暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

42 / 126
次々に実用的な道具の改良を行っていくソフィー。

力は際限なく、右肩上がりに伸びていきます。

その内に秘めたドス黒い炎が燃えさかるように。


1、荒野のあれこれ

荷車が軽い。

 

車軸に使っている素材を、改良したのだ。

 

具体的にはインゴットを伸ばして、車軸の部品に変質させた金属を入れた。その結果、軽い上に丈夫になり。更に油を差さなくても、鋭く動くようになった。金属特有の擦れる音もしない。

 

この様子なら。

 

荷車そのものを、もっと大きくする事も可能だろう。

 

街道を行く。

 

一緒にいるのは、モニカとオスカー。レオンさんとジュリオさん。

 

今回は、ハロルさんは、会合がどうだので来てくれなかった。フリッツさんもである。

 

どうやら、東側の隣街との協議を行うらしく。

 

この間の難民への対応が著しくまずかったこと。

 

それに対して、此方が恩を着せたこと。

 

それらを確認し。

 

更に、街道警備についても、話し合いをするそうである。

 

もっとも、キルヘン=ベルには錬金術師であるあたしと。おばあちゃんと一緒に各地を回った強者達がいて。

 

隣街ではそうではなかった。

 

それはどうしようもない事実でもあるので。

 

此方でも責め立てるつもりは無く。

 

ただ、街道警備について話し合い。

 

きちんと向こう側にも担当をして貰う事。

 

更にはキルヘン=ベルで錬金術の道具類が買える事などを、宣伝して貰う事。

 

そういったことを、話し合うそうである。

 

一応あたしも重役の一人。

 

この辺りの事情は知らされている。

 

とはいっても、プラフタががみがみ言うように、まだまだひよっこである事には違いない。

 

経験も応用も足りない。

 

だから今日も。

 

おばあちゃんの残した図鑑を引っ張り出して。

 

採集に来ているわけなのだから。

 

周囲を確認して、地図と影の向きと長さから、現在地点を特定。川に沿って北上しているつもりでも。いつのまにか、とんでもない場所に迷い込んでしまう事は、時々あるのだ。

 

ましてや、山師の水辺で見たあの汚染。

 

どんな風に生物が異常変化しているか。

 

知れたものではない。

 

人間を遙かに超えるサイズの猛獣が、群れを成して襲ってくる可能性もある。

 

フリッツさんがいない今。

 

出来れば、極端に手強い相手との戦いは避けたいものだった。

 

草原地帯に出る。

 

地図を見ながら、確認。

 

どうやら、幸いにも。

 

予定の場所に到達したようだった。

 

草原の外側に荷車を止め。

 

レオンさんに見張りをして貰う。

 

それから、オスカーに頼んで、植物の声を聞いて貰いながら。

 

薬草や。

 

薬効のある昆虫類。

 

木の実などを集める。

 

モニカはげんなりした様子で見ているけれど。

 

それでも、オスカーが的確に薬草やら害虫やらがある場所いる場所を当てているのを見ると。

 

流石に文句を堂々とは言えないようで。

 

苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「モニカ、まだ信じていないの?」

 

「だってそんな力、聞いたこともないですもの」

 

「あたしも似たような力はあるんだけれどなあ」

 

「貴方は錬金術師でしょう」

 

オスカーも。

 

案外錬金術師としての力はあるのかも知れない。

 

ただ、オスカー本人が、世界中の植物と友達になりたいとか言う、途方もない野望を時々口にしているので。

 

錬金術をするつもりは無さそうだが。

 

「あ、ソフィー。 足下」

 

「おっと」

 

芽を出したばかりの薬草だ。

 

これは流石に摘むわけにはいかないし、踏みにじっても駄目だろう。

 

充分に素材は集めた。

 

ジュリオさんが、注意の声を掛けてくる。

 

「川に陸魚がいる。 気を付けるんだ」

 

「はーい」

 

川から距離を取る。

 

見ると、かなり大きな奴が此方を伺っている。

 

しかも、である。

 

いわゆる亜種だ。

 

