暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、自衛力

仮面に顔料で顔を描き。

 

そして乾かす。

 

その後もまたちょっと面倒で。

 

蜜に手を加えて、ニスを造り。

 

顔料の上から塗る。

 

こうすることで、顔料を木に完全定着させるのである。色々と面倒くさいけれども、仕方が無い。

 

これらの作業を経て。

 

友愛のペルソナが完成した。

 

木はすっかり変質し。

 

自動で防御魔術を唱えるようになっている。魔術を使うのにも、無尽蔵の大気中のマナを使用しているので、使い手に負担も掛からない。

 

背負うようにして使うのだけれど。

 

確かに凄い。

 

背後の光景が見える。

 

一度、どれくらいの防御魔術が使えるのか確認。

 

あたしの杖を叩き付けてみるけれど。

 

ガインと凄い音と共に、文字通りはじき返された。

 

おうと、思わず興奮の声が漏れる。

 

確かに、そもそも疑似生命体だ。

 

他に何ら考えず、魔術を使う事が出来るとすれば。

 

それだけに注力できるわけで。

 

防御魔術の威力が圧巻なのも納得である。

 

仮面に描いてある顔は、なんと変化する。普段は無表情なのだけれど、防御魔術を展開するときは、憤怒の表情になる。

 

コレは素晴らしい。

 

敵を威嚇する効果もあるはずだ。

 

また、意思を明白に持っているらしく。

 

攻撃した後は、ごめんね。実験のためだったからといってなだめないと、ずっと不機嫌そうにしていた。

 

「これが意思の定着です」

 

プラフタが言う。

 

もっと技術が洗練されてくると、意思を更に先鋭化させ、洗練させることも出来ると言う。

 

そうなると、より細かい作業をさせることも、可能になるそうだ。

 

早速完成品を持って、ホルストさん達を呼び、実験に出る。

 

今回は爆弾では無く、自警団に装備する備品である事。

 

背後からの攻撃を防ぐと同時に、本人に常時防御魔術が掛かる事。

 

それらを告げると。

 

ホルストさんは、有用だと喜んでくれた。ただし実物を見た瞬間真顔になったが。

 

「これをまさか被るのですか?」

 

「いえ? こうやって、背負います。 こうすることで、背後からの攻撃を防ぐと同時に、背後に視界を確保できます。 背中に吸着するため、激しく動いても外れません」

 

「文字通り背中に目が出来る、というわけですね」

 

「実際に使って見てください」

 

ホルストさんが一瞬固まったが。

 

なんでだろう。

 

笑顔のまま、あたしが友愛のペルソナを差し出すと。

 

言われるままに、背負う。

 

そして驚いたようだった。

 

本当に背後が見えるのだから、当然だろう。

 

背中を見せているホルストさんに、指を立てて見せる。

 

「何本ですか?」

 

「三本ですね」

 

「面白い。 俺にも使わせろ」

 

ヴァルガードさんは、魔術を展開する道具と判断して、興味津々。元々魔術は魔族がこの世界に持ち込んだと言われている技術だ。

 

やはり、人一倍興味を引かれるのだろう。

 

ちょっとヒモを調整。

 

ヴァルガードさんはヒト族の倍も背丈がある。

 

背負うにしても、そのままだとヒモが切れてしまうのである。

 

腰をかがめているヴァルガードさんに、友愛のペルソナをつける。

 

そうすると、懐かしいと言われた。

 

「昔はお前も高い高いとか、背負ったりとかしたな」

 

「懐かしいです。 ヴァルガードさんは昔から昼間は優しかった」

 

「そうだな。 魔族の性だ。 夜に凶暴化するのは許して欲しい」

 

立ち上がったヴァルガードさん。

 

おうと、嬉しそうに周囲を見回した。

 

視界が360°全方位になるのだ。それは嬉しいだろう。

 

更には、自分で展開しなくても、背後には防御魔術が展開されるのである。

 

我も我もと、自警団員が試したいと言ってくるので、一旦爆弾の実験をしている場所へ移動。

 

またソフィーが面白いものをつくった。

 

