暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、新しい力

新品の上に。プラフタという専門家が懇切丁寧に鍛冶のプロであるロジーさんと打ち合わせをし。

 

可能な限りのリソースをつぎ込んで作り上げた錬金釜が。

 

完成した。

 

さっそく薬を作って見る。

 

確かに前よりもいいものができる。

 

あたしの腕が上がっている、というものもあるけれど。

 

徹底的に薬品によって隔離した鍋の中。

 

とても高い精度で薬が練り上がり。

 

ものが意思に沿って変質していくのは、圧巻ですらある。

 

雑音もかなりクリアに。

 

そしてスムーズになっていた。

 

「良い感じですよ、ソフィー」

 

「本当にお婆ちゃんの釜、古くなっていたんだね」

 

「もしも本当に最高の釜を作ろうとするのなら、貴方の実力が今よりずっと高くなければなりませんよ」

 

「分かってる」

 

前にも言われたから、分かっている。

 

いずれにしても、山師の薬を造り。ついに60点を貰う。

 

まだまだ低いような気がするが。

 

この辺で、足を運べる地域にあるものとしては、最高の薬草を使い。

 

それでたたき出した点数だ。

 

実際、前の薬とは、傷の治る速度も違うし。

 

更に実際に自分で使って見て分かったが。

 

体力の回復効果もあるようだった。

 

使って見ると。

 

体がぽかぽかする。

 

栄養剤を飲み下したかのようである。

 

「このくらいの品なら、もはや都会で売られている錬金術の薬にも引けを取らないことでしょう」

 

「本当に?」

 

「保証しますよ」

 

「そっか。 ようやく、初心者脱出だね」

 

感慨深い。

 

才能があるとか言う話だったのに。

 

どうにも上手く行かなくて。

 

苦悩し続けていた日々。

 

努力を重ねて。既に半年を軽く過ぎた。

 

そしてようやく、一流の錬金術師に、一人前と言われたのである。これほど嬉しい事は他に無い。

 

さっそく自分用のものをコンテナに。

 

残りはホルストさんの所に納入してしまう。

 

ホルストさんは、薬を使って見て、これは良いと満面の笑みである。普段から優しい笑みを浮かべているホルストさんだが。いつもより笑顔が優しいように思えた。

 

「大枚をはたいて釜を変えたという事ですが、これほどの薬が作れるようになるとは、その甲斐はありましたね。 これからもお願いしますよ、ソフィー」

 

「はい」

 

料金もかなり増やして貰った。

 

品質を評価して貰った、という事だ。

 

そして、である。

 

化膿止めや熱冷まし。純粋な栄養剤なども、納入しておく。

 

そういえばこれらのお薬は、全てコルちゃんに管理を任せるのかと聞いてみたが、それはない、と言われた。

 

「こういった薬は、いざという時に生命線になるので、私の方で一定量を必ず管理しています。 最悪のタイミングで疫病が流行るケースも想定しなければなりませんから、金が絡まない所で、物資はどうしても蓄積する必要があるのですよ」

 

「なるほど。 色々と考えているんですね」

 

「当然です。 いずれにしても、今までは守りの時でしたが、今後はどんどん攻めに転じて行きますよ。 ソフィー、森を拡げる方法について、考えて貰えませんか」

 

来たか。

 

おばあちゃんがやっていた錬金術の中で、もっとも重要な一つは。

 

キルヘン=ベル近郊の森の拡大だ。

 

やせこけている土地を豊かにして。

 

植物が育ちやすいように改良し。

 

土地の保水力を上げると同時に。

 

最悪の場合の、食糧供給源にもする。

 

キルヘン=ベル周囲には、自給には充分な畑もあるけれど。その畑の土は、おばあちゃんが錬金術で豊かにしたもので。

 

その手が及んでいない外側は。

 

乾燥した地獄そのものだ。

 

そして、今人口流入が始まっているキルヘン=ベルである。

 

畑の拡大も考えなくてはいけない。

 

いずれにしても、今ならレシピを作れるかも知れない。

 

ホルストさんに何とかしてみると答えて。

 

アトリエに直帰。

 

