暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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邪獣滅すべし
序、戦いの後


アトミナとメクレットは、護衛の者達を連れて、激しい戦いが行われた、キルヘン=ベル東の街道を視察していた。

 

錬金術の産物である爆弾が多数使用された形跡がある事。

 

余裕があるうちは、死骸をまとめて焼いていた形跡が残っている事などから。

 

キルヘン=ベルは、ソフィーだけでは無く。

 

自警団の質も高いことが分かる。

 

手練れの傭兵としてはあの高名なフリッツが赴いていることを確認しているが。

 

それだけでは無理だ。

 

細かいところで、戦士の練度が高いことがすぐに分かるのである。

 

また、危険地帯を的確に抜けている。

 

ただ流石に戦力が足りなかったらしく。

 

丘で追撃を受けた辺りから。

 

敵死体の処理を出来なくなっているようだが。

 

仕方が無いので。

 

それは此方で代わりにやっておく。

 

此方も手練れだ。

 

そもそも、深淵の者は、500年掛けて育成してきた組織だ。

 

各地でこの世界の理不尽さに泣き。

 

怒りを蓄えてきたものをスカウトしてきた。

 

金だけ持っていて、何ら能力を持たず、権力にしがみついて弱者を虐げる圧制者や。

 

血統だけで金を引き継いで、錬金術師を騙る愚物やらも。

 

片端から暗殺してきた。

 

優秀な錬金術師でも、勘違いしてその力を自分のためだけに使い弱者を虐げる場合は、抹殺の対象になった。

 

昔、各地の匪賊と癒着していた対錬金術師の暗殺者組織も。

 

今では深淵の者が掌握。

 

これらの組織は、各国の腐敗官吏や。

 

腐敗錬金術師を消すために動いている。

 

ただし、私怨で動くことは御法度だ。

 

自分達がそれを示しているから。

 

組織は腐らず、500年間尽力を続けている。

 

ただしまだ創造神を叩き起こすには至らない。

 

人材は充分に集まってはいるのだが。

 

それでもだ。

 

偵察に出ていた若いヒト族の女戦士が戻ってくる。

 

「伝令っ!」

 

「聞こう」

 

「ノーライフキングの巣穴周辺にて、各地に散っていたノーライフキングの配下が集まっているのを確認できました。 かなりの数ですが、駆除しますか」

 

「無用」

 

アトミナが即答。

 

周囲に分かり易く説明するのは、メクレットの役割だ。

 

「ノーライフキングの弱体化と実力は既にキルヘン=ベルにも伝わったはずだ。 事実奴の配下でもトップの実力を持つ「紳士」が撃ち倒されたばかりだからな。 あの手練れ達なら、それでノーライフキングの現状の戦力を正確に把握しているだろう。 それならば、駆逐も任せてしまえば良い」

 

「成長の糧にすると」

 

「そういうことだよ」

 

ソフィーは。

 

プラフタが目を掛けているという事は、相当な才覚の持ち主だ。

 

事実爆弾などの跡を見ると、かなりの才覚があると分かる。この狂った世界を変えうる、起爆点となる存在なのだ。

 

ならば、どんどんエサを与えて。

 

育てて。

 

そして充分と判断した時点で声を掛ければ言い。

 

別の部下が戻ってくる。

 

逞しい獣人族の戦士で。他より一回り大柄だ。

 

古参の部下の一人で。

 

年齢は400才を越えているが。

 

勿論通常の獣人族はヒト族と同程度の寿命しか無い。錬金術によって、加齢を停止しているのだ。

 

「周囲の死体の処理、人肉の味を覚えたスカベンジャーの処理、ともに完了しました」

 

「匪賊は」

 

「どうやらこの間の戦いで相当数が死に、この辺りの勢力図が一変したようで。 キルヘン=ベルから離れる動きを見せているようです。 ソフィーに至っては、皆殺しという渾名がつき始めているとか」

 

「結構。 だけれど皆殺しだとまだインパクトがよわいなあ」

 

「鏖殺の錬金術師、くらいの渾名がつくくらいでないとね」

 

アトミナが言うと。

 

それは良いと、周囲の護衛達がけらけら笑った。

 

実のところ、匪賊を徹底的に駆除する錬金術師は珍しくない。

 

公認錬金術師になると、街の安全を確保するために、まずは周囲の浄化作業を行う。

 

匪賊は許されざる存在。

 

アダレットでもラスティンでもこれは同じで。

 

更に殆どの場合凶賊化する事もあって、匪賊は見つけ次第皆殺しにするのが通例だ。

 

というよりも。

 

それが通例になるように、この500年間操作を続けて来た。

 

おかげで、昔とは違って、匪賊と通じて暴利を貪っているような商人は減ってきたし、発見も容易になった。

 

