暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

35 / 126
4、突破

目が覚めると、知らない人が此方を見ていた。

 

まだ雨が降っているが。しかも夜だが。

 

灯りの魔術をシェムハザさんが展開していて。それで分かった。

 

「貴方は?」

 

「レオンよ。 可愛い錬金術師さん」

 

「ああ、貴方が」

 

そういえばそうだった。

 

血まみれの状況から救助したから、誰だか一瞬分からなかった。包帯の上から半壊した軽鎧をつけているが。包帯が見えているし、戦闘は出来そうに無い。

 

意識が戻ったのか。

 

「とても良く効く薬で助かったわ。 錬金術師は本当に凄いわね」

 

「まだ治りきってはいないでしょうから、戦闘は駄目ですよ」

 

「分かっているわ。 その代わり、ほら」

 

荷車の開いた箇所に、ちょっと状態がまずい人を代わりに乗せる。

 

これで、谷を突破するくらいまでは走れるはずだ。

 

荷車を押すのも避難民にやって貰う。

 

問題は谷だが。

 

フリッツさんが言う。

 

「先ほど、ジュリオとコルネリアくんで軽く偵察に行って貰った。 予想通り、谷の上で待ち伏せがいる」

 

「つまり、このままは進めないと」

 

「そういう事だ。 だが、それを逆手に取る」

 

つまり、今から動く、という事だ。

 

死体どもは仕掛けて来ていないが。

 

それもこの谷を抜けてしまえば、ノーライフキングの勢力圏ではないから、だろう。

 

もう諦めたか。

 

それとも最後に一気に仕掛けてくるか。

 

いずれにしても、谷の出口が勝負だ。

 

其処を突破したら、恐らく勝ちと判断できるだろう。

 

皆の負傷も癒えている。

 

ただ体力がまだ心許ない。

 

故に一手を加えるべきだが。

 

フリッツさんは何人かを呼ぶ。

 

その中には、あたしも混じっていた。

 

軽く説明をされる。

 

なるほど。理にかなった作戦である。

 

あたしもそう思ったし。

 

一緒に上に登るオスカー。コルちゃん。それとジュリオさんも納得したはずだ。

 

あたしも含めて四人が。

 

避難民五十人と、その護衛の命を握ることになる。

 

体力は少しは回復しているものの、タフな獣人族の戦士達でさえ、これ以上の激しい戦いは厳しいだろう。

 

此処を突破した所で、死体の大軍勢が待ち伏せていたり。

 

匪賊どもが一斉に襲いかかってきたり。

 

ネームド級の猛獣が姿を見せたりしたら。

 

もう終わりだ。

 

だが、その場合でも、半分は生還できるように。

 

手を打つのである。

 

無言のまま、作戦開始。

 

この作戦の正否が。

 

生還に掛かる。

 

流石にあたしも。

 

気を引き締めざるをえなかった。

 

 

 

作戦は単純だ。

 

まず、引き続きシェムハザさんは照明弾を打ち上げ続ける。これに対して、谷の上に登るメンバーは、松明一つ持たない。

 

豪雨は収まってきているが。

 

まだ夜闇だ。

 

暗視なんて便利な魔術もあるが。

 

これは脳に直接働きかける事もあり、戦闘しながら同時発動するのが難しい。一人が棒立ちで暗視しながら指示をして。他が戦うというのが本来の使い方になる。勿論あたしも、例外的な使い方は出来ない。

 

しかも今日は星もない。暗闇の中を動き回るのは困難だ。

 

本来なら。

 

オスカーが、植物と会話しながら、コルちゃんとジュリオさんに指示、あたしにも声を掛けてくる。

 

崖の上は植物がちらほらあった。

 

だから、植物と会話が出来るオスカーが。

 

此処では有利だ。

 

「ソフィー、ぎりぎりになる。 気を付けろ」

 

「ヤー」

 

会話は最小限。

 

崖のギリギリを進むようにして、ゆっくり移動。

 

徐々に崖の上。

 

一番高い地点にと上がる。

 

その過程で、オスカーが植物から話を聞き。匪賊が何処にどれくらい隠れているかは把握した。

 

此処からはジュリオさんの出番である。

 

コルちゃんも支援をする。

 

すっと、コルちゃんが走り抜ける。

 

伏せている敵が、一瞬気を取られた瞬間。

 

背後に回ったジュリオさんが、匪賊の口を塞いで首をかっ切る。

 

夜闇の事だ。

 

闇に目が慣れていても。

 

此方が植物を味方に付けていて。

 