早速全自動荷車は大活躍で。あたしに追従して、アトリエへの道をついてくる。見ると、街の防壁の何カ所かの強化作業を始めていて。それの工事にも、既に納入した全自動荷車が既に活躍しているようだった。

 

アトリエに戻り。

 

レシピを確認する。

 

おばあちゃんが使っていた栄養剤について調べて見ると。

 

少しばかり難しい事が書かれている。

 

土地に栄養を与えるのでは駄目だ、というのである。

 

「? 栄養剤なのに、土地に栄養を与えるわけじゃないの?」

 

「ソフィー。 この世界では、創造神がやる気を放棄した、という説があります」

 

「知っているよ」

 

「その説の本当の意味は。 この世界の荒れ果てた有様は、創造神が力を送っていないのが理由、というものなのです」

 

なるほど。

 

それを加味して。

 

もう一度おばあちゃんのレシピを見てみる。

 

そうすると、なるほど。

 

大気中に満ちているマナを、正常に循環させることで。

 

土地に本来存在している潜在能力を開花させ。

 

土地を緑化する。

 

そういうプロセスを、薬によって行うらしい。

 

そうなると、栄養を詰め込むだけではだめか。

 

勿論栄養も必要にはなるが。

 

それだけでは駄目。土地そのものの意思に沿って土地の変質を促す、という作業が必要になる。

 

つまり薬を使う事によって。

 

錬金術で主体になるものの変化を。

 

土地そのものに引き起こす、というわけだ。

 

素材もかなり複雑なものが必要になってくる。

 

ざっと見ると。

 

一番良いのは、邪神の肉体だというのがあって。流石にそれは絶息しかけた。この街にいる面子を総動員しても、下級の邪神に命がけで挑んで、半分も生き残れるかどうか、というところだろう。

 

全盛期のプラフタやおばあちゃんがいるなら兎も角。

 

現時点での戦力では無理だ。

 

レシピを確認する。

 

それによる説明は、こんなところだ。

 

本来世界を豊かにする役割を担っているのは、邪神やその下位存在である意思無きマナの塊。つまり精霊と呼ばれているものらしい。こういった世界の「要素」が、きちんと循環していれば。世界はもっと豊かになり。場合によっては、わざわざ畑なんて耕さなくても、にょきにょきと有益な植物が生えてくる程なのだそうだ。

 

つまりそれだけ創造神がさぼっている、ということであるとおばあちゃんは、怒りに満ちた筆致でレシピに私情を持ち込んでいた。

 

おばあちゃんの怒りは兎も角。

 

実際問題、おばあちゃんの薬が、劇的に土地を豊かにしているのは、紛れもない事実である。

 

それならば、レシピを解析して。

 

栄養剤を作っていくしかないだろう。

 

しばらく材料を見ていたが。

 

これは、ネームドの猛獣を仕留めるしか無いかも知れない。

 

どうやらネームドの猛獣は。

 

本来あり得ない力を得ている動物であることが、殆どらしいのだ。

 

確かにあの異常なキメラビースト、沈黙の魔獣も、本来だったらあり得ないサイズまで巨大化していた。

 

これらは、本来は自然を循環している力を何らかの形で取り込んだ事で生まれた変異体であって。

 

その自然を循環している力を取り出せば。

 

栄養剤に出来ると言う。

 

しまったとぼやく。

 

沈黙の魔獣、体の一部しか持ち帰らなかった。

 

あれ全部持って帰っていたら。

 

今頃、そのまま鍋にぶち込んで、栄養剤に出来ていたかも知れない。

 

勿論あの時は、全員が満身創痍で、それどころではなかったが。

 

それでも後からこういうことが判明してくると。

 

悔しくもなる。

 

だが、回収したものも、あるにはある。

 

沈黙の魔獣の牙数本。腕の皮。

 

これらは回収した。

 

腕の皮については、かなりの品質だと言う事で、コルちゃんに複製を頼んでいる。多分、複製はとっくに終わって、在庫になっている筈だ。

 

牙については。

 

これをわざわざ砕くのは骨だろう。

 

そうなると、皮を使った方が良いか。

 

さっそくコルちゃんの所にすっ飛んでいく。

 