それも大型の奴である。

 

陸魚の中には、頭から角が生えている奴がいる。

 

正確には角では無く、牙が変化したものらしいのだが。この角が生えている通称「イッカク」は獰猛な上に体が大きく、当然のように角も武器として使ってくる。破壊力は凄まじく、突進してくると、盾なんぞ役にも立たないそうだ。

 

今、向こうは此方の戦力を見て、問答無用の攻撃は控え、威嚇してくるに留まっている。

 

別に殺す必要もないだろう。

 

しつこく追ってくるようなら話は別だが。

 

草原を離れると。

 

イッカクも、川の中に戻っていった。

 

荷車にはまだ余裕がある。

 

途中、目立つ猛獣を時々駆除しながら。

 

川沿いにもう少し北上。

 

草を踏みつぶさないように気を付けながら。

 

森の側に出る。

 

荒野では珍しい森だ。

 

猛獣もそれは理解しているらしく。

 

こういった森では、あまり暴れるような真似はしない。

 

荒野の中に森が自然に出来る事が、どれだけの奇蹟か、動物でさえ理解しているのである。

 

家などを建てるとき、木を切り出すときも。

 

強欲なヒト族でさえ、念入りに吟味して。森に負担が掛からないように気を付けるほどなのだ。

 

また、キルヘン=ベル近くにはおばあちゃんが作った森があるけれど。

 

この森でも、猛獣が入り込む事はたまにあるが。

 

人間が襲われることはない。

 

そういうものなのである。

 

ただ、植物が汚染などで異常な攻撃性を身につけていたり。

 

あるいは強烈な食虫植物になっていたり。

 

そういうケースはある。

 

食虫植物と言っても。

 

サイズによっては、人間を襲おうとするケースもある。

 

オスカーも、植物とは友達になれると豪語しているが。

 

流石に悪意をもって襲ってくる植物の存在は認識しているらしく。

 

そういうのが近くにいる場合は。

 

警告をきちんとしてくれる。

 

ただ、食虫植物で薬効があるケースもあるので。

 

場合によっては、危険を承知で切り取ったりしなければならない場合もある。

 

森の中は静かだ。

 

豊かな恵みを分け合うようにして。

 

荒野で疲れ果てた獣も。

 

静かにしている。

 

キメラビーストが横になって眠っていて。

 

その側で、ウサギが草を食んでいる。

 

普通だったら考えられない光景だが。

 

こういった、奇跡的に出来た森では、見かけることが出来る。

 

ただ、夕方以降は霊が現れるケースがあり。

 

そいつらは無差別に襲ってくるため。

 

獣も警戒するようだ。

 

好戦的では無い獣を敢えて刺激する事も無い。

 

木の実や樹液。

 

或いは植物性の油などが取れる、食用には適さない木の実などを選んで、回収していく。

 

作業中は無言だ。

 

全て意思疎通はハンドサインで行う。

 

一通り必要なものが揃った所で、森を出る。

 

じっと此方を見ている視線があるが。

 

いずれもが、警戒をしているものであって。

 

獲物を狙うものではなかった。

 

此処では暴れるな。

 

そう獣たちも言っている、というわけだ。

 

勿論あたしもそんなつもりはない。

 

森を出て、一通り必要な物資は揃った。

 

川沿いだったので、魚なども少し採集したが。これはひやひやだ。陸魚のような獰猛なのもいるし。

 

何より水の中から奇襲を受けて引きずり込まれると、助からないケースも多い。

 

荷車を整理して、収穫を確認していると。

 

モニカが手伝ってくれた。

 

「コルネリアさんがいると、やはり倍は速いわね。 今回はいないから、倍は遅い」

 

「仕方が無いよ。 コルちゃんには、釜の関係で、結構無理して貰ってるからね」

 

「釜が変わると、錬金術の精度も上がるのかしら」

 

「こればっかりはあたしもやったことがないから何とも。 ただプラフタはもう釜が限界だって言っていたから、少しは良くなるとは想うよ」

 

確認完了。

 

