暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、乾ききった土地に血を

土地活性剤を埋める。

 

埋める範囲は、プラフタによる得点判定と。おばあちゃんの作った土地活性剤との比較。それにどれくらいの土地を緑化するにしても、まずは一番安牌となる場所。というわけで、森から少し南に埋めた。

 

勿論こればかりは、一日やそこらで効果が出るものじゃあない。

 

埋めた後、周囲に柵を作り、立ち入り禁止の札を立てる。

 

子供などが悪戯をしないように、である。

 

そして、慎重に。

 

オスカーが、土ごと比較的乾燥に強い植物を、幾つか植えた。いずれも新芽が出たばかりである。

 

「ソフィー、頼むぜ。 みんな、不安がってるからな」

 

「大丈夫だとは思う。 ただ、植物の世話は頼める?」

 

「それは任せてくれ」

 

オスカーも、不安そうだったが。

 

まあ植物を誰よりも愛しているオスカーだ。その辺りは、仕方が無い処もあるのだろう。

 

キルヘン=ベルに戻る。

 

最近街に加わった子供も。

 

教会の周囲で遊んでいる姿が目立つ。

 

街道で死にかけていたころから見ると、すっかり回復しているようだが。

 

それでも、あれほどの恐怖を味わったのだ。

 

急に泣き出して。

 

パメラさんがなだめている様子が見られた。

 

老人の一人に呼び止められて、感謝を伝えられる。

 

「あんたが作ってくれた荷車のおかげで、随分と仕事が楽だ。 顔が怖いのが難点だが、その、助かっているよ」

 

「顔は怖くないですけれど、助かっているのなら何よりです」

 

「そ、そうかね」

 

そのまま、アトリエに直帰。

 

まだ幾つかある土地活性剤は、効果を見ながら使う。その間には時間が空くわけで、やっておくことは幾つかある。

 

まずは、錬金術による装備品の作成だ。

 

作るのは、グナーデリング。

 

リングといっても、腕に嵌めるタイプで。

 

いわゆるブレスレットである。

 

それも、完全な金属製ではなく。

 

腕に合わせて調整できるように、伸縮性のある皮と組み合わせ、一部をベルト状に穴を開けてある。これでベルトと同じように、調整するのだ。

 

更に吸着機能もあるので。

 

外そうと思わない限り、外れる事は無い。

 

このグナーデリングは、今までの防御機能を備えた装備と違い。

 

攻撃に重点を置いた装備である。

 

具体的には、身体能力を極限まで引き出す。

 

これは体そのものに、変化を促すもので。

 

一時的、具体的には装着している間とは言え。本来の身体能力を、最大で200%くらいまで引き上げることが可能な様子だ。

 

錬金術の装備としては一般的なもので。

 

おばあちゃんは何か気に入らないのか作らなかったようだけれど。

 

錬金術師がまずコレを造り、周囲に配るというのは恒例行事のようになっているらしい。

 

まあそれもそうだ。

 

体を鍛えたところで、急に強くなったりはしない。

 

技を磨いたところで、いきなり敵に通じる訳では無い。

 

地道な努力を続けていかないと、どうあったって強くはならない。それは天才と呼ばれる人種だって同じ事。

 

あたしがそれかどうかはどうでもいい。

 

ともかく、現時点で持っている力を引き出せるようになるのであれば。

 

それは圧倒的なアドバンテージだ。

 

なお、グナーデリングのレシピを見て、構造は理解した。

 

故にアレンジとして、誰でも身につけられるようにベルト状の構造を作ったのだけれども。

 

プラフタは、これについては良い工夫だと褒めてくれた。

 

「ただ強度に問題が出ます。 それと、グナーデリングは本来指輪にするものです。 コストも掛かりますよ」

 

「戦略物資だし仕方が無いよ。 それに、お金は出来るだけ流通させるべき、でしょ」

 

「そうですね。 分かりました。 まずは試してみましょう」

 

頷くと、コルちゃんの処から引き取ってきたインゴットを使う。

 

炉によって温めて伸ばし。

 

中和剤を準備。

 

更に今回は。

 

変化を促す媒体として。

 

宝石を用いる。

 

