暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ノーライフキング麾下との戦闘は、ソフィーにも思うところが色々とあるものでした。

滅殺するべし。

ソフィーは戦闘の準備をそう考えながら進めます。


1、不死王死すべし

キルヘン=ベルに戻ってから。

 

あたしは黙々と、損失した物資の補填と。錬金術の技術向上に努めていた。

 

薬類は幾らあっても足りないし。

 

今までの戦いで実効が証明された爆弾類にしても然り。

 

戦いがあれば、物資を大量に消耗するものなのだ。

 

友愛のペルソナやマイスターミトンも。

 

激しい戦いの中で、消耗するものがあり。

 

あたしの方で受け取り、破損を修復してまたホルストさんの所に引き渡した。

 

何も言わず、黙々と錬金術だけを続ける様子を見て。

 

プラフタは、しばししてから。

 

困惑したように言う。

 

「どうしたのです。 激しい戦いだったとは聞いていますが」

 

「基礎能力が足りない、と思ってね」

 

「試行錯誤を繰り返している、という事ですか」

 

「そうだよ」

 

この間だが。

 

山師の薬については、ついに50点を貰った。

 

安全圏が広がったこともあり、今までに足を運べなかった場所まで行けるようになった事もあって。

 

色々な素材を新鮮なまま入手。

 

それらを使って、更に薬効が高い薬を作る事に成功したのだ。

 

街の方も忙しくなっている。

 

大量に受け入れた人々の傷を癒やした後は。

 

それぞれに出来る範囲で働いて貰っている。

 

老人や子供でも。

 

体調が回復すれば、出来る事はいくらでもある。

 

子供でも、荷車を使えば、ものを運んだりすることが出来るし。

 

老人は知識を生かして、細かい作業をすることも出来る。或いは見聞きした事を、本に記す事も出来る。

 

負傷者達はもう皆あらかた回復しており。

 

それぞれの技能を生かして。

 

新しい故郷であるキルヘン=ベルのために働いてくれている。

 

家も放棄されていたものがいくらでもあるし。

 

おばあちゃんが大きくしたこの街は。

 

まだまだ人を受け入れるキャパがある。

 

それに、だ。

 

この間の戦いで、キルヘン=ベルと隣街の間の街道が、露骨に安全になった。まだ流石に巡回を出すほどの余裕は無いが、増えた新しい人達を訓練していけば、巡回をする戦力はいずれ育つはずで。

 

その巡回班を廻すことで。

 

街道の安全を保障できるだろう。

 

今はまだ、傭兵に守られた商人が、命がけで此方に来ている状態だが。

 

それももっと手軽に出来るようになる。

 

なお、ホルストさんに薬や爆弾を納品しに行くと。

 

更に作って欲しい、という要望を受ける。

 

ストックしておく分の他に。

 

やはり、外貨に替えるためのものが欲しいというのである。

 

まあ分からないでも無い。

 

実際問題、お金は幾らあっても足りないし。

 

この街で、完全完結出来るほど、物資というのはどこにでも転がっているわけではないのだから。

 

錬金術が一段落。

 

レヘルンを5セット作って、コンテナに入れて。

 

戻ってきたあたしを、プラフタが出迎える。

 

「ソフィー。 今日は布を作ってみましょう」

 

「布?」

 

「今までは、糸を用いて、それを直接「編んで」、その上で意思に沿った変化を促していました。 今回は、第三者が加工可能な「布」を作る事によって、フレキシブルな利用を想定します」

 

「なるほど」

 

そういえば、だ。

 

この間の戦いで助けたレオンさんが、シェムハザさんと一緒にお礼に来た。二人ともこの街に定住することにしたらしいのだが。レオンさんは、傭兵業よりも、本来は服飾業が専門だという。

 

戦う事もするが。

 

今後は、まず服飾で、食べていく。

 

そのつもりらしい。

 

とはいっても、贅沢なお服なんて、この街の人達には無縁な存在だ。

 

彼女がやるのは。

 

あくまで戦闘用の衣服や鎧の仕立て。

 

