暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
カフェには街の重役が一通り揃っていた。
現在この街の顔役であるホルストさんを一とした、重要人物が一通りで。それが故に如何に大事な会合か、一目で分かるのだった。
あたしも末席に座る。
プラフタも、何事だろうと、あたしの側に浮いていた。
ホルストさんが、咳払いした後、手を叩いて注目するように促す。
話を始める、ということだ。
「では、少しばかり大事な話を始めます」
「……」
ヤジを入れるものはいない。
ホルストさんは、このキルヘン=ベルを、ずっと守り抜いてきた人で。柔らかい物腰と裏腹に、かなりシビアな判断も躊躇無く出来る人物だ。
戦いの腕前も優れているし。
何よりも、おばあちゃんという傑出した錬金術師がいなくなってからの空白期間、キルヘン=ベルを衰退させずに守り抜いてきた功績は、何処の誰にも真似できないだろう。真似できる人材はいるだろうが、少なくともキルヘン=ベルにはいない。
ベテラン戦士だけでは無く、新人の育成にも熱心で。
モニカやオスカー、あたしに戦いのイロハを叩き込んでくれたのはホルストさんだし。
街の古老達を押さえ込み。
更に古くからいるパメラさんとの折衝もきちんとやっているのは、誰でも認めることである。
会合には、かなりの人数が参加しているが。
実はあたしがこの手の会合に出るのは初めてだったりする。
まあこれに関しては仕方が無いだろう。
錬金術を使えるようになる前のあたしは。
魔術の腕が立つ若造、程度に過ぎず。
街での評価は、自警団で真面目に働き、次代の団長候補として名が上がっているモニカや。
新米ながらもCQCの達人として、要所で活躍しているテスさんにはとても及ばなかった。
やっと今。錬金術の評価で、此処に加わったという事だ。
「まず第一に、この間受け入れた五十人ですが、しっかりキルヘン=ベルに馴染んできています。 もともとノイエンミュラーの作った基礎がしっかりしていることもあり、食糧も足りていますし、対応も素早かった。 おかげで彼らは、この街を支える有為な人材として、今後も活躍してくれるでしょう」
此処で言うノイエンミュラーとは、おばあちゃんの事だ。
ホルストさんは嬉しそうに目を細めるが。
あたしとしては、それが今回の主題とは思えない。
続けてホルストさんは言う。
「そして皆さんも知っている通り、ソフィーの活躍は最近図抜けたものがあります。 故に今後は、重要な話し合いの場には参加して貰う事にします」
「えっ」
「ソフィー、此方に」
不満の視線は。
ない。
それだけはほっとした。
ソフィーは、おばあちゃんと比べると、あまりに非力な錬金術師だ。
ひよっこもひよっこ。
此処までキルヘン=ベルを発展させたおばあちゃんに比べると、とてもではないが比較対象にさえならない。
だが、錬金術の師匠であるプラフタが来たことで。
ようやく貢献は出来るようになった。
特にこの間の難民救出戦では。
ソフィーは大きな功績を挙げた。
それらを評価し。
更に伸びしろを考慮して。
ソフィーを今後街の重役の一人として扱うという。
「ソフィー、挨拶してください」
「分かりました。 まだ未熟の身ですが、よろしくお願いします」
ぺこりと礼をすると。
拍手が起こった。
意外なほど歓迎されている。
そういえば。
前に獣人族のタレントさんに、友愛のペルソナとマイスターミトンについて、これは使えるとべた褒めされた。
爆弾類もいずれも高い評価を受けているし。
山師の薬も、プラフタについに50点評価を貰った。
薬はこの間の疲弊しきった難民達を助けるのに本当に役だったし。
レシピに沿って作った栄養圧縮レーションなども、様々な分野で役立っている。
インゴットやクロースに関しても。
今後どんどん納品してくれと言われているし。
それらを納品していけば。
キルヘン=ベルの基礎的な武装は強化されるし。
今後あたしが力を付けていけば。
インフラの整備も、行えるようになっていくだろう。
街の側にある森も。
もっと拡大していって。
