暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

46 / 126
高度錬金術に必要となる高性能の釜。

それを手に入れたソフィーは、更なる様々な調合に挑みます。

その中には、拡張肉体と呼ばれるものもありました。

プラフタの代名詞ともなっているあれもそうです。

そして後のシリーズで、ソフィーが必殺技発動で繰り出すあれも……


舞う手
序、疑念


新しい釜の性能は上々だ。流石に最高級には及ばないにしても、できる限りの事をして作ったのだから当たり前である。あたしは黙々と調合にいそしみ。相応の成果を上げていった。

 

カフェに出向き。

 

お薬と爆弾類を納品する。

 

このうち幾らかが蓄えられて。

 

幾らかが売りに出される。

 

見ると、今日も商人が来ている。魔族の護衛を連れている所から言っても、相当な金持ちだろう。護衛は全部で八人いて、大型の馬車も持っていた。

 

「これは凄い。 公認錬金術師でもないのにこの品質か。 噂には聞いていたが、買いに来た甲斐はあったな」

 

「在庫は限られていますので、お気を付けくださいなのです」

 

「分かっている。 在庫分全部くれ」

 

対応しているのはコルちゃんだ。

 

あたしが顔を出すと色々面倒なので顔は出さない。

 

それにしてもヒト族の商人の強欲そうな顔。

 

あれは、都会に持ち込めば、相当な利益が上がるのだろう。それこそ、護衛八人を雇っても、お釣りがつきすぎるほどに。

 

薬と爆弾を根こそぎ持って行く商人。

 

ホクホク顔でキルヘン=ベルを出ていく。

 

ちなみに西に向かったという事は。

 

アダレットに売りに行くのだろう。

 

まあ考えとしては間違っていない。

 

錬金術国家とも言われるラスティンに対し、あくまで武力で知られるアダレットである。交流はあるし、公認錬金術師も訪れていると言うが、やはり数はどうしても限られてきてしまう。

 

あの薬は、恐らく相当な高値で売られ。

 

そして金持ちだけが使うのだろう。

 

その過程で色々な経済活動が発生はするが。

 

錬金術が誰もを幸せに出来るわけではない。

 

この街が。

 

キルヘン=ベルが例外なのだ。

 

他の街でも、公認錬金術師が、薬を気前よく街の人々に分け与えているかどうかは、微妙な所だろう。

 

何しろ、やっと一人前のあたしでさえ。

 

これだけの影響力を持てるのだ。

 

タチが悪い奴が錬金術師になったら。

 

下手なネームドの猛獣よりも、猛威を振るうのではあるまいか。

 

顔を出すと。

 

コルちゃんが口元を抑える。

 

「仲介料だけで儲かって仕方が無いのです。 勿論差額の物資とお金はキルヘン=ベルに還元するので大丈夫なのですよ」

 

「その辺りは信頼しているよ。 ヒト族の商人だったら怪しいけれど」

 

「うふふ」

 

欲がヒト族と比較して少ないとは言え。

 

ホムにだって欲はある。

 

コルちゃんは単純にお金を貯めるのが好きなようで。金の臭いがすると目を細めて口を押さえる癖がある。

 

着ている服が独特なので、その動作が妙に可愛い。

 

もっとも、以前コルちゃんに聞かされたとおり、彼女の目的は家族捜しらしいし。

 

金はいくらあっても足りないのだろうけれど。

 

「そういえば、荷車は売らなかったの?」

 

「あれは戦略物資なのです」

 

「ああ、なるほど」

 

要するに、今後関係を強化していく街などに、特別に譲る、という扱いをするわけだ。

 

恐らくは友愛のペルソナやマイスターミトンもそうなのだろう。確かに装備しているだけで防具の性能が一桁上がる代物だ。格上の相手にも互角以上の戦闘が挑める。

 

実は時々依頼されて納品しているのだけれど。既に自警団用の装備としては行き渡っている。

 

そうなると、販売先は隣街か。

 

「時に、何故隠れていたのです?」

 

「ああ、それはね。 ああいう褒め言葉を直接聞くと、あまり嬉しくないから」

 

「妙ですね。 客観的にも正しい評価だと思います」

 

「そう」

 