デザインから構築まで、何でもござれだそうである。プレートメイルも作る事が出来るそうだ。

 

その時プラフタも紹介したが。

 

流石に各地を回った傭兵だけあって。

 

本の魔物には遭遇したことがあるらしい。

 

プラフタを見る人間が。

 

いつも見せる反応を、またいつものように見る事になった。

 

ともかく、レオンさんがいると言うことは。

 

錬金術で強化したインゴット同様。

 

布も作る事が出来るし。

 

それを応用して、様々な強力な防具を作る事も出来そうだ。

 

勿論自己申告だけを宛てにはしていない。

 

実はホルストさんからも話が来たのだ。

 

レオンさんが、てきぱきと壊れていた鎧を直すのを見て、自警団員が感心しているらしいと。

 

ということは、嘘では無いのだろう。

 

「錬金術で強化した布は、生半可な鉄板を遙かに凌ぐ防御能力を持ちます。 強力な錬金術師が作った布による装備になると、ドラゴンのブレスを防ぐ事さえ可能です」

 

「へえ。 其処まで」

 

「興味が湧きましたか?」

 

「俄然」

 

まずは糸からだ。

 

糸に関しては、以前作った事がある。自然素材を用いるのだが、大体はこの辺りに生息している大型の蜘蛛の糸を用いる。

 

この蜘蛛はとても大人しく、人間が蜘蛛の巣を取ると悲しそうに巣を放棄して離れてしまう。図体が大きい割りには好戦的ではないのだ。大きな体は、簡単に捕食されないようにするため。そして、小さな虫を食べるための工夫である。一方でその大きな体が故に動きも鈍く。いや、敢えてゆっくり動いているのかも知れない。

 

大人しい蜘蛛の巣だが。

 

その素材は強靱そのもの。

 

糸をたぐってこよって。

 

細い蜘蛛の糸から。

 

加工可能な糸にする間に。

 

染料で染める。

 

この染料には中和剤が混ざっており。

 

ただでさえ強靱な糸が、これによって更に強力になる。

 

実はフリッツさんに、この糸をくれと言われたので、有料でかなりの分量を分けている。

 

何でも人形を作るのに使うらしく。

 

フリッツさんの家からは、最近もの凄く嬉しそうな高笑いと、愛を囁く声が聞こえまくっているようだ。

 

怖いと苦情が来ているようが。

 

この間の戦いでのフリッツさんの鬼神が如き戦いと、躊躇無く殿軍を引き受ける責任感。何よりあれだけの苦闘の中で戦死者を出さなかった的確な判断がホルストさんら街の長老陣に評価されており。

 

普段の奇行は我慢するように、とホルストさんが周辺の住民に理解を求めて頭を下げて回っているらしい。

 

なお、フリッツさん用にはほぼ透明な糸を渡している。

 

これに関しては、やはり人形を動かすためには、目立たない糸が必要だから、らしい。

 

しかし下手に扱うと指が飛ぶような鋭利な糸ではそれはそれで危ないので。

 

少し太めにして。

 

ちょっとしたことでスパっと切れないように工夫もしているが。

 

ともかくだ。

 

染色したこの糸を、順番に編み込んでいく事になる。

 

マイスターミトンの場合は、形を作ってから、意思の操作をしたが。

 

布の場合は、ここからが本番だ。

 

いわゆる反物の状態に布をして行くのだが。

 

それをやるには、相応の道具がいる。

 

手間も。

 

其処で、今回助けた難民の中に、何人かいた糸繰りの経験者に。

 

糸を布にする過程は任せてしまう。

 

勿論有料。作業料金はしっかり渡す。

 

これに関しては、誰がやっても同じ、というのがプラフタの言葉が故だ。

 

そして、難民は、あたしの事を覚えていたし。

 

そんな事なら喜んでと、大喜びで作業に取りかかってくれた。ましてや賃金が出るならと、喜び勇んで作業してくれた。

 

布を作るための機械は、時計ほどでは無いけれど、それなりに複雑な構造だ。使うには知識もいる。

 