今度は使わせてくれるらしい。

 

そういう声が聞こえて。

 

キルヘン=ベルの重要人物が、ぞろぞろと集まって来た。

 

この間、インゴットをとられて、悲しそうな顔をしていたロジーさんが。使いたいと名乗りを上げたので、渡して、使い方を説明。

 

ロジーさんは職人だ。

 

鍛冶屋では、なにも金属加工だけをするのではない。

 

革製品や、布製品、木製品も扱う。

 

だから、友愛のペルソナが、普通の仮面では無い事はすぐに悟ったのだろう。

 

「個性的なデザインだが……」

 

「どうです、使って見てください」

 

「ああ。 ただ子供が泣きそうだな……」

 

視界が全域になるのを感じ取り、ロジーさんは驚いて振り向いたりしていたが。

 

やがて、性能実験を兼ねて、モニカが訓練用の剣で背後から斬り付ける。

 

ガインと凄い音がして弾かれるのを見ると。

 

皆、おおと声を上げた。

 

モニカの腕前は皆知っている。

 

これは充分な性能だと、喜んでいるのだ。

 

「ソフィー。 これは中々に良いですね。 自警団の人数分、調達できますか」

 

「少し時間が掛かりますよ」

 

「構いません。 これならば、鎧を配備するよりも遙かに安上がりに、更に鎧よりも有用だ」

 

友愛のペルソナの防御魔術は、背後を主に守るが。

 

しかしながら、体全体を守護もする。

 

ただ、弱点としてマナが無い場所では発動できないが。

 

だがこの世界には、基本何処にでも無尽蔵のマナがある。

 

それは心配しなくても良いだろう。

 

良い感触だ。

 

これならば、実際に盾なんかを持つよりも、よっぽど戦士の生存力が上がるはずだ。ドラゴンや猛獣との戦闘でも、ちょっとしたコツで生き残れることが結構ある。流石にまともにやり合うのが厳しい相手でも。

 

この装備があれば。

 

逃げに徹することで、ある程度はカバーできるはずだ。

 

ホルストさんに正式な発注を受けたので、すぐにアトリエに戻る。

 

プラフタは、どうだったかと聞いて来たので。

 

好評だと答えると。

 

そうですか、と少し寂しげに言う。

 

「何かあったの?」

 

「分かりません。 ただ、ひょっとすると、私も昔、栄達を重ねていたのかも知れません」

 

「それはそう……」

 

「どうしましたか?」

 

何となく分かったが。

 

其処からは口をつぐむ。

 

おそらくプラフタは。

 

栄達した後。

 

転落したのではあるまいか。

 

 

 

意思の定着については、色々と分かった。

 

友愛のペルソナそのものは、時間こそ掛かるが、作るのは並行で出来るし、更に一度作れば友愛のペルソナ自体が魔術で自己メンテナンスを行うため、極めてもちが良い。

 

作って納品すれば。

 

それでおしまい、と判断して良いだろう。

 

更に言うと。

 

行程ごとに時間が掛かるので。

 

作業をする際には、並行作業で、他の事も出来る。

 

注文を受けた二十セットを準備する。

 

モニカが来たので、一段落したところで応対。

 

モニカは、複雑な表情だった。

 

「あの不気味な仮面をこれから皆で背負って戦うの?」

 

「モニカも性能は見たでしょ?」

 

「確かに性能は凄いけれど」

 

「それに威嚇も出来るよ」

 

確かに、背後に回ったとして。

 

敵がいきなり表情の変わるペルソナに驚けば。

 

それだけで一瞬の隙を作る事が出来る。

 

更に言えば、である。

 

その隙が、戦場では死につながる。

 

あたしもモニカも実戦経験者だ。

 

戦場での一瞬が。

 

どれだけ大事なものかくらいは。分かりきっているのである。

 

「あまり気が進まないわ」

 

「何なら、デザインを変えてみる?」

 

「出来るの?」

 

「うーん、実を言うとね、友愛のペルソナ以外にも、似たようなものを作って見ようかなと思ってはいてね」

 