あたしが目を細めたのを見て。

 

コルちゃんが慌てて咳払いして視線を背ける。

 

気付いたのだろう。

 

あたしの逆鱗に触り掛けた事に。

 

コルちゃんも、恐らくモニカとかに聞かされているはずだが。

 

それ以降、時々暴発するあたしを見ている事で。

 

如何にヤバイかは分かっている筈だ。

 

あたしだって、自分で良いとは想っていないが。

 

それでも制御出来たら苦労しない。

 

此方も、致命的なワードまでは出なかったので、どうにか押さえ込めたし。笑顔で適当に大丈夫だよ、と告げる。

 

コルちゃんは震えて青ざめていたが。それでも頷いた。

 

後は、軽く話を流して戻る。

 

今日は、別にやる事がある。

 

アトリエに戻ると。

 

既に、プラフタがモニカと話していた。オスカーもいる。

 

「ソフィー。 栄養剤作るんだって?」

 

「うん。 この間の「提督」から、良い素材が取れたからね」

 

「あいつ手強かったなあ」

 

オスカーも手酷く傷を受けた戦いだった。モニカも派手に吹っ飛ばされて、岩に叩き付けられて。

 

友愛のペルソナの自動防御が無ければ、多分死んでいただろう。

 

モニカには、調合前に掃除をお願いする。

 

あたしは単純に下手だから。埃とかが舞うので。

 

オスカーに来て貰ったのは。

 

森をどう拡大するか、相談するためだ。

 

相談した後、カフェでホルストさんに話して、具体的な森の拡大について決める。

 

キルヘン=ベルの背後に茂っている森は、いざという時の食糧源にもなる。土地の保水力も高める。更におばあちゃんが色々工夫した結果、霊の類も出ない。

 

森は、荒れ狂う猛獣でさえ心を静め、無為に傷つけない。

 

世界の宝なのだ。

 

錬金術師以外にも、魔術師や機械の技術者が、緑化には散々挑戦しているらしいが。

 

残念ながら、成果は上がっていない。

 

錬金術だけが。

 

この乾いた荒野に、緑を人為的に増やす事が出来るのである。

 

故に、植物のスペシャリストであるオスカーとは。

 

何処に森をどう拡げるか、話をしておく必要がある。

 

栄養剤を作る前に、だ。

 

「畑はこのまま川に沿って南下させるとして、どうすれば良いと思う?」

 

「植物たちは、今の時点で森には満足しているぜ。 そうなると、川から離れ過ぎない場所に、こんな感じで、だな」

 

「なるほど」

 

「街のことを考えると、畑の拡大は必須だしな。 でも、森がどれくらい拡がるかにもよるかなあ。 防御用の壁、拡げないと行けなくなるだろ」

 

頷く。

 

そして地図を拡げながら、大体の使用地点を決めた。

 

森さえ拡がれば。

 

その周辺に畑を作れる。

 

本来は草原を拡げるべきなのだろうが。

 

それは、畑を休作させる時に、雑草に解放するような形で草原にすれば良いだろう。いずれにしても、食べていくだけの食糧を得るためには、畑は拡げる必要があるし。何より大地に潤いをもたらすためには森がいる。

 

後は、予定地点で何回か実験を行うことが前提だ。

 

栄養剤の効き次第では、とんでもない効果が出ることも想定しなければならない。

 

桁外れの力を持つネームドを素材にするのである。

 

それこそ、既存の森が栄養過多で更にふくれあがるような事態さえ、最悪の場合には想定しなければならなかった。

 

とりあえず、予定地点は決めた。

 

続けて、調合開始である。

 

釜の状態はばっちりに保ったので。

 

此処から調合に入る。

 

普通の栄養剤と違うのは。

 

ネームドの心臓部分ともなるものを中核にして。

 

本来土地に吸収されるべきだったマナを。

 

土地に循環させるようにする、という薬剤にすると言うことだ。

 

普通の栄養剤なら、そのまま栄養を入れればいいだけの事で。出来上がっている畑などには、これで充分。

 

木々などを元気にするにも、これでいいだろう。

 

プラフタと相談して。

 

森の土と。

 

それ以外の土を調べて見た。

 

魔術を使う人間にはやはり一目瞭然。

 