難民と言っても、都会で暮らしていた人達なのだ。

 

機械に対する忌避感はなく。

 

ましてや経験者がいたのは有り難い。

 

これからいっぱい作って貰う事になるので、覚えて欲しいと他の人にも声を掛けて。仕事を作っておく。

 

実際問題、布は幾らあっても足りないのだ。

 

ハロルさんが不機嫌そうに、「構造が簡単すぎる」機械を手入れしているのを横目に、アトリエに戻り、時間を待つ。

 

糸を渡して。

 

布の状態になるまで、だいたい一日。

 

ここからが本番だ。

 

今の状態だと、ただ頑強な布に過ぎない。

 

染料に使ったのと同じ中和剤を使い。

 

布を中和剤につけ込む。

 

そして、乾かして。

 

外で干し。

 

叩く。

 

乾燥は魔術でやってしまおうかと思ったが。

 

プラフタに止められた。

 

「自然乾燥が良いでしょう」

 

「魔術でやると変な癖がつくとか?」

 

「それよりも、恐らく痛みが早くなります」

 

「……そっか、それじゃあ仕方が無いね」

 

着替えと一緒に、布を干す。

 

色とりどりの布が干されていく様子は、壮観である。

 

いずれにしても、中和剤に浸し。

 

乾かし。

 

叩く。

 

この過程で、布そのものに「意思に沿った変化」を促す。

 

単純な作業だが。

 

プラフタの指示は、案外細かかったし。叩くときに「抵抗」を感じる時もあった。そういう時には手を止めて。

 

じっくりと様子を見ながら、作業をしていくのだ。

 

そうして更に二日。

 

布が仕上がる。

 

普通の糸だけを使ったクロースと呼ぶ布。

 

それに、毛糸を用いた布も作った。

 

これはモフコットと呼ぶ事にする。

 

毛糸というのは、糸をとるための専門の家畜からとったもので。年に何度も収穫できないのだが。家畜さえ生きていれば、毎年収穫できる。その後の加工も比較的容易で、柔らかい上に温かい。

 

もっとも、強度はお察しなので。

 

今回は蜘蛛の糸と混ぜることにより。

 

強靱さと暖かさを同居させることに成功した。

 

もっともレシピとしては昔からあるものらしい。

 

しかしながら、手間暇が掛かるため、高級品で。

 

金持ちにしか縁のない品であるそうだ。

 

ともあれ、ある程度の量はまずホルストさんに納品。

 

ホルストさんは、喜んでくれた。

 

「この発色、手触り、素晴らしい。 良いものを作ってくれましたね、ソフィー」

 

「ありがとうございます。 もっともっと作りますよ」

 

「量産も可能なのですね。 是非お願いします。 ……想像はつきますが、レオンに加工を頼むつもりなのでしょう?」

 

「はい。 お見通しなんですね」

 

ホルストさんは頷く。

 

その辺りについては、ホルストさんが在庫を管理して、作業をしてくれるそうだ。

 

実のところ、布をあたしが生産している、というのを聞きつけた瞬間。

 

コルちゃんが動き。

 

ホルストさんに、話をしに来たと言う。

 

在庫管理をするので。

 

レオンさんとの交渉を任せて欲しい、と。

 

あたしが作った強力なインゴットの在庫管理も併せることで。

 

自警団用の装備を、効率よく作れると。

 

事実、格安でその辺をやってくれるという契約書を見せられたらしく。

 

ホルストさんは、多少苦笑いしながらも、話を受けたそうだ。

 

「まずは自警団用の装備から刷新ですね。 かなり古い装備を使っている者も多いですし、ロジーだけでは手が足りなくなっていましたから」

 

「レオンさんの腕前はどうですか?」

 

「修理の手際を見る限り、防具関係は任せてしまって問題ないでしょう。 それにしても、この布は加工可能なのですか? マイスターミトンは顔が怖いという不評があったのですが」

 

「怖くないです」

 

即答するあたしだが。

 

ともかく、布は加工可能だと告げると。

 

相応のお金を出してくれた。

 

後、話をつけておく。

 