コルちゃんは、荷車に命令して荷物を整理しているところだったらしいのだけれども。

 

あたしがすっ飛んできたのを見て、商売の臭いを感じ取ったのだろう。

 

口元を抑えて聞いてくる。

 

「どうしたのです」

 

「この間増やして欲しいって頼んだ沈黙の魔獣の毛皮、仕上がってる?」

 

「はい。 ただ、少しお高くなりますよ」

 

コルちゃんが言うには。

 

あれから、毛皮の品質を見たホルストさんが、三倍くらいの注文を入れてきたらしい。そして仕上げた分は、即座にレオンさんの所に回され。加工されて、強力な防具として、自警団の戦士達に回されているそうだ。

 

皮鎧といっても、皮の品質次第で、矢でも弾丸でも防ぐ。

 

ネームドの猛獣の毛皮ともなると。

 

豆鉄砲のような小口径銃の弾丸なんて、それこそはじき返してしまう。勿論遠矢も同じ事だ。

 

そういえば、少し前からタレントさんが着込んでいる鎧に、何カ所か見覚えがある毛皮の衣装があった。

 

要所にあの毛皮を使っている、という事か。

 

レオンさんめ。

 

そういう事をしているなら、教えてくれても良かったのに。

 

「早速一つ貰える?」

 

「毎度ありなのです」

 

コルちゃんが取り出してきた毛皮は。

 

丁寧になめされていて。

 

とても手触りが良く。

 

非常に強力な魔力を含んでいて。

 

温かいほどだった。

 

こんなもんを身に纏っていれば、それは手強いのも納得できる。すぐに持ち帰ってプラフタに相談。

 

だが、プラフタは。

 

コレは使えないと即答した。

 

「これは強い魔力を秘めてはいますが、あくまで末端です。 土地の豊かさの中核になるには、それこそ邪神の体の一部や。 ネームドの猛獣で言うならば、心臓などが必要になって来ます」

 

「そっかあ。 高かったんだけれどなあ」

 

「これはこれでいずれ使い路がありますよ。 どのみち、ネームドを退治するのは、この街の戦略として挙げられていたでしょう。 戦力は充分に整っています。 手頃なネームドを狩り、街の安全圏を拡げに行くのはどうでしょう」

 

よく考えると。

 

プラフタとあたしは酷い会話をしている様な気もするが。

 

まあそれが一番手っ取り早いのも事実だろう。

 

準備を終えると。

 

すぐにホルストさんの所に行く。

 

ネームドの退治となると、相応の危険を伴う。

 

相談に行くのは当たり前の事だ。

 

 

 

街から直接北上。

 

しばらく行った所に。

 

真っ黒な森がある。

 

昔は匪賊がねぐらにしていたらしいのだが。

 

この間の討伐作戦で致命傷を受け。

 

此処を放棄して逃走。

 

その代わり。

 

ネームドが住み着いた。

 

そういう話がある。

 

今回は、威力偵察である。勿論倒せるようなら、倒してしまう。それが目的だ。

 

ホルストさんには、ネームドの持つ強い生命力が、栄養剤には必須になる事を告げている。

 

ちょっとした土地の作物を豊かにするだけの栄養剤だったら、別にその気になればいつでも作れる。

 

栄養を混ぜ混ぜすればいいだけで。

 

錬金術さえ必要ないだろう。

 

だが此処で求められているのは。

 

街の周囲の森を拡大し。

 

畑になり得る豊かな土地を拡げ。

 

多くの人間だけでは無く。

 

多くの獣も、荒ぶらずに生活できる森を作る栄養剤だ。

 

それには、本来の土地が得ている力を過剰に搾取し。体に蓄えているネームドをブッ殺して。

 

体内から、本来土地に配られるべきだった力を奪い。

 

それを錬金術で更に変質させる必要がある。

 

考えて見れば。

 

各地の公認錬金術師達も。

 

こうやって、人間の生息域を拡げているのかも知れない。

 

そうなると、生息域が中々拡がらず。

 

人間が増えないのも納得である。

 

この間戦った沈黙の魔獣にしても、ネームドの中では特に強いわけではないだろう。

 