崖の上には、多少の植物がある時点で。

 

圧倒的優位を得られるのだ。

 

一人ずつ、斥候に出ている匪賊を片付けていく。

 

敵は照明弾が上がっている此方の方に注意していて。

 

対応が遅れるはずだが。

 

それでも斥候をあらかた始末した頃には。

 

おかしいと悟り始めたようで。

 

声が聞こえはじめた。

 

「斥候はどうしている」

 

「戻りません」

 

「まさか、罠に……」

 

残りの匪賊が、まとまっていることを確認。

 

オスカーが、植物に被害を与えないことを条件に、位置を詳細に告げてくれた。崖の上にある洞窟。

 

その入り口付近だ。

 

内部にこの辺りの匪賊どもの元締めがいると判断して良いだろう。

 

連日の戦いで部下を殺されまくって、相当に頭に血が上っているはずだ。

 

「もういい、仕掛けるぞ! 崖を崩して混乱させた後、背中を追い討って死体どもの方へ追い込んでやる!」

 

「残念」

 

激高した野太い声が聞こえたが。

 

その声が、却ってあたしに居場所を教えてくれる。

 

下手投げで投擲したのはレヘルンだ。

 

フラムやクラフトだと。

 

緩んでいる地盤を崩す可能性があった。

 

ちなみに今回持ち込んでいる最後のレヘルン。

 

外すと後が無い。

 

投擲し。

 

爆裂させた。

 

ごっと、周囲の雨粒さえ凍らせながら、冷気が来る。

 

オスカーが、植物たちに謝っていた。

 

強烈な音。

 

バキバキと激しいそれは。地面が凍り付いていくものに違いなかった。

 

更に照明弾を打ち上げる。

 

氷柱と。

 

その周囲に立ち尽くしたり、砕けたりして命を無くした匪賊の死骸。

 

わずかに生き残ったのがいる。

 

ジュリオさんが無言で突入すると。

 

全員にとどめを刺していった。

 

さて、これで終わりか。

 

殺気。

 

オスカーが、とっさにあたしの後ろに躍り出るが、吹っ飛ばされる。

 

野獣の反応速度だ。

 

吹っ飛んだオスカーは、谷の方には行かず。近くの岩に叩き付けられて、動かなくなった。

 

ジュリオさんが異変に気付くが。

 

あたしはもうそれどころじゃない。

 

前にいるのは、真っ黒い何かもやもやしたもの。

 

猛獣ではない。

 

霊である。

 

霊とは、よく分からない姿形を取る。

 

此奴のように。

 

物理攻撃は効くには効くが。

 

それ以上に此奴らの特性は、空間転移を自在にこなすこと。更に魔術も使う事、だ。

 

ノーライフキングはこの辺りで、霊の親玉のような事をしている。

 

厳密にはプラフタも霊なのだろうが。

 

目の前にいる此奴からは、悪意しか感じない。

 

偵察要員として来ていたコルちゃんを庇う。

 

放電している霊。

 

下手に動けば。

 

一瞬で決まる。

 

此方が詠唱している余裕など無いだろう。

 

ジュリオさんは遠すぎる。

 

谷にいるメンバーの支援は期待出来ない。

 

友愛のペルソナで防ぎきれるか。

 

いや、厳しい。此奴から感じる魔力は魔族並だ。さっき匪賊が激高していたように。手下を散々潰されたノーライフキングが、直接派遣してきたほどの部下、という事になる。ならば。

 

不意に、あたしが態勢を崩す。

 

もらったとばかりに、霊が極太の雷撃を放った。

 

それは白い蛇となって、雨の中を驀進してくるが。

 

あたしはコルちゃんを突き飛ばし。それをもろに真正面から受け止めた。

 

凄まじい衝撃が走る。

 

泥水を伝って、直接あたしにも雷撃が走ってくるが。

 

それも友愛のペルソナと。

 

あたしの魔術で防ぐ。

 

更に押し込んでくる霊。

 

ただでさえ態勢を崩しているあたしの魔力が、凄まじい勢いで削られる。

 

壁を抜かれたら、一瞬で消し炭。

 

流石に冷や汗が流れるが。

 

次の瞬間。

 

ジュリオさんが、霊を斬っていた。

 

悲鳴を上げる霊。

 

そう。

 

あたしが敢えて隙を見せることによって。

 

あたしに攻撃を集中させ。

 

ジュリオさんの攻撃機会を作る。

 

そしてジュリオさんが持っている剣は、色々魔術が掛かった特注品。アダレットの精鋭騎士が持ち込んでいるのだ。当たり前の話である。

 