あたしがいちいちクロースやモフコットを生産するとき、布を織る人達に給金をあたしが渡すのでは面倒だ。

 

どうせ定期的に生産しなければならないのだから。

 

お給金分は、天引きしてしまって構わないので。ホルストさんから労働する人達に代わりにお金を渡して欲しい。

 

そう言うと、それもコルちゃんと話をして、対応するという話だった。

 

まあコルちゃんは、お金を使うエキスパートだ。

 

彼女だけが金を好き勝手にするのは困りものだが。

 

今の時点で、この街から脱落者は出ていないし。

 

落伍者もいない。

 

つまりお金はきっちり適切に廻っているという事で。

 

誠実で数字に強いというホムの強みを、コルちゃんは最大限生かしている、という事が言える。

 

ヒト族の商人ではこうはいかない。

 

実例を見ているし。

 

何より、見ていて分かるのだ。

 

キルヘン=ベル全体が、豊かになって来ている。

 

あたしが作った品物を外貨に替え。

 

その外貨が、きちんと行き渡っている証拠である。

 

レオンさんの所にも顔を出す。

 

彼女も話を聞いていたようで。

 

まだ包帯を外してはいなかったが。

 

ちょっと不思議な、しゃれた服を着ていた。ドレスというのかなんというのか。ギリギリ実用性があるというような服だ。

 

何だか金持ちみたいな服だなと思ったが。

 

それは口にしない。

 

「あら、可愛い錬金術師さん」

 

「ソフィーと呼んでくれると嬉しいです」

 

「ふふ、それではソフィー。 錬金術で強化された布とインゴットの提供があると聞いているわ。 まずは自警団の皆の装備から刷新して、それから他の人達の服も作っていけば良いのね」

 

「そうなります」

 

実はレオンさん。

 

既にソーイングや防具の修理は、コルちゃんと提携して本格的にやっているという。

 

元からこっちの方が本職だったらしく。

 

槍を使って戦うのは、あくまで副職なのだそうだ。

 

「あれだけの手練れなのに、ですか?」

 

「恥ずかしい話だけれど、色々と勘違いした親に英才教育で戦い方を仕込まれただけなのよ。 実戦を初めて経験したときには漏らしちゃって、あげくに吐いちゃってね。 今でも恥ずかしいわ」

 

「誰でもそうですよ。 どんな達人だって、初陣では頭が真っ赤になって、気がつくと敵が血まみれだった、ってのが普通みたいです」

 

「ふふ、そうなのね」

 

意外に親しみやすい人だ。勿論あたしが命がけで助けたから、こういう話をしてくれるのだろうが。

 

軽く話すが。

 

彼女はお洒落には色々と気を遣っているらしく。

 

アクセサリの類も扱う予定だそうである。

 

多分、彼女にとってのかき入れ時は結婚式とか、そういうときになるだろう。

 

いずれにしても当面は装備の刷新、住民の衣服の作成で、収入は保障されるだろうが。

 

「以前も錬金術で強化された布は扱かったことがあるのだけれど、楽しみだわ」

 

「楽しみにしてください」

 

手を振って、笑顔で別れる。

 

さて、これで準備は整った。

 

装備品を整えたら、ノーライフキングを叩き潰しに行く。

 

後は多少強化型の爆弾が欲しいが。

 

それについても、まだまだ皆の装備を刷新するまでには時間が掛かるから。その間に開発すれば良い。

 

問題はホルストさんがそれを許可してくれるか。

 

更に言えば、奴の住処への道が無い事。

 

奴が住んでいる場所は分かるのだけれど。

 

街道は当然無いし。

 

何も目印が無い荒野を行かなければならない。

 

いずれにしても準備は必要だ。

 

それに、焦ることも無い。

 

ノーライフキングはその手下の大半を失った上。

 

切り札で出してきた霊も、あの程度の実力だった。

 

今更挽回は出来ない。

 

おばあちゃんの施した封印がある限り。

 

これからも力は弱る一方なのだから。

 

いっそのこと、今すぐ殺しに行くのでは無く、もう少し時間が経って、更に弱ってからなぶり殺しに行くか。

 

