暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
それを手に入れたソフィーは、更なる様々な調合に挑みます。
その中には、拡張肉体と呼ばれるものもありました。
プラフタの代名詞ともなっているあれもそうです。
そして後のシリーズで、ソフィーが必殺技発動で繰り出すあれも……
序、疑念
新しい釜の性能は上々だ。流石に最高級には及ばないにしても、できる限りの事をして作ったのだから当たり前である。あたしは黙々と調合にいそしみ。相応の成果を上げていった。
カフェに出向き。
お薬と爆弾類を納品する。
このうち幾らかが蓄えられて。
幾らかが売りに出される。
見ると、今日も商人が来ている。魔族の護衛を連れている所から言っても、相当な金持ちだろう。護衛は全部で八人いて、大型の馬車も持っていた。
「これは凄い。 公認錬金術師でもないのにこの品質か。 噂には聞いていたが、買いに来た甲斐はあったな」
「在庫は限られていますので、お気を付けくださいなのです」
「分かっている。 在庫分全部くれ」
対応しているのはコルちゃんだ。
あたしが顔を出すと色々面倒なので顔は出さない。
それにしてもヒト族の商人の強欲そうな顔。
あれは、都会に持ち込めば、相当な利益が上がるのだろう。それこそ、護衛八人を雇っても、お釣りがつきすぎるほどに。
薬と爆弾を根こそぎ持って行く商人。
ホクホク顔でキルヘン=ベルを出ていく。
ちなみに西に向かったという事は。
アダレットに売りに行くのだろう。
まあ考えとしては間違っていない。
錬金術国家とも言われるラスティンに対し、あくまで武力で知られるアダレットである。交流はあるし、公認錬金術師も訪れていると言うが、やはり数はどうしても限られてきてしまう。
あの薬は、恐らく相当な高値で売られ。
そして金持ちだけが使うのだろう。
その過程で色々な経済活動が発生はするが。
錬金術が誰もを幸せに出来るわけではない。
この街が。
キルヘン=ベルが例外なのだ。
他の街でも、公認錬金術師が、薬を気前よく街の人々に分け与えているかどうかは、微妙な所だろう。
何しろ、やっと一人前のあたしでさえ。
これだけの影響力を持てるのだ。
タチが悪い奴が錬金術師になったら。
下手なネームドの猛獣よりも、猛威を振るうのではあるまいか。
顔を出すと。
コルちゃんが口元を抑える。
「仲介料だけで儲かって仕方が無いのです。 勿論差額の物資とお金はキルヘン=ベルに還元するので大丈夫なのですよ」
「その辺りは信頼しているよ。 ヒト族の商人だったら怪しいけれど」
「うふふ」
欲がヒト族と比較して少ないとは言え。
ホムにだって欲はある。
コルちゃんは単純にお金を貯めるのが好きなようで。金の臭いがすると目を細めて口を押さえる癖がある。
着ている服が独特なので、その動作が妙に可愛い。
もっとも、以前コルちゃんに聞かされたとおり、彼女の目的は家族捜しらしいし。
金はいくらあっても足りないのだろうけれど。
「そういえば、荷車は売らなかったの?」
「あれは戦略物資なのです」
「ああ、なるほど」
要するに、今後関係を強化していく街などに、特別に譲る、という扱いをするわけだ。
恐らくは友愛のペルソナやマイスターミトンもそうなのだろう。確かに装備しているだけで防具の性能が一桁上がる代物だ。格上の相手にも互角以上の戦闘が挑める。
実は時々依頼されて納品しているのだけれど。既に自警団用の装備としては行き渡っている。
そうなると、販売先は隣街か。
「時に、何故隠れていたのです?」
「ああ、それはね。 ああいう褒め言葉を直接聞くと、あまり嬉しくないから」
「妙ですね。 客観的にも正しい評価だと思います」
「そう」
あたしが目を細めたのを見て。
コルちゃんが慌てて咳払いして視線を背ける。
気付いたのだろう。
あたしの逆鱗に触り掛けた事に。
コルちゃんも、恐らくモニカとかに聞かされているはずだが。
それ以降、時々暴発するあたしを見ている事で。
如何にヤバイかは分かっている筈だ。
あたしだって、自分で良いとは想っていないが。
それでも制御出来たら苦労しない。
此方も、致命的なワードまでは出なかったので、どうにか押さえ込めたし。笑顔で適当に大丈夫だよ、と告げる。
コルちゃんは震えて青ざめていたが。それでも頷いた。
後は、軽く話を流して戻る。
今日は、別にやる事がある。
アトリエに戻ると。
既に、プラフタがモニカと話していた。オスカーもいる。
「ソフィー。 栄養剤作るんだって?」
「うん。 この間の「提督」から、良い素材が取れたからね」
「あいつ手強かったなあ」
オスカーも手酷く傷を受けた戦いだった。モニカも派手に吹っ飛ばされて、岩に叩き付けられて。
友愛のペルソナの自動防御が無ければ、多分死んでいただろう。
モニカには、調合前に掃除をお願いする。
あたしは単純に下手だから。埃とかが舞うので。
オスカーに来て貰ったのは。