宝石と言っても、実用品だ。

 

アクセサリとして使うものではない。宝石は基本的に強力な魔術をため込む事が出来るのだけれど。

 

その能力を利用して。

 

身につけている間身体能力を引き出すグナーデリングの性能を、極限までサポートさせる。

 

具体的には、その機能を発生させるときに。

 

魔術で発破を掛けるのだが。

 

その発破に使う魔術分の魔力を、この宝石に蓄える。

 

そうすることで、着けた瞬間、瞬時に身体能力が強化されることになる。

 

当然のことだが。

 

身体能力がいきなり数倍になれば、それは怪我の元にもなる。

 

まずは自分で身につけて実験し。

 

それからお披露目会に持っていくべきだろう。

 

不意に、ドアがノックされる。

 

丁度インゴットを炉に入れたところだ。

 

まあ良いだろう。

 

ドアを開けると。

 

目を細める。

 

以前ここに来た双子。アトミナとメクレットと言ったか。

 

虫を思わせるかぶり物をした子供達だった。

 

「やあ、またあったね」

 

「うん。 それで今日はどうしたの?」

 

「お薬を分けて欲しいのだけれど」

 

アトミナが見せるのは。

 

手酷くえぐれた左手の傷だ。

 

これは獣か何かにやられたか。

 

本来はコルちゃんを通して貰うべきなのだが、これはそうも言っていられないか。ただ、やはりというか何というか。

 

此奴ら、様子がおかしい。

 

ざっくりえぐれている傷からは、今も鮮血がしたたり落ちているのに。

 

まるで怯えたり痛がったりしている様子も無いし。

 

もの凄く冷静で、何があっても問題は無い、という余裕さえ感じるほどだ。

 

「一体何をしたのです」

 

「運悪く獣に出くわしてしまったんだよ」

 

奥から出てきたプラフタが。

 

二人にたしなめるように言うと。

 

二人の表情が。

 

一瞬虚無になった。

 

プラフタは気付いただろうか。

 

おぞましいほど冷たい何かが、其処に一瞬宿ったことを。だが、それは冷厳さとか、殺意とかとは違うようにも思えた。

 

薬を持ってきて。

 

まずは消毒。

 

それから傷薬を塗りこむ。

 

結構痛いはずだが。

 

平然としている辺り、この子らは普通の子供では無いと判断して良さそうだ。しばらくは茶番につきあってやるが。

 

「有難う。 噂通りの腕前だね」

 

「大したものだわ。 公認錬金術師の試験会場にわらわら出てくる三流錬金術師達とは比較にならないわね」

 

「ふうん、褒めてくれて嬉しいよ。 それで、今日の用事はそれだけ?」

 

「うん。 それではね」

 

子供達は去って行く。

 

プラフタは、待ちなさいとか、ぶちぶち言っていたけれど。

 

あたしがすっと手で制止する。

 

「? どうしたのです、ソフィー」

 

「気付かなかった?」

 

「どういうことです」

 

「あの二人、おかしいよ色々。 それに、多分この街に寄ってる商人の子供じゃあないね」

 

「……」

 

指摘されて。

 

今更気付いたか。

 

落ち着き払った子供とは思えない態度。図々しいというか、ふてぶてしいまでの行動。それらを何らためらいも無くやってのける。

 

あれは子供じゃ無い。

 

だとすると何だ。

 

いずれにしても、プラフタには言わないが。彼奴らの視線は、この間。あどみらぷにを退治したときにも感じた。

 

ひょっとすると、深淵の者。

 

或いはその関係者かも知れない。

 

ただ、まだ結論するのは早計だ。

 

炉に戻り、インゴットを取り出す。

 

ペンチで赤熱しているインゴットを、中和剤に漬ける。じゅっと、凄まじい音がして、見る間にインゴットが熱を失っていく。

 

金床に乗せると。

 

叩いて伸ばす。

 

少しずつ成形していく。

 

なお、札状に分割して。

 

それぞれをつなげる方式も採る。

 

こうすることによって。

 

よりフレキシブルに使う事が可能だ。

 

ヒト族もホムも獣人族も魔族も。

 

流石に噂に聞く、魔族の中での特にレアな種族である巨人族は使えないだろうが、それは仕方が無い。

 