豊かな実りを約束してくれるようになるだろうし。
畑に使える土地なども。
栄養剤などの開発を進めれば。
更に広くなり。
より多くの人が食べていけるようになるだろう。
その辺りを見越しての、重役扱いとなれば。
あたしとしては。
言う事も無いし。
正しく評価してくれていると感じて、素直に嬉しい。
拍手が終わった後。
ホルストさんが咳払いした。
「続けて、今後の主要な戦略に移ります」
来たか。
全員が、背を伸ばすのが見えた。
プラフタも、心なしか緊張したようだ。
「この間の戦いで、近辺の匪賊をほぼ一掃する事に成功しました。 今後、ソフィーの作る錬金術の道具を主力に、装備を充実し。 近辺の安全確保を更に拡大します」
「具体的には」
意見したのはプラフタだ。
流石に肝が据わっている。
錬金術師として凄腕だったという事は。
今の公認錬金術師のように。
街で重役をしていた可能性も高いだろう。
記憶は曖昧だと言う事だが。
多分聞いてみれば、是、と応えが返ってくる可能性が高いはずだ。
「まずは街道の安全確保です。 フリッツ、お願いします」
「了解」
立ち上がったフリッツさんが、近辺の地図を拡げる。
何カ所かに髑髏マークが描かれている。
そして、真ん中辺りにあるのが、キルヘン=ベルか。
地図としての精度は高くないが。
これ、見た事がある。
たしかおばあちゃんが作ったものだ。
「これがキルヘン=ベル。 此処がナーセリー。 そしてこの辺りに東の街。 この辺りに西の街。 西を更に行くとアダレットに。 東を更に行くと、少し大きめの街に出る」
壁に掛けた地図に対して。
フリッツさんが淡々と説明を続ける。
そして、髑髏マークを指しながら。
順番に説明していった。
「これらが、今後倒すべきネームドの生息地だ」
「ネームドとやりあうのか!?」
「今回の一件で、多くの獣が死に、匪賊も勢力をキルヘン=ベルから離した。 この機に、一気に周辺にいる危険な存在を排除する。 少なくとも、街道近辺に近寄ったら死ぬ、くらいの認識を叩き込む必要がある」
厳しいものいいだが。
その通りだとあたしも思う。
ネームドの猛獣になると、下位のドラゴン並みの実力者もいるらしいが。
当然、それらを倒せることを前提に、フリッツさんは話している、と見て良いだろう。
これは本格的に。
あたしの錬金術が頼りにされている、という事だ。
魔術の完全上位存在とも言える錬金術だが。
これがあるとないとでは、集団の戦闘力が桁外れに違ってくる。
この間の戦いでも、強烈な面制圧能力で、多くの敵を塵芥に変えた。錬金術は強力で、あたしの腕は更に伸びる。それを前提に、今の話は進んでいる。
そして、フリッツさんが何カ所かを指した後。
少し大きな音を立てて、どんと拳を叩き込んだのが。
ノーライフキングが住まう洞窟。
通称地底湖である。
この地底湖自体が、周辺に危険な猛獣の住まう場所であり。
生半可な戦力では近づくことも出来ない。
実際ノーライフキングの全盛期には。
周辺で人が襲われた場合。
救出はあきらめろという事が、大前提として周辺の人間に認知されていたほどだ。
おばあちゃんが封印を施した結果。
脅威は減った。
あたしの感触では。
多分倒せる。
だが、フリッツさんは、此処は最後だという。
少し不満だが。
フリッツさんは、順番に言うのだった。
「まず重要なのは、物流の確保だ。 現時点では、相当な腕利きの傭兵がいないと、キルヘン=ベルに商人が到達できない。 その状況を打破するには、周辺街道の緑化、安全化が重要になる。 獣を徹底的に駆除し、匪賊を排除した後は、ネームドのモンスターを仕留めていくことでそれを達成する。 物流の確保が達成出来れば、キルヘン=ベルに安く物資が流れ込み、発展を促せる。 周辺の街にも、同じように恩恵がもたらされるだろう」
「なるほど、周辺の町の発展も考慮に入れての戦略か」
「左様」
ハイベルクさんの問いに。
フリッツさんは大きく頷いた。
これは参考になる。
フリッツさんは広域の戦略を念頭に置いて話をしているわけで。
周辺の都市も、一緒に発展させることを考えている、というわけだ。