森をどう拡大するか、相談するためだ。
相談した後、カフェでホルストさんに話して、具体的な森の拡大について決める。
キルヘン=ベルの背後に茂っている森は、いざという時の食糧源にもなる。土地の保水力も高める。更におばあちゃんが色々工夫した結果、霊の類も出ない。
森は、荒れ狂う猛獣でさえ心を静め、無為に傷つけない。
世界の宝なのだ。
錬金術師以外にも、魔術師や機械の技術者が、緑化には散々挑戦しているらしいが。
残念ながら、成果は上がっていない。
錬金術だけが。
この乾いた荒野に、緑を人為的に増やす事が出来るのである。
故に、植物のスペシャリストであるオスカーとは。
何処に森をどう拡げるか、話をしておく必要がある。
栄養剤を作る前に、だ。
「畑はこのまま川に沿って南下させるとして、どうすれば良いと思う?」
「植物たちは、今の時点で森には満足しているぜ。 そうなると、川から離れ過ぎない場所に、こんな感じで、だな」
「なるほど」
「街のことを考えると、畑の拡大は必須だしな。 でも、森がどれくらい拡がるかにもよるかなあ。 防御用の壁、拡げないと行けなくなるだろ」
頷く。
そして地図を拡げながら、大体の使用地点を決めた。
森さえ拡がれば。
その周辺に畑を作れる。
本来は草原を拡げるべきなのだろうが。
それは、畑を休作させる時に、雑草に解放するような形で草原にすれば良いだろう。いずれにしても、食べていくだけの食糧を得るためには、畑は拡げる必要があるし。何より大地に潤いをもたらすためには森がいる。
後は、予定地点で何回か実験を行うことが前提だ。
栄養剤の効き次第では、とんでもない効果が出ることも想定しなければならない。
桁外れの力を持つネームドを素材にするのである。
それこそ、既存の森が栄養過多で更にふくれあがるような事態さえ、最悪の場合には想定しなければならなかった。
とりあえず、予定地点は決めた。
続けて、調合開始である。
釜の状態はばっちりに保ったので。
此処から調合に入る。
普通の栄養剤と違うのは。
ネームドの心臓部分ともなるものを中核にして。
本来土地に吸収されるべきだったマナを。
土地に循環させるようにする、という薬剤にすると言うことだ。
普通の栄養剤なら、そのまま栄養を入れればいいだけの事で。出来上がっている畑などには、これで充分。
木々などを元気にするにも、これでいいだろう。
プラフタと相談して。
森の土と。
それ以外の土を調べて見た。
魔術を使う人間にはやはり一目瞭然。
荒野に拡がっている土には。
大気中に無尽蔵に満ちている魔力の元、マナが。まったくという程通っていないのである。
汚染されているケースもあるのだけれど。
それ以上に、土が死んでいるケースが大きい。
こういった乾ききった荒野の土は。
それこそミミズの一匹も住んでいない。
不思議な事に。
川のすぐ側でも。
こういう土になっている場所もある。
川の側は、草原になっていたり、森になっていたりもするのだけれど。
それも様々で。
どんなに大きな川の側でも。
荒野は荒野なのだ。
其処で、土地にマナが循環するように調整するのが。この栄養剤である。
恐らくは、それほど珍しくない薬剤の筈だ。何しろ、おばあちゃんが残したレシピの中にもあったほどだ。
問題は、現実的にコレを作れるかどうか。
公認錬金術師だって、傭兵を雇って、或いは軍の協力を要請して、ネームドや。或いはドラゴンと戦い。
そして素材を手に入れて。
栄養剤を作るのだろう。
公認錬金術師といっても、アトリエに引きこもって研究だけしていれば良いわけでは無い。
情報はあまりないのだけれど。
ひょっとすると、試験か何かを受けるときに。
戦闘力を試されるのかも知れない。
それに関しては望むところだが。
いずれにしても、簡単に試験を突破は出来そうに無いなと、あたしは苦笑する。
ともかく、だ。
コンテナから取り出すのは。
この間仕留めた、あどみらぷにから取り出した、黄金のぷにぷに玉。
本来の用途は脱水剤で。
これほどの巨大なものであれば、相当に強力な脱水剤として機能するのだろうけれども。今回は残念ながら違う使い方をする。
プラフタも、見て頷く。
「これならば問題ありませんね。 広範囲を緑化してくれるはずです」
「それにしても、どうして土にこうもマナが定着しないんだろう。 そればかりか、ネームドの猛獣にばかり定着している様子だし、場合によってはドラゴンや邪神にも」
「諸説ありますが……」
「いずれにしても、創造神が原因かな」
プラフタは無言。
その通り、という事なのだろう。
此処からは調合に気合いを入れる。
何しろキルヘン=ベルの未来が掛かっている調合なのである。当たり前の話である。
モニカとオスカーには帰ってもらう。
この調合だけは。
絶対に失敗させられないのだ。
まず、巨大なぷにぷに玉に鉈を振るって、分解していく。どずり、どずりと、重い音がする。
それだけ質量があり。
どっしりしている、ということだ。
