼か。
そうなると。
思いつく。
ゼッテルを何枚か持って、そのまま出かけたのは。
ハロルさんのところだ。
今日は運良く店を開けている。
本人は、銃を弄っていたが。あたしが顔を見せると、うんざりした様子で聞いてくる。
「何だ、匪賊狩りか?」
「違うよ。 ハロルさん、絵描けない?」
「どうしてそう思う」
「図面とか得意でしょ? 顔をちょっと描かないといけないんだけれど、アドバイスが欲しいの」
面倒くさそうにするハロルさんだが。
あたしが無言で立っているのを見て。
悪いと流石に思ったのか。
貸してみろと、ゼッテルを引き取った。
それから、しばらく、顔に見えるコツを教えて貰う。
やはりそうか。
図面を書いている以上、ものの特徴を抑えるコツは知っている、ということだ。
何度か練習して。
一応出来た。
ハロルさんは、苦虫を噛み潰したような顔をしていたが。
あたしが描いた顔が、余程気に入らないのだろうか。
「それは、邪神か何かが子供を全力で泣かそうとしている顔か?」
「普通の顔のつもりだけれど?」
「そうか。 まあ顔には見える」
「それは良かった」
半日以上使ったのだ。
一応顔に見えるようになったのなら何より。
笑顔で店を出て、丁度出会ったモニカにそれを見せる。
モニカは一瞬、フリッツさんの人形愛を語る姿を見たときのような顔をしたが。
しばらく絶句した後。
言うのだった。
「それを、どうするの?」
「あの仮面に描くの」
「本気……?」
「本気だけれど。 顔に見えれば大丈夫ってプラフタも言っていたし」
くらっとしている様子のモニカ。
何だろう。
この間のフリッツさんの人形愛に当てられて、体調でも崩したか。
いずれにしても、アトリエに戻る。
なお、プラフタは。
あたしが描いた顔については。
ノーコメントを貫いた。
ソフィーの数少ない弱点の一つは、画力です(直球)
この点「だけ」は、後のシリーズの双子の姉と同じですね……