荒野に拡がっている土には。

 

大気中に無尽蔵に満ちている魔力の元、マナが。まったくという程通っていないのである。

 

汚染されているケースもあるのだけれど。

 

それ以上に、土が死んでいるケースが大きい。

 

こういった乾ききった荒野の土は。

 

それこそミミズの一匹も住んでいない。

 

不思議な事に。

 

川のすぐ側でも。

 

こういう土になっている場所もある。

 

川の側は、草原になっていたり、森になっていたりもするのだけれど。

 

それも様々で。

 

どんなに大きな川の側でも。

 

荒野は荒野なのだ。

 

其処で、土地にマナが循環するように調整するのが。この栄養剤である。

 

恐らくは、それほど珍しくない薬剤の筈だ。何しろ、おばあちゃんが残したレシピの中にもあったほどだ。

 

問題は、現実的にコレを作れるかどうか。

 

公認錬金術師だって、傭兵を雇って、或いは軍の協力を要請して、ネームドや。或いはドラゴンと戦い。

 

そして素材を手に入れて。

 

栄養剤を作るのだろう。

 

公認錬金術師といっても、アトリエに引きこもって研究だけしていれば良いわけでは無い。

 

情報はあまりないのだけれど。

 

ひょっとすると、試験か何かを受けるときに。

 

戦闘力を試されるのかも知れない。

 

それに関しては望むところだが。

 

いずれにしても、簡単に試験を突破は出来そうに無いなと、あたしは苦笑する。

 

ともかく、だ。

 

コンテナから取り出すのは。

 

この間仕留めた、あどみらぷにから取り出した、黄金のぷにぷに玉。

 

本来の用途は脱水剤で。

 

これほどの巨大なものであれば、相当に強力な脱水剤として機能するのだろうけれども。今回は残念ながら違う使い方をする。

 

プラフタも、見て頷く。

 

「これならば問題ありませんね。 広範囲を緑化してくれるはずです」

 

「それにしても、どうして土にこうもマナが定着しないんだろう。 そればかりか、ネームドの猛獣にばかり定着している様子だし、場合によってはドラゴンや邪神にも」

 

「諸説ありますが……」

 

「いずれにしても、創造神が原因かな」

 

プラフタは無言。

 

その通り、という事なのだろう。

 

此処からは調合に気合いを入れる。

 

何しろキルヘン=ベルの未来が掛かっている調合なのである。当たり前の話である。

 

モニカとオスカーには帰ってもらう。

 

この調合だけは。

 

絶対に失敗させられないのだ。

 

まず、巨大なぷにぷに玉に鉈を振るって、分解していく。どずり、どずりと、重い音がする。

 

それだけ質量があり。

 

どっしりしている、ということだ。

 

鉈で切り分けた後は。それぞれを分解して、更に細かくしていく。

 

同時に、砂を使って中和剤を作成。

 

これは、ぷにぷに玉に脱水作用があるためで。

 

水を使った中和剤だと。

 

反発し合って。

 

効果がなくなるからである。

 

作業を進めながら。

 

額の汗を拭う。

 

さて、此処からだ。

 

完全にミンチにした黄金のぷにぷに玉と中和剤を混ぜ。

 

此処に、魔力を定着させるための措置をするのだが。

 

レシピを見ると。

 

どうもこれが、ものに意思を与えるときのものと同じだ。

 

あの全自動荷車を作る時のように。

 

強大な魔力を秘めているぷにぷに玉そのものに。

 

意思を宿らせる。

 

悪霊などが宿らないように注意しなければならないが。

 

いずれにしても、しばらく中和剤と一緒に寝かせ。

 

その後は乾燥させ。

 

そして、何種類かの薬剤を、順番に加えていく。

 

最初は黄金だったぷにぷに玉も。

 

時間が経つと同時に、色がくすんでいく。

 

この黄金は。

 

魔力そのものだったのだと分かる。

 

その魔力が。

 

周囲の魔力を呼び集め。

 

更に循環を促すようにする。

 

本来は、それが当たり前の筈なのだが。

 

当たり前では無くなっているから。

 

荒野に処置をしなければならないのである。

 

面倒な話だ。

 

