暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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歴代アトリエシリーズでも、原作ソフィーのアトリエでは「錬金釜」の変更をする珍しい要素がありました。

この話ではその錬金釜の変更を扱います。

原作ソフィーのアトリエ以降は使われなくなってしまったのですが、それは原作ソフィーのアトリエでの錬金術システムを一度でも触ってみれば理由はわかると思います。


更なる深淵
序、釜の限界


錬金術には、どうしても釜が必要になる。必ずしも釜を必要とする調合ばかりではないのだが。それでも必要になってくる。

 

釜は常に清潔に保ち。

 

錬金術を行う際は、クリアな状況に保たなければならない。

 

釜を洗う時は熱した蒸留水で。

 

それも念入りに。

 

釜には埃一つ入ってはいけない。

 

汗を落とすなんてもってのほか。

 

そして、釜は。

 

正確に温度を伝え。

 

そして調合そのものに干渉してはならない。

 

勿論現実的には、いずれもが不可能だ。

 

だが錬金術が高度になればなるほど。

 

不可能に、限りなく近い事を実施できる釜が必要になってくる。

 

当然のことながら、究極の釜も錬金術で作る事が出来るのだが。

 

とんでもない値段がつくそうだ。

 

プラフタに言われた値段を聞いて、あたしは血の気が引くのを覚えた。

 

多分冗談抜きに。

 

キルヘン=ベルを丸ごと買える値段である。それも数個まとめて。

 

「勿論それは最高位の錬金術を最高精度で行うために必要な釜の話です」

 

「……あ、ハイ」

 

「どうしました」

 

「うん、流石にちょっとあまりにも現実離れしすぎてるから、その値段とか、色々と」

 

現実離れしているのは値段だけでは無い。

 

そもそもその釜は。

 

完全に気密状態が保たれる部屋に置かなければならない。

 

具体的には、常に完全に同じ状態が保たれるように、最高難易度の錬金術で作り上げた気密室なるものに配置し。

 

その気密室は、それこそ上位次元に干渉して作り上げるものだという。

 

上位次元というものについては、プラフタから説明は受けたが。

 

いずれにしても、遠すぎる。

 

こんな話をしているのも。

 

おばあちゃんが使っていた錬金術の釜が。

 

良い釜ではあるけれど。

 

そろそろ限界が来ていると、プラフタに断言されたからである。

 

どうせ使う道具だ。

 

一番良いのがいい。

 

そう思って聞いてみたら。

 

とんでも無い応えが帰ってきた。

 

そういう事である。

 

「もっとも、そんな錬金釜を使っている錬金術師は、恐らく現在の世界にも数人もいないでしょう」

 

「それを聞いて安心したよ」

 

「しかし、貴方はいずれそれらの錬金術師を越えていかなければなりません」

 

「……うん」

 

プラフタが言っていることは分かる。

 

あたしがこの世界に不満を持っていることは、もうプラフタも知っている筈だ。

 

そしてこの世界には創造神がいるらしい。

 

フリッツさんにもその話は聞いたし。

 

邪神が多数群れているのだ。

 

創造神が何処かにいることは、不思議でも何でも無い。

 

この狂った世界を変えるには。

 

創造神を叩き起こすしか無い筈で。

 

それには当然ながら。

 

数多の邪神を越える力を持ち。

 

それこそ、世界の摂理に直接干渉できるレベルの力を持つ創造神を、ねじ伏せなければならない。

 

当然のことながら。

 

今プラフタが上げた「最高の数人」でさえ、そんな実力は持っていないだろう。

 

つまりいずれは。

 

そういった凄い釜を自作するか。

 

もしくは買うことは。

 

必須になる。

 

そういう事である。

 

「プラフタは、人間だった頃にそんな凄い釜を使っていたの?」

 

「いいえ。 私は……記憶がやはり曖昧ですが、最初は錬金術の道具ともとてもいえないようなものを使い。 偶然手に入れた本で四苦八苦しながら、友と一緒に錬金術をしていたように思います。 力量がついてからも、環境こそ整えましたが、其処までの素晴らしい釜は結局手に入れる事は出来ませんでした」