錬金術師の作る道具には。

 

支援装備として有用なものが幾つもある、という。

 

前からプラフタが言っている拡張肉体などもそうだし。

 

今回作った友愛のペルソナのように、特定の魔術を道具の意思で発動してくれるものや。

 

それ以上の、摂理を超える現象を引き起こす道具も作れるという。

 

今回、プラフタに言われているのだ。

 

友愛のペルソナをベースに。

 

レシピを考えて見てくれ、と。

 

プラフタに書き込んだら。

 

何か記憶が戻るかもしれない。

 

プラフタは記憶が極めて曖昧な状態だ。

 

記憶が戻る事になれば。

 

この街にとっても。

 

更に言えば、あたしという錬金術師にとっても。

 

極めて有用である。

 

勿論プラフタにとっても、それは同じだろう。

 

皆が嬉しい結末、と言うわけだ。

 

「何が良い? 眼鏡にする?」

 

「これは駄目よ。 そもそも眼鏡は貴重品なんだから」

 

「ああ、それもそうか」

 

モニカもエリーゼさんもそうだが。

 

眼鏡というのは、機械がそもそも稀少技術であるように。何処にでも転がっているものではない。

 

色々な機械による技術を使い。

 

ガラスなどを磨き上げて。

 

それによって作り上げられるらしく。

 

基本的に、機械を扱っているそれなりに大きな街にならないと、生産は不可能らしいのである。

 

モニカ達がどうしてもっているかというと。

 

おばあちゃんが活躍して、都会で購入してきたからで。

 

それに魔術で調整を施して。

 

使えるようにしている、というわけだ。

 

貴重品なのに渡されているのは、モニカにしてもエリーゼさんにしても、キルヘン=ベルを守る上で重要な存在だからで。

 

目が見えなくなってきた老人などは。

 

魔術による支援を受けて。

 

視力を補強しているのが現実である。

 

「指輪は?」

 

「気が進まないわね。 勘違いされそうだもの」

 

「ああ、そっか」

 

実のところ。

 

モニカはもてる。

 

今、モニカが伴侶を持っていないのは、簡単な事で、街の守りの要だから、である。次代の自警団長という事で。家庭に入る暇も、子供を作る余裕も無い。

 

ただモニカはルックスが優れている上に、文武両道。

 

ある程度落ち着いたら、多分ホルストさんが、適当な相手と結婚するように勧めることだろう。

 

ただでさえ人が少ないこの時代だ。

 

子供が作れるなら作っておくべき。

 

そういう考えはある。

 

モニカは実のところ、それが非常に煩わしいらしく。

 

その手の噂があれば早々に潰すし。

 

疑わしい真似は一切したくない、という事だった。

 

「それならば、手甲は?」

 

「! いいかも」

 

モニカは剣と言っても、手を守るナックルガード付きのものを使っているのだけれども。

 

これは構造的な問題もあって、取り回しが色々と面倒くさい。

 

剣は基本的に、シンプルな構造が一番強い。

 

血抜きなどはあった方が良いが。

 

下手に構造がひねくれていると、強度が落ちるケースが多く。戦闘中で剣が役に立たなくなったら後の運命はお察しだ。

 

モニカは魔術も使えるが、防御、回復系統が主体の神聖魔術である。

 

ナックルガード付きの剣は、それだけ重くなる。

 

それならば。

 

手元の防御は装備で補って。

 

剣そのものは、分厚くて単純なものに変えたい、と考える心理はよく分かる。

 

「ただ、手甲をそのまま作る技術はあたしにはないよ」

 

「加工そのものはロジーにやってもらいなさい」

 

「プラフタ、それって良いの?」

 

「問題ありません。 金属に意思を持たせる事は、手甲を作った後でも構いません」

 

なるほど。

 

レシピを思いついたかもしれない。

 

少し不安そうにするモニカ。

 

あたしが、ちょっと邪悪な笑みを浮かべていたから、かも知れないが。それについてはどうでも良い。

 

この間から何度か試しているインゴットを引っ張り出す。

 

何度か作っている内に。

 

