暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
この世界で緑地を拡げるのは。
これほどに大変な事なのです。
それは水が100℃で沸騰するのと同じ、摂理なのです……
オスカーに呼ばれて、土地活性剤の様子を見に行く。そうすると、予想以上の光景が広がっていた。
勿論オスカーが、毎日植物と会話しながら水をやったり世話をしたりはしていたのだろうが。
それでもコレは凄い。
想定していた範囲が、うっすら緑になっている。
「森の方で、木に光をとられたり、場所が狭くて苦しんでる植物に声を掛けて、こっちに連れてきたんだよ。 土地そのものの栄養は、多少おいらがどうにかした」
「すごいね」
「だろう? みんな喜んでるよ。 後は水の確保だけれど、しばらくは雨が多めになるから、大丈夫だよ」
オスカーは雨のことも分かるのか。
そうしたら、植物に教えて貰ったと、先に言われる。
まあそうだろう。
そして植物が言うなら、降るのだろう。よく分からないけれど。
とにかく、街の重役を呼ぶ。
想定通りの成果に、皆満足。
ヴァルガードさんは、裏山に青々と茂っている森を見て、感慨深そうにした。
「あそこも昔ははげ山でな。 あいつが森にするって言い出したときは正気を疑ったが、今では此処まで緑が拡がることになるとはな」
「オスカー。 畑にする予定の地点には、あまり植物を植えないようにしてください」
「わかっています」
「ならば結構。 ソフィー、効果は確認できましたし、予定通りに緑化を始めてください」
「分かりました」
緑化作業を開始する。
まず最初に、オスカーが水を撒いたり肥料を入れたりした土地を確認。確かに草が茂るだけの条件を整えている。オスカーを信用していないわけではない。ただ、自分でも確認する必要があるだけだ。
見て確認した感触では。
土にはしっかりと魔力が通っている。
森に隣接している辺りは。
既に小虫や、ミミズなども繁殖を始めている様子だ。
オスカーと相談しながら、何を植えていけば良いのか、確認もしておく。森の木々の種などは、相応に保管してあるので。
それぞれ適切に植えていけば。
数年で、この辺りも森になるだろう。
成長が早い植物なら。
数ヶ月でそれなりの木にもなる。
既に準備してある土地活性剤を持ち出す。
同時にオスカーも、作業開始。
前は試験段階だったから、一人でやっていたが。
此処からは給金が発生する作業だ。
街の人達にも働いて貰う。
川から桶で水を汲み、全自動荷車に乗せ、運んでくる。
その後は、オスカーの指示で水を撒く。
植物を植え込むこと自体はオスカーがやるが。
あたしが活性剤を埋め込んだ周辺を耕すのは、人々にやってもらう。この辺りは、本職に任せるのが良いだろう。
同時に畑の方も拡大を開始。
オスカーがホルストさんと話して。防御壁の解体と。移動も同時に開始し始めていた。畑に関しては、今まで耕していた人達が、そのまま拡大作業を行う。既に土地に魔力は染み渡っているので。
肥料と水だけ入れれば、そのまま畑に出来るのが嬉しい。
一気に拡大しすぎると、街が大きくなりすぎる。
そのため、段階を踏んで街を大きくしていく。
今回緑化する地域の外側に、一度また居住区を造り。其処を第二市街地とする。今回の緑化計画で土地そのものが倍になる訳なので、かなりの食糧自給が可能になるため、出来る事だ。
しかしながら同時に、お金もたくさん掛かる。
まだまだあたしの錬金術は、「手頃なお金でそこそこに質が良い」程度のものでしかない。
街を拡大し。
住んでいる人が相応の幸福度を得るためには。
まだまだ。
もっと大きなお金を循環させなければならないし。
更に言うと。
ドロップアウトして、匪賊化するような人間を出さないように、しっかり見張らなければならない。
ラスティンから役人の派遣も要請した方が良いだろう。
公認錬金術師がいれば完璧だが。
残念ながらそうではない。
あたしもいずれ公認錬金術師の試験を受けに行くにしても。
まだ当面キルヘン=ベルを離れる訳にはいかない。
ましてやラスティン王都のライゼンブルグは、遙か東だ。
錬金術の力で空間を操作するような真似をするとしても。知らない場所には行けないと聞いている。
つまりキルヘン=ベルに時々戻りながら。
じっくり自分で進むしか無い。
街の周囲にさえ、安全圏を確保し切れていない現状だ。
とてもではないが、そんな余裕は無い。
しばし、忙しくなる。
オスカーは当面採集には同行して貰えないだろう。街の人口も増えているが、その人達全員がかなり忙しい状況だ。