通じている場合も、即座に処理出来るようになったし。

 

ましてや錬金術師が通じている場合は、即時捕捉が可能になった。

 

捕捉したらどうするかなど言うまでも無い。

 

少しでも。

 

ほんの少しでも世界をマシにする。

 

計画が最終段階に入り。

 

創造神を叩き起こして、やる気を出させるまでは。

 

出来る範囲で、世界を改善していくしか無いのだから。

 

通信が不意に入る。

 

別方向に出ていたイフリータからである。

 

「試験していた上位次元からドラゴンを拘束する道具ですが、やはり絶大な効果を発揮することが分かりました。 今、最高位のドラゴンを仕留めたところです。 抵抗さえさせずに撃ち倒すことに成功しました」

 

「うむ。 これで計画が一つ進んだな」

 

「これより帰投します」

 

「此方もこれより帰投する」

 

すぐに寺院に向かう。

 

戦力の確認は十分出来た。

 

キルヘン=ベルの状況は、パメラを一とする配下の者達が、直接ほぼリアルタイムで知らせてきているし。

 

今の時点で不足は無い。

 

そして勘違いされがちだが。

 

プラフタを殺す気もソフィーを倒すつもりもない。

 

アトミナはプラフタに辛辣だが。

 

それは「二人」にとっての共通意見では無いし。

 

何よりも世界をどう良くするかという点では、今でも変わらず同志であるとさえ考えている程だ。

 

不幸な行き違いはあった。

 

だがきちんと話し合いをしたい。

 

その前に。

 

プラフタが納得する成果を、きっちりと上げておき。そして話し合いで、不幸な歴史を終わらせたいのである。

 

いずれにしても先の話だ。

 

プラフタは記憶を取り戻していない。

 

実際に会いに行っても此方のことが分からなかったくらいなのだ。

 

まずは記憶を取り戻して。

 

全てはそれからだ。

 

500年間で作った道具の中には。

 

この世界の不平等を解消するためのものもある。

 

まだ実用化は出来ていない。

 

だが、実用化できれば。

 

一気にこの世界を豊かにすることも、不可能では無いかも知れない。

 

寺院から、複雑な経緯を通り。

 

魔界へ。

 

主要幹部は。

 

既に勢揃いしていた。

 

魔王の前に座ると。

 

報告を聞く。

 

各地に展開している部下達は、順番に報告をして行ったが。これはあくまで情報を共有するための作業だ。

 

アトミナとメクレットにとっては、既に知っている情報である。

 

だが、鮮度が高い情報もある。

 

「アダレットで緊急度の高い情報が入りました。 雷神ファルギオルに復活の兆候有り、とのことです」

 

「詳しく」

 

「はい。 雷神ファルギオルは疑似異世界空間である「絵画の世界」に封じ込まれ、其処で更に消滅ダメージを受けて消えていましたが。 ここ数百年を掛けて少しずつ要素をこの世界に引きずり出し、再構築をはかっていることが判明しました。 流石に往年の力は無いようですが、各地で自分が司る「雷」を吸収しつつ、傷を癒やしている様子です

 

「まずいわね」

 

アトミナが口元に手を当てて呟く。

 

メクレットも同意だ。

 

前は、そもそも奴にとって不利な世界を「上書き」する事によって力を弱め。

 

当代でも上位に入る錬金術師ネージュと連携。

 

試験運用状態だった魔王を投入し。

 

力をおよそ1000分の1にまで弱めた上で。撃破する事が出来た。1000分の1まで弱体化させたことで倒す事は難しくなかったのだが、此奴が厄介な能力持ちで、それを封殺するのが本当に大変だったのだ。

 

此奴ほど好戦的で人間に敵対的な邪神は流石に今の世界には存在していないけれども。逆に言うと此奴が再出現した場合、他の邪神も活性化する可能性がある。

 

報告を更に詳しく求めると。

 

どうやら最悪の予想でも数年は復活まで時間が掛かるとみて良い様子だが。

 

それでも、楽観視は出来ないだろう。

 

「奴の居場所は」

 

「それが、各地に分散して、「雷」そのものを吸収している段階でして。 本体と呼べるものは存在しません。 雷について研究している魔術師が、偶然その中に「意思」を発見し。 それが明らかに人間に敵対的である事を突き止めたために発覚したことでして」

 

「なるほど、猪なりに、敗戦で知恵を付けたか」

 

「そういう事かと」

 

まあいい。

 

数年もすれば、ソフィーがそれなりに育つはず。

 

それに数百年前と同じ戦術も使えるはずだ。

 

残念ながら、神々は知恵を付けることはあっても、進化をする事は出来ない。

 

というのも、あくまで神々というのは世界の構成要素であって。

 