勿論加工の手間は掛かるが。

 

そればかりは仕方が無い。

 

利便性の前には。

 

色々と犠牲があるものなのだ。

 

汗を拭う。

 

汗を落としたら台無しだ。

 

成形しながらも、インゴットに変質を促している。

 

そして、分割が終わった所で。

 

また炉に入れる。

 

しばし熱を通した後。

 

また一気に中和剤で冷やす。こうすることで、更に変質を加速させるのだ。

 

四度、同じ事を繰り返し。

 

そして炉の中で今度は逆に急速冷凍する。

 

冷えたところで取りだし。

 

中枢になる部分に、小さなルビーを取り付ける。

 

たまたま原石を見つけていたので。

 

磨いて作ったものだ。

 

あまり品質は良くないが。

 

グナーデリングの起爆剤としての魔力くらいなら、蓄えられるだろう。

 

後は順番に、塗料で模様を書き込んでいくだけ。そして最後に。宝石を囲むようにして、かっこよく顔を描く。

 

戦いのための道具だ。

 

当然顔は迫力あるものにしなければならない。

 

書き上がると。後は乾燥させる。

 

そして、塗料の上からニスを塗り。完全に固定させて完成だ。

 

グナーデリングはそれそのものが意思を持ち。

 

装着した人間の潜在能力を引き出す道具。

 

防御力も上げるが。それ以上に身体能力を引き出す。魔力も増幅してくれる。

 

つまり、今までの盾代わりの道具よりも、剣に近いものだ。

 

完成品を見て、プラフタが格好いい顔についてはノーコメントを貫いたが。点数そのものは47点と、最初にしてはかなり良いものをくれた。

 

外に出ると、既に真っ暗だ。

 

家の周囲に生えている薬草が発光している。

 

そうか、こんな時期か。

 

時期によっては、魔力を蓄えて発光する薬草があるのだ。おばあちゃんがどこかで見つけて、持ち帰り、此処に植え替えたらしい。

 

おばあちゃんも強い魔力を持っていたし。

 

何より土地活性剤で、この辺りの土はとても植物にとって心地が良かったようで。この時期になると光るのだ。

 

「これは珍しい。 少数ですが、人里でこの薬草を目にするとは」

 

「プラフタもあまり見たこと無いの?」

 

「そうですね。 採集に行った時、見つけたときにはとても嬉しかったことを覚えていますよ」

 

「……」

 

そっか。

 

五百年前にもこの草はあって。

 

当時から貴重品だった、という事か。

 

いずれにしても、この時間だと実験は止めておくべきか。いや、軽い実験なら大丈夫だろう。

 

装着。

 

ぴったりと右手首に貼り付く。

 

ワードを唱えることで、貼り付きと取り外し、起動と停止をそれぞれ切り替えることが出来る。

 

軽く、杖を振るってみる。

 

良い感触だ。

 

普段よりもかなり力強く振るう事が出来ている。

 

拳も軽く繰り出してみるが。

 

こっちも悪くない。

 

踏み込んでから、杖で抉りあげるように一撃。

 

地面を吹っ飛ばす音が、ちょっと大きくて。

 

ああこれは迷惑になるかなと、あたしは苦笑。

 

そのまま、停止機能を作動。

 

グナーデリングも外した。

 

二段階を踏まないと、まともに使う事が出来ない。これは奪われた場合の対策だ。なお、起動ワードと貼り付きワードは別。

 

ワードさえ知っていれば使えるが。

 

それ以外では使えない。

 

セキュリティを考えると。

 

戦略物資としては、当然重要な措置である。

 

「大体想定通りの出来ですね」

 

「これも自警団の人数分作る事になりそうだね」

 

「……そうですね」

 

アトリエに戻る。

 

すっかり夜半を過ぎていた。実験が楽しくて、更に今の時期の心地よい夜の涼しさもあって。

 

ついヒートアップしてしまった。

 

軽く風呂に入ってから。

 

早々に寝ることにする。

 

これを量産し。

 

キルヘン=ベルの戦士達が身につけたら。

 

更に戦闘力の向上が見込める。

 