こういう状態では。
当然子供も働いて貰う。
勿論力仕事はさせない。
細かい作業や。
全自動荷車などの誘導。
補助などが主な仕事になる。
それだけでも、充分な労働力としてカウントできる。
案の定アトリエに戻ると。
すぐにホルストさんが来た。
「ソフィー。 いますか」
「どうしました?」
「荷車を追加で10両、作成して貰えますか」
「分かりました。 「荷車そのもの」の方はお願いします」
此方は此方で、コンテナを確認。
ちょっとばかり塗料が足りないか。中和剤も膨大に必要になる。
中和剤はどうにでもなるとして。
塗料の材料になる鉱石などを回収してこなければならない。
まあ、これは近場でどうにでもなるだろう。
様子を見に行くと。
キルヘン=ベル全体が活性化していて。
皆忙しそうにしている。
モニカは何とか手助けしてくれそうだけれど、コルちゃんとハロルさんは駄目だろう。コルちゃんは物資の管理で大忙し。げっそりしている様子なのは、かなり無理をして錬金術を使っているから、と見た。彼女の使う錬金術は体に大きな負担を掛ける。それを知っている以上、採集を手伝えとは言えない。
ハロルさんはブツブツ文句を言いながら、早速荷車の車軸の調整などをしている。普段機械職人として仕事をしない以上。こういう仕事でお金を稼ぐしかないし。多分ホルストさんに言われて仕事をしているのだろう。それである以上、文句も言えないだろう。
レオンさんの様子を見に行くと、どうやら新しく自警団に加わったメンバーのための装備を作っている様子だ。
今まで十数人程度の規模だった自警団だが。
街の拡大に伴い、更に十人ほど増やすという。
それに伴い、予備の装備も必要になる。
頭を掻く。
これは恐らく、荷車だけでは無く、それ以外にも必要なものが出てくるな。
コルちゃんに増やして貰う分を加味するとしても。
あたしの方でも作らないとだめか。
それに、だ。
安全圏の拡大ももっと積極的にやらなければならない。
キルヘン=ベルの拡大については、既に周辺でも知られ始めているはず。当然、これを好機とみて動き出すよからぬ輩もいるだろう。
そういうのは即座に消毒するとしても。
消毒するのは、動き出す前にやらなければならない。
フリッツさんも忙しそうに動いている。これは手助けは厳しいかも知れない。
仕方が無い。
食客扱いのジュリオさんに頼むか。
モニカだって本来は忙しい状況だ。
ささっと採集に行って。
すぐに戻らないといけない。
色々と大変である。
二人に声を掛けると。自分用の全自動荷車だけを引いて外に出る。護衛用の爆弾と、最小限の食糧も当然持っていく。
ホルストさんには出る事を告げたけれど。
理由については、言う間でも無い。
全自動荷車用の素材。
新しく増やす自警団用の物資の素材。
全てが足りない。
出来れば自警団員を少し回してくれないかと聞いてみたが、無理だと言われてしまったので、仕方が無い。
三人だけだが。
それで出るしか無い。
当然のことながら、戦力は落ちる。そして面倒な事に。
高品質な素材になるほど。
人里から離れないと、入手できないものなのだ。
まず、ナーセリーに向かう。
その近くにある鉱石採集地を幾つか周り。
猛獣が住み着いていないかも確認する。
モニカとジュリオさんには、先行して作ったグナーデリングを渡してある。二人とも使い心地は上々と喜んでくれているが。
作るのに手間が兎に角掛かる事を考えると。
今後、時間を掛けて作っても、最終的にはエース級の面子にしか渡せないかも知れない。
いずれにしてもだ。
猛獣はなし。
邪神の目撃例があるので、注意は特に払うが。
今の時点では、その姿はない。
邪神はあたしもまだ見た事がない。
ジュリオさんはあるそうだが。
近づかなくても分かるほどの圧倒的な「圧」を放っているそうで。
下等なものでさえ、邪神が近くにいる場合は、獣が逃げ出すほどだという。
「見たところ、草食獣の類がいるし、邪神はいないと見て良さそうだよ。 いるとしても、周囲の縄張りをゆっくり回っているのかも知れない」
「いずれ此処を復興しようと思っているので、あまり好ましくないですね……」
「邪神と戦うつもりかい?」
「はい」
ジュリオさんは、少し真面目な表情を作る。
現時点の戦力では無理だと。
分かっていると答えると。
二人を促して、ナーセリーで鉱石を掘っていた地点に移動。荷車に鉱石を積み込んでいく。
どうせインゴット用の鉱石も足りなくなっていたし。
何より、前と違って雑音がよりクリアに聞こえるようになって来ている。