それも手としてはありだが。

 

個人的には。

 

すぐ殺したい。

 

空を仰ぐ。

 

こういうのは、あたしだけの判断では出来ないのが厳しい所だ。キルヘン=ベルはまだまだ小さな街。

 

匪賊はこの間の一件で周辺からかなり減ったが。

 

まずはナーセリーの復興や。

 

街道の整備。

 

それによる外貨獲得、物資の獲得。

 

色々とやらなければならない。

 

それにこの間の一件で、周辺の安全が確保されたことにより、行けるようになった場所も多い。

 

それらを調査して。

 

より良い素材を入手することが出来れば。

 

もっと強力な爆弾を作成し。

 

より戦闘向きの装備を身につけ。

 

敵に対して、戦いを有利に進められる可能性も高い。

 

ままならないなあ。

 

頭を振る。

 

口元に浮かびそうになる笑みを引き締める。

 

殺意は抑えておけ。

 

いつか、ヴァルガードさんに言われた事だ。

 

錬金術がどうしても上手く覚えられず。

 

座学がどうにも効果が出ず。

 

才能はあるらしいのに。

 

何もできずに四苦八苦していた時期。

 

きっと夜には強い闇を生じる魔族であるヴァルガードさんは、あたしが如何に危険な精神状態か、見抜いていたのだろう。

 

あたしはこの街の人達には感謝している。

 

だから、この街を悪い意味でどうこうしようとは思わない。

 

ため息をつくと。

 

アトリエに戻る。

 

プラフタが、待っていた。

 

「どうしましたか。 出て行くときは上機嫌だったのに」

 

「いいや、何でも無いよ」

 

「そうですか。 それならば……良いのですが」

 

プラフタは。

 

恐らくモニカに聞かされて、あたしがヤバイ奴だと知っている筈だ。

 

爆弾を心に抱えていることも。

 

だが、それでもプラフタは態度を変えない。

 

それがどれだけ凄い事なのかは。

 

あたし自身がよく分かっている。

 

薄笑いを浮かべる。

 

「時にプラフタ」

 

「何ですか?」

 

「今の状態から、人間に戻るには、どれくらいの事が必要?」

 

「現時点の貴方の実力では無理なくらいの錬金術が必要です」

 

そんな事は分かっている。

 

具体的に何をすれば良いかを聞きたいのだ。

 

それについて説明をすると。

 

少し考え込んでから。

 

プラフタは言う。

 

「まずは、今の私は本に魂を縛られている状態です。 此処から自由になる必要があります」

 

「ふむ、それで?」

 

「人間の体を用意しなければなりません」

 

「人間の体……」

 

死体ではだめかと聞くと、駄目だと言う。

 

咳払いすると、プラフタは言う。

 

「実は、超一流の錬金術師になると、概念を操作する、という技を用います」

 

「概念の操作?」

 

「此処には例えば本がありますね。 その本を、まったく別のものに変えてしまう、という事です」

 

「それは凄い」

 

しかしそれは。

 

錬金術で言う、ものの意思に沿った変化の延長上での作業だという。

 

ただし果てしなくその「延長上」が長いのだが。

 

「何かしらの方法で、そうして人間の体を作成します。 この時点で、この世界にいる公認錬金術師という精鋭達でさえ、出来るかどうかと言う技術です」

 

「そんなに人を作るのは難しいの?」

 

「もどきであれば難しくはありません」

 

「もどき?」

 

勿論聞き返したのには理由がある。もどきという単語の意味はわかっている。

 

此処でもどきという言葉が出てきたことが気になったからだ。

 

人間ににたもの。

 

プラフタは少し悩んだ後、例として。

 

キメラビーストの話をする。

 

あれは、元々この世界に生息していた生物では無い、というのだ。

 

今では何処にでもいる猛獣だが。

 

実際には、古代の錬金術師が作り出した、生物を無理矢理合成した存在、だというのである。

 

