暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
文字通り滅茶苦茶に粉砕された巨獣の死骸を調べる間。フリッツさんとジュリオさんは、周囲を見張ってくれていた。
二人はまだ多少余裕があるようだが。
他の皆は、全員がまずモニカの手当を受け。
傷薬を塗りこんで。
それからでないと動けなかった。
モニカとレオンさんを吹っ飛ばしたあの聞こえない音の衝撃は。
全員の肌を切り裂いていた。
友愛のペルソナの防御を貫通するほどの火力があった、という事だ。
更には、レヘルンの強烈な冷気。
離れていたとは言え、皆も食らっていたし。
フラムによる爆圧もそう。
何より、巨獣の「圧」も皆の精神に大きな負担を掛けていた。奴のパワーはびりびり感じるほど凄まじかった。
最初にコルちゃんが奇襲を貰っていたら。
多分即死だっただろう。
並のキメラビーストなどとは、比較にもならない実力だったのだ。
これが、ネームドの実力。
なるほど、軍でさえもてあますわけだ。
オスカーが手を振って来る。
「ソフィー、コレ見てくれよ」
「どれどれ」
奴のバラバラ死体だが。
その一部。
左腕の辺りは、比較的生のまま残っていた。
これは、使えるかも知れない。
慎重に毛皮を剥がす。
素晴らしい毛皮だ。
それだけではない。
爪もいい。
爪はそれそのものを武器にできるほどの鋭さで。何より巨大で重厚。重さからして、ただの爪とは思えない。
キメラビーストが本来存在し得ない生物だという事を考えると。
金属が含まれているのかも知れない。
頭だったらしい部分も確認するが。
此方は文字通りぐちゃぐちゃ。
ただ、牙は何本か、採取することが出来た。
皮は本職のレオンさんに渡して、加工して貰う。
すぐになめし始めてくれた。
その間、半生になっている死体の中から、使えそうな部分を回収し。
後は砕いて焼いてしまう。
フリッツさんに声を掛けるが。
今の時点で、此方に来ようとしている猛獣はいないという。
「沈黙の魔獣が死んだ事は、皆気付いたのだろう。 それほどの相手に仕掛けてくる勇気は、どいつにもない、ということさ」
「……早めに戻りましょう」
「それがいい」
死体の処理を急ぐ。
あたしが魔術で火を熾す。
エリーゼさんほど巧みにはいかないが、それでも半生の死体を焼き尽くすくらいはさほど難しくも無い。
その間、コルちゃんは。
薬と爆弾の在庫のチェックをしてくれた。
死体を焼いている間に。
周囲の素材を集める。
水辺を覗いてみたが。
どうやら猛獣は今の戦いを察知して、距離を取っているらしく。幾らかの採集は出来そうだ。
水は非常に汚染されているが。
鉱物や植物に関しては、面白い素材が取れるかも知れない。
また、水辺にある貝殻なんかも、錬金術で生かせる可能性がある。
死体の処理が終わってから。
水辺に降りて。
フリッツさんに周囲を警戒して貰いながら。
荷車がいっぱいになるまで。
素材を集めた。
全てが終わった頃には。
皆の休憩も終わったが。
代わりに夕方になっていた。
昨日キャンプした地点まで、急いで戻る。流石に此処でキャンプする度胸はあたしにもない。
一応、沈黙の魔獣の半壊した頭だけは、油紙に包んで持ち帰ってきた。
だが、沈黙の魔獣が死んでも。
彼処が危険地帯なのは代わらない事実なのだ。
夜が更ける。
交代で休憩に入る。
ふと、フリッツさんが、あたしに聞いてくる。
「時に君は、この世界を少しでも良く出来ると思っているらしいな」
「少なくとも、創造神が手を抜いているのは事実だと考えています。 モニカとはそれで何度も喧嘩になりましたが」
モニカが寝入っているのを確認してから、そう答える。
フリッツさんは、苦笑した。
「創造神と言えば、傭兵の間で噂がある。 実在しているらしいと」
「邪神がいるくらいです。 実在していても不思議では無いでしょう」
「いや、そういう意味では無く、会った者がいるそうだ。 ただ、どれも良い評判は無くてな……教会の方でも、そういった噂には箝口令を掛けている節がある」
ふむと、あたしが頷くと。
フリッツさんは、流石にそれ以上は知らないと、口を閉ざした。
激しい戦いは勝利に終わったが。
あたしはまだまだ一人前の錬金術師には遠い。
もっと、色々な事が出来るようにならないと。
そう思いながら。
焚き火にもう一つ、薪を放り込んでいた。
(続)
激戦の末、ネームドを撃ち倒す事に成功したソフィー。
まだまだ満足は一切していません。
その渇望はエゴとは違います。
人間が持つ生半可なエゴとは違い、全てを焼き尽くすような凄まじさなのです。