今は耳障りなだけだが。
プラフタの話によると、やがて意味のある言葉に聞こえるようになってくると言う。
それはそれで鬱陶しいことこの上ないが。
ともあれ、採集には役立つ。
そう割り切って、時にはマトックを振るって、鉱石を掘り出し。
荷車に積み込み終えた。
アトリエに直帰。
戦闘は数回あったが。
いずれも、害になり得る獣の駆除だけ。
それも全部解体して。
肉類は燻製に。
血なども回収。
骨も皮もそれぞれ持ち帰る。いずれも、物資として活用が可能だからである。
コンテナに荷物を格納すると。
別方向に採集に出かける。
今度は、以前沈黙の魔獣を仕留めた山師の水辺方面。
一応、護衛が可能か皆の様子を見てまわったが。
しばらくは全員がてんてこまいだろう。
とてもではないが、護衛など頼める状態には無さそうだ。
一日だけ休む。
どんな歴戦の戦士でも。
ちょっとの疲弊が、ミスにつながる可能性はあるし。
そのミスが死を招くことだってある。
今は友愛のペルソナとマイスターミトンの防御。更にグナーデリングの身体能力強化で、そこまで不覚を取る確率は上がってはいないが。
それでも油断だけは出来ない。
翌日には、アトリエの外に、「素の」荷車が二両納品されていた。
これは、次の採集が終わったら、当面アトリエに引きこもりだな。
苦笑しつつ、荷車をコンテナへ移す。
すぐに慌ただしく出ていくあたしに、プラフタが苦言を呈した。
「ソフィー。 荷車を仕上げてから出る、という選択肢もありますよ」
「ううん、今はちょっとね。 体を動かしたいから」
「そうですか」
プラフタも気付いたのかも知れない。
あたしが色々と、精神的にぐらついていると。
こういうときは。
何かを殴るか、或いは動き回るのが一番だ。
あたしがそれを経験則で知っている。
文句を言わせる事は無い。
あたしの体のことだ。
知った風な口を誰かに利かれるのは、最高に不愉快だし。
そんな事をする奴を許すつもりもない。
モニカとジュリオさんを誘って、すぐに採集に出る。
これが終わったら、当面アトリエに引きこもる。
それを告げると。
二人とも、苦笑いしたが。
モニカはその後、あたしの精神がぐらついているのに気付いて。表情を引き締めていた。暴発があるかも知れない。
そう悟ったのだろう。
長い仲だ。
あたしが本気でキレた場合どうなるか。誰よりもよく分かっているのは、モニカとオスカーで。
そしてあたし自身が、自分は理不尽だとも、思っている。
山師の水辺の辺りにまで急ぐ。
この辺りにいた沈黙の魔獣。更に少し離れているが、近場の森にいた「提督」。どちらも始末した後だ。
縄張りを狙って他のネームドが住み着く、という事も無く。
若干空気が和らいでいる。
早々に作業を開始。
「提督」が住処にしていた森にも入り、採集を行うが。周囲の猛獣がかなり多いため、あまり奥には踏み込めなかった。
此処で本格的に採集を行うなら。
出来ればフルメンバーを連れて来たい。
入り口辺りで採集を実施。
後は、目についた適当な獣を狩り。
敢えて余力を残したまま帰還。
これで必要な物資は揃ったはずだ。
アトリエに戻ると、二人に賃金を渡す。少人数での強行軍に、つきあわせてしまって済まなかった。そういう意味でも、割り増しで料金を渡しておく。
そして、アトリエの外には。
更に三両の荷車が。納品されていた。
これからもう五両来る。
それはそうだろう。
緑化作業。畑の整備。更には防御壁の再構築。多分だが、物資をつぎ込んで、見張りの櫓も二つくらい作るはずだ。
しかもその後は、第二市街地の作成。当然市街地を作った後は、防御壁も再構築が必要だろう。
全自動荷車は戦略物資として、何両でもいる。
モニカが、掃除をしてくれると言う話なので。頼む。ジュリオさんは、教会に顔を出しては、と言ってくれたが。
流石に断った。
善意だと言う事は分かっているが。
あたしには、今は休息がいる。
掃除と言っても、調合で使っていたわけでは無いから、埃の処理くらいで済む。モニカも、ジュリオさんも、早々に引き上げていった。
ベッドで横になる。
プラフタは、あまり良い気分はしないようだった。
「ソフィー。 とても良くない雰囲気を感じます」
「分かるんだね」
「分かります」
「それならば、少しばかり放っておいてくれないかな」
黙り込むプラフタ。
あたしだって、発散しきれたわけではない。
ようやく、今は。
押さえ込む事が、それなりに出来るようになった、くらいなのである。
呼吸を整えると。
寝ることにする。
プラフタは、それ以上。
何も言わなかった。