あんなのを倒し。

 

そして無事に素材を回収しなければならないのだ。

 

今回交戦が想定される相手は、ぷにぷに。それのなかでも、特に強力な、いわゆる「提督」である。

 

あどみらぷにとも言われる事がある。

 

このクラスになると、ぷにぷにといえども他の猛獣と遜色ない戦闘能力を手に入れ。

 

軟体の体から無数の触手を伸ばし。

 

獲物を貪り喰いながら。

 

巨体を引きずって、各地で暴虐の限りを尽くす。

 

ネームドの中ではありふれている相手だが。

 

それでも決して弱いわけでは無いのだ。

 

更に言えば、複数いると言うことは、当然強さにもばらつきがある訳で。

 

弱い方だったら良いのだが。

 

もしも凶悪なタイプだったら。

 

逃げに徹するしかない。

 

戦力を整えて、再討伐をキルヘン=ベルの総力でやらなければならないだろう。

 

今回は、前回沈黙の魔獣を倒した時と、同じメンバーに来て貰っている。

 

違うのは、荷車が全自動式になった事で。

 

これにより、荷車に掛ける手が必要なくなる。

 

大変にこれが有り難い。

 

結構荷車の扱いというのは、手間暇が掛かるものなのだ。

 

更に、である。

 

レヘルンに改良を加えている。

 

シュタルレヘルンと名付けたこれは。

 

広域殲滅兵器だったレヘルンに改良を加え。

 

冷気に指向性を持たせたもので。

 

考え方としてはオリフラムに近い。

 

レヘルンそのものも火力を上げており。このシュタルレヘルンとは、使い方を変えていく事になるだろう。

 

他にも、ドナーストーンという爆弾も用意した。

 

これは雷撃を周囲にばらまくもので。

 

そもそも雷撃を帯びている鉱石を錬金術で変質させることで、爆弾にしたものであり。

 

文字通り雷がその場に直撃するほどの火力を発揮する。

 

魔術で防ぐのはまず不可能と、ヴァルガードさんのお墨付きで。

 

要するに、相手が錬金術師でも無い限り。

 

これを防げる生物は存在しない。

 

しかも雷撃は、まともに食らってしまうと、どれだけ強靱な生物でもまず助からない。

 

指向性を持たせる事には注意しているが。

 

これも取り扱いには特に念入りに気を付けなければならない爆弾である。

 

いずれも。

 

新しい釜で造り。

 

そして、街を更に拡大するために作り上げた切り札だ。

 

今後、外貨獲得のためにもホルストさんは販売を考えているようだが。

 

プラフタは反対しているらしい。

 

このクラスの道具になると、匪賊にでも渡ると想像を絶する脅威になるからで。

 

余程信頼出来る商人か。

 

或いは、大きめの街か、もしくは国と直接取引をするべきだろうと、慎重な対応を求めていた。

 

まあ確かに言わんとする事は分かる。

 

街の周囲の自然環境の改善は重要だが。

 

人間を無軌道に増やすと、秩序が壊れたときに地獄が発生する。

 

今後のためにも。

 

人間以外のためにも世界を改善する事はあっても。

 

人間だけのために世界を私物化してはいけない。

 

そうプラフタは言う。

 

言う事は分かる。

 

実際問題、今は人間の生活空間を改善する事だけが最低でもやらなければならないことなのであって。

 

今後はどうして此処まで世界が荒野に満ちているのか。

 

過酷なのか。

 

それを根底から調べ。

 

改善していくことを考えなければならない。

 

余裕が無いのは事実だ。

 

世界が残虐で。

 

弱者を常にすりつぶそうと目を光らせているのも事実だ。

 

だが、だからといって。

 

何もかも、人間が好き勝手にしていたら。きっと世界はより酷く。手酷く壊れてしまうだろう。

 

そうプラフタは。

 

ホルストさんに力説し。

 

街の重役達も、その言葉に聞き入っていた。

 

これ以上世界が酷い状態になったら。

 

それはもう、確かに冗談では無い。

 

何より、驚天の力を扱う錬金術師だったプラフタの言葉である。しかも恐らくはおばあちゃんより更に格上の存在だった、だ。

 