今後、世界を更に緑で満たして行くには。相当な数のネームドやドラゴン、邪神を殺して行かなければならないだろう。

 

土地の保水力を上げ。

 

土地の潜在力を引き出し。

 

何より獣が大人しくなり。

 

食糧をある程度自由に得られるようになる。

 

そうなれば、匪賊化する人間だって減るし。

 

人間の活動範囲だって拡がる。

 

何もかもが上手く行くとは、あたしも流石に思わない。今問題になっていない事があるだけかも知れない。

 

それらが顕在化した場合には。

 

また手を打たなければならないだろう。

 

だがそれ以前に。

 

今はあまりにも、世界に活力が足りなさすぎるのだ。

 

あまりにも力がなさ過ぎる世界を少しでもどうにかするためには。錬金術を使って行くしかないのである。

 

ある程度時間が経つと。

 

くすんだ茶色から、黒に変わった、ペースト状のものがかなりの量出来た。これら一つずつが、強力な魔力循環機能を有している。

 

其処で成形し。

 

コーティングし。

 

風雨にさらされても、平気なようにする。

 

コーティングにはゼラチンを加工したものを使う。

 

本来だと虫などに喰われてしまうのだけれども。

 

コレは非常に堅くしている上。

 

有毒成分が入っているので、虫も噛まない。

 

更に言うと、この有毒成分が流出しないように、その外側を更に砂利でコーティングし、接着剤で固める。

 

こうして、キューブ状の栄養剤。

 

正確には土地活性剤が完成だ。

 

ふうと一息。

 

これを何個か、様子を見ながら土地に埋めていき。周囲に水を撒いて、様子を見なければならない。

 

ものに変化を促す力。

 

それを周囲にも広める力。

 

ある意味錬金術の究極だが。

 

究極の初歩の初歩。

 

さっそく、カフェに。荷車に乗せて持ってきたそれを見て、ホルストさんは大喜びした。

 

「おお、懐かしい。 貴方の祖母も、それを作ってきたのですよ、ソフィー」

 

「ありがとうございます。 それでは、早速埋める場所を決めないと」

 

「では、重役を招集します。 貴方は其処の席に。 テス、茶を人数分用意してください」

 

「分かりました」

 

テスさんはすぐに厨房へ。

 

そして古参の重役達は。

 

あたしが持ち込んだ土地活性剤を見て、大いに喜んでくれた。

 

「また此奴を見る事が出来るとはな。 長生きをするものだ」

 

獣人族のベテラン戦士が嬉しそうに言う。

 

ハイベルグさんも珍しく目を細めて喜んでいた。

 

重役が集まったところで、あたしがキルヘン=ベルの地図を拡げ。オスカーと話し合った事を説明する。

 

川沿いは畑にするとして。

 

その外側。

 

今の森を延長して南下させるような形で、森を拡げる。

 

それで構わないだろうか。

 

そう提案すると。

 

難色を示したのは、ヴァルガードさんだった。

 

「少し街が南に長くなりすぎるな」

 

「防御が難しくなる、という事ですか?」

 

「ああ。 防御壁や物見櫓を作り替えたり作ったりすることは全然かまわん。 仕事が発生して、賃金が流れるからな。 それに街もそろそろもう少し大きくなっていた所だし、居住区も拡げたかった」

 

ヴァルガードさんが。

 

人間の倍もある背丈で。

 

上から指を伸ばす。

 

地図の一点を、丸くなぞった。

 

「この周囲は、緑化しない方向で行けるか」

 

「多分。 しかしどうして?」

 

「この辺りに居住区を新しく作る。 実は、また東の街から、人間の受け入れの話が出ていてな。 そろそろ全盛期の頃の人口が回復するのと同時に、問題が発生する。 これ以上人間を受け入れると、土地が足りなくなる」

 

貧しい街や村になると。

 

家を持たず、地べたで生活している人も珍しくないと聞いている。東の街で、あたしも似たような光景を見た。

 

なるほど、それなら仕方が無いだろう。

 

「分かりました。 あたしは異存ありません」

 

「では、そいつの効果実験からだな」

 

ヴァルガードさんがホルストさんに頷く。

 

どうやら。

 

話は、綺麗にまとまりそうだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。