後は帰り道に見かける獣なんかを適当に狩って。

 

肉や毛皮を収穫すれば、それで終わりだ。

 

ただ、少し時間が余るかも知れない。

 

ジュリオさんに提案される。

 

東の街に、足を運んでみないかと。

 

街道を使ってもキルヘン=ベルまで四日かかるが。

 

それが故に、確かにあたしもあまり足を運んだことが無い場所だ。行ってみても、悪くは無いか。

 

丁度南下すると街に着く。

 

上手くすると。

 

商人にかち合うかも知れない。

 

珍しい品を買えるかも知れないし。

 

それ以上に、ひょっとすると、キルヘン=ベルへの護衛を頼まれるかも知れない。

 

いずれにしても、あたし達には得になる。

 

もしも商人がいて、それで好意的だったら、の話だが。

 

損は無いか。

 

南下する。

 

街は、それほど遠くでは無く。

 

半日も歩いていると。

 

もう城壁が見えてきた。

 

 

 

街の中は寂れているというか。

 

キルヘン=ベルとは明確に違っていた。

 

街の隅には、ボロを着た人が蹲っていて、明日をも知れないと全身から負の情念を放っている。

 

無理も無い。

 

こんな状態でも、この間の難民は、ある程度受け入れてくれたらしい。

 

街の端の方では、痩せた土地を耕している。

 

ただ土地を耕しても作物は出来ない。

 

高いお金を払って。

 

商人から栄養剤などを買い。

 

土地を豊かにして良くしかないのだ。

 

キルヘン=ベルの場合は、畑を作る予定地を、おばあちゃんが丁寧に世話して。そして豊かな実りが約束されている。

 

だが此処はそうではない。

 

錬金術師はいないのだ。

 

宿はあるが。

 

あまり治安は良さそうでは無い。

 

荷車から目を離すのは危ないな。そう判断して、誰が見張りにつくか話し合いをしていると。

 

丁度フリッツさんが此方に来た。

 

例の会合だとかで、まだ街にいた、という事だろう。

 

ハロルさんも、うんざりした様子で此方を見ていた。

 

「おう、ソフィーか。 採集の帰りか」

 

「はい。 会合は終わったんですか?」

 

「うむ。 街の様子が見ての通りでな。 キルヘン=ベルの支援が欲しいという話をされていてな」

 

「勝手な話ですね」

 

ずばりとあたしは言う。

 

当たり前だ。

 

この間だって、下手をすると五十人からの人間が、荒野に骸を晒すところだったのだ。しかも、それをキルヘン=ベルに押しつけるつもりだったのである。

 

勿論こんな街の状態では、大人数を受け入れられないのはあたしだって分かっている。

 

それでも良い気分はしない。

 

「気持ちは分かるが、この街は辺境ではマシな方だ。 自警団もろくにいなくて、獣の襲撃に毎日怯えているような街も珍しくは無いのだ」

 

「分かっていますよ」

 

「そうか。 ならば許してやってくれ」

 

「気が向いたら」

 

あたしの機嫌が悪いことを察してか。

 

フリッツさんは頭を掻く。

 

そして、軽く会合の結果について話してくれた。

 

まず、薬をある程度譲渡することを決めたそうである。

 

そうかそうか。

 

あたしが苦労して作った薬をか。

 

対価は。

 

聞くと、フリッツさんは、視線を荷車に向けた。

 

一緒に護衛として来ているタレントさんや。この間の難民の中で、もう怪我が快癒した輸送要員が運ぶ荷車に。鉱石がある程度積まれている。

 

薬の量に比べて少ないような気がするが。

 

あれが精一杯、という事なのだろう。

 

商人もいるようで。

 

帰り道、商人にとってはキルヘン=ベルへの途上。護衛して、共に行く事になったそうだ。

 

宿に関しても、見張りはまとめてこの街の住人が責任を持ってやってくれるそうである。

 

なら大丈夫か。

 

もしも何か問題が起きたら。

 

それこそ、大幅な譲歩の結果、せっかく手に入った錬金術の薬などが、全部台無しになるし。

 