だからこそその言葉には説得力があるし。

 

無視もできない。

 

黙々と荒野を進む。

 

戻ってきたコルちゃんは、息を切らせていた。ジュリオさんも、慌てていた。

 

「方向転換だ」

 

「どうしたんですか」

 

「あどみらぷにと思われる存在が、移動した痕を見つけた。 どうやらキルヘン=ベル近郊の街道に向かっているらしい」

 

「!」

 

即時方向転換。

 

どうしてまた、そんな事をするのか。

 

いずれにしても、キルヘン=ベルにでも近づかれたら大惨事どころではすまない。

 

幸い、ネームドはブッ殺せば死ぬ。

 

邪神などは時間が経つと復活するという話を聞くし。

 

ドラゴンは殺しても殺しても現れるという話も聞くが。

 

ネームドは違う。

 

すぐに荷車に追従の指示を出し。

 

街道に向け走る。

 

途中、何カ所かで痕跡を見つける。

 

あどみらぷには、恐らくその半円形の体の高さだけで、あたしの二倍以上はあるとみて良い。

 

円形の生物は、凄まじい巨大さを誇るが。

 

此奴も例外では無い様子で。

 

近くで見ると、その圧倒的な大きさは、恐らく此方を威圧するレベルの筈だ。

 

フリッツさんが叫ぶ。

 

「急げ! 私が先行する! 不意打ちは考えなくて良い!」

 

「ならば僕が最後尾を守ります!」

 

「頼むぞ!」

 

フリッツさんが前に。ジュリオさんが殿軍に。

 

レオンさんがぼやく。

 

「元気ねえ」

 

「フリッツさん、妻帯者で、娘さんはあたしと同じくらいの年らしいですよ」

 

「それであんなに元気なのねえ」

 

ヒト族の限界寿命は獣人族とほぼ同じで100年、どんなに頑張っても120年と言われている。要するに魔族の半分である。

 

とはいっても、実際には40前後から衰え始めるのが普通。

 

一番ヒト族が力を発揮できるのは、経験と身体能力が噛み合う30代だという話もある。

 

フリッツさんは、とっくに衰えが体をむしばみ始める年齢であるのに。

 

その実力を常に維持している。

 

自警団の面子にコツを聞かれたとき。

 

趣味を全力で楽しむ事だと、楽しそうに答えていた。

 

まあ分からないでもない。

 

急激な方向転換からの疾走。

 

オスカーは平然とついてきているが。

 

あたしは皆に声を掛ける。

 

皆に掛ける言葉だから丁寧にだ。

 

「きついと思ったら、荷車を利用してください。 今回は採集をしていないから、人が乗るくらいの余裕はあります」

 

「大丈夫!」

 

オスカーが返事。他の皆も黙っているという事は、平気という意味だ。

 

痕跡が露骨になって来ている。

 

不意にフリッツさんが足を止め、手を横に。

 

そして、最大限警戒のハンドサインを出してきた。

 

全員が周囲に展開すると同時に。

 

地面が吹っ飛び。

 

巨体が姿を見せる。

 

向こうも気付いたのだ。

 

痕跡を残して此方を誘導しつつ。

 

途中で痕跡を丁寧にたどってバック。

 

奇襲する作戦を見抜かれたことに。

 

即座に、戦闘が開始された。

 

 

 

提督、と呼ばれるだけのことはある。その巨体は当然のことながら。奴は無数の触手を振り回しつつ。巨大な口を開けた。その口の中には、多数の音を出すと思われる筒状の器官と、鋭い牙が何重にも並んでいる。

 

多数の獣を喰らい。

 

噛み潰してきた口だ。

 

当然その中には。

 

人間も含まれているのだ。

 

聞き取れない音を、あどみらぷにが絶叫する。

 

聞き取れないのにどうして分かったかというと、物理的圧力さえ伴ったからだ。

 

そして、その結果。

 

周囲に無数の気配がわき上がる。

 

大量のぷにぷにが。

 

一斉に此方に向かっている。

 

見るだけで、それが分かった。

 

まずい。

 

此奴を速攻で潰し、囲みを破らないといけない。

 