構成要素に意思が宿った存在だからだ。

 

故に上位次元に干渉することも出来るし。

 

気分次第で生命を蹂躙することも出来るが。

 

進化だけはできない。

 

そして此方は。

 

錬金術の、ここ数百年の進化を、あらゆる方向から調査し続け。有効なデータを集め続けてきた。

 

勿論それでも、ファルギオルが手強い相手である事は間違いない。

 

生半可な戦力では押さえ込む事さえできないだろう。

 

だが、人類は。

 

力を付けた。

 

それを奴に思い知らせる。

 

それだけだ。

 

そも、創造神の尻をひっぱたいて、叩き起こすための準備をしているのだ。

 

雷神ごときに怖じ気づいていられるか。

 

アトミナとメクレットが落ち着き払っているのを見て。

 

深淵の者幹部達も安心したようだった。

 

後は、各地の他邪神の動向について。

 

今の時点では、積極的に人間を襲って回っている奴はいない。

 

そういう奴は、数百年で駆除し尽くした。

 

邪神は滅ぼしたとしても復活するが。

 

少しばかり細工して、復活しても元の力は得られないようにしてある。

 

今の時点では。

 

研究を強化していくだけで問題ないだろう。

 

一通り報告を聞き終えたので、幹部会議を解散する。

 

護衛を連れて、魔界を出る。

 

そして向かったのは。

 

古い時代。

 

アトミナとメクレットが一つだった時代に。

 

まだ空にあった建物。

 

更に古い時代の錬金術師が作り上げた。

 

空中殺戮要塞。

 

神の怒りをかって地に落ちたと言われているが。

 

何のことは無い。

 

他の錬金術師に撃墜され。

 

そして骸を晒している遺跡だ。

 

こういった、最古の時代の錬金術の産物は。

 

未だに独創的な技術を発見できることが多く。時々直接調査に来ている。

 

しかしながら、此処は四度五度と調査しており。

 

内部ではもうめぼしいものもない。

 

奥の方に、隠れ家にしているスペースがあり。

 

少しばかり其処で休もうと思っただけだ。

 

空間の歪みを使って。長大な距離を歩く。

 

元々これは、宇宙と呼ばれる領域に浮かんでいたものらしく。

 

最初の頃の錬金術師が、神に等しい力を無差別無分別に使っていたことがよく分かる。

 

今では、流石にそこまでの無分別な力の行使は禁止されている。

 

根絶同様。

 

禁忌とされているのだが。

 

それでも、時々やろうとする輩は現れる。

 

その度に暗殺者を動かさなければならないので。

 

色々と面倒ではあった。

 

休憩所に到着。

 

そこそこ広い空間で。

 

安全も清潔さも確保され。食糧なども保存されている。

 

そればかりか、此処から重要拠点に飛ぶことも可能だ。

 

護衛達を交代で休ませると。

 

アトミナとメクレットは話す。

 

「ノーライフキングをソフィーが倒しに行くのはほぼ間違いなさそうだけれど、勝算はどう見る?」

 

「勝ちはほぼ確定でしょう。 ソフィーがどれだけ犠牲を抑えるか、が焦点だとは思うけれど」

 

「ノーライフキングはこの間の戦いで切り札クラスの手駒を使い果たした。 ただ問題は、奴が住み着いている洞窟は、多くのザコと、それに強大なネームド複数に守られている形になっていると言うことだね」

 

「それもどこまで奴を守るかしらね」

 

くつくつと。

 

アトミナは笑った。

 

残酷な側面を持つアトミナは。

 

クズと見なした相手を、消す事を躊躇しない。

 

根絶の力に手を染めたという点で、ノーライフキングはある意味同じ穴の狢であるとも言えるが。

 

奴の場合は。

 

単に醜い嫉妬と。

 

虚栄心が出発点にある。

 

そんなものとは違う。

 

この世界のために禁忌に手を染めた我々と。

 

あの愚か者では。

 

まったく違うのだ。

 

ただ、理念が違うといっても。

 

そも根絶という時点で、それは大きな力になる。

 

錬金術にはどうしても及ばない魔術であっても。

 

根絶の要素が加わるだけで。

 

侮りがたきバケモノが生まれるのは、否定出来ない事実なのだ。

 

実際、ソフィーの祖母が封印して弱体化させなければ。

 

ノーライフキングは、討伐のために深淵の者が出張らなければならなくなるほど、手が付けられない存在になり。負の歴史に名を刻んでいただろう。

 

まあいい。

 

そのおぞましき歴史も、終わる時が来た。

 

「では、ソフィーの手際を見るとしようか」

 

「それが良さそうね」

 

子供の笑い声が。

 

二つ重なる。

 

現時点で、計画には。

 

一寸の修正も。

 

必要がなかった。

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