 

「ということは、最低でも昔のプラフタを越えなければならない、って事だね」

 

「そうなりますね」

 

そうか。

 

プライドが高いプラフタがあっさり認めたのだ。

 

簡単な道では無い事は確かで。

 

そして更に言うならば。

 

もしも本当に其処までやるとすると。

 

恐らくは国家レベルでの影響力が必要になるし。

 

今ある二大国。

 

アダレットとラスティン。

 

どちらにも大きな恩を売るくらいでは無いと話にならないだろう。

 

アダレットはともかく、ラスティンは錬金術国家と呼ばれるほどで、国家元首も公認錬金術師だと聞いている。

 

辺境のキルヘン=ベルだとまったく実感は無いが。

 

少なくとも首都ライゼンベルグでは、当たり前のように錬金術師が往来を闊歩しているという。

 

ただし、そのライゼンベルグ近辺でさえ、ネームドの猛獣や匪賊の跳梁跋扈は止まっていないらしく。

 

それらを根こそぎ駆除すればあたしの社会的発言力は上がる。

 

少なくとも、以前ジュリオさんに聞いた、まだ退治できる見込みも無い邪神ども。

 

此奴らを駆除すれば。

 

相当な恩を売る事が出来るはずだ。

 

勿論相応に恨みも買う。

 

自衛のために。

 

力も付けなければならない。

 

それこそ、匪賊なんぞなんぼ掛かって来ても、瞬時に返り討ちに出来るほどの力を、だ。

 

ぐっと拳を握り混む。

 

最近は、ますます雑音がクリアに聞こえるようになって来た。

 

これが本当に意味を成す音として聞こえるようになるのか。

 

正直実感が無い。

 

いずれにしても、釜の修繕が必要だと言うことは分かった。

 

プラフタに、どうせ治すならすぐが良いと提案。プラフタも前向きな言葉だと喜ぶ。

 

具体的にどうすれば良いかは。

 

ロジーさんを呼んで欲しいと言う。

 

後、此方でも用意するものがある。

 

品質の良い金属と。

 

錬金術で強力に変質させた塗料。

 

それに何種類かの薬品が必要らしいが。

 

それらについては。既に作り置きがある。

 

そういえば、プラフタに言われて、用途がよく分からない薬品を、ここしばらく何種類か錬金術で作ったと思ったら。

 

そういう事だったのか。

 

まあいずれにしてもだ。

 

やる事は、一つずつ順番に片付けていく。

 

それだけである。

 

まず、金属について。

 

インゴットで、出来るだけ品質が良いものを出していく。こうしてみると、遠くまで採集に行けるようになった結果、良い鉱石を集められるようになり。更にあたしの錬金術の腕前が上がったこともあって。インゴット自体の品質は目に見えて良くなっている。

 

錬金術で強力に変質させた銀も、かなり良い評価をプラフタに貰っている。残念ながらまだ50点前後だが。

 

それでも、最初に作った頃に比べると、雲泥だ。

 

それらの中から、プラフタが幾つかを選ぶ。

 

そして、増やせと言われた。

 

「コルネリアに頼んで、増やして貰ってきなさい」

 

「こんなに!?」

 

「倍は必要です」

 

「へえ」

 

新しく作るよりも、今は一番良い手札を使うのが先、という事か。

 

いずれにしても、お金は充分にある。

 

薬品に関しては、別に問題は無い。

 

まず、コルちゃんの所へ。

 

どっさりインゴットを持ち込むと。コルちゃんは口元を抑えた。目を細めている様子からして、金の臭いを喜んでいる顔だ。

 

「これをそれぞれ倍に増やして貰える?」

 

「了解なのです。 ただし相応のお金と時間が掛かるのです」

 

「構わないよ」

 

「分かりました。 それでは前払いで」

 