雷撃が止む。

 

体中の虚脱感が酷い。

 

体の彼方此方から煙も上がっているが。

 

それでも薄く笑う。

 

勝った。

 

徹底的に霊を切り刻むジュリオさん。もたつきながら、逃げようとするよく分からない塊。

 

だが、最初の一撃で気を失わなかったオスカーが。

 

頭から血を流しつつ。

 

お返しとばかりに、スコップをフルスイングで叩き付けていた。

 

ジュリオさんが鋭い一撃なら。

 

オスカーのそれは、文字通りの必殺の重い一撃だ。

 

物理攻撃が通用する霊にも、それは同じ。

 

不定形が拡散し。

 

それにあたしが、魔術砲を叩き込む、。

 

更にコルちゃんが出て。

 

ようやく溜まった仕込み手甲のマナをフルにつぎ込み。

 

一撃を叩き込む。

 

爆裂。

 

周囲の雨が、凄まじい熱で蒸気に代わり、吹き付けて来る中。

 

誰もが肩を揺らして呼吸を整える。

 

余裕のある者など。

 

一人も残っていなかった。

 

そして、ここからが本番だ。

 

照明弾を打ち上げる。

 

安全確保の合図だ。

 

同時にあたしたちは、谷の下にいるメンバーが動き出すのを確認。

 

コルちゃんは身軽に谷の向こう側に渡る。ジュリオさんも。

 

そして、両側から、安全を確保しつつ、谷の出口へと走る。オスカーは途中植物と話ながら、もう危険が無い事を確認していた。

 

谷の出口。

 

さて、此処が最後だ。

 

四人が見守る中。

 

最前衛を任された獣人族の戦士達が来る。彼らは展開して、地面の下から死体が沸いてきても対処できるようにする。

 

更に避難民達が来た。

 

まず避難民達を谷から逃しながら、ゆっくり扇状に獣人族の戦士達が拡がり、警戒範囲を拡げる。

 

適当なタイミングで、シェムハザさんも来て、照明弾を打ち上げた。

 

かなり弱々しい。

 

魔力が限界なのだろう。

 

無理も無い。

 

相当な老齢なのだ。

 

モニカが見えてきた。

 

ハロルさんも。

 

ハロルさんは谷の出口に留まると、長距離射撃の態勢を整える。どこから敵が来ても、初撃は取れるようにするためだ。

 

そして荷車隊が通り。

 

フリッツさんが最後尾で姿を見せて。

 

ようやく一安心した。

 

谷を、抜けたのだ。

 

「谷を抜けて、もう少し行くと、開けた場所に休憩所がある。 其処まで歩け! 其処にたどり着ければ、キルヘン=ベルは指呼の距離だ!」

 

「僕が殿軍になる。 君達から降りてくれ」

 

ジュリオさんが、崖の向こうから声を掛けてきた。

 

頷くと、あたしは。

 

オスカーが言う通りの経路で、崖を降りる。

 

オスカーが、大きく嘆息した。

 

「酷い話だな。 お前がいなければ、キルヘン=ベルでも、あの人達をよその街に更に追い払わなければならかったんだろ?」

 

「そうだね」

 

荒野の世界だ。

 

食べられるものには限界がある。

 

そして、あの人達に。

 

もう次の街に辿り着く力なんて無かっただろう。

 

フリッツさんが、ジュリオさんを確認すると、隊列の中央に戻り。

 

そしてあたしは、フラフラになりながらも、歩き続ける。

 

もう少しだ。

 

キルヘン=ベルについたら、お風呂に入って、ゆっくり寝て。それから。

 

歩きながらうつらうつらしている事に気付いて、顔を叩く。

 

戦闘が警戒される状況で、気を緩めるとは何事だ。

 

おばあちゃんに怒られてしまう。

 

それだけ疲労がひどいという事だが。

 

それでも許されることでは無い。

 

休憩所が見えた。

 

廃屋もある。

 

少し、皆に其処で休んで貰う。

 

嫌みな事に。

 

今更ながら雨は止み。そして、夜明けの光が見え始めていた。

 

 

 

キルヘン=ベルでは、既に住民が総出で、負傷者の引き受けと、治療のための態勢を整えて待ってくれていた。

 

安全を確保した時点でジュリオさんが先行。

 

状況を伝えてくれたのだ。

 

あたしも、キルヘン=ベルに入ると同時に、腰砕けになってしまった。

 

流石に魔力を使いすぎた。

 