そして、あたしが錬金術の道具類をお安く提供できるようになれば。
商人も多数来るし。
その過程で、立ち寄る街なども潤う、というわけである。
更にだ。
フリッツさんは続ける。
「今後隣街と連携していく過程で、ソフィーの道具類は大きな武器になるだろう。 連携して人員を出して貰う事も可能になる可能性が高い」
「なるほど……」
「ただし、ラスティンにはまめに書状を出して、状況を知らせる方が良いだろう。 あまりにもやりすぎると、独立国家を作ろうとしていると勘違いされる可能性がある」
頷く皆。
あたしも参考になるので、何度か頷いていた。
つまりフリッツさんは、広域戦略や、政略の話もしている訳で。
それには、周辺の安全確保を行い。
地固めをする必要がある、という事だ。
「ノーライフキングの討伐は近隣の悲願だが、それは最後にするのも、徹底的に不安要素を潰してから取りかかるため、というわけだな」
「その通りだ」
「なるほど。 納得できる」
「では、皆。 今後はその通りに動きます。 ソフィー」
呼ばれたので、また立ち上がる。
そして、指示を受けた。
「しばらくは、錬金術の技量を磨いてください。 プラフタ、指導を頼みます」
「分かりました」
あたしはぺこりと一礼するが。
プラフタは、少し悩んだ後。
少しだけ、不満そうに言った。
「戦略については理にかなっていると思いますし、私も人間だった頃は、多くの猛獣と戦い、邪神を退け、安全確保のために尽力しました。 しかしながら一つだけ。 錬金術は戦いの道具、と考えて貰っては困ります」
「邪神との交戦経験が!?」
「記憶は曖昧ですが、あったように思います」
「そうですか。 そうなると、貴方は相当な大錬金術師だったのですね。 忠告、肝に銘じておきます」
ホルストさんが大仰になるのも無理も無い。
邪神と言えば、公認錬金術師クラスと、相当な手練れが多数集まって、やっとどうにかできるかできないか、という相手だ。
ジュリオさんが言っていたように。
今でもどうにもならない邪神が、まだまだ多数世界には徘徊している。
この近辺でも、ナーセリー付近で見かけた、という情報もあり。
それが敵対的な存在だったら、それこそキルヘン=ベルを上げての討伐戦になるだろう。
その時、プラフタの機嫌を損ねるのはまずい。
邪神を退けているほどの錬金術師ならば。
相当な力になるのは間違いないのだから。
「ソフィー。 プラフタの記憶回復に尽力を」
「分かりました」
「それでは、此処まで。 解散とします」
全員がカフェから出て行く。
既に夜で、ヴァルガードさんや、この間からこの街に逗留しているシェムハザさんはかなり雰囲気が変わっている。
いずれにしても、今後しばらくは地固めだ。
正式に指定されたとおり、ノーライフキングの撃破は当面先。
少しばかり口惜しいが。
確かに拙速は失敗した場合の痛手が大きい。
フリッツさんのようなベテランの発言となると。
その重みも違う。
あの人はこの間の戦いで見たように、指揮能力に関しても優れている。それだけ修羅場をくぐっているという事だ。
あたしなんかとは、戦略眼も比較にならないわけで。
発言には従うしかあるまい。
アトリエに戻ると。
嘆息。
とりあえず、黙々と納品するべき品を作りながら、今後の戦いに備えて、新しい装備類について考える。
いずれにしても、焦るのは禁物。
片付ける事は幾らでもある。
それらを片付けてから、この辺りの最大の問題にして、禁忌になっているノーライフキングを叩き潰すべきだろう。
それについては。
あたしも、何ら異論は無かった。
だが、それでも何というか。
気に入らないというか。
引っ掛かる。
この辺り、まだ子供なんだなと、苦笑してしまう。
「ソフィー。 作業に取りかかりましょう」
あたしのもやもやを見越したように、プラフタが言う。
頷く。
反発する理由は。
一つも無かった。
※魔族について2
本作シリーズの魔族は、聞き覚えがある名前をしているケースが多い(例外もある)かと思います。
これには理由がありますので、本作を最後までお楽しみください。