鉈で切り分けた後は。それぞれを分解して、更に細かくしていく。
同時に、砂を使って中和剤を作成。
これは、ぷにぷに玉に脱水作用があるためで。
水を使った中和剤だと。
反発し合って。
効果がなくなるからである。
作業を進めながら。
額の汗を拭う。
さて、此処からだ。
完全にミンチにした黄金のぷにぷに玉と中和剤を混ぜ。
此処に、魔力を定着させるための措置をするのだが。
レシピを見ると。
どうもこれが、ものに意思を与えるときのものと同じだ。
あの全自動荷車を作る時のように。
強大な魔力を秘めているぷにぷに玉そのものに。
意思を宿らせる。
悪霊などが宿らないように注意しなければならないが。
いずれにしても、しばらく中和剤と一緒に寝かせ。
その後は乾燥させ。
そして、何種類かの薬剤を、順番に加えていく。
最初は黄金だったぷにぷに玉も。
時間が経つと同時に、色がくすんでいく。
この黄金は。
魔力そのものだったのだと分かる。
その魔力が。
周囲の魔力を呼び集め。
更に循環を促すようにする。
本来は、それが当たり前の筈なのだが。
当たり前では無くなっているから。
荒野に処置をしなければならないのである。
面倒な話だ。
今後、世界を更に緑で満たして行くには。相当な数のネームドやドラゴン、邪神を殺して行かなければならないだろう。
土地の保水力を上げ。
土地の潜在力を引き出し。
何より獣が大人しくなり。
食糧をある程度自由に得られるようになる。
そうなれば、匪賊化する人間だって減るし。
人間の活動範囲だって拡がる。
何もかもが上手く行くとは、あたしも流石に思わない。今問題になっていない事があるだけかも知れない。
それらが顕在化した場合には。
また手を打たなければならないだろう。
だがそれ以前に。
今はあまりにも、世界に活力が足りなさすぎるのだ。
あまりにも力がなさ過ぎる世界を少しでもどうにかするためには。錬金術を使って行くしかないのである。
ある程度時間が経つと。
くすんだ茶色から、黒に変わった、ペースト状のものがかなりの量出来た。これら一つずつが、強力な魔力循環機能を有している。
其処で成形し。
コーティングし。
風雨にさらされても、平気なようにする。
コーティングにはゼラチンを加工したものを使う。
本来だと虫などに喰われてしまうのだけれども。
コレは非常に堅くしている上。
有毒成分が入っているので、虫も噛まない。
更に言うと、この有毒成分が流出しないように、その外側を更に砂利でコーティングし、接着剤で固める。
こうして、キューブ状の栄養剤。
正確には土地活性剤が完成だ。
ふうと一息。
これを何個か、様子を見ながら土地に埋めていき。周囲に水を撒いて、様子を見なければならない。
ものに変化を促す力。
それを周囲にも広める力。
ある意味錬金術の究極だが。
究極の初歩の初歩。
さっそく、カフェに。荷車に乗せて持ってきたそれを見て、ホルストさんは大喜びした。
「おお、懐かしい。 貴方の祖母も、それを作ってきたのですよ、ソフィー」
「ありがとうございます。 それでは、早速埋める場所を決めないと」
「では、重役を招集します。 貴方は其処の席に。 テス、茶を人数分用意してください」
「分かりました」
テスさんはすぐに厨房へ。
そして古参の重役達は。
あたしが持ち込んだ土地活性剤を見て、大いに喜んでくれた。
「また此奴を見る事が出来るとはな。 長生きをするものだ」
獣人族のベテラン戦士が嬉しそうに言う。
ハイベルグさんも珍しく目を細めて喜んでいた。
重役が集まったところで、あたしがキルヘン=ベルの地図を拡げ。オスカーと話し合った事を説明する。
川沿いは畑にするとして。
その外側。
今の森を延長して南下させるような形で、森を拡げる。
それで構わないだろうか。
そう提案すると。
難色を示したのは、ヴァルガードさんだった。
「少し街が南に長くなりすぎるな」
「防御が難しくなる、という事ですか?」
「ああ。 防御壁や物見櫓を作り替えたり作ったりすることは全然かまわん。 仕事が発生して、賃金が流れるからな。 それに街もそろそろもう少し大きくなっていた所だし、居住区も拡げたかった」
ヴァルガードさんが。
人間の倍もある背丈で。
上から指を伸ばす。
地図の一点を、丸くなぞった。
「この周囲は、緑化しない方向で行けるか」
「多分。 しかしどうして?」
「この辺りに居住区を新しく作る。 実は、また東の街から、人間の受け入れの話が出ていてな。 そろそろ全盛期の頃の人口が回復するのと同時に、問題が発生する。 これ以上人間を受け入れると、土地が足りなくなる」
貧しい街や村になると。
家を持たず、地べたで生活している人も珍しくないと聞いている。東の街で、あたしも似たような光景を見た。
なるほど、それなら仕方が無いだろう。
「分かりました。 あたしは異存ありません」
「では、そいつの効果実験からだな」
ヴァルガードさんがホルストさんに頷く。
どうやら。
話は、綺麗にまとまりそうだった。