暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ですが人々はそれを感謝などしなかったのです。
愚かな人間の行動に二人は心を痛め。
やがて破滅的な出来事を切っ掛けに。
比翼だった二人の間に亀裂が走ります。
街の人口は五百人を超えた。街は川に沿って拡がり続け。そして彼らは比較的幸福度の高い生活を行っている。
流入してくる民も受け入れ。
そして犯罪を犯す必要がない状態にする。
仕事はいくらでもある。
お金も流通している。
どうしても悪さをするものはいるが。
既に充分な数の傭兵や腕利きの魔族がいて。そういった者達をしっかりと取り締まっていた。
プラフタは街を回り。
問題が起きていないか確認する。
最近は、人口がどんどん増えていて。問題も幾つも起きている。この街を目指す人々が、匪賊におそわれる事もあり。
中には、それを専門にする匪賊まで出始めていた。
汚れ役は私の仕事。
そう言って、ルアードが彼らを処理しているが。
あまり生きたまま連れて帰ってくることは無かった。
この間は、50人からなる匪賊に襲われたとかで。
それを聞くと、身を守るためには仕方が無かったのだと、プラフタも心を痛めながら納得した。
一通り、問題が無いことを確認したので。
アトリエとは街の端と端にある、庁舎に出向く。
街の顔役達は揃っていたので。
問題が無いかを聞くと。
彼らの一人が、ルアードは今いないのか聞いて来た。
「ルアードなら、今四つ隣の村を脅かしている悪竜を退治に出向いています。 定期的に人里を襲い、多くの人を喰らって行くというあの悪竜です。 しかし問題なくルアードなら撃破できるでしょう」
「そう評価するのは良いのですが、プラフタ様。 あの小間使いに、いつまでご執心なさるのです」
「ルアードは私の竹馬の友であり同志でもあります。 この世界を少しでも良くするために、錬金術をよく使っていこうと誓い合った仲です。 侮辱は許しませんよ」
「そうはいいますが、プラフタ様。 あの男が、周囲でなんといわれているか知らないわけではありますまい」
顔役は増えてきているから。
中には、最近都会から移り住んできた者もいる。
実は、プラフタとルアードの名前は。既に城壁のあるような街、或いは国家でも噂になっていると言う。
慈愛と博愛で、多くの人々を救った光の錬金術師プラフタ。
残虐なる非道の錬金術師醜悪のルアード。
思わず眉をひそめるプラフタに。
淡々と、髭を蓄え、太ったヒト族の男性は言うのだ。
「あの男は見たところ、邪心を秘めているとしか思えません。 あの包帯の下には、世にもおぞましい病気を持っているとか。 それと聞いたところによると、女にも興味を見せないそうです。 恐らく男性機能が無いのでしょう」
「それが何か」
ルアードはそもそも、重度の病気を幾つも持っていた。皮膚病もそうだが、それ以外もだ。
多くは薬で改善して、致命的なものは全て取り除いたが。
まだ回復していない病気もある。
皮膚病の幾つかは何をやっても改善せず。少なくともルアードは、人前で自分の顔を見せるつもりはないようだった。
生殖機能がないとしても不思議では無い。
そういえば、プラフタはどちらかと言えば色恋沙汰には興味が無い方だが。ルアードとの関係は非常に珍しいらしいと、最近は悟るようになって来た。そもずっと一緒に暮らしてきたから、今更男女としての関係、云々の話は滑稽というのはある。それに、ルアードが病気を持っていて、生殖機能が仮に欠損していたとしても。それが錬金術師としてルアードが今までやってきた事と何の関係があるのだろうか。
また、錬金術が単純にとても楽しいという事もある。これに関してはルアードも同じらしい。
新しい技術を見つけて。そして腕が上がる度に悟る。これは神々の御技だ。摂理さえ曲げることも難しくない。
新しい発見があると、二人で共有して、更に伸ばす。
だから二人で錬金術は上手くなってきたし。これからもそうするつもりである。ルアードを馬鹿にする相手は、そういう意味でも許せなかった。
「この街も大きくなりました。 そろそろプラフタ様も、街の安定のために身を固めては如何でしょうか。 錬金術師としてルアードが優れているのなら、後は全てルアードに任せれば良いでしょう」
「街の安定のために? 私はそもそも……!」
「誰もが笑顔で暮らせる世界など、ただの妄想でしかありませんよ。 いい加減童女のような妄想からは逃れて、現実的にものを考えるべきではありませんかな」
からからと笑う者達。
顔役達全員がそれに同意していた。
悟る。
此奴ら。
いつの間にか、プラフタの名前を利用するだけ利用して。後はその存在も利用しようと考えていたのだと。
そういえば、ルアードが言っていたではないか。
今の顔役達には明確な悪意がある。
あまり信用するなと。
目を細める。
これでも、数多の戦いをくぐり抜けてきたのだ。
彼方此方の街を救う過程で、匪賊ともドラゴンとも戦った。下級だが、邪神とさえも交戦し、退けた。
今でも、街の人々のために、無償の医療を続けている。
それなのに、このような考えを持ち。
プラフタを侮り。
何より同等に街に貢献してきたルアードを馬鹿にするというのか。
ふつりと。
何かが頭の中で切れる音がした。
「良いでしょう。 そのような考えを皆が持つのなら、私はルアードと共に街を去ります」
「な……」