そうならなかったとしても。

 

次からの取引が無くなる。

 

それくらいの計算は。

 

この街の人間だって出来るだろう。

 

公認錬金術師が来てくれれば。

 

そんな声が、何処かからか聞こえる。

 

だが、そもそも公認錬金術師試験が、極めて狭き門。しかも、錬金術を使える人間は才能が絶対条件で必要だとかで限られている。

 

そんな中で、公認錬金術師が来てくれて、住み着いてくれる街は本当に幸運なのだろう。

 

商人はホムで。

 

まだ駆け出しの商人だと、紹介された。

 

ぺこりと頭を下げる商人は。

 

殆どコルちゃんと見分けがつかなかった。

 

ちなみに錬金術について聞いてみたが。

 

使えないそうである。

 

ホムは傾向としてゆっくり喋るのだが。

 

それはこの商人も同じだそうだ。

 

ちなみに性別は女性だそうだが。

 

ホムは生殖の方法が人間と違う事、更に男女での能力差がほぼ無いに等しい事などもあって。

 

あまり性別は関係無いそうである。

 

「キルヘン=ベルにも商人がいると聞いています。 今後を考えると、良い関係を構築していきたいのです」

 

「コルちゃんもそう思っているだろうから、仲良くしてあげてね」

 

「分かっています」

 

とはいっても。

 

お金の世界はシビアだ。

 

コルちゃんも、相応に一線を引いて対応するだろうし。

 

この商人も、同じだろう。

 

宿の部屋で休む。

 

あまり良い部屋では無いが。

 

ホムの商人、リペアさんと軽く話して、ホムについての色々を教えて貰う。

 

ホムは魔族以上の寿命を持つ上に。

 

年老いても見かけが殆ど変わらない、という話もされる。

 

ホムばかりが住んでいる街、というのは殆ど無いらしく。

 

商人として各地を周りながら。

 

気に入った街に定住したり。

 

商売に嫌気が差した所で、資産をはたいて比較的大きめの街に住み着いたり。

 

そういう人生を送るホムが多いそうだ。

 

勿論危険も多い。

 

ホムの肉は美味だとか匪賊の間で噂が流れているのはあたしも知っているが。

 

そういう事もあって、匪賊に襲われる頻度も多く。

 

護衛の質には特に気を遣うそうである。

 

「ごく希に、自力で身を守れるほど強いホムもいるそうなのですが、私はとてもそんな力は無いのです」

 

「大丈夫、キルヘン=ベルまでなら絶対守ってあげるよ」

 

「頼もしいのです」

 

各地の話も聞く。

 

ラスティンの首都であるライゼンベルグだが。

 

流石に巨大都市という事もあり。

 

かなりの数のホムがいるそうである。

 

結婚して、家庭を持つホムも多いそうだ。

 

なお、ホムはあまり結婚する事は多く無いらしいのだが。

 

いざ家庭を持つと、かなりの数の子供を作るそうである。

 

生殖方法がヒト族とは違うらしいのだが。

 

詳しい話は流石に教えてくれなかったし。

 

聞くのもマナー違反だろう。

 

ただおなかを痛めて産む事はないらしく。

 

女性のホムも、子供を作るときに負担が掛かることは無いそうだ。

 

「そろそろ寝なさい」

 

モニカに怒られたので。

 

休む事にする。

 

なお商売の話は、コルちゃんとするように、と事前に決められているらしいので。

 

あたしの方で、商売を直接することは出来そうに無かった。

 

まあ、こればかりは仕方が無いか。

 

一晩ぐっすり休んで。

 

早朝には出る。

 

帰り道はフリッツさんとハロルさん。それに大型の荷物を運ぶ人達と。護衛として来ている獣人族の戦士数名と一緒。

 

行きよりも格段に楽になりそうで。

 

個人的には嬉しい限りだった。

 

案の定、この戦力に喧嘩を売るのは自殺行為だと考えたのか。

 

帰り道に仕掛けてくる阿呆はいなかったし。

 

その分、あたしも。

 

体力を温存することが出来たのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。