多少の危険な任務くらいなら、対応可能になるだろう。

 

少しずつ、確実に。

 

キルヘン=ベルの周囲を安全にする必要があるが。

 

そのためには、こうやって、一人一人の安全を守れるように、対応を考えて行く必要があるのだ。

 

ぼんやりしていると。

 

夢をいつの間にか見ていた。

 

キルヘンベルの人口が一万を越えて。

 

あたしは公認錬金術師になっていた。

 

だが。空虚で。

 

街の人々はあたしに感謝していたが。人間になった(どうしてか顔や表情は見えなかった)プラフタは、側にいるだけで何も言わず。

 

玉座について、頬杖をついていると。

 

子供が来た。

 

子供らしく元気に頭を下げると。

 

悪竜を退治してくれて、有難うございました、と言う。

 

そうか、悪竜を。

 

そうだった。

 

殺したんだった。

 

不意に光景が切り替わる。

 

各種の爆弾でズタズタになるまで痛めつけて殺した悪竜を。連れてきた専門業者が解体して、パーツを持っていく。

 

世界でも第三位の都市にまで発展したキルヘン=ベルだ。

 

こういった業者までも登場し。

 

あたしの手間を減らしている。

 

正確には、あたしがやってしまうと発生しない賃金を。

 

彼らが得ている、と言うべきか。

 

いずれにしても、あたしはコルちゃんほど蓄財に興味は無い。私財は錬金術を行う分だけあれば充分。

 

回収が終わったと声を掛けられて。

 

頷いて戻る。

 

だが、その途中。

 

ドラゴンが、不意に口を開いて。語りかけてくる。

 

人間よ。

 

どうして我々を殺す。

 

我々は世界を抑止するもの。

 

世界のバランスを壊しているのは我々では無い。お前達だ。お前達こそ、駆除されなければならない。

 

無視。

 

そもそもドラゴンに知能など無い。

 

だからこれは。

 

夢だ。

 

 

 

目が覚める。

 

酷く汗を掻いていた。

 

怖い夢では無かったはずだ。それなのに、どうして汗を掻く要素があったのだろう。それが分からない。

 

いずれにしても、ベッドから起きだす。

 

プラフタはまだ眠っていて。

 

あたしは起こさないように外に出ると。朝の新鮮な空気を吸い。そして、呟いていた。

 

「五月蠅い……」

 

声が聞こえる。

 

以前よりもずっと強く。

 

あたしの錬金術師としての力が強くなってきているからだ、というのは分かりきっている。

 

だが、本当にそれだけが原因か。

 

雑音にしか聞こえなかった声だが。

 

それも少しずつ、そうとは思えなくなりつつある。

 

拳を叩きこみたくなったのは。

 

家の前の木。

 

勿論そんな事をするつもりは無い。此処まで成長した木が、どれだけ貴重かなど、言うまでも無い事だからだ。

 

溜息を零すと、アトリエに戻る。

 

今後、もっとこの雑音は大きく聞こえてくるようになるのだろう。

 

その時、あたしは耐えられるのか。

 

あたしは。

 

暴君にならないだろうか。

 

邪神やドラゴンさえねじ伏せ。圧倒的な力と。錬金術に起因する不老不死に起因する暴虐そのもので。

 

魔王とでも呼ぶしか無い存在になりかねないのではないのか。

 

匪賊なんぞどれだけ殺そうと、まったく気は咎めないが。

 

流石に無抵抗の子供や、街の人々を殺すのは気が進まない。

 

口を拭う。

 

いつの間にか唇を噛みしめて、血が出ていたらしい。

 

錬金術を続け。

 

戦いも続けた結果。

 

あたしの魔力は前よりずっと強くなっている。身体能力もしかり。

 

このままだとあたしは。

 

自分でも制御出来なくなるほど、強くなるかも知れない。

 

その時はその時だが。

 

しかし今は。

 

それがいらだたしくて、仕方が無かった。

 

この世の偏りは何よりも嫌いだ。

 

そしてあたしは。

 

その権化である自分が。

 

この世で一番嫌いだ。




ソフィーはあらゆる意味で歪んでいますが。

今回の話で、その歪みの一端が分かりましたでしょうか……
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