「錬金術の勃興期には……記憶が少しまだ曖昧なのですが。 少なくとも私が現役で錬金術師をしていたその更に前には。 生命を錬金術で作成することに成功していたようです」

 

「それは、凄いね」

 

「問題はその生物が、摂理に反した存在だった、ということです。 貴方もレヘルンの凄まじい破壊力は目にしたでしょう。 あれを生き物に適用した、という事です」

 

結果、数多のバケモノが生まれた。

 

時にそれは、邪神やドラゴンに対抗するため。

 

場合によっては、自分の欲望を満たすため。

 

様々な錬金術師が手に掛けた。

 

中には禁忌とされる根絶の力を用いて、それを為そうとした例もあったという。

 

勿論有益な結果を生んだ例もあったそうだ。

 

ただ、人間のもどきを作る事は、非常に高度な技術を必要とし。

 

更に言えば、完全に人間を作り出すことは結局どんな錬金術師も成功していないというのである。

 

「しかし、無から生物を作り出すことは成功しておらず。 私の時代に出来ていたのは、生物と生物を無理矢理融合させるか、概念を変化させて生物では無いものを生物にするか、の二つです。 色々な情報を総合する限り、現在でもそれに変わりは無いでしょう。 後者の内簡単なものには、前にも話した本に命を与えて、勝手に片付くようにするようにしたものなども含まれますし、更に簡単な技術になると、丁度友愛のペルソナやマイスターミトンがそれに該当します」

 

「じゃあ、プラフタを人型の何かにしてみたらどうだろう」

 

「……例えば人形に魂を移す、ですか?」

 

「そう。 かなり動きやすくなると思うけれど」

 

考え込んだ後。

 

プラフタは答えてくれる。

 

「考え方としては悪くありませんが、まだ貴方にはそれをするための力量が決定的に足りません」

 

「そっかあ」

 

確かにその通りだ。

 

だが、この考えは悪くないかも知れない。

 

「本の形状を変えてみるのはどう?」

 

「それは要するに、今私が宿っている本を、人間型にすると言うことですか?」

 

「うん」

 

「……上手く行くとは思えません。 まずレシピを提示して貰えますか?」

 

何だろう。

 

プラフタの機嫌が目に見えて悪くなってきた。

 

多分だが。

 

プラフタは、理論的な所がある。

 

勿論現実と理論が対立した場合は、現実を優先する柔軟さはあるが。

 

それはそれとして、理論をとても大事にする傾向があるのは、前から話していて感じていた。

 

多分プラフタは。

 

無理にその錬金術を実行した結果。

 

世にもおぞましい姿になる事を想像して、苛立っているのではあるまいか。

 

実際あたしの力量は錬金術師としてはまだまだだ。

 

作るものは、客観的情報を見る限り、それなりに良いものを作れてはいる。少なくとも、その辺の錬金術師が独学で作った薬や爆弾より良いものが出来てはいる。これは自分でも思う。

 

だがまだ所詮基礎から抜け出てはいない身。

 

高度な応用は早い、というのだろう。

 

少し考えた後。

 

レシピを提示してみる。

 

プラフタは絶句した後。

 

拒否した。

 

「これは、嫌です」

 

「嫌!?」

 

普通だったら、駄目というのだが。

 

嫌ときたか。

 

まあ自分の姿に直結するのだ。

 

そういう反応が返ってくるのも、まあ不思議では無いといえばそうか。

 

「ですが、これはこれで面白いですね。 少しレシピを改良して、別の道具の作成に生かしてみましょう」

 

「はーい」

 

レシピに手を入れようとした瞬間。

 

ドアがノックされる。

 

そして、顔を見せたのは、珍しくホルストさんだった。

 

重要な話があると言う。

 

プラフタも来て欲しいというので、同行することにする。

 

カフェで話すと言う事は。

 

恐らくキルヘン=ベル全体に関連する事だ。

 

なるほど、それでは出ないわけにはいかないだろう。

 

一旦作業は中断。

 

少しばかり切れが悪いところだが、こればかりは仕方が無い。

 

ノーライフキングの討伐が狙いだったら良いのだけれどと。あたしは思った。

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