「私は本気です。 そもそもお金が欲しくて街を大きくしたのではありません。 多くの人々が苦しむこの世界を、少しでも良くしようと努力を続けた結果、街が大きくなっていっただけです。 貴方たちの誰かに体を預けて子を産むつもりはありませんし、ましてや妻となって政権の傀儡になるつもりもありません」
立ち上がる。
待ってくださいと、蒼白になった顔役達が言うが。
プラフタは自分の女になれと迫ってきたあの師匠に向けたときと同じ。
完全な軽蔑の視線を、彼らに向けていた。
「ヒト族による統治には問題があるかも知れませんね。 真面目で手先が器用なホム達に顔役になって貰いましょうか」
「そんな、冗談です、冗談です! 今まで通りの活動をお続けください!」
「それは貴方達次第です。 それに、今までの発言が冗談では無かった事くらい、人間の悪意に疎い私にさえ分かります」
そもそも、おかしい。
どうしてルアードはこうも評価されない。
プラフタのものと同等の品質の薬を造り。
今でも、プラフタが苦手な汚れ役を積極的に買ってくれている。
それなのに、だ。
そして致命的な事件が起きる。
どうやら顔役達が雇ったらしい本職の暗殺者が。ドラゴン退治で総力戦を行い、疲弊して戻ってきたルアードを。街のすぐ外で襲撃したのである。
血迷った顔役達は、自分達の権力を守るために。プラフタとルアードを排除するつもりになったようだった。
自分の立場が劇的に改善するまでは、人権さえ無かった。だから、プライバシーには一際神経質だったプラフタだが。
その光景には、血が沸騰するかと思った。
ルアードがどうにか暗殺者を撃退し。
血だらけで街に戻ってきて。
それでいながら誰も助けようとせず。
慌てて駆け寄り、アトリエに運び入れ。
ルアードの部屋に始めて入って。
そして知った。
何だこれは。
自分の部屋とは違う、完全な欠陥住宅だ。
壁はボロボロ。
床も酷い。
窓に至っては、すきま風が入り込んで来ている。
手入れを怠ったからこうなったのでは明らかにない。どちらかといえば私生活はずぼらなプラフタの部屋も、今の時点では充分な状態なのだ。これは昔住んでいた家と同じレベルでは無いのか。
ルアードは、自分の部屋を見た時、こう言った。これでいいと。つまり、最初から、余計な軋轢をおこしたくなかったのだろう。
思わず歯を食いしばるが。
今はやらなければならない事が先にある。
ルアードは死にかけている。ドラゴン戦後の消耗。その上で暗殺者に、毒入りのナイフで刺されたのである。
毒消しは入れているが。予断を許さない状態だ。
兎に角治療はしなければならない。
最高ランクの薬をつぎ込んで、ルアードを治療する。それこそ、摂理に反しての回復さえするような薬だ。それでもすぐには回復しない。
余程厄介な毒を突っ込まれたらしい。或いは錬金術で作った毒かも知れない。
錬金術は上達すればするほど分かったが、世界のルールそのものにさえ干渉する。最高位ランクの錬金術師の手による毒となると、或いは神さえ殺せるかも知れない。
幸い、この毒は其処までの代物では無い様子だが。
それでも人間であるルアードには過剰すぎる毒だった。
熱が引かないルアードの手当は、三日三晩に及んだ。
ルアードの意識が戻ったときは涙が流れたが。
それでも、まだ当面は安心も出来ず。
街の連中がプラフタに冷たい目を向けているのを無視し。
治療を続けた。
やがて、ルアードの意識もしっかりしてきたので。
ベッドの横に腰掛けて、何が起きたのか話す。
顔役達の話を聞くと。ルアードは、それは本当だと話した。
「どういうことですか」
「私には男性機能が無いらしい。 顔役達がいわゆるハニトラのつもりでだろう、娼婦を何回か寄越したんだよ。 だけれども、普通なら出来る事も出来なくてね。 元々内臓としての生殖器が機能していないんだよ」
「そんな事はどうでもいい! 貴方は優れた錬金術師で、私と同格の……」
「……ありがとう」
何だろう。
わずかな拒絶が其処にあった気がした。
いずれにしても、もうこれは我慢がならない。このアトリエは貰っていく。そしてこの街はもう去る。
ルアードの体調が回復するまでの間を使い、アトリエの加工を開始。
既に街の中では、顔役達が流した噂が蔓延していて。
プラフタが一方的に発狂しただの。
ルアードが残虐行為の末に匪賊の派遣した暗殺者に自業自得で刺されただの。
好き勝手な話が流れ続けていた。
もう誰も。
プラフタとルアードを人間として見ていない様子だった。
頃合いだろう。
この街には、あらゆる善意と努力をつぎ込んで。困っている人達を助けてきた。それなのに、こういう事を返されるのなら。
此方も去るしか無い。
ただ、それでも。
全てのヒトに幸せになって欲しいし。
この世界は少しでも良くなって欲しい。
その事に代わりは無い。
だから、作業が完了後。
プラフタは。空間ごと。アトリエを、この街から離れた山中へと移動させていた。
ごっそり何も無くなったアトリエ。
錬金術による産物という、最大の資金源が無くなった街がどうなるか。
それは錬金術師を追い出した、彼ら自身が責任を取るべき事だ。
ルアードはそれを聞いてもまだ街のことを心配していた。顔役達さえ排除すれば、どうにかなったのではないのか、というのである。実際、顔役達を信用するべきでは無いと、ルアードはずっと言っていたし。悪意に関しては、ルアードは兎に角鋭かったのだ。その言葉は最悪の意味で適中してしまった。
遙か遠く。もう地平の先にも見えない街の方を見るのさえ。プラフタには嫌になっていた。
もうあの街がどうなろうと。
知った事では無かった。