錬金術の道具も。

 

道具類は、まだホルストさんにかなり納品している。特に医薬品は、相当量のストックがある筈だ。

 

後は、もう街の皆に任せて良いか。

 

パメラさんが、てきぱきと指示を飛ばして、老幼の手当をしている。

 

負傷者も、本格的な治療を、何人かいる魔術師が始めていた。

 

モニカも引き続きそれを手伝おうかとしていたが。

 

留守のキルヘン=ベルを守っていたヴァルガードさんに止められる。

 

夕方を少し過ぎていたから。

 

荒々しくなっていた。

 

「もういい。 お前は充分すぎるほど働いた。 今日は大丈夫だから、戻って休め」

 

「しかし」

 

「くどい!」

 

モニカは口を引き結ぶと。

 

分かりました、と返事して、家に戻る。

 

彼女は今回無理をしすぎた。

 

これ以上無理をすると倒れるかも知れない。

 

厳しすぎるように見えて。

 

ヴァルガードさんの判断は妥当だ。

 

ホルストさんが来る。

 

なんと、プラフタもである。

 

「大丈夫でしたか、ソフィー」

 

「見ての通りです、ホルストさん。 キルヘン=ベルでも何かあったんですか?」

 

「何度も匪賊の襲撃がありましたよ。 恐らくは貴方たちを襲うのと連動しての行動でしょうね」

 

もっとも。

 

全て撃退したそうだが。

 

まあそれはそうだろう。

 

ホルストさんからして、優れた戦士だし。

 

現役で超強いヴァルガードさんもハイベルクさんもいる。

 

此方へのトラブルも想定して、戦力を出したのだ。それにあたしが作った爆弾だってある。

 

「全員は引き受けられそうですか?」

 

「問題なく」

 

「それは、良かった」

 

「ソフィー、もう大丈夫ですから、アトリエに戻りましょう」

 

プラフタが、たまりかねたのか提案。

 

あたしは苦笑すると。

 

丁度様子を見に来たエリーゼさんに肩を借りて、アトリエに歩く。正直、此処で寝たいくらいだったが。そうもいかないか。

 

エリーゼさんは無言のまま肩を貸してくれたが。

 

プラフタはがみがみという。

 

「無茶苦茶な撤退行だったと聞いています。 そんなにボロボロになるまで無理をして」

 

「でも、助けられた」

 

「……それだけは褒めてあげます」

 

「ふふ」

 

それに、だ。

 

大勢匪賊どもも殺せた。

 

何よりだ。

 

あの切り札としてノーライフキングが繰り出してきた霊の実力で、大体ノーライフキングの戦力も分かった。

 

もはやノーライフキング。

 

おそるるに足らず。

 

おばあちゃんの封印で、相当に弱体化したのだ。

 

考えてみれば、今回の戦力の大盤振る舞いっぷりもおかしかったと言える。相当に焦っているのだろう。自分の弱体化を。

 

そして奴は賭けに失敗した。手持ちのコインを殆ど失ったのだ。この状況で出し惜しみしていたとは思えないから、奴は今丸裸同然の筈。

 

ならば、今こそ。

 

決戦の時だ。

 

アトリエにつくと。

 

モニカ、と声を掛けようとして、口をつぐむ。

 

モニカもボロボロになっていて、今頃家族に怒られているだろう。

 

家族、か。

 

エリーゼさんが、先に風呂に入るかと聞いてきたけれど。先に寝ることにする。そうすると、既に用意していたらしいぬれタオルを出す。

 

エリーゼさんは熱使いだ。

 

一瞬で濡れタオルを暖かくした。

 

そしてあたしの顔やらを拭くと。

 

用意してある寝間着に着替える手伝いをしてくれた。

 

戦闘用の衣服は汚れているし。

 

何よりゆったりと寝られないからである。

 

「起きたらお風呂に入って、体を綺麗にするのですよ」

 

まだプラフタもがみがみ言っている。

 

だが理由は分かる。

 

プラフタも、同じように悲惨な荒野での逃避行を続けた身だ。

 

だからこそ。

 

あたしが同じ目に会っているのを見て、気楽ではいられなかったのだろう。

 

今回ばかりは。

 

流石にあたしも疲れた。

 

後は全てをプラフタと、キルヘン=ベルの皆に任せて。

 

眠りの闇に、落ちる事にした。

 

 

 

(続)




過酷な追撃からどうにか避難民を救ったソフィー。

これが。

この世界での、当たり前なのです。

これでも、500年前よりずっとマシになって、これなのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。