コルちゃんは特殊な計算機を使う事もあるけれど。恐らく、ものを増やすホム特有の錬金術に関しては、自分の能力であるが故に把握しているからなのだろう。インゴットの数を見て、即時で値段を口にした。

 

勿論値切るつもりはない。

 

コルちゃんは誠実な商売をするし。

 

提示された値段は妥当だ。

 

今までコルちゃんには色々なものを増やして貰ったが。

 

いずれも元とまったく品質で劣る事は無かったし。

 

そういう意味で、彼女の商売には敬意を払える。

 

どっさりインゴットを渡したので、まあ時間が掛かるのも仕方が無い。彼女の錬金術は、ただでさえリスクを伴うのだ。

 

続けて、ロジーさんのお店に。

 

ロジーさんは、丁度槍を打っている最中だった。

 

前に折れてしまったレオンさんの槍である。

 

槍と言っても、簡単な武具では無い。

 

柄の材質をどうするか。

 

刃の形状をどうするか。

 

話によると、古い時代の鍛冶では、複雑な形状の刃は作れなかったらしく。鎧も今のようなプレートメイルなどは作れなかったという。

 

冶金、というらしいが。

 

その技術も、神話によるとヒト族が機械の技術と共に持ち込んだそうだ。

 

当然技術にはばらつきがあり。

 

腕の良い鍛冶屋は、商売に困る事が一切なかったとか。

 

まあそれもそうだろう。

 

ロジーさんは、しばらくハンマーを振るって赤熱した棒を叩いていたが。やがて、顔を上げた。

 

「ソフィー、仕事か?」

 

「はい。 ちょっと大きな仕事を頼みに来ました」

 

「大きな仕事か。 分かった、これが終わったらアトリエに行くよ」

 

「お願いします」

 

頭を下げた後。

 

モニカを見かけたので、声を掛ける。

 

事情を話すと。

 

彼女は眼鏡をちょっと直した。

 

「それならば、アトリエを掃除しておいた方が良さそうね」

 

「そうか。 結構神経質な仕事になるかも知れないしね」

 

「それと、釜が一日で出来るとは思えないわ。 その間は、採集にでも出かけた方が良いのではないのかしら」

 

それもそうだ。

 

そうなると、この間沈黙の魔獣を葬り去った途中で、幾つか気になる場所があった。

 

山師の水辺の周囲は酷く汚染されていた川だが。

 

川の途中には、綺麗な澄んだ水が流れている場所もあり。

 

そういった所の周辺は、この荒野に満ちた世界には珍しく、草原になっていたり、森があったりした。

 

探してみれば、珍しい素材が見つかるかも知れない。

 

鉱石系の素材に関しては、何カ所かおとくいさんになっている場所があるので。

 

今は薬剤の材料が欲しい所だ。

 

一旦アトリエに戻ると。

 

プラフタと話をする。

 

モニカはついて来ると、早速問答無用で掃除を始めた。プラフタはそれを横目に呆れた口調である。

 

「本を何処にしまうかなどは、モニカが完全に把握していますね」

 

「えへへ、面目ない」

 

「今後、このアトリエの内部空間を拡張したり、他の場所と接続したりする必要が生じてくるでしょう」

 

「えっ!?」

 

聞き慣れない言葉に、モニカが驚いた様子で此方を見る。

 

咳払いをすると(いつもながらどうやっているのかよく分からないが)。

 

プラフタは、モニカにも聞こえるように説明してくれる。

 

「ソフィーが更に先を目指す場合、このアトリエは狭すぎます。 恐らく上位次元に干渉して、内部空間を拡大する必要が出てくるでしょう。 アトリエの広さはこの二十倍前後は欲しい所ですね。 後は魔術関連の設備と、星を読むための空間、それに倉庫と書庫が必須です」

 

「それ、丸ごとキルヘン=ベル買えそうだね……」

 

「いずれ、の話です」

 

「まあそうだけれど」

 

モニカがスケールのあまりに大きな話に驚いているが。

 

確かに言われてみれば、錬金術は神の御技に等しいのだ。

 

今後も力を付けるとなると。

 