フリッツさんが叫ぶ。

 

「囲みが到達する前に、首魁を叩く! 総力戦だ! 後ろは気にするな!」

 

「ヤー!」

 

全員で、巨体に躍りかかる。

 

長大で太い触手が振り回されるが。フリッツさんとジュリオさんが、見事な剣腕で斬り伏せる。

 

ハロルさんが長身銃で狙撃。

 

目をぶち抜くが。

 

しかしながら、ぶち抜かれた目は内側から爆ぜ。

 

そして新しい目が即時再生した。

 

というか、目がそもそも、人間などのそれとは構造が違っているらしく。簡単に言うと昆虫などのそれに近いようだった。

 

触手のラッシュだけでは無い。

 

あどみらぷにが、大きく息を吸い込み、体を膨らませる。

 

散開。

 

フリッツさんが叫ぶが。

 

次の瞬間には、爆発的な音波が、辺りを蹂躙していた。

 

接近すれば触手。

 

更に離れた相手には広域攻撃持ちか。

 

これは面倒だ。

 

更に、である。

 

触手で全身を支えるようにたわませると。

 

跳躍。

 

上空から、ボディプレスを仕掛けてくる。

 

それも、ただのボディプレスでは無い。

 

オスカーがコルちゃんを抱え。ハロルさんがレオンさんをとっさに庇い。他の者は、みんな飛び退くけれど。

 

衝撃波を伴う一撃は。

 

地盤さえ木っ端みじんに砕いて、辺りに地震を引き起こしていた。

 

凄まじい。

 

これはまずい。

 

キルヘン=ベルに乱入でもされたら。

 

途方もない被害が出る。

 

更に息を吸い、追撃を仕掛けようとするあどみらぷに。

 

だが。

 

奴が気づき、触手を振るって弾こうとする。

 

あたしが放ったレヘルンを、である。

 

遅い。

 

起爆。

 

強烈な冷気が、あどみらぷにを襲撃。爆裂しながら、一気にその全身を飲み込んだ。

 

しかしながら、手応えが浅い。次の爆弾を即時に取り出す。

 

なんとあどみらぷにが、凍った体の一部を、内側からぶち破りながら、姿を見せる。ダメージは受けているようだが。

 

体の構造が単純だと。

 

こんな受け技が出来るのか。

 

此方を見るあどみらぷに。

 

だが、その隙に、至近に潜り込んだモニカが、強烈な剣撃を連続で繰り出し、触手を数本、根元から斬り伏せた。

 

しかしながら、あどみらぷには、その巨体を揺らす。

 

揺らすだけで、その反動で、モニカが派手に吹っ飛ばされる。

 

何度か地面に叩き付けられ、バウンドして、岩に叩き付けられた。かなり遠くの、である。

 

体の質量を把握し。重心移動を理解していないとできない攻撃だ。

 

モニカはダウン。

 

だが。

 

その隙を突いて。

 

フリッツさんが、至近距離に。触手多数が迎撃に掛かるが。

 

真後ろからジュリオさんが、大上段からの一撃を降り下ろす。

 

あどみらぷにの巨体が、縦一文字にぶち抜かれる。

 

大量の体液が噴き上がる中。

 

絶叫しながら、あどみらぷには、それでも無理矢理体を接合。

 

そればかりか、体中に口を造り。

 

同時に息を吸い込む。

 

「まずい、離れろ!」

 

口の一つにハロルさんが長身銃からの狙撃を叩き込むが。

 

次の瞬間には。

 

辺り一帯に、指向性を持つ風がブチ撒かれ。

 

それぞれの風圧は、地面を大きく抉っていた。

 

なるほど。

 

ネームドの中には、ドラゴン級のがいるというし。

 

ぷにぷにでも最強ランクは、他の猛獣のネームドに劣らないと聞いているが。

 

それも納得だ。此奴の戦闘力は、並の猛獣の十倍から十数倍に達するだろう。

 

さらにあどみらぷにが形状を変える。

 

だが、これ以上、好き勝手させるか。

 

今の一撃で、オスカーが直撃を貰って、地面に転がっている。コルちゃんの盾になったのだ。

 

モニカは向こうで動けない。

 