魔術が籠もった銀が、手甲を作れるくらいの分量は揃った。

 

鉄インゴットはホルストさんにその都度納入しているのだけれど。

 

この銀インゴットは、いざという時のために残しておいたのだ。

 

ただ、魔術の掛かった銀としては品質がまだまだらしく。

 

この間キメラビーストの巣になっていた洞窟から回収してきた鉱石も合わせて、品質を上げようと四苦八苦しているのだが。

 

まだプラフタには40点を貰えていない。

 

「少し時間が掛かると思うから、待っていてくれる?」

 

「ええ。 でもあの仮面は……正直何とかならないかしら」

 

「改良するとなると、もっと余計に時間かかるよ?」

 

「分かった分かりました。 それは諦めるわ」

 

モニカも流石に其処までは待てないと思ったのだろう。

 

聞き分けてくれたのは何よりだ。

 

いずれにしても、キルヘン=ベルの人口が増えるのは、今後期待出来る。それと同時に、自衛能力を上げる必要もある。

 

そのためには、あたしは色々な道具を作っていかなければならない。

 

少し悩んだ後。

 

あたしは決める。

 

「遠出する」

 

「材料採集ですか?」

 

「丁度フリッツさんが来てくれているでしょ。 護衛を頼んで、ちょっと遠出をして見ようかなって思ってる。 恐らく危険地帯ほど、良い鉱石が手に入るだろうし」

 

「無茶な事を考えますね。 フリッツの実力は私も遠くから確認しましたが、それでもドラゴンにでも出くわしたら貴方はひとたまりもありませんよ。 フリッツは生き残れるでしょうが」

 

それはきちんと考えている。

 

モニカ達が巡回している警戒地帯の、最辺縁。

 

北部に、ナーセリーが掘っていたらしい鉱石地帯がある。

 

ナーセリーに残っていたカーエン石や鉱石から考えて。

 

まだ良いものがある可能性は低くない。

 

実のところ、この世界では、鉱脈というのは枯れるという事がないらしく。大きめの鉱山が見つかると、其処を中心に何百年も街が発展し続けるものだ。そういった街が潰されるのは、邪神やドラゴンによる襲撃が主で。

 

資源の枯渇、というのはまず起きないらしい。

 

この辺については、前にホルストさんとヴァルガードさんが、非常に真面目に議論しているのを聞いた事がある。

 

つまり、護衛さえいれば。

 

ナーセリーの人達が生命線にしていたもっと良い鉱石が、手に入る可能性が低くは無いのである。

 

「分かりました。 ただし、くれぐれも気を付けなさい」

 

「大丈夫。 任せておいて」

 

「……」

 

やはり過保護だな、プラフタは。

 

すぐにホルストさんに声を掛けに行く。

 

勿論友愛のペルソナを納入した後に出かけるが。

 

フリッツさんを護衛として借りたいと言うと。

 

ホルストさんは眉をひそめた。

 

「別に構いませんが、彼奴は兎に角癖が強い。 もめ事を起こさないように心がけてください」

 

「分かっています」

 

これも、全ては自衛のためだ。

 

カフェを出ると、フリッツさんにも声を掛けに行く。

 

丁度エリーゼさんの本屋の側に、家を貰って住み着いているフリッツさんだが。

 

早速怖れられているようだった。

 

今も中から、不気味な笑い声がしている。

 

「おお、なんと君は美しい! その肌! その瞳! まるで地上に降臨した女神のようではないか!」

 

独り言が大きい。

 

子供が怖がって泣きそうになっている。

 

丁度此方に来ていたオスカーが。

 

呆れたように見ていた。

 

「おいらだって、植物と話すときは、もうちょっと声量落とすんだけどな」

 

「まあ、その辺は人それぞれだよ」

 

「で、あの人の力を借りるのか?」

 

「うん」

 

オスカーだって実戦経験者。

 

凄腕の傭兵の力を借りるというのが、何を意味するかは理解しているはずだ。

 

近いうちに、危険な場所に採集に向かう。

 

それが分かっていれば。

 

此方としては、不満は無かった。

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