それくらいの事はしていかなければならないだろう。

 

このアトリエは、あくまで「家」だ。

 

「家」を主体にアトリエの機能を付けているだけで。

 

それこそ今後は、お城のようなサイズのアトリエが必要になってくるのかも知れない。

 

本だって幾らでもいる。

 

プラフタに座学で錬金術を習うのも、そろそろ考え直す時期が来ている。

 

ようやく本の読み方のコツのようなものも分かってきたし。

 

自分で本を読んで。

 

知識を独力で増やしていかなければならない、という事だ。

 

とにかく、てきぱきとモニカが片付けを終えた丁度くらいに。

 

ロジーさんが来る。

 

プラフタが、話を始めたが。

 

ロジーさんと、かなり専門的な用語を応酬していた。

 

本職並みの知識がある、という事だ。

 

流石である。

 

記憶が曖昧でも。

 

錬金術関連に関しては、相当なものだ。

 

「なるほど。 一応俺の技術でどうにか出来ると思うが、しかしかなり掛かるぞ」

 

「代金なら、ソフィー。 出せますね」

 

「まあ今の時点では有り余っているくらいだからね」

 

「剛毅だな。 分かった。 引き受ける」

 

後はコルちゃんとの連携か。

 

一応、薬品類については、金属で釜を作ってから、プラフタが指導しつつ、あたしが処置をする事になった。

 

ロジーさんがやるのは。

 

コルちゃんからインゴットを受け取り。

 

それを成形して。

 

釜の形にし。

 

そしてアトリエに持ち込むまでだ。

 

話によると、一週間ほど掛かるそうである。

 

なお代金だが。

 

プレートメイルが三着くらい買える金額を請求された。

 

正直な所、木造で良いのなら家が買える値段である。

 

しかしながら、これは錬金術の釜が如何にお金が掛かるもので。

 

錬金術そのものが、この世界では敷居が高く。

 

あたしがそもそも相当な幸運で錬金術に触れている事も意味していた。

 

だが、嬉しい幸運では無い。

 

この才能が、限られた人間にしかないことが原因で。

 

あたしは。

 

まあ、それはいい。

 

今はぐっと押さえ込む。

 

いずれにしても、釜を持ち込む前後は、この家は留守にして、好きに触れるようにして欲しい、というロジーさんの話だ。

 

採集に出かけた方が効率的だろう。

 

一緒に、古い方の錬金釜は、そのタイミングで片付ける。

 

売り払うのでは無い。

 

最悪の場合に備えて、とっておくのだ。

 

幸いコンテナには入れる余地があるので、何ら問題は無い。

 

一通り話が終わったところで。

 

外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。

 

出かけるのは明日からか。

 

嘆息すると、モニカに夕食を振る舞う。

 

掃除をしてくれたのだから、これくらいは当然だ。

 

軽く憩いの時を過ごす。

 

あたしは分かっている。

 

精神がぐらつく時は。

 

非常に自分が危うくなることを。

 

そういうときは、手当たり次第に目に映るものを引き裂きたくもなる。

 

あたしは魔術も使える。

 

コルちゃんが、インゴットを増やすのに幾ら掛かるか、即時にはじき出したが。あれは体の一部も同然だからできた事。あたしにとっては魔術がそれだ。

 

あたしは元々腕力が強いが。

 

魔術で補強すれば、人間くらいは簡単に引き裂けるし。

 

フラムを魔術でコーティングして、音に近い早さで投げる事だって出来る。

 

この間沈黙の魔獣を叩き潰したときに、そうしたように。

 

呼吸を整える。

 

モニカはあたしが自分の内なる獣と戦っている事を知っているから、だろう。

 

何も言わない。

 

あたしも、自分で獣を押さえ込む。

 

獣を出すのは。

 

戦う時だけで良いのだ。

 

「採集の話、覚えておいて」

 

「分かっているわ」

 

食事を終えて、その片付けもして。モニカが帰る。

 

あたしは、行き場の無い破壊衝動を。飲み下すしかなかった。

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