レオンさんとジュリオさんは距離を取りながら走り、フリッツさんだけが触手の大軍と丁々発止の駆け引きをしている。

 

ハロルさんが警告。

 

「もうすぐぷにぷにどもが来る!」

 

「レオンさん、モニカの護衛を!」

 

「分かったわ!」

 

さて、ならば。

 

あたしも本気を出すか。

 

態勢を低くすると。

 

魔術により身体能力を極限まで強化。

 

真っ正面から突撃。

 

まず、フラムを投擲。

 

触手を複数伸ばしたあどみらぷにが、それを編んで盾にするが。

 

投擲したフラムはオリフラムだ。

 

角度を見ながら、起爆。

 

熱の暴力が。

 

奴の生体盾をぶち抜いていた。

 

燃え上がる「提督」。

 

悲鳴を上げる奴に、ハロルさんが連続で長身銃からの狙撃。しかし、それでも流石に古豪である。

 

触手を瞬時に束ねると。

 

無理矢理バネ状にして飛ぶ。

 

そして空中で形状を変えると。

 

三角錐になり、そのまま此方へ飛んでくる。

 

フリッツさんが、その時動いた。

 

全力で踏み込むと。

 

回転しながら、剣を振るう。

 

魔術を込めた剣舞だろう。

 

冷気の風が、奴を襲い。

 

一直線にあたしに向けて貫こうと飛んでいたあどみらぷにを、一瞬だけたじろがせ。

 

その瞬間、タイミングを完璧にあわせたジュリオさんが、テンプルスラストの衝撃波を放っていた。

 

三角錐の殺戮矢が、大量の傷口から体液をブチ撒け。

 

それでもあたしを狙って飛んでくる。

 

なんと体液を推力として噴出しながら。

 

加速さえしている。

 

面白い。

 

上等だ。

 

あたしの爆弾と貴様。

 

どちらが勝るか、勝負と行こうじゃないか。

 

投擲する。シュタルレヘルンを。

 

奴は、それを見て、大きく口を開ける。たくさんあった口を統合して、多分ピンポイントの音波攻撃で、あたしを木っ端みじんにする気だろう。

 

シュタルレヘルン起爆。

 

奴が強烈な音波砲を放つ。

 

ぶつかる二つの力。

 

真ん中で、まるで押し広げられるように、冷気の塊が皿のような形状に拡がっていくが。その時には、あたしは。

 

奴の横にいた。

 

投擲する。レヘルンを。

 

此方に対応しようと、触手を伸ばしてくるあどみらぷに。

 

マイスターミトンと友愛のペルソナの防御も、先からの激しい攻撃の余波で限界。触手が掠め、地面に突き刺さるが。

 

それとカウンターの形で。

 

敢えてレヘルンを投擲したのだ。

 

触手が掠めただけで、凄まじい痛みが脇腹に走ったが、気にしない。

 

起爆する。

 

もろに奴に致命的な冷気が直撃。

 

更に、これで注意が逸れたことで、シュタルレヘルンの冷気が奴に殺到。一気に空中で、氷漬けにした。

 

「コルちゃん!」

 

「はいなのです!」

 

氷を内側からぶち抜こうとしているあどみらぷにに。

 

コルちゃんが、仕込み手甲からの一撃を叩き込む。

 

内側で逃げ場が無い爆発が反響。

 

滅茶苦茶に全身を破壊されたあどみらぷにが、氷が砕けるのと同時に。ずたずたになりながら落ちてくる。

 

地面で、激しく破裂した奴は。

 

それでも、どうにか再生しようと、震えていたが。

 

ジュリオさんとフリッツさんが。

 

其処には待ち構えていた。

 

滅多打ちに、容赦の無い攻撃が加えられる。

 

かなり体積を減らしていたあどみらぷにには、もはや耐えるすべが無い。

 

更に、半笑いを浮かべたまま歩み寄ったあたしが。

 

フラムを放り込む。

 

全員が飛び退くのと同時に。

 

爆裂。

 

その場には、キノコ雲が上がっていた。




ちなみに今回仕留めたあどみらぷには、なんと無